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15.ピッタリな門出

 夢の中で彼女に会う。

 契約する前までは、彼女に招かれるしかなかった。

 今は俺の意思で、彼女に会うことが出来る。

 こんなことを言うと、リルに怒られてしまうと思うけど、彼女と話す時間が待ち遠しいと思う時があるんだ。


「ミラ」

「来てくれたのですね。エルクト」


 彼女の名前を口にするのは、これで何度目だろう。

 初めて会った日から、彼女の名前を知りたかった。

 不必要にでも名前を口にしてしまうのは、その嬉しさからだろう。


「明日の朝には出発するよ」

「はい」

「いよいよだ」

「はい。いよいよですね」


 ミラとの約束を果たすため、大切な人を守るため。

 世界から穢れを封印する。

 壮大な物語が始まる。

 そんな予感がするけど、まだまだ実感は湧かないな。

 

「ミラ、穢れの浸食はどう?」

「増していますね。日に日に強くなってきています。わたしが予想していたよりも、早く限界がくるかもしれません」

「そうか……」


 それだけ世界でよくない感情が増えているということなのだろう。

 リルを狙ってきた組織も、穢れを生む要因の一つだ。

 もし戦争なんて起これば今よりも……


「そうなる前にケリをつけないと」

「はい。ごめんなさい、あなたにばかり無理をさせてしまう」

「謝らないでよ。一番大変なのは穢れを抑え込んでくれているミラなんだから」

「ありがとう。ですが、今のあなたは私と契約しています。穢れが今後増え続ければ、あなたへも負担がいってしまう。くれぐれも無理はしないでください」

「うん」

 

 そう答えつつ、無理もしてしまうだろうと思う。

 してどうにかなる無理ならするし、駄目なら別の方法を考える。

 ミラもわかった上で言っているんじゃないかな。


「時間ですね」

「うん。そろそろ目を覚ますみたいだ」

「ではまた」

「またね、ミラ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 出発の朝。

 村の出口には一台の馬車が停まっている。

 荷台には荷物が乗せられ、座席や横になるスペースもある。

 帝都までは最低でも一月半。

 長い旅になるからと、村長の計らいで一番良い馬車を用意してくれた。

 

「ありがとうございます。村長」

「何、ただ貸すだけだ。いつか返しにきなさい」

「はい」

「そのときはリルカも一緒にな~」

「子供も連れてきなさいよぉー」

「こ……」


 また始まった。

 あの宴の場からずっと、俺とリルのことを村のみんながからかってくる。

 キスはしたのかとか、子供の予定はあるのかとか。

 気が早いというか、デリカシーってのもはなのか?


「ドカドカ様! 二人がちゃーんと仲良くしてるか見張っててくれよな!」

「任せてくれ! 例え火の中風呂の中、二人の行く末はこのドカドカの目がしっかり――痛い痛い痛い!」

「ここが目よね? 潰しましょう」

「やめてくれお嬢! エル坊も助けてくれ!」

「いや、俺も見られるのは恥ずかしいから」

「ちくしょおおおおおおおおおおお」


 俺たちの周りで笑いが起こる。

 こういうやり取りも、村での思い出の一つだ。

 ドレガさんとミシェルさん、二人と顔合わせる。


「頑張ってくるんだぞ」

「応援してるわ」

「はい」

「うん」

「それからエルクト、リルカのことは任せたぞ」

「はい! 任せてください」


 挨拶を終え、俺たちは馬車に乗りこむ。

 ついに来た出発のとき―― 


「行ってきま――」


 カンカンカン――

 警報の鐘が村中に張り響いた。

 鐘の音が聞こえる中、俺たちの場はシーンと静かになる。


「……え、このタイミングで穢れかよ」

「台無しね」

「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」


 確かに旅立ちの雰囲気は壊されたけど。


「エル坊、場所は?」

「ちょっと待って」


 俺は目を瞑り、穢れの気配を探る。

 ミラと契約してから、穢れを肌で感じ、具現化する前の穢れの流れを瞳で探れるようになった。


「この道を真っすぐだね」

「ならちょうど良いわ。このまま出発しましょう」

「だな! エル坊、運転頼むぜ」

「そ、そうだね。そっちの方が効率良いし」


 でもそれでいいの?

 せっかくの旅立ちだっていうのに。


「お、見えてきたぞ。こっち向かってきてるな」

「本当ね。しかもまたクマ」

「はぁ、もういいや。行ってきます!」


 考えるのが馬鹿らしくなってきて、俺は馬車を走らせた。

 クマの穢れが正面に待ち構えている。


「もう少し近づいたら停めるよ」

「ええ」

「おう!」

「あーもう、せっかくの門出なのについてないな」


 幸先が不安になる。


「いいじゃない。私たちには、こっちのほうが合ってるわ」

「そうかな?」

「ええ」

「だな!」


 二人がそう言うなら、きっと間違っていないのだろう。


「行くよリル! ドカドカ!」

「おうよ!」

「ええ! 遅れないでよ、エル!」


 こうして、俺たちの新しい日々が始まる。

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