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8.大切な人だから

「駄目よエル!」

「エル坊」

「わかってる。でも逃げられない以上ここで食い止めるしかないんだ」


 俺は腰の剣を抜き、リルの前で構える。


「へぇ~ 何だやる気か?」

「……」

(何だこいつ、気配が読み切れねぇ。さっきも近づかれるまで気付けなかった。妙なガキだ……だがまぁ

――)


 ルブランは呆れたため息を漏らして言う。


「はぁ~ 精霊使いでもない雑魚に興味はねぇよ。お前らやれ」

「了解です、ボス」


 ルブランが下がり、代わりに部下の男たちが前に出る。

 全員で六人。

 フードで顔は見えないけど、全員が下級精霊と契約しているようだ。

 浮いている精霊の光。

 色から察するに、炎の精霊が四、風の精霊が二という所か。


「リルは自分の身を守ることに集中して」

「で、でも!」

「大丈夫! こういう時のために鍛えてたんだから!」


 その言葉は彼女に言ったのではなく、自分自身を鼓舞するため口にした。

 俺は剣を強く握りなおし、男たちに向っていく。

 男たちは頭上に火球を生み出し、それを俺に放ってきた。

 降り注ぐ火球。

 俺は左右に躱しながら前進する。


「躱すかよ。ただの人間にしては中々の速度だな」


 余裕たっぷりなルブランの声が聞こえる。

 あいつを倒す前に、まずは手下の六人を何とかしないと。

 俺は標的を眼前に定め突き進む。


「くそっ!」


 接近された男は慌てて武器を取ろうとしたようだ。

 それよりも早く剣を振り抜き、取り出したナイフを弾く。

 さらにがら空きの腹へ一発叩き込む。


「うっ……」

「次!」


 続けてもう一人。

 近くにいた男へ急接近し、剣の柄で顎を殴る。

 ふらついたところへ蹴りを入れ、数メートル先へ吹き飛ばした。


「格闘も中々だな」


 よし、残り四人。

 やっぱり精霊使いは肉弾戦に弱い。

 精霊の力を操れるから、身体を鍛えたり、武器を使う練習も怠っているのだろう。

 この調子で一人ずつ倒していけば、最後の一人まで――


「だが、所詮はただの人間だな」


 一瞬、油断した自分を怒りたい。

 俺の足元が蠢き、大地の柱が腹へ激突する。


「ぐおっ」

「エル!」

「エル坊!」


 突き出た柱に吹き飛ばされて、俺はリルの近くに転がる。

 リルは痛めた足を引きずりながら、俺の元へ来てくれた。


「エル、エル!」

「ごほっ、ぅ……」


 油断した。

 あいつがドカドカと同じ土の精霊と契約しているのは気付いてたのに……

 今の攻撃であばらが何本か折れてしまったな。

 呼吸するたびにキリキリと刺さるような痛みが走る。

 口の中が血の味で苦い。

 もしかすると内臓も傷ついたかもしれない。


「ただの人間にしちゃー頑張ったがここまでだ。相当身体鍛えてるみたいだがな~ その程度じゃ俺には届かねぇよ」

「ぐっ……まだだ」


 痛みに耐え、俺は剣を突き刺し支えにして立ち上がる。


「へぇ、まだやる気か?」

「駄目よエル! このまま続けたらエル……エルが死んじゃう」

「そいつの言う通りだぜガキ。これ以上続ければお前は確実に死ぬ。こっちの目的はお前じゃなくて後ろの女だ。命が惜しいならとっとと失せろ。今なら見逃してやる」


 ルブランの言葉に、リルが反応したのがわかる。


「お友達が死ぬのは嫌だろ~ お前が俺の物になれば、そいつも助かるんだぜ? なぁ、どうすればいいかわかるよな?」

「……」

「ほら言ってみろよ。私をルブラン様の下僕にしてくださいって」

「……私を――」

「駄目だ!」


 リルは言いたくないことを口にしようとしていた。

 俺は痛みに耐えながら、力いっぱいに声をあげて言う。


「そんなこと……言わなくていいよ、リル」

「で、でもエルが」

「俺なら大丈夫……大丈夫だから」

「おいおいやせ我慢はやめろよ。これは善意なんだぜ?」

「うるさい……渡さない。渡すもんか」

「あ?」


 血の味が濃くなった。

 呼吸はさっきより苦しいし、立つのもつらい。

 自分の命が削られている感覚がある。

 いくら丈夫でも、ここまで怪我を負って動けばどうなるか、わからないほど愚かじゃない。

 だけど……いや、そんな状態だからだろう。

 俺の頭の中には、リルと過ごした十五年余りの思い出が流れていた。


 いつだって、俺の隣にはリルがいた。

 嬉しい時も、悲しい時も、悩んでいる時も……君は傍にいてくれた。

 喧嘩だって何回もして、その後はちゃんと仲直りもした。

 リルのことは俺が一番よく知っているし、俺のことはリルが何でも知っている。

 そんな君が何よりも――


「リルは俺の……大切な人だ。お前なんかには渡さない!」

「エル……」

「へぇ」


 死ぬのは怖い。

 だけど、ここで彼女を失うほうがもっと……何倍も怖いと思うから。


「そうかいそうかい、わかったよ。お前はまっすぐだな~ 見てるこっちが眩しくなるぜ~ そんなボロボロの身体でよぉ」

「っ……」

「ったく困るぜ~ お前みたいなやつ見てると……殺したくなる」


 ルブランから放たれる殺気。

 今までで一番濃くて重い殺気にリルが怯えている。

 それでも俺は剣を抜き、彼に向って跳び出した。


「エル!」


 心配そうに俺の名を叫ぶリル。

 俺の身体はもう限界だ。

 さっきまでと同じように軽くは動けない。

 それでも動けるように身体を鍛えてきたんだ。

 

「お前ら」

「了解です」


 ルブランの前に四人が立ちはだかる。

 状況はなお悪い。

 それでも勝算はあるんだ。

 あいつは……ルブランは俺のことを舐めている。

 他の四人も、怪我をして鈍った俺なら倒せると考えている。

 だから数秒、ほんのちょっとで良い。

 限界を超えて走るんだ。

 火球を躱し、風の刃を躱し、部下の四人を無視してルブランの懐へ。


「こいつ!」


 近づけば、剣が届く距離なら、俺でも勝てる!


「馬鹿が」

「ぇ――」


 瞬間、彼の姿が眼前から消えた。

 次に彼を見たのは、俺の隣だった。

 そして彼の右手は……俺の腹を貫通していたんだ。

明日も同じ時間帯に更新予定です。

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