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114.機巧技師とプライヤの葛藤

「嘘だ……」


 誰にも聞こえないほどの小声で、僕は思わず呟いた。

 レイドブライガの装甲材である、人造オリハルコン。

 それは、僕が研究に研究を重ね、ようやく安定的な鋳造法を発見した一大発明だった。

 いや、実際に、その元となった金属を作ったのは、私じゃない。

 私の師であり、敬愛するネイジィ=J=コールマンだ。

 彼女がかつて製作した機巧人形"ティルナノーグ"にも、まだ、今ほどは洗練されていない人造オリハルコンが武器や盾として使用されていた。

 そして、今レイドブライガを守るこの黄金の鎧は、その時からさらに進化した無敵の防御壁のはずだった。

 イズナ零式が使っていた超振動兵器のようなものでなければ、到底傷つけることなど不可能。

 とりわけ、属性を持った魔導兵装に対しては、絶対的な防御性能を持たせていた。

 それなのに、あのカリブンクルスは、ドラゴンのブレスを模倣した熱線で、わずかではあるが、レイドブライガの装甲に傷をつけてみせた。

 自分にとって、それは許しがたいことだった。

 彼女が遺し、私が育ててきた技術。

 しかも、それを破ったのは、機巧技師として下に見ていた、あの弟。

 ただ、血が繋がっているというだけで、ネイジィから愛された、憎むべき相手。

 許せない……許せない……許せない……。


『ネイジィ!!』


 インカムの自分を呼ぶ声に気づき、私は思わずハッとした。

 目の前の戦闘へと焦点を合わせる。

 背中から天へと立ち昇る炎を噴き出しながら、圧倒的なパワーで迫る紅蓮の機巧人形。

 炎の力を込めた拳は、レイドブライガの装甲に確実にダメージを与えていた。

 準決勝までの戦いでは、ここまでの攻撃力を持たなかったはずだ。

 認めたくはないが、この機巧人形、そして、トライメイツ達は、確実に成長している。


『"あれ"の許可を……!!』


 普段は寡黙なブラスの声にも、必死さがにじみ出ている。

 それだけ、あのカリブンクルスの猛攻が激しいということ。

 できれば、使いたくはなかった。

 長年研究を続けてきた人造オリハルコンと違い、この機能はまだ不完全だ。

 使えば、戦闘継続時間を大幅に削られることになる。

 リスク覚悟で特攻してくるのは、弱者のやること。

 王者として君臨すべき私達が、そんなことをするのは恥ずべきことだった。

 だが、このまま真価を発揮しないまま、負けるなんてことこそ、あってはならない。

 わずかな葛藤を振り切るように、私はトリガーを引いた。

 瞬間、会場を眩いばかりの光が包み込んだ。




「な、なんだ!?」


 サクラ君の猛攻により、勝機が見えてきたカリブンクルス。

 このまま押し切れるかと思ったその時、レイドブライガの身体が、目が眩むほどの光を放った。

 会場にいる誰もが、思わず腕で目を守る。

 そして、その光がやがて収まった時、誰かが声を上げた。


「あ、あの姿はなんだぁ!?」


 会場中の視線が、レイドブライガへと集中する。

 人造オリハルコンによる黄金色に輝く装甲が特徴だったレイドブライガ。

 今、その身体は、益々黄金に輝いていた。

 関節部や頭部のパーツなどまでが、金色の光を放っている。

 それは、さながら、現世に舞い降りた神の如き威容を放っていた。


「こ、これは……」

「よく、レイドブライガをここまで追い詰めたよ。ビス……いや、モンジュノチエ」


 感情の読めない視線をこちらへ向けるプライヤ。


「君達の力は認めざるを得ない。だから、こちらも本気を出させてもらう」

「本気……だって?」

「ああ、君達のその火焔光背(かえんこうはい)とかいうやつと同じさ。魔素転換炉が持つ、本来の力を解放した」


 今のカリブンクルスに搭載されている魔素転換炉は、炎熱竜の魔核をベースにしたものだ。

 以前のミノタウロスの魔核よりも基本的な性能は上。

 その上、炎を操る魔物の魔核ということで、カリブンクルスの戦い方との相性も非常によく、準決勝時に比べて、カリブンクルスの攻撃性能は2割近く向上している。

 その親和性の高さから、ミノタウロスの魔核の性質であったオーバードライブも可能であり、火焔光背も安定的に使うことができた。

 つまり、魔素転換炉の元になる魔核の性能は、機巧人形の性能に直結するということ。


「レイドブライガの魔素転換炉の元になった魔核を持つモンスター……それはね」


 鼻を鳴らすようにして、彼女は言った。


「──"魔王"さ」

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