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3.穢れ

 村中に響き渡る鐘の音。

 綺麗な音だが、祝福の金ではなく、警告の音だ。

 村に迫る脅威を知らせている。

 村人に、そして……その脅威を退けられる力を持つ者に。


「いくわよ、ドカドカ」

「あいよ!」


 リルの後を俺も追う。

 鐘の音とは別に、荒々しい音が聞こえてきた。

 ルート村は森に囲まれていて、様々生き物が暮らしている。

 イノシシを超える動物も当然いるが、これだけ大きな音をまき散らすような生き物はいない。

 そう、穢れは生き物ではない。


「お嬢!」

「ええ、いたわね」


 それは木々をなぎ倒し、地面にひびを入れている。

 姿形は大きなクマだ。

 しかしクマではないことは、纏っているどす黒いオーラを見れば明白。

 目は血走ったように赤く、凶暴性はクマと比較にならない。

 

「来るわ!」

「リル!」

「エルは下がってて! あなたじゃ穢れは祓えないんだから!」

「っ……わかった」


 リルは穢れに向っていく。

 あの恐ろしい穢れが何なのか、どこで生まれたのかはわかっていない。

 ただハッキリしているのは、穢れが人類を害なす存在であるということ。

 姿形は動物や昆虫、時には人の形にすら見せることもあるが、穢れは生物ではない。

 よくない力の塊とでもいうべきだろうか。

 そして、穢れを祓うことが出来るのは、精霊使いだけだ。


「ドカドカ!」

「任せとけお嬢!」


 リルが地面を強く踏みしめると、クマの穢れの地面が盛り上がり、岩の柱が伸びて吹き飛ばす。

 イノシシの時と同じだ。

 大地の精霊と契約したリルは、周囲の地形を操って戦うことが出来る。

 続けて左右の地面から棘のような岩が伸び、クマの穢れの両腹を突きさす。


「グオオオオオオオオオオオオオオ」


 悲鳴をあげる穢れの頭上に、リルは移動していた。


「終わりね」


 最後は思いっきり頭を踏んで、クマの穢れは倒れる。

 倒れた穢れは黒い霧状になって消えていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今日も助かったよ、リルカ。怪我はなかったか?」

「大丈夫。全然余裕だったから」

「はははっ、頼もしいな」


 豪快に笑うのはドレガさん。

 その隣に座っているのは妻のミシェルさん。

 二人は変わらず優しくて仲の良い夫婦だ。


「エル君もありがとう。リルカと一緒にいてくれて」

「いや俺は一緒にいただけで、何もしてませんから」

「本当に何もしてなかったわね」

「うっ……」


 自分で言っておいてあれだけど、改めて言われるとやっぱり傷つくな。


「まぁいいじゃないか! 村も二人も無事でよかった」

「そうね。さぁ食べましょう」


 夕食にはさっき狩ったイノシシ肉の料理が並んでいる。

 肉厚でとても美味しそうだ。


「いただきます」


 四人で食卓を囲む風景も見慣れてきた。

 十年以上経っても、この時間の穏やかさは変わらない。

 やっぱりこの家は居心地がいい。

 でも……


 俺はリルを見つめながら思う。

 彼女は精霊使いになった。

 その力で何度も村を救っているし、俺も助けられている。

 対して俺は……何もできていない。

 何だか自分だけが取り残されている気分で……歯がゆかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 村の外れには湖がある。

 動物たちが水のみに訪れる様子が見えて、とてものどかな場所だ。

 そこで棒を振り回すのは、少し無粋かもしれない。


「よし! これで素振り千回終わりっ!」

「やっぱりここにいたのね」

「ようエル坊! 今日も精が出るな!」

「リル、ドカドカも」


 素振りを終えたところで、ちょうど二人がやってきた。

 リルは呆れ顔で、ドカドカは彼女の右からの上をふわふわ浮かんでいる。


「また特訓?」

「ああ。日課だからね」

「はぁ、そんなに毎日続けて飽きないの?」

「飽きるとかじゃないからな~ 強くなるためには、ちゃんと身体を鍛えないと」

「ふぅ~ん」


 素振り二セット目を開始した俺を、リルはじっと見つめる。

 

「ねぇエル、別にあなたが頑張らなくてもいいんじゃない?」

「え?」

「だってそうでしょ? 穢れもイノシシ狩りも、私がいれば何とかなるわ。エルが身体を鍛えなくたって平気だと思うけど」

「それはまぁ……そうだけど。リルだけ危険な目に合って、俺だけ安全な場所から見ているなんて出来ないよ」

「心配いらないわよ。私、強いから」


 リルは堂々と答えた。

 確かにリルは強い。

 彼女が苦戦しているところなんて見たことがない。

 助けなんて不要と言われれば、そうなのだと思う。


「……でも駄目だ。やっぱり何も出来ないなんて嫌だよ。リルが強いことも、俺が弱いことも知っている。だけどそれは、何もしなくて良い理由にはならないから」

「エル……」


 大切な幼馴染が傷つくのは見たくない。

 あとはそう……ただの意地だ。


「それにほら! 体力と頑丈さが俺の取り柄だからさ。そこを磨いておいても損はないと思うんだよ」

「……そんなだから心配なのよ」

「え、何か言った?」

「何でもないわ。ほら、素振りの手が止まってるわよ? 罰として千回追加ね」

「えっ……」

「もう千回足して――」

「やります!」


 なぜかリルに指導されながら、俺は特訓を続けていた。

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