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105.機巧技師と竜の心臓

「ルスト……」

「サクラ」


 穏やかに返事をするルスト。

 その顔には、最初に迷宮で出会った時よりも、ずっと自然な笑顔が浮かんでいた。


「試合に向けて、忙しいとは思ったんだが、どうしても、君に伝えたいことがあって」

「な、なんだ……?」

「ありがとう」


 ルストはそう言って、ゆっくりと頭を下げた。


「お前のおかげで、俺は自分が何のために生きているのか。改めてその意味を見つけられたように思う」

「ふん、買いかぶるな。俺は、自分のためにお前と戦ったに過ぎない」

「それでもさ」


 少しだけ目を閉じたルスト。


「ありがとう」


 目を閉じ、真剣に感謝の気持ちを伝えるルストの様子を見て、サクラ君もフッと小さく息を吐いた。


「相変わらずだな。お前は」

「君もだよ。サクラ」


 そう言って笑い合う姿には、僕の知らない冒険者自体の2人の関係性が表れているようだった。


「ところで、さっき入ってくるときに、魔素転換炉がどうとか、聞こえたんだが」

「えっ、ああ、実は……」


 僕はかいつまんで、試合以降、魔素転換炉の調子が悪いことを伝えた。


「なるほど、なら、ちょうど良かった」

「えっ、ちょうど良いって……」


 ルストは、腰に提げていた筒を手に持った。

 あのアイテムは、確か収納用の魔道具だ。

 高位の冒険者しか持っていない、レアなアイテムのはずだが、さすが勇者といったところか。

 いや、そんなことはどうでも良くて、驚いたのは、そこから取り出したある物だった。


「こ、これは……!!!」


 それは、魔核だった。

 一抱えほどの大きさがあり、炎のように赤い色をしている。

 そして、その見た目に、僕は見覚えがあった。


「もしかして、これ……」

「ああ、炎熱竜(バーンドラゴン)の魔核だ」


 取り出した魔核を工作机の上に置きながら、ルストが答えた。


「俺が十三迷宮をソロで攻略している時、三十層で見つけたものだ。これは、君達が倒した炎熱竜の物ではないか?」

「そ、そうです!! 間違いない!!」


 僕らは十三迷宮の三十層で、その角を得るために炎熱竜と戦った。

 討伐して、角や火炎袋などの素材を手に入れることはできたものの、魔核を回収する直前に、複数体の炎熱竜が現れ、結局回収できず仕舞いになっていた。

 それをまさか、勇者ルストが回収していたとは……。


「やはりか。ずっと君達に渡す機会をうかがっていたんだ」

「え、でも、回収したのは……」

「竜を討伐したのは、君達だろ? それに、次の戦いのために、必要なものではないのか?」


 力強く見つめるルストの想いに、僕はそれ以上何も言わずに頷いた。


「いただきます。ルストさん、ありがとうございます!! お礼は、きっと……!!」

「礼などいらないさ。ただ」


 ルストさんは、ゆっくりとカリブンクルスを見上げた。


「優勝して欲しい。君達なら、きっとそれができるはずだから」

「ルストさん……」


 彼の優しい瞳を見つめながら、僕もまた、力強く頷いた。


「確約はできません。でも、せっかくいただいた魔核を無駄にしないためにも、全力で臨みます」

「ああ、それでいい」


 それだけ言うと、彼は立ち上がる。


「じゃあ、僕は、これで失礼するよ」

「待て、ルスト」


 去り際、その背中にサクラ君は声をかけた。


「決勝が終わったら、その……飯でも行こう。あのララという娘も一緒にな」


 頬を掻きながら、サクラ君がそう伝えると、ルストは、少しだけ意外そうな顔をした後、柔らかく微笑んだ。


「ああ、もちろんだ」


 どうやら、サクラ君とルストの関係も、順調に良い方向へと向かっているようだ。

 拳でしかわからないことがあるから、ルストと戦うと言ったサクラ君。

 でも、戦いが終わった今、二人に必要なのは、拳ではなく、対話なのかもしれない。

 きっと、昔話だけじゃなく、それからのこと、そして、これからのこと。

 二人が話すべきことは、きっとたくさんあると思うから。

 

「…………さて」


 僕は、ルストに譲ってもらった炎熱竜の魔核をマジマジと見つめた。

 この魔核であれば、きっとミノタウロスと同等……いや、それ以上の魔素転換炉を作ることができるはずだ。


「エル、頼める?」

「うん」


 魔核に命令語を書き込むのは、魔導士の役目だ。

 僕は、さっそくエルと相談しながら、新たな魔素転換炉に必要な指示をメモしていくのだった。

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