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100.機巧技師と黒き暗殺者

 カリブンクルスとアルヴァリオンの死闘の翌日。

 もう1つの準決勝戦、レイドブライガ対イズナ零式の機巧決闘が開催された。

 並び立つ2体の機巧人形を僕らモンジュノチエの面々は、観客席から眺めている。


「さて、どちらが決勝に上がって来るかな」

「それは、当然……」


 レイドブライガ、と言いかけて、レンチ先輩が、グッと口を噤む。


「……いや、勝負は始まってみないとわからない。そうだよね。ビス君」

「ええ」


 僕は、レイドブライガに相対する機巧人形へと視線を向ける。

 イズナ零式という名のその機体は、全身黒づくめの身軽そうな機巧人形だった。

 東方に存在するという"忍者"という職業(クラス)をモチーフにしたであろうこの機巧人形は、通常の機巧人形に比べて、やや細身な印象を受ける。

 本選の2回戦までの試合では、その機動性の高さで相手を翻弄し、勝利をもぎ取った。

 スピードに特化した機巧人形であることに間違いはないだろう。

 対するレイドブライガは、パワータイプの機巧人形に掴まれても、ビクともしない頑強な装甲を持っている。

 勝負のカギは、イズナ零式が、レイドブライガの厚い装甲を突破できるかどうか……いや、でも、あるいは。

 西司令塔に立つ、機巧技師の姿を見つめる。

 顔に対して不釣り合いなくらいに大きな眼鏡をかけたあの機巧技師。どこかで見覚えが……。


「さあ、第60回機巧決闘本選大会!! 準決勝第2試合、東司令塔からは、トライメイツ"ティグリス"、機巧人形"レイドブライガ"!! 対する西司令塔、トライメイツ"ルーフタイルバーン"、機巧人形"イズナ零式"の試合を始めるぜ!!」


 司会の声と共にブザーが鳴ると、いよいよ機巧決闘が始まった。

 最初に動いたのは、やはりイズナ零式の方だった。

 忍者らしい、身軽な動作で、決闘場を飛び回りながら、レイドブライガに迫る。

 だが、先手を取られたからと言って、もちろんレイドブライガが不利なわけじゃない。

 彼らはいつもそうだ。

 相手に先制させ、それを歯牙にもかけず跳ね返し、そして、一撃で葬り去る。

 絶体的な王者としてのふるまい。

 そんな不遜な戦い方すら、この機巧人形がすれば、誰もが魅了されるパフォーマンスとなる。

 イズナ零式の忍者刀による攻撃が、レイドブライガの首を刎ねようと振るわれる。

 だが、レイドブライガはそれを避けようともしない。

 それもそのはずだった。驚異的な強度を誇る装甲に阻まれ、イズナ零式の攻撃は、レイドブライガに傷一つつけることさえできなかったのだ。

 そして、彼らが今いる位置は、レイドブライガの胸についた虎の顔のすぐ正面。

 

「まずい!!」


 レンチ先輩が思わず口に出してしまうほど、イズナ零式は、攻撃しやすい絶好の位置にいた。

 レイドブライガの胸の虎が口を開く。

 一瞬でエネルギーが充填され、次の瞬間には、金色の輝きが魔導障壁へとぶち当たっていた。

 誰もが、勝負は終わったと思った。

 また、レイドブライガがたったの一撃で、勝負を決めてしまったのだと。

 司会さえもが、レイドブライガの勝利を宣言しようと大きく息を吸った、その瞬間だった。


 ドーン!!


 控えめだが、確かな破砕音がしたかと思った時には、すでに、レイドブライガが膝をついていた。


「え、あ……?」


 状況を理解できない司会者の呆然とした声が漏れる中、レイドブライガの後ろに立っていたのは、体当たりの体勢のまま見下ろすイズナ零式の姿だった。


「バ、バカな……!? 今、確かに、イズナ零式は……!?」

「ふふっ、とりあえず、まずは一発といったところやな」

「えっ……?」


 モニター越しに聞こえる声。

 その口調には、聞き覚えがあった。

 ゆっくりと大きな眼鏡を外す機巧技師の少女。


「ルタ……さん?」


 そう。それは、つい先日、僕らの工房へとやってきたルタさんの姿だった。


「あいつ、機巧技師だったのか……?」

「そ、それもびっくりだけど、今の攻撃は……!?」


 立ち上がるレイドブライガ。

 そんなレイドブライガが右手に虎のかぎ爪のような物を腕に展開し、振るう。

 風さえも斬り裂くような鋭い攻撃が、イズナ零式を捉えた……そう思った。

 しかし……。


「えっ……」


 攻撃がすり抜けるようにして、イズナ零式の姿がぼやける。

 そして、次の瞬間には、再び、レイドブライガの背後に現れたイズナ零式によって、蹴りを入れられていた。

 顔面に直接蹴りが入ったレイドブライガが後方へと倒れる。

 再び膝をついたレイドブライガを忍者刀を逆手に構え、睥睨するように見下ろすイズナ零式。

 その姿は、さながら暗殺者のようですらあった。


「さて、優勝候補はん……」


 外した眼鏡を手でもてあそぶようにクルクルと回しながら、ルタはその八重歯をむき出しにして笑った。


「ふんぞり返っていられるのは、ここまでやでぇ」

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