表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/123

117.機巧技師と炎の閃き

「ビス、あんた、また、そんな非効率な」

「姉さん……」


 人形大の小さな機巧人形の腕に魔力導線を這わせている僕を見て、姉さんが嘆息した。


「あのねぇ。前も言ったけど、魔力導線の配線には、セオリーってものがあるの。それを外れて、上手くいくことなんかないわ。それに、美しくない」

「そ、そうかなぁ……」


 僕は、改めて、自分の配線を眺める。

 うん、確かに、いっぱいはみ出しちゃってるし、美しくはないかもしれないけど。


「そんなんじゃ、実物大の機巧人形なんて作れやしないわよ」

「で、でもさ。姉さん、僕は……」

「ビス兄ちゃーん!!」

「あっ」


 姉さんに弁明しようとしたその時、近所の子ども達が工房の前へとやってきた。


「ビス兄ちゃん!! あれできた?」

「うん、今ちょうど、できたところ」

「うわぁ、見せて見せて!!」

「うん、いいよ」


 僕は、小さな機巧人形に魔素コンプレッサーを繋ぐ。

 国内に竜血樹がなく、魔素の薄いチェルノアーヴだけど、圧縮して、さらにポンプで送り込めば、このくらいの小さな魔機なら動かすこともできる。

 魔核の欠片に書き込んだ命令語の通りに、機巧人形がいろんな動きをすると、子ども達は目を輝かせた。


「すっげぇ!! 本当に人間みたいに動くんだぁ!!」

「みんなが考えてくれた、必殺技もできるようにしたんだ」

「えっ、あの必殺技……!!」

「そう、行くよ!! フィンガーサンダー!!」


 僕が手に持っていたトリガーを引くと、機巧人形の両の手の間に、青い電流が走った。


「す、す、す、すっげぇ!! 僕がお願いした通りだ!!」

「へっへん。どうやったらカッコよく見えるか、凄く考えたんだから!」

「ふーん、なるほどね。あの配線は、これをするためか」


 僕が胸を張っていると、隣で姉さんが、改めて僕の機巧人形を見ていた。


「不細工な構造だね。それに、こんな機能をつける意味もない。でも……」


 姉さんは、僕の人形の周りで、楽しそうに笑っている子どもたちへと目を向けた。


「あんたは、それでいいんだろうね。そんなあんただから、きっと──」




「放て!! レイドブライガ!!」

『ああ!! 猛虎・覇災(もうこ・はさい)!!』


 レイドブライガが両手の光球を胸の前でクロスした。

 胸の虎が咆哮を上げると共に、レイドブライガを中心に、決闘場の地面さえも深く抉るようにして、破壊のエネルギーが迫る。

 もはや、その様子は、天災に他ならない。

 あるいは、神々が人に与えし試練か。

 吹き上がる光の障壁が、こちらを押しつぶすように迫って来る。


「こ、この威力は……!?」

「き、危険です!! 魔導障壁が保たない!!」

「観客の皆さん!! す、すぐに、非難を!!」


 司会の慌てた声が、会場内に響く。

 観客席を守る魔導障壁、それさえも砕きかねないほどの、圧倒的な暴力の嵐。

 カリブンクルスは、その輝きに向かって、真正面から飛び込む。

 携えるのは、炎熱竜ノ角。

 全てを込めたこの角を放つは、極限まで極まったサクラ君の技術。


閃火裂孔(せんかれっこう)炎熱竜ノ角ドラゴニックバーンホーン!!』


 赤竜拳の奥義である技に乗せ、カリブンクルスは、その紅に燃える角を突き出した。

 火焔光背の炎がさらに激しくうねり、その姿は、火の神のようですらあった。

 そして、渾身の一撃が、レイドブライガの放った厄災の光へと触れた。

 触れた瞬間、凄まじいスパークが決闘場を駆け抜けた。

 魔導障壁が明滅し、嵐の如き烈風が観客席までも包み込む。

 黄金の光に蝕まれ、カリブンクルスの装甲が次々と剥がれ落ちていく。

 それでも、僕らの最高の機巧人形は、決して退きはしない。


「エル!! サクラ君!! 僕達の全てを!!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』


 その時、炎熱竜ノ角が激しい光を放つ。

 僕らも想いすらも力に変えるように、紅蓮の角は、光の中に道を穿つ。


「行けっ!!」

「行くんだっ!!」

『行けぇえええ!! カリブンクルス!!!』


 そして──


 音さえも聞こえなくなった、光だけの世界。

 エルの高まった魔力と僕の想いは、今、確かにサクラ君と意識を共有していた。

 滂沱の如くあふれ出る暴力的な光の中を貫き進む。

 真っ白な世界。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 ただ一つ感じるのは、鼓動。

 僕の鼓動。エルの鼓動。サクラ君の鼓動。

 そして、カリブンクルスの鼓動。

 重なり合ったそれが、僕に無限の力を与えてくれる。 

 さあ、終わらせよう。

 僕らの、機巧決闘を。

 光のトンネルを抜けた先に、その姿はあった。

 黄金色に輝く、究極の機巧人形。

 僕らは今、それを超える。

 レイドブライガが最後に放った光の拳。

 それすらも跳ね除けるようにして、猛き竜の紅き角は、レイドブライガの頭部を深々と貫いていた。

「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ