112.機巧技師と竜虎の戦い
「エル!! ありったけだ!! ありったけの魔素を!!」
「うん!!」
僕の指示に、エルの全身から赤い魔力が迸る。
ドラゴンモードでの空中戦の結果は、ほぼ五分。
空中での機動性では、ドラゴンを元にしたこちらがやや上回っていたが、装甲強度の問題で、決定打を与えることはできなかった。
ならば、ということで、必殺の体勢に入ったカリブンクルスだったが、当然、あちらも同様に魔導兵装での攻撃を仕掛けてきた。
それは、これまでの戦いで、数多くの機巧人形を葬り去ってきたタイガーヘッドからのビーム攻撃だ。
あのビームは、純粋な魔力を攻撃エネルギーへと転換したもの。
常に止めに使い続けてきたことからも、その殺傷能力がいかに凄まじいかがわかる。
対して、こちらもドラゴンフレアバーストの体勢に入る。
ドラゴンモードでの最強の攻撃。内蔵された火炎袋にため込んだ炎の魔力のエネルギーを圧縮、放出する熱線だ。
『ドラゴンフレアバーストォ!!』
『こちらもだ!! マリー!!』
「はい!! はぁあああああああ!!!」
ほとんど同時に、紅き竜王と金色の虎、それぞれの口から紅と金のブレスが照射される。
空中でぶつかり合ったエネルギーはスパークし、遥か上空にある雲すらも吹き飛ばした。
まるで、神話の時代の神々の戦いを思わせるその光景に、観客達も口を開いたまま見守っている。
しかして、竜虎の対決は、虎の方に分があった。
少しずつだが、ドラゴンフレアバーストが押し込まれつつある。
『くっ……!?』
『ふん!! まだまだだ!! マリー!!』
「はぁああああああ!!!!」
レイドブライガの放つビームがさらに力を増す。
やはりあの魔導士マリーベルさんの魔力は異常だ。
その上、彼女の魔力は、純粋な"無属性"。
少し前にエルに聞いたが、魔素というのは、属性の力へと変換されるときに、どうしてもロスが生じてしまう。
しかし、無属性魔法には、そのロスというのが存在しない。
つまり、魔素の持つエネルギーをそのまま攻撃へと転換できるわけで、同じ魔力の者同士がぶつかったとしても、無属性の方が、より多くのエネルギーを得ることができるということだった。
エルの魔力は、決して、あのマリーベルさんに引けを取らない。
けれど、そのロス分の差で、どうしても、あと一歩、火力面で劣ってしまっていた。
「う、うぅ……!!」
限界まで魔力を引き出したエルが、苦痛の声を漏らす。
「エル!! 頑張れぇ!!」
何もできない僕は、エルにそんなことしか言えない。
決闘中、機巧技師は無力だ。
作戦や指示を与えこそすれ、戦いの根幹部分にいるのはやはり搭乗者と魔導士だ。
こういう状況になれば、僕にできることは、ただ、精一杯応援することだけだ。
「エルゥ!!!」
その時、観客席からひときわ大きな声が響いた。
随分と耳に馴染んだ、凛としたその声は、サリィさんのものだ。
視線を向けると、人目もはばからず、両手を握って、必死にこちらへ声援を送っていた。
「エル!! あなたの力はこんなものじゃないはずですわ!! 頑張って……頑張って、エル!!!」
サリィさんの応援に呼応するように、その背後では、たくさんの魔導科の女生徒達が、横断幕を靡かせていた。
その中には、かつてエルをいじめていたメンバーも多くいた。
だが、そんな彼女達も、いつしか必死の形相で、エルの事を応援していた。
そんな声が耳に入ったのか、エルの杖を握る手に、再び力が籠った。
「もっと……もっと……!!」
その時、エルの身体からさらなる魔力が上空へと迸った。
そうだ。彼女はいつもそうだった。
誰かのためになら、いくらでも力を振り絞れる。
応援してくれている皆の為、彼女は今、自分の限界さえも超えようとしていた。
「私の中に眠る魔力よ。お願いっ!!!」
再び、杖を魔導陣へと振り下ろす。
その瞬間、ドラゴンフレアバーストの力が一気に増した。
その力は、驚くべきほどだった。
眼前まで押し込まれていた金色のエネルギーが、赤き熱線の力で押し返されていく。
『バカなっ!?』
「ちょっと、マリー!! 手を抜かないで!!」
「こ、これで、全力です……あああぁあああああ!!!」
マリーベルの叫びと共に、爆音が会場中に響き渡る。
限界まで膨れ上がった炎の力は、レイドブライガへと見事直撃したのだった。
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