021.機巧技師、初陣で力を試す
『ふむ、いい感じだ』
身体の動きを確かめるように、サクラ君の意志で、カリブンクルスがマニピュレータを開いたり、閉じたりする。
最初の大剣での一撃を真上に跳躍して避けた上での跳び蹴り。
想定していた通りの運動性能を発揮できている。
エルヴィーラさんからの魔素の供給も安定しており、魔素転換炉の調子もまずまずといったところだ。
「十分過ぎる動きだよ!」
『ああ、思った通りに、機体が動く。調整に3日費やした甲斐があったな』
そう。ここ3日の間、僕ら3人は、完成した機体の動作試験を実直に続けてきた。
それこそ、学校と寝ている時間以外は、ほとんどそれに費やしたと言っても良いだろう。
ウォルプタスにいた頃は、マクランは一切調整には手を貸してくれなかったので、四苦八苦したものだったが、サクラ君とエルヴィーラさんは、この1週間、生活のほとんどのリソースをこのカリブンクルスのために捧げてくれていた。
その成果は着実に出ている。
サクラ君の動きとカリブンクルスの動きは完全にシンクロしている。
もはや、サクラ君は、ほぼほぼ自分の身体感覚と同様に、カリブンクルスを動かすことができるようになっていた。
それには、エルヴィーラさんの魔力演算能力によるサポートも大きいだろう。
サクラ君と機体の間のパスは、かなり安定的であり、そこにいささかのズレもない。
『だが、こちらの攻撃は、たいしてダメージが入っていないようだ』
「大丈夫。それも想定内だよ」
ゴーダンオクサの装甲強度は、事前に把握済みだ。
なにせ、元々は僕が整備をしていた機体なのだ。
カリブンクルスの装甲の大部分は、ラウンドタートルの甲羅でできており、その基礎強度は10段階中の6程度。
対して、ゴーダンオクサの装甲は、より高位の魔物の甲殻の複合素材でできており、基礎強度は8に近い7といったところだ。
基礎的な装甲強度では、僕らのカリブンクルスは、ゴーダンオクサに劣っているのだ。
だが、装甲の強度は、それが持つ単純な硬さだけで決まるものではない。
機巧人形は、魔素により、その能力を強化することができる。
つまり、装甲に魔力を通せば、強度を一時的に引き上げることが可能であるということ。
そして、僕達は、それを防御ではなく、攻撃に使う。
「どうやら、マクランは待ちの戦法に切り替えたみたいだ」
『ふふっ、ちょうどよい。カリブンクルスの全力の攻撃。試させてもらうとしよう』
大剣を腰だめに構え、いつでも全力で振れる体勢を取っているゴーダンオクサ。
サクラ君の駆るカリブンクルスは、あえて真正面から、そこに向かって駆け出す。
「エルヴィーラさん!!」
僕が、名を呼ぶと、エルヴィーラさんが練り上げた魔力が、魔導陣を伝って迸った。
エルヴィーラさんの魔法属性は"火"だ。
ミノタウロスを焼き尽くすほどの業火。
それをカリブンクルスの右腕に発現させる。
装甲のファイヤーパターンをなぞるかのように、本物の炎がカリブンクルスの右腕から吹き上がる。
魔素の操作に秀でたエルヴィーラさんだからできる芸当。
魔力による腕部装甲強度の一時的な上昇と炎の属性効果を得たカリブンクルスの拳は、すさまじい熱量を赤い光として放つ。
突き出した拳、そして、それを迎え撃つように振り抜かれた大剣。
それらが交錯した瞬間、大剣と拳が一瞬の鍔迫り合いを演じる。
だが、それはそう長くは続かなかった。
カリブンクルスが、握り込んだ拳を勢いよく開くと、指で弾かれた大剣が音を立てて砕け散る。
「なんだとっ!?」
そんな声が確かに聞こえたような錯覚を覚えつつ、見守る僕の視線の先で、カリブンクルスは、ゴーダンオクサの頭部に、掴みかかった。
いわゆるアイアンクロー。
迸る炎と共に、ゴーダンオクサの頭部が赤熱し、軋み、徐々に砕け、溶け落ちていく。
これこそ、僕が組み込んだ、カリブンクルスの必殺技。
カリブンクルスの性能とサクラ君の格闘能力、そして、エルヴィーラさんの魔力。
3つが揃って初めて成しえる大技だ。
名づけるならば──
『フィンガー・フレア・バースト!!!』
サクラ君の声がインカム越しに響き渡ると同時に、ゴーダンオクサの頭部は、跡形もなく握りつぶされた。
頭部パーツの完全破損は、その機巧人形の敗北を意味する。
つまり、この勝負。
「僕達のカリブンクルスの勝利だ!!」
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