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002.機巧技師と2人の落ちこぼれ

 ゼフィリア先生に連れてこられた先は、校内にある工房だった。

 機巧技師達の学び舎でもあるこの学校には、広大な敷地の中に、こういった工房がたくさんある。

 促されるままに、工房内の一角に立てられたパーテーションの中へと歩を進めると、そこには、すでに2人の人物がいた。

 一人は魔導士らしき、綺麗な赤髪をした女の子。

 もう一人は、漆黒の髪を括った長髪の美男子だ。

 彼らは、どこか浮かない顔で、簡素なソファに座っていた。


「あ、あの、ゼフィリア先生……?」

「とりあえず、ビス君も座りなさい」

「あ、はい……」


 僕は2人が腰掛けるソファへと、お尻を降ろす。

 3人掛けのソファは結構狭い。

 隣に女の子が座っているということもあり、なんだか、少し落ち着かない気分だ。

 対面に腰掛けたゼフィリア先生は、艶めかしくも、その長い足を組む。


「さあ、これで、揃ったわね」

「先生、いったいこれは何の集まりなんだ?」


 そう問いかけたのは長髪の男の子。

 彼の顔には、困惑と言うよりは、どちらかというと、多少の憤りのようなものが感じられる。


「まあ、端的に言うと、あなた達に、チャンスをあげたいのよ」

「チャンス……ですか」

「そう、機巧決闘(ガランデュエル)に参加するチャンスをね」


 その言葉に、僕は、ぴくりと反応する。

 機巧決闘(ガランデュエル)、それは、このネリヤカナヤ島で毎年行われる機巧人形(ガランドール)による競技会のことだ。

 それぞれが、手塩にかけて作り上げた機巧人形(ガランドール)同士を戦わせ、一番を決める。

 半世紀以上の歴史を持つ、伝統行事とでも言える大会であり、トライメイツとは、この競技会に出るためのいわば登録チームとでも言ったようなものである。


「つ、つまり、それは、僕達に、トライメイツを組め、ってことですか……?」


 恐る恐るそう尋ねると、ゼフィリア先生は大きく頷く。


「その通りよ。話が早くて助かるわ」


 先生はパンと手を打ち合わせると、にっこりと笑う。


「エルヴィーラ=フォン=ルーペリオン。サクラ=オノミチ。そして、ビス=J=コールマン。あなた達は、つい最近、それぞれのトライメイツから脱退申請が出された生徒ばかりです。どうせなら、その"落ちこぼれ"3人で、チームを組んでみるのも、面白いんじゃないかと思ってね」

「えっ……」


 なるほど、この2人も、僕と同じように、元々所属していたトライメイツから追放された立場だということか。

 僕は、横目でちらりと2人の方を眺める。

 おそらく、女の子の方が、エルヴィーラさんで、男の子の方が、サクラ君だろう。

 エルヴィーラさんは、魔導士らしくなく、どことなく気弱そう。逆に、サクラ君は、気が強そうだ。

 と、横目で見ていた視線が、ちょうどサクラ君と合った。

 サクラ君が、何見てんだよ、とでも言わんばかりに、不機嫌そうな顔を浮かべる。

 僕はあわてて目を逸らした。 


「せ、先生。でも、エントリー期間を考えると、もう……」


 そう、この2人とトライメイトを組むかどうか以前に、大会のエントリー期間までは、3週間を切っている。

 もし、完全にゼロから機巧人形(ガランドール)を製作したとして、今からでは、とても間に合うわけがない。


「そうね。でも、骨格(フレーム)だけでもあれば、話は違って来るんじゃなくて」


 ゼフィリア先生は、立ち上がると、パーテーションの奥にあったカーテンを開いた。


「これは……?」


 露わになる工房の一角に設置されたハンガー。

 そこにあったのは、人間を模した無骨な鋼鉄の塊だった。

 およそ4メートルほどの大きさで、胴があり、腕があり、脚がある。

 いわゆる機巧人形(ガランドール)内骨格(インナーフレーム)にあたる部分である。


「50年ほど前、初期の機巧人形(ガランドール)に使われていた骨格(フレーム)よ。最近、倉庫の奥で、眠っているのが発見されてね。貰い手もいないし、どうせなら、これを基に、新たな機巧人形(ガランドール)を作ってみない?」


 ごくり、と僕は、唾を飲み込んだ。

 骨格(フレーム)作りは、機巧人形の製作において最も時間のかかる部分である。

 基本的に、機巧人形は、内骨格(インナーフレーム)に筋肉や外装を取り付けるような構造が主流であり、その骨格(フレーム)さえ完成していれば、製作の半分は終わっているようなものである。

 もし、この骨格(フレーム)を使うことができるなら、あるいは、エントリー期間内に、機体を完成させることができるかもしれない。


「やるかどうかはあなた達次第だけど、どうする?」

「大会に出られる方法があるのなら、俺はやる」


 食い気味に、答えたのはサクラ君。

 どうやら、彼も、競技会にはなにやら思い入れがあるようだ。


「僕も、やりたいです」


 機巧決闘に出るのは、僕にとって、故郷にいた頃からの憧れだった。

 それに、姉を超える機巧技師になる、という僕の夢を叶えるためにも、機巧決闘に出ることは、必要なことだ。

 迷いなく答えた僕とサクラ君の言葉に、ゼフィリア先生が、嬉しそうに目を細める。


「そっか、そっか! 先生、2人がそう言ってくれて嬉しいわ!! エルヴィーラさんはどうかしら?」


 突然問われ、びくりと、わずかに身を震わせたエルヴィーラさん。


「わ、私は……」

「少しだけ試してみない?」

「でも……」

「エルヴィーラさん、僕、どうしても、機巧決闘に出たいんだ。よかったら、君にも協力して欲しい」


 僕は、誠意を込めて、彼女に頭を下げた。

 元々いたトライメイツから追放された僕にとって、これは機巧決闘に出る最後のチャンスだ。

 それを逃すわけにはいかない。


「……わかり……ました」

「あ、ありがとう! エルヴィーラさん!!」


 嬉しさのあまり、手を握って感謝を伝えると、エルヴィーラさんは、びくりと震えると、顔を真っ赤に染めた。


「あ、ごめん」

「い、いえ……」

「さっそくいい感じじゃない~。若いっていいわね~」


 茶化すように言うゼフィリア先生。

 こうして、2人の元から追放されて3日後、僕は、新たなトライメイツを組むことになったのであった。

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