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11.我儘かな?

 世界のこと、穢れのこと。

 色々な話を一度に聞いて、俺の頭の中は大渋滞だった。

 一先ずわかったことは、俺が穢れを封印すれば、全て解決するということだ。

 今はそれだけわかっていれば大丈夫だろう。

 そう思いながら、俺は現実世界で目覚める。


「ぅ……ここは……」


 重い瞼を開けると、見慣れた天井が視界に入る。

 背中に感じるのはベッドの柔らかさだ。

 布団もかけられていて温かい。

 ここが自分の部屋だと理解してから、徐に上体を起こす。


「ようやく目が覚めたか」

「ドカドカ?」

「おう。おはようさん」

「おはよう」


 俺は部屋の中を見回す。

 誰を探しているのか、ドカドカにはわかったようだ。

 

「お嬢ならそこだぜ」


 ドカドカが短い腕を動かし、俺が寝ているベッドの縁を指す。

 床に座り、ベッドに腕と頭を乗せたまま、リルは寝息をたてていた。

 彼女の寝顔を見てホッとする。

 

「疲れてんだな。なんせ五日間もエル坊を一人で看病してたからよ」

「五日間? 俺はそんなに眠っていたの?」

「そうだぜ。戦い終わったら途端にぶっ倒れやがって。運ぶのも大変だったんだからな?」

「いやいや冗談。謝る必要なんてねぇよ。むしろ俺は感謝しかしてねぇ」


 そう言って、ドカドカは俺の正面にふわりと移動すると、改まってお辞儀をする。

 

「ありがとうな、エル坊。お嬢を助けてくれて」

「ううん。こちらこそありがとう。ドカドカがいなかったら間に合わなかったと思う」

「そんなことねぇよ。俺がいなくてもエル坊なら気付いてたぜ。なんせお嬢のピンチなんだからな」

「そうかな?」

「おう。お嬢もエル坊を信じてたと思うぜ」


 俺は頷き、眠っているリルの頭を撫でる。

 そうして思い返す。

 重傷を負った俺のために流してくれた涙と、言葉になって溢れた彼女の気持ち。

 意識もおぼろげで、目も耳も感覚が鈍っていたのに、彼女が発した言葉や思いだけは、なぜか鮮明に思い出せる。


「理解しているつもりだった。リルの気持ちは……でも、まさかあんなにも強いなんて思わなかったよ」

「何言ってやがるんだ? お嬢はいつだって、エル坊のことしか考えてなかったぞ」

「そうは……見えなかったんだけどな」

「そりゃーお嬢はあれだ。前にエル坊が言ってたツンデレって奴だからな」


 ツンデレか。

 リルの場合は、ほとんどツンツンしか思い出せないな。


「お嬢がエル坊に強く当たるときは、お前さんに傷ついてほしくないからだ。イノシシ狩りも穢れも、エル坊が無理をしないように自分が全部やるってな。エル坊が辛い思いをするくらいなら、自分が傷つく方がマシって、本気で思ってたんだぜ? というか、これはわかってただろ?」

「うん。わかっていた……つもりだったよ」


 長い時間を一緒に過ごした。

 キツイ言葉も使うようになったけど、彼女はいつだって俺の傍にいてくれる。

 今ならわかるよ。

 リルがどうして、俺にキツイ言葉を使うようになったのか。

 それはきっと、俺を守るためだ。

 守るために強くなろう、そうして今の彼女は出来上がった。

 最初からずっと、俺のために……彼女は変わった。

 だけどやっぱり、リルはリルなんだ。

 昔から変わらない。

 そんなリルだからこそ、俺も守りたいと思ったんだ。


「今さら気づくなんて……馬鹿だな、俺は」

「しょーがねーだろ。エル坊もお嬢も、まだまだ子供なんだからよぉ」

「……うん」

「でもよぉ、今からでも遅くないと思うぜ?」

「うん」


 ドカドカの言う通りだ。

 馬鹿な俺だけど、今からでも遅くはない。

 俺は彼女に伝えるべきなんだ。

 その決意に反応したように、リルがもぞもぞ動き出す。

 どうやら目が覚めたらしい。


「……エル?」

「うん。おはよう、リル」

「エル……エル!」


 俺の顔を見た途端、彼女は勢いよく抱き着いてきた。


「ちょっ、リル?」

「良かった……生きててくれて……エルゥ……」


 リルの瞳から大粒の涙が流れていく。

 抱き着かれた恥ずかしさも、それを見て薄れていった。

 俺は彼女をやさしく包むように抱き寄せる。


「ごめんね、心配かけて」


 しばらくそのまま、リルが泣き止むのを待った。

 

「落ち着いた?」

「……うん」


 離そうとする俺を、リルはギュッと抱きしめて離さない。


「リル?」

「まだ……このままが良い」

「わかった」


 彼女は俺の胸にひっついて、顔を隠していた。

 たくさん泣いて赤くなった顔を、俺に見られたくないのだろう。


「ねぇリル」

「何?」

「俺はリルが好きだ」


 リルは隠していた顔をあげた。

 やっぱり目元が赤く腫れている。

 見せたくなかったはずなのに、彼女は俺と目を合わせた。

 突然の告白にそれほど驚いたのだろう。


「小さい頃からずっと好きだった。大きくなって、今はもっと好きになったと思う」

「……じゃあ何で、一人で行けなんて言ったのよ」

「それは……その方がリルにとって幸せなんじゃないかって思ったんだ」

「……馬鹿」

「うん、馬鹿だよ本当に。でも本気で思ったんだ。リルには才能があって、俺にはない道が選べる。その道の先に、君が幸せになれる未来があると思った。それは今でも……変わらないよ」


 俺がそう言うと、リルは悲しそうな表情を見せる。


「だけどやっぱり、リルと離れ離れにはなりたくない。たとえ君が幸せになったとしても、未来の君の隣に、自分以外の誰かがいるなんて想像したくない」

「エル……」

「リルのことが好きで、リルには幸せになってほしい。だけど幸せの中に、自分も一緒にいたいと思う……そう思うのは我儘なのかな?」

「……我儘ね」

「そっか」

「許さないわ」

「ぅ……」


 何だか普段のリルに戻ったみたいだ。

 ここから説教が始まるのだろうか。

 いいや――


「エル」


 リルは幸せそうに笑う。


「許すのなんて、私だけよ」


 そう言って、彼女の唇が俺の唇と重なった。

 人生初めてのキスは、涙の味がするのに、なぜか甘く感じた。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] 4属性精霊付きヒロインがあらわれそうですね 邪心みたいなのがラスボスです!
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