119.機巧技師と続く日常
第60回機巧決闘本選大会。
その頂点へと至った僕らモンジュノチエは、たくさんの祝福を受けた。
今まで戦ってきた好敵手達、協力してくれた仲間達、そして、応援してくれた全ての人達。
カリブンクルスの戦いを見て、勇気をもらったと言ってくれた人もいた。
そんなみんなにたくさんの言葉をもらい、僕ら自身も最高の幸福感を感じていた。
盛大に行われた授賞式が終わり、ボロボロのカリブンクルスは、最後の仕事とばかりに、パレードへと繰り出した。
魔導トラックに乗せられたカリブンクルスと共に、僕らも島中の人達へと手を振る。
子ども達がカリブンクルスを見る目は、キラキラと輝いているようだった。
夜になり、工房へ引き上げてからも、お祭り騒ぎは続いた。
工房での打ち上げには、たくさんの人が駆け付けてくれた。
ハンガーに立つカリブンクルスを見上げながら、酒を飲み、機巧人形について語らう時間は、何物にも代えがたいものだった。
どんちゃん騒ぎのうちに夜は更けていく。
そして、一人、また、一人と工房を去り、朝が来た。
「昨日の今日だっていうのに、さすがというべきか」
みんなが帰った後、そのままカリブンクルスの修理を始めた僕を見て、レンチ先輩が嘆息するようにして笑った。
「でも、先輩も来てるじゃないですか?」
「君の行動パターンにも、随分と慣れてきたからね」
そんな風に言いつつ、笑顔を交わす。
2人で、黙々と修理作業をしているうちに、エルとサクラ君ももぞもぞと起き出した。
モモさんも合流し、昼前には、すでに僕らはいつも通りに過ごしていた。
「なんだか、もう機巧決闘が終わったなんて信じられんな」
「うん、また、次の決闘に向けて、作戦練らなきゃ……とか普通に言っちゃいそうだもんね」
「わ、わたしも……」
みんながみんな、随分とこの工房での時間が、日常になってしまっていたようだ。
ほんの3か月だけど、僕の人生の中でも、最も充実した3か月間だった。
そして、それは、最高の形で終わることになった。
「はぁ、機巧決闘が終わったら、進級の事を考えちゃうね」
「お前、単位はちゃんと取れてるのか?」
「えーと……まあ、これから頑張るということで」
「ビス君は、来年も機巧決闘には出るんだろう?」
「ええ、もちろんそのつもりです」
言ってから、ハッとする。
僕は勝手に、来年もカリブンクルスで機巧決闘に出る気でいたけど、エルやサクラ君はどう思っているのだろうか。
不安が顔に出てしまっていたのか、2人は、顔を見合わせると、にやりと笑った。
「俺達が必要だろう? ビス」
「サクラ君、エル……。う、うん、もちろんだよ!!」
良かった。
どうやら、2人とは、来年も一緒にいられるらしい。
「でも、君達3人は2年生になっても忙しそうだね。今年の優勝者には、"あれ"もあるし」
「えっ、あれって、何ですか?」
はて、と首をひねる僕に、レンチ先輩は、えっ、という顔をした。
「ちょっと待って。もしかして、ビス君、今年の優勝者に与えられる、あれの事、全く知らずに──」
「ビス=J=コールマン」
その時、工房の外から、聞き馴染みのある声が聞こえた。
全員の視線が集中する中、そこに立っていたのは、僕の最後にして、最強の好敵手だった。
「プライヤ……」
「突然ごめん。少しだけ、2人で話せない?」
二つくくりにした金髪を揺らしつつ、彼女は、どこか恥ずかし気にそう言ったのだった。
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