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018.機巧技師、レギュレーションに臨む

 機巧決闘(ガランデュエル)当日の午前、僕らは学園にある、決闘場(デュエルアリーナ)へと向かっていた。

 学園で借りた運搬用の魔導トラックに乗せた僕らの機巧人形(ガランドール)も一緒だ。

 あと数時間後には、いよいよトライメイツ"ウォルプタス"との対戦が予定されている。

 そして、僕達には、それまでに済ませておかなければならないことがあった。機体登録だ。

 機巧決闘(ガランデュエル)に参加するには、運営委員会によるレギュレーションを通過し、機巧人形(ガランドール)を登録しなければならない。

 とはいえ、審査基準はそれほど厳しいものというわけでもない。

 機巧決闘は、学生達の技術の研鑽のために行われている競技会であり、そのために、機体の性能面などに対する規制というのは、ほとんどかけられていない。

 これも、学園創始者の"不自由な自由を謳歌せよ"という思想から来るものだろう。

 ただし、唯一厳しく審査が行われる部位がある。

 それは、コクピットだ。

 機巧人形同士の戦いでは、時に、意図せず、コクピットへの直接攻撃が入ってしまうこともある。

 そんな時、中の操縦者が死亡なんてことがないように、コクピットの安全性だけは厳しく審査されるようになっているのだ。

 そのため、コクピット前部の装甲に関しては、僕も細心の注意を払って製作している。

 装甲材を三重にして、強度を確保するとともに、仮に操縦者が動けない状態になっても、こちらからの信号で、コクピットブロックのみをパージできるような作りにしてある。

 さらに、エルヴィーラさんに頼んで、仮にコクピット付近に、限界を超える大ダメージを受けた際には、魔素転換炉(マナリアクター)の残存魔力を全て解放して、魔法の防御壁を自動発動するような魔導式が組み込まれている。

 コクピット周りに関しては、他の機巧人形と比較しても、よほど過保護な作りになっており、レギュレーション対策は盤石だ。

 もっとも、レギュレーションを抜きにしても、大切な操縦者を守るための機能だ。出来る限りのことはしておきたかった。


「で、登録名はどうするのだ?」


 魔導トラックを運転する僕に、サクラ君が、荷台から話しかけてきた。


「一応、自分の中では、候補があるんだ」


 バックミラー越しに、朝の陽を浴びて輝く、僕らの機巧人形を眺める。

 起動実験の頃と違い、頭部パーツが完全になり、凛々しく釣り上がった2つの眼と、3本の角のように生えるアンテナが、陽光に煌めている。

 機体色は、赤を基調とした。

 全身にファイヤーパターンの模様を描き、関節部などは、黒い色をそのまま残してある。

 この機体を作り始めた時、僕の中にあったイメージは"炎"だ。

 それは、エルヴィーラさんの魔法。

 ミノタウロスを倒した時に見せたあの圧倒的な業火。

 そして、サクラ君の一気呵成で苛烈な戦い方。

 その2つのイメージを合わせ、僕は、この機巧人形を作り上げた。

 "炎"は、チェルノアーヴ人にとって、神聖なものだ。

 人は、火によって文明を興し、発展してきた。

 だから、僕は、そんな"炎"に纏わる名前をこいつに授けたいと思っていた。


「"カリブンクルス"。この機巧人形の名前は、カリブンクルスにしたい」

「どういう意味の言葉なんだ?」

「僕らの国の言葉で、"燃える石炭"っていう意味の言葉さ」

「燃える石炭……か」


 黒いフレームに赤い装甲を身に纏った機巧人形。

 改めて、それを見上げたサクラ君は、フフッと微笑んだ。


「いいんじゃないか。この機体にぴったりの名前だ」


 そう言うと、エルヴィーラさんも、こくこくと首を縦に振った。


「ついでだ。トライメイツとしての名前の方はどうする?」

「うぇっ!?」


 あ、やばっ。機体の事ばっかり考えていて、そちらの名前の事を忘れていた。


「何も考えてないなら、俺に考えていることがある」

「え、ど、どんな名前?」

「"モンジュノチエ"だ」

「モンジュ……ノチエ?」


 なんだか不思議な響きの言葉だ。


「俺の故郷の言葉で、"3つの力を1つに合わせる"というような意味がある」

「へぇ……!」


 そのまんまの名前だけど、異国の言葉ということで、どこか響きがかっこいい。


「それにしよう! チーム"モンジュノチエ"の機巧人形(ガランドール)"カリブンクルス"!」


 うん、なんだかしっくりくる気がする。


「エルヴィーラもそれでいいか?」


 サクラ君が尋ねると、助手席に座ったエルヴィーラさんも頷いた。

 と、そんな相談をしていると、いよいよレギュレーションが行われる決闘場の前まで、僕らはやってきていた。


「さあ、登録を済ませたら、いよいよ初めての決闘だ」

「いよいよか。この機体ならば、負ける気はしない」


 僕ら3人は、お互いに顔を見合わせると、大きく頷き合ったのだった。

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