102.機巧技師と最強金属
再び戦闘を開始したレイドブライガとイズナ零式。
イズナ零式は、映像投影装置を起動し、自身の周りに何体もの分身を映し出した。
目で見て判断するのは、困難なほどに完璧な虚像。
それは、隣で見ているサクラ君でさえも、見破ることができないほどだった。
「マリー」
「はい」
その時、ティグリスの魔導士マリーベルが動いた。
彼女が魔導陣に杖を降ろすと、レイドブライガの全身から金色のオーラのようなものが放たれた。
「あれは……?」
「なんて純粋な魔力……」
「えっ?」
エルの言葉通り、どうやらそれは、"ただの"魔力のようだった。
属性の付与されていない。攻撃性のない純粋な魔力。
それがレイドブライガから発せられたと思うと、その瞳が、ギロリと一点を捉えた。
そして、恐ろしい速度の正拳突きが、一体のイズナ零式へと放たれる。
忍者刀でガードした零式だったが、そのまま後方まで物凄い勢いで飛ばされてしまった。
同時に、大量にいた偽のイズナ零式達が一斉に霧散した。
「す、凄い! 本体を見抜いた!! でも、どうやって……?」
「魔力を当てて、それが跳ね返ってきた1体に攻撃したんだと思う……」
「な、なるほど」
「やっぱりこのくらいのフェイクじゃ、あんたらはどうにもでけへんか」
ゆらりと立ち上がるイズナ零式を見ながら、ルタの余裕は揺るがない。
「うん。やっぱりその機巧人形じゃ、私達には勝てないよ」
同様に、プライヤも余裕で腕を組む。
「へぇ、言うてくれるやんか」
「だってそうでしょ。今の攻撃だって、たとえ命中していたとしても、レイドブライガに致命傷を与えられない」
「確かにそうかもしれんなぁ。あんたらの機体の装甲は無敵や。なにせあの"オリハルコン"やねんもんなぁ」
『…………は?』
あまりにも飄々とした調子で言った一言に、一瞬会場中が凍り付いた。
『オリハルコンッ!!!?』
叫びと共に、人々の時が動き出す。
慌てるのも当然だ。
それだけ、その金属は有名だった。
神が人に与えた、最強の金属として……。
「ゼ、ゼフィリア先生!! ほ、本当に、あれはオリハルコンなんでしょうか!?」
「これまでの戦いで見せた圧倒的な防御性能……それを考えれば、あるいは」
「さすがにこそこそ嗅ぎまわっていただけのことはあるね。そう、レイドブライガの装甲は、"人造オリハルコン"とでもいったものだよ。私が作った」
そう答えるプライヤの言葉に、さらに会場のボルテージが上がっていく。
「人造オリハルコンなんて、そんな……」
「そ、そんなに凄いんですか? そのオリハルコンというのは……」
「す、凄いなんてもんじゃないよ。オリハルコンは、それだけ希少な金属なんだ」
例えば、僕が入手するのに苦労したミスリル。
あれは、鉱山から発掘し、精練するもので、量は少ないものの市場にも流通しているものだ。
高価とは言え、それなりに入手経路というものは存在する。
しかし、オリハルコンは、そんなミスリルとは比較にならないほど希少な、まさに幻の金属だ。
各地方の様々な伝承の中で登場するため、一般からの認知度は高いが、それはあくまで創作物の中での話。
実際に、オリハルコンを見たことがあるという人間は、この会場中を探しても、ほぼいないだろう。
おそらくこれまで人類が発見した全てのオリハルコンを集めたとしても、機巧人形の装甲板1枚にも足りはしない。
希少中の希少。それほどまでにレアリティの高い金属なのだ。
「本当に、オリハルコンを人の手で作るなんてことが可能なのか……?」
レイドブライガの金色に輝く装甲。
イズナ零式は、その装甲を縫うように攻撃をしていたが、装甲そのものが傷つけられた事例は見たことがない。
真偽はともあれ、あの装甲が圧倒的な性能を持っていることは確かだ。
「人造でもなんでも、オリハルコンはオリハルコン。並の火力じゃ、ビクともせんのやろな」
「当然。私達のレイドブライガを傷つけられるものなんて、存在しないよ」
「果たして、ほんまにそうかな?」
イズナ零式が再び忍者刀を構える。
「あんたら3人が、それぞれめちゃくちゃ優秀なんは、わかっとるけどな。うちの冒険者と魔導士やって負けてないんや。行くで、オスティ!! チュチュ!!」
魔導士であるチュチュさんが魔素をイズナ零式へと送る。
モニター越しにオスティさんがにやりと微笑んだかと思うと、イズナ零式の姿が掻き消えた。
「き、消えた!?」
「違う!! 単純に"速い"んだ!!」
サクラ君はそう言うものの僕にはまったく見ることすらできない。
いや、そもそも機巧人形が動いているはずなのに、音すらもまったくしないなんて……。
一般人には到底捉えられないほどの速度で、イズナ零式が決闘場の中を駆けまわる。
そして、再び、イズナ零式の姿を認知できるようになったと思った、その時だった。
「バカな……」
その背後で、レイドブライガの虎の顔、その左目が真一文字に砕かれていた。
いや、目だけじゃない。その周囲の装甲も含めて、深く深く、鋭い刀傷が走っている。
そして、聞こえるまるで、虫の羽音のような高い音……。
それは、振り向いたイズナ零式の忍者刀から発せられているようだった。
「超振動刀"風鳴"。うちらの一太刀は、オリハルコンすら斬り裂く」
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。