115.機巧技師と魔王の心臓
「魔王……だって!?」
魔王。
今、確かにプライヤはそう言った。
この世界には魔王階級と呼ばれる、超超高レベルモンスターが存在する。
いずれも、高難易度ダンジョンの最奥に眠っており、実際に、討伐できた例というのは、両手の指で足りるほどしかない。
それほどに凶悪な強さを持った、まさに最上位のボスモンスターである。
そんな魔王階級の魔物の魔核から魔素転換炉を作ったとすれば、その性能は計り知れない。
「どうやってそんなものを……」
「ネイジィさ」
「えっ……?」
「この魔核はネイジィから餞別に預かったものさ。もっともネイジィがどうやってこれを手に入れたのかは知らないけどね」
どこか自嘲気味に笑ったプライヤは、再びこちらへ視線を向ける。
「私は、ネイジィから譲り受けた魔核で、魔素転換炉を作った。でもね、あまりにも出力の高すぎるこの転換炉は、並の強度の機巧人形では扱えなかった。私はこの転換炉に耐え得る機巧人形を作るために、人造オリハルコンを作り出したのさ」
完成したばかりのカリブンクルスと同じだ。
あの時のカリブンクルスも、転換炉と機体の剛性が釣り合っておらず、サクラ君に手加減をしてもらって、なんとか運用できていた。
「でも、魔王の魔核の性能は、人造オリハルコンすら蝕むほどだった。仕方なく、出力を抑えて運用することで、なんとかレイドブライガは完成した」
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、今のレイドブライガは……」
「そう、その枷を取り払った。魔素転換炉本来の力を100%発揮できる状態。君達が火焔光背ならば、私達のそれは光輝燦然モード、とでも言おうかな。機体への負担が大きすぎて、一度使えばオーバーホールが必要になる。だけど、この形態になった以上、レイドブライガに敗北はない」
言葉と共に、レイドブライガの装甲がさらに一層光り輝く。
「さあ!! 魔王の力!! とくと味わえ!!」
瞬間、レイドブライガの姿が掻き消えた。
「えっ……!?」
次の瞬間、聞こえてきたのは音だった。
爆風と共に、鼓膜を破らんばかりに破砕音が会場に木霊する。
それは、レイドブライガのクローが、カリブンクルスの左肩を穿った音だった。
あまりのスピードに、まだ、認識が追い付かない。
準決勝で見せたタイガーモードでの超高速戦闘よりも、さらに速い。
サクラ君ですら、ほとんど反応できないほどの速さに、観客達も言葉を失っていた。
『くっ……この!!!』
肩を爪で貫かれたまま、壁際まで押し込まれたカリブンクルス。
しかし、サクラ君が、右腕のフィンガーフレアバーストで、レイドブライガの頭部を掴んだ。
エルが送った大量の魔素が、炎へと変換され、骨までも溶かし尽くす業火と共に、その頭部を圧搾しようと力を込める。
しかし、光輝を得たレイドブライガの人造オリハルコンは、さらに圧倒的な防御力へと進化していた。
フィンガーフレアバーストなど歯牙にもかけず、逆に、カリブンクルスが首を締め上げられる。
『ぐ、ぐぅう……!?』
「サクラ君!! エ、エル!!」
「うん!!」
エルが急速に魔力を練り、カリブンクルスのフィンガーフレアバーストのエネルギーを火炎袋へと収束する。
頭部を掴んだままの状態で放つは、ドラゴンモードの必殺技、ドラゴンフレアバーストだ。
炎熱竜の魔核のおかげで、通常形態でも撃てるようになったそれを零距離でぶちまける。
超超近距離での熱線。
たまらず、手を放したレイドブライガだったが、それだけだ。
頭部は未だ健在。それどころか、傷一つついていない。
『バ、バケモノか……!!』
「違うよ。魔王さ」
プライヤは笑う。
「君達は決して呼び覚ましてはいけないものを呼び覚ましちゃったんだよ。あとは、後悔するしかない」
言葉通り、圧倒的なパワーとスピード、そして、耐久力。
カリブンクルスは為す術もなく、殴られ、蹴られ、魔力のビームで焼かれる。
その度に、装甲は砕け、筋肉が引きちぎれ、魔力導線が露出した。
そのあまりに一方的な暴力に、会場中が静まり返る。
「あ、ああ……」
身体が震える。
ダメだ。
やっぱり、あのレイドブライガは次元が違った。
このままじゃ、カリブンクルスは……。
「諦めるな!! ビス君!!」
「えっ……?」
静まり返った会場の中、ひときわ響く強い声。
その声は、僕らと一緒に、カリブンクルスを作り続けてきてくれたレンチ先輩のものだった。
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