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123.機巧技師と新たなる旅立ち

 ネリヤカナヤ最大の港であるネリヤ港。

 僕らは今、そこに停泊している大型船の船上にいる。

 甲板から見下ろすネリヤカナヤの街々を見ると、この島にやってきた日の事を思い出す。

 故郷に帰ってきた姉さんと半年間に渡る厳しい機巧学の勉強を終え、ようやくやってきたこの島は、僕にとってまさに楽園のようだった。

 意気揚々と島へと第一歩を踏み出した僕には、それから、たくさんの人達との出会いがあった。

 好敵手と出会えた。

 協力してくれるたくさんの人達と出会えた。

 そして、なによりも、信頼し合える仲間と出会えた。

 もちろん、良い出会いばかりだったわけじゃない。

 それでも、一つ一つの出会いが今の僕を作ってくれたように思う。

 たった1年。

 だけど、あの頃の僕と、今の僕は、明確に違うという感覚が、僕にはあった。


「壮観ね。凄い人気だわ」


 同じく甲板から港を見下ろしながら、ゼフィリア先生が言った。

 港にはたくさんの人達が詰めかけている。

 その多くは、僕らの戦いを見て、ファンになってくれた島の人々だ。

 そして、戦いの中で、僕らと魂をぶつけ合った好敵手達も、この場に駆け付けてくれていた。


「カリブンクルスの事をこんなにもたくさんの人が見送ってくれるなんて、僕もこれ以上ないくらい嬉しいです」

「それほど、君達の作ったカリブンクルスには魅力があるということよ。あなた達が代表として、各国に赴くことになったことを私も嬉しく思うわ」


 そう、僕らがこの島を発つ理由は、それだ。

 以前から、機巧人形を他国で運用できるようにならないか、という話が三国間であり、それにはまず運用テストが必要だということになった。

 それに抜擢されたのが僕らのカリブンクルス……というか、どうせ運用テストをするなら優秀な機巧人形の方が良い、ということで、今年の優秀者にはその運用テストに参加することが半ば義務付けられる形で特典となっていた。

 運用テストとは言っても、中心となるのは、機巧人形の存在を各国に強くアピールすることだ。

 機巧人形の用途は決して機巧決闘のようなものだけに限らない。

 例えば、人では退治することが難しい強力なモンスターを討伐することに活用もできれば、戦闘ではなく、土木の分野などでの活躍も見込める。

 つまり、機巧人形というのが如何に有用な存在であるかを伝える、というのが、大使として任命されたモンジュノチエの役割といったものであった。

 重要な役割を任された当のカリブンクルスは、甲板に備え付けられたハンガーに、しっかりと固定されて、僕らと同じく、旅立ちを見守る人々へと視線を送っている。

 パレードの時は、決勝戦後でボロボロの状態だったが、今は、しっかりと修理を終え、勇ましい姿をみんなに見てもらえたことは、僕にとっても嬉しいことだった。


「最初は、ジュノンに行くんですよね?」

「そうね。ジュノンのセントラルシティをまずは目指すわ。そして、次にモントカルテの首都モントカーラ。最後が、君の故郷のチェルノアーヴね」


 全ての国を約半年間で回る。

 なかなかのハードスケジュールだが、他の国を回れる貴重な機会でもある。

 色々心配事はあるが、ゼフィリア先生も引率してくれるし、なんとかなるだろう。

 ついでに、ちょっと里帰りもできるし、もしかしたら、早々に出立してしまったプライヤとも会えるかもしれないな。

 と、プライヤの事を思い浮かべた途端、僕は自然とエルの方へと目を向けていた。

 彼女は、甲板の縁に手を掛けながら、港まで見送りに来てくれた人々に笑顔で向けていた。

 サリィを筆頭に、クラスの女生徒達は、またも横断幕を作って見送ってくれている。

 それを嬉しそうに眺める彼女。

 その横顔を見ていると、なんとなく、このまま誤解を残した状態で、出発するのが憚られるような気がした。


「あ、あのさ……」


 気づけば、僕はエルへと話しかけていた。


「エル。ごめん。こんな時なんだけど、ちょっとだけ話を聞いてほしいんだ」

「ビス君……」


 彼女はゆっくりとこちらへ振り向いた。

 その顔に不快感はなく、ただ、どことなく緊張しているような表情をしていた。


「あのさ。この前から、ずっと僕の事を避けてたでしょ。あれって、やっぱりプライヤの事が原因なんだよね」


 問い掛けると、彼女は少しだけ逡巡したような間の後、こくりと頷いた。


「その、ルタさんにも弁明した通り、あの時は、ただ……」

「わ、わかってる……!」


 エルは、珍しく大きな声を出すと、首を横にブンブンと振った。


「で、でも……」

「わかってる……から。こ、これは私の……その……」


 彼女は、再び逡巡したように一瞬目を伏せると、しばらくして、僕の方を見上げた。

 真っすぐに僕を見つめるその目。その頬は、ほんのりと紅潮しているように見えた。


「ビ、ビス君……」

「な、何?」

「ちょっとだけ横を向いてくれる……かな」

「え、あ、うん……」


 何だかわからないが、とにかく言われた通り、横を向く。

 目の前には、船を見上げるたくさんの人々。

 みんなが僕達の出発を祝福してくれている。

 そんな視界の縁で、エルが動いたのがわかった。

 そして、頬に触れる、あまりにも柔らかで、心地よい感覚。

 つい2週間ほど前にも感じた、この感覚は……。

 瞬間、目の前の人々のざわめきが港を駆け抜けた。


「エ、エ、エ、エ、エル……!!?」

「こ、これが……私の、気持ち……です」


 私の気持ち、って……!?


「エル、抜け駆けはずるいぞ」


 と、反対側に立っていたサクラ君が、何気ない動作で、僕の右頬に軽くキスをした。


「え、え、え、えっ!!?」

「俺も、お前の事は憎からず思っている。まあ、エルほどではないかもしれんがな」


 いや、そんな飄々と言われましても……!!


「あら、ビス君モテモテね。でも、遠征中の不純異性交遊は禁止ですからね」


 ゼフィリア先生、なんですか、そのあらあらまぁまぁ、みたいな顔は!!

 その時、機巧決闘の開始のブザーにも似た汽笛が船上に響き渡る。

 出航の合図だ。


「さあ、最後だぞ。ビス。旅立つ時は、手を振って」

「え、あ、うん……」


 サクラ君に促されるまま、僕達、モンジュノチエの3人は港へと大きく手を振った。

 さっきのざわめきも消えない間に、港の人達は、皆様々な表情で僕らに手を振り返してくれた。

 爽やかな潮風が頬を撫で、ネリヤカナヤの港へと吹き抜けていく。

 この素晴らしい島で得られたものは確かに胸の中にある。

 それを僕は、きっと他の国々にも伝えて行こう。


「さあ、目指すは、ジュノン!! みんな、行くわよ!!」


 見上げれば太陽。

 陽光のもと、僕らのカリブンクルスは、少しずつ遠ざかっていく故郷を黙って見つめ続けていた。

「機巧人形<ガランドール>~整備を担当していたチームから追放された機巧技師ですが、最高の操縦士と魔導士が揃ったので、最強の人型メカを作ってみようと思います~」はこれにて、一旦完結になります。


最後まで、お付き合い下さった読者の皆様、ありがとうございました。

読後のご評価いただけますと、今後の執筆のモチベーションにも繋がりますので、何卒、宜しくお願い致します。(ブクマは剥がさないでいただけると、とてもとても嬉しいです)


また、新作の投稿を始めました。


「お兄ちゃんは悪役令嬢~妹と取り違えられて乙女ゲームの世界に転生してしまった兄ですが、たま~にもらえる助言を頼りに、破滅エンド回避に向けてがんばります~」


https://ncode.syosetu.com/n9584hd/


初の悪役令嬢ものになります(といってもTSものですが)。

ランキングに乗るためにも、面白ければ、こちらもブクマと評価を頂けるとありがたいです。宜しくお願いします。

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