103.機巧技師と猛追の黄虎
「斬った……オリハルコンを……!?」
人造とはいえ、オリハルコン製の装甲を斬ったイズナ零式の一太刀。
それは、超振動刀と呼ばれるものだった。
刃を高速振動させることで、その刃の持つ切断力を限界まで高める武器。
これも超電磁砲と同様に、姉からその存在と原理だけはレクチャーを受けたことがあったが、実際に作ってしまうトライメイツがあるなんて正直驚いた。
「はっはっはっ!! 凄い!! 凄いよ、君!! まさか、レイドブライガの装甲に傷をつけちゃうなんて!!」
「お褒めにあずかり光栄や」
「スピードも凄い。いやぁ、驚いた。まさか、こんな機巧人形が隠れていたなんて。だから、機巧決闘って止められないのさ」
ひとしきり笑うと、プライヤはフッと笑顔を消した。
「でも、さすがにちょっとムカッと来たかな。これ以上、私達ティグリスの格を落とすのも癪だし、そろそろ本気で行こうか」
「はん。悪いけど、あんたらの機体の基本性能は全て熟知しとる。もうあんたらは逆に、打つ手がなくなったんとちゃうか」
そうだ。
これまでの状況は、圧倒的なレイドブライガの防御力を前に、イズナ零式がダメージを与えられるか、というのが戦いの焦点だった。
しかし、超振動刀による攻撃が有効だとわかったことで、構図は逆転した。
今度は、レイドブライガが、イズナ零式の圧倒的なスピードに追従できるかというところが焦点になる。
レイドブライガは決して機動性が低いわけではないが、イズナ零式の速度は異常だ。そもそも攻撃を当てられるのか……。
「ハッタリも上手だね。実は、もう結構ギリギリなんじゃないの?」
何かを見透かしたようにプライヤは言う。
「はん! 何を言うてるか知らんが、あんたらに攻撃が効くとわかった以上、さっさと終わらせてもらうで!!」
再び、イズナ零式の姿が消える。
視認不可能なほどの超超高速戦闘。
だが、プライヤは冷静に指を鳴らした。
その瞬間。レイドブライガの身体が変わる。
「やっぱり……」
思わず僕は呟いていた。
50年前に使われていた特殊なフレームを元にした機巧人形カリブンクルス。
そして、レイドブライガにも同型のフレームが使われている。
つまり、カリブンクルスが"竜"へと姿を変えられたように、レイドブライガも──。
「なん……やと……!?」
変形を見届けたルタが、驚愕の表情を浮かべる。
さすがに、この機能までは、調べ上げることができなかったようだ。
「彼に倣って、レイドブライガ"タイガーモード"とでも、しておこうか」
にやりと笑うプライヤ。
その言葉通り、変形したレイドブライガの姿は、まさに翼の生えた虎のようだった。
胸についていた顔が全面にせり出し、四肢にはかぎ爪、四足歩行。
そして、竜となったカリブンクルスと同じように、その獅子の頭で、天高く咆哮するレイドブライガ。
同時に、虎を思わせる俊敏さで、駆け出す。
トップスピードになったと思った時には、イズナ零式と同様に、その姿がほとんど視認できないほどになっていた。
「こ、これは、両者!! 目にも止まらぬ速さだぁ!!」
二、三度、ぶつかり合うような音がしたと思った次の瞬間。
空中で、イズナ零式の胴を咥えたレイドブライガが、そのまま地面へと組み伏せた。
「ア、アホなっ!? イズナ零式が捕まった……やと!?」
「いかに忍者のスピードでも、虎の野生のスピードには敵わない。さあ、マリー」
「はい」
マリーベルが杖を振る。
すると、虎の姿となったレイドブライガの口内に、魔力のエネルギーが満ち満ちていく。
予選から数々の対戦相手を葬ってきた、魔力によるビーム攻撃。
咥えられた今の状態で、それを受ければ、機体は……いや、コクピットにいる搭乗者はタダでは済まない。
「ま、待ち!!」
「このまま撃てば、タダじゃすまないけど、どうする?」
「わ、わかった!! うちらの負けや!!」
聞いただろ、という風に、司会席へと視線を向けたプライヤ。
その視線を受けて、状況を食い入るように見守っていた司会者が、声を上げる。
「ル、ルーフタイルバーンのギブアップにより、勝者、ティグリス、レイドブライガ!!」
大歓声が上がる中、レイドブライガは再び天に向かって、咆哮を上げたのだった。
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