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108.機巧技師と決戦の朝

「いやぁ、ビスはん!! 決勝進出おめでとさんやでぇ!!」


 決闘場への搬入路の道すがら、声をかけてきたのは、あの新聞部の部長ルタだった。


「お前……何しに来た?」

「いやぁ、決勝を前に、モンジュノチエのみんなの意気込みを聞いとこうと思うてなぁ」


 メモ帳をペンでコツコツと叩きながら、彼女はいつもの笑顔を浮かべた。


「まったく……もうお前達の試合は終わったんだろう? 今更、情報収集もなにもないだろうに」

「辛辣やなぁ。うちは新聞部やで、新聞部。そりゃ、あんたらに機巧技師やって言わなかったのは悪かったけどさぁ。あんたらの事気に入ってたんはほんまなんやで。アルヴァリオンの情報を教えたのも、決勝であんたらと戦いたかったからやし」

「本音は?」

「あんたら勝ってくれた方が、うちのイズナ零式が与しやすそうやなぁなんて……って、何言わせとんねん!!」


 うっかり本音を漏らしたルタの姿に、サクラ君と共に、はぁ、と嘆息する僕ら。

 だが、ルタは次の瞬間、少しだけ真剣な顔をした。


「まあ、こんなうちやけどさ。それなりに勝つために真剣やってんで。機巧人形やって、取り入られるもんは全部取り入れたつもりやし、事前に調査できることはトライメイツで協力して、みんなやった。それで負けたんや。悔いはない。でも……」


 我慢しきれなくなったのか、ルタは、僕の両手を取った。


「やっぱり悔しいんは悔しい!! あのふんぞり返っとるティグリスに一泡吹かせたかった……」

「安心しろ。その役割は、俺達が引き受ける」

「えっ……?」


 サクラ君が、驚くほど優しく、ポンポンとルタの頭を撫でた。


「ビスが言っていた。お前達の機巧人形は素晴らしかったと。あれだけの物を作り上げた人間だ。お前が裏でどれだけの努力をしていたのかは、俺にもわかる」


 サクラ君の言う通り、イズナ零式は、作り手の執念がなければ、完成しえない素晴らしい機巧人形だった。

 最新鋭の技術とそれを実現するための思考錯誤。

 さらに、機巧人形の性能を高めることだけではなく、勝つために、誰よりも深く相手チームの事を研究し、逆に自分たちの情報が相手に伝わらないようにその牙を隠し続けた。

 きっと寝る間もなかっただろう。

 そんな彼女の努力と勝つというという意志に、偽りなどあるはずがない。


「だから、任せろ。お前達の悔しさは、きっと俺達が晴らす」


 サクラ君の言葉に、僕もエルも、力強く頷いた。


「あんたら……」


 ルタは、フッと一度鼻で息をすると、次の瞬間にはいつもの八重歯をむき出しにした笑顔に戻っていた。


「お人よしっていう項目やったら、とっくに、あんたらが優勝やな。でも、ありがとう!!」


 最後に、クルリと反転すると、ルタは走り去りながら言った。


「あんたらが優勝したら、真っ先にお気持ち聞きに行ったるからな!! みんなが泣いて感動するコメント、考えときやー!!」

「ははっ、なんというか……」

「騒がしい女だ」

「で、でも、緊張がほぐれた気がする……」


 決闘前ということで、少しかたくなっていたエルだったが、今のやり取りで、なんだか肩が軽くなったようだ。

 そうして、僕達は決闘場を見上げる。


「たくさん想いを受け取っちゃったね」

「うん」


 今までの戦ってきたトライメイツのメンバーの顔が浮かぶ。

 サリィさんにニッパー先輩たち、ラチェットや勇者ルスト。

 みんな、この機巧決闘に賭けて、自らを研鑽してきた。

 その想いを砕いて、僕達が今ここにいる。

 だから、僕達は、拾い集め、背負っていく。

 みんなが繋いだ、この想いを。

 もう言葉はいらない。

 あとは、ただ戦うのみ。

 カリブンクルスへと搭乗したサクラ君が、搬入路へと歩んでいく。

 僕とエルも、それに並ぶようにして会場へと入っていく。

 僕達の胸には、ただただ熱い闘志だけが、強く、強く、燃え滾っていた。

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