23.地の利
「気を付けてよ」
「おう。サンキューな、ロエナ」
そんな彼らをジーっと見つめるドカドカ。
何かを考えているようだ。
「こいつらもしや……」
「ドカドカ?」
「いやまだだ。聞くまではわからねぇぞ。なぁお二人さん」
ドカドカはアルマとロエナを呼ぶ。
何か失礼なことを聞くつもりじゃないだろうな。
二人は同じタイミングで振り向いた。
「何だ?」
「どうかされましたか?」
「大したことじゃないんだが~ 二人とも妙に仲良いよな? もしかしてそういう関係なのかなーと思ってぇ……」
ドカドカの質問に、二人ともぴくっと反応を見せる。
暗い洞窟の中でハッキリとは見えないが、照れている感じが伝わる。
「この反応は当たりか!」
「当たりって……何を想像してるか知らねーけどたぶん違うぞ。オレたちは、親が同士が決めた許嫁だ」
「許嫁だったの?」
「おう。オレらの家は昔から交流があってな。男女で子供が生まれると、勝手に決められるんだ」
アルマはやれやれと言いたげな表情で語る。
貴族も色々と大変なんだな。
平民に生まれた身としては、遠い話でしかないのだけど。
「何よその嫌そうな言い方」
「え、別に嫌なんて言ってないだろ」
「どうかしら? そう見えたのは私だけじゃないと思うけど? それに許嫁なんていつでも解消できるんだから。私と結婚するのが嫌ならね」
「そんなこと思ってねぇって」
ツーンとそっぽを向くロエナと、必死に説得するアルマ。
そんな二人を見ていて思ったことは、奇しくもドカドカと同じだった。
「ちっ、何だよこいつら……やっぱ仲良いじゃん」
「はははっ、そうだね」
「あーあ、目の前でイチャイチャするカップルがまた増えやがったよ。でも良かったなお嬢! これで
エル坊が浮気しないかドキマギしなくても済ん――ふぐっ」
リルがドカドカの顔を鷲掴んだ。
もうほとんど言い終わった後だから全部周りに聞かれている。
そして一番大きな反応を見せたのはロエナだった。
「浮気って聞こえたわね」
「気のせいじゃないかしら?」
「ううん聞こえたわ。え、もしかして二人も?」
「……」
「まぁ、うん。許嫁ではないけど」
照れて答えなかったリルの代わりに、俺がそう答えた。
他人に関係を聞かれたのも、答えたのも初めてだ。
思った以上に恥ずかしいぞ。
「そうなのね! ねぇリルカさん、告白はどっちからしたの? いつから付き合ってるの? どこまで進んでるの?」
「ちょっ、顏近い」
お淑やかそうなロエナが豹変して、新しいおもちゃに興奮する子供の様にリルへ迫り出した。
「あぁ~ 始まっちまったな」
「アルマ?」
「あいつ人の色恋にすげぇ食いつくんだよ。ホント別人みたいになってな」
グイグイ聞いているロエナにたじたじなリル。
こっちに視線を向け、助けてと言っている。
「行ったら巻き添えだぞ」
「そ、そうだね……」
大変そうだけど、俺まで巻き込まれたくないな。
「で、実際どこまでいってるんだ?」
「ぅ……」
こっちも同じだった……
「そ、それより! いい加減先に進まないと!」
俺は話題をきるため、少し大きめに声を張った。
するとロエナは落ち着きを取り戻す。
「そうね。今は先を急がないと」
ホッとした様子のリルだったが……
「続きは出てからたっぷり聞かせてもらうわね」
「……」
何とも言えない表情。
あんなに嫌そうなリルも初めて見るな。
俺たちは奥へと進む。
「また何かくるわ」
「今度は……ムカデか」
現れたのは本来の大きさを遥かに超えるムカデの穢れだった。
長さがある分、村でよく戦ったクマよりも大きい。
「大きさからして中型の穢れね」
「先手必勝!」
最初に動いたのはアルマ。
拳に炎を灯し、前方を殴ることで火炎を放った。
しかしムカデにダメージは与えられない。
「効いてない?」
「熱が通りにくいんだよ」
見た目は虫の癖に、表皮が熱を弾いてる。
それに硬そうだ。
「退いて」
リルが前に出る。
思いっきり地面を一踏みして、周囲の地形を操る。
「潰すわよ、ドカドカ」
「あいよ! って俺のことじゃないよな」
なんてコントをしながらも、リルはムカデの天井から巨大な柱を生み出し、地面と柱でムカデを圧し潰す。
悲痛な悲鳴をあげるムカデに対して容赦なく追い打ちをかける。
「お嬢」
「ええ、まだいるわね」
一匹祓った後ろから、四匹のムカデが現れる。
すかさずリルは地面を踏み、周囲の地形を操り攻撃する。
無数の柱が生成され、ムカデを圧し潰し、突き刺して、あっさり倒してしまった。
「さぁ行きましょう」
「す、すげぇな……」
「ええ」
地の利というやつろう。
大地の精霊と契約しているリルにとって、四方を囲む地はすべて武器になる。
ここは彼女の独壇場だ。
「……そういえば俺、まだ何もしてないな」
最後まで俺の出番は必要ないかもしれない。
そんな甘い考えは、奥にたどり着いて消える。
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