戦士アレク
次はこっちで投稿だあ!
社についたレオンは大人たちに見つからないよう忍び込む。レオンはこの村で巫女が特別な存在であることを知っていた。そして、その立ち位置から外部との関わりを持たないように育てられるということも。
つまり、レオンが正面から社に入ろうとしたところで門番に追い返されるのがオチである。だからこそ、レオンは大人たちの目を潜り抜け、巫女、ユーフィアに会いに行くのだ。
社を守る者、通称“守護人”は試験を受け、それに合格する実力を持つ。子供一人の侵入など許すことなど普通はない。
「よし、気づかれてないな。」
しかし、レオンがアド爺との生活の中で培った能力の前には守護人は何の意味もなさなかった。気配の殺し方から、索敵方法まで守護人がレオンに勝っているものなどないのだ。1人この男を除いては…。
「レオン、どこにいく?」
「げ!ア、アレク…。」
レオンの進路を塞ぐように現れた男。燃えるような赤い髪に同じ色の瞳。服の上からでもわかる鍛えられた体は大きな彼を更に大きく見せる。
そして、彼の首に掛けられた青色のネックレス。それは巫女の戦士である証だ。正確にはアレクは先代の巫女の戦士である。だが、巫女に新たに戦士が付けられるのは巫女が成人してからである。それまでは先代の戦士が引き続き巫女の護衛をする。アレクもまた、その教えに従い、戦士としてその任務を遂行している。
鋭い眼光がレオンを睨む。心拍数が上昇し、汗が流れる。レオンは訓練の一環として何度かアレクに勝負を挑んだ。その結果は全て惨敗だ。アド爺を除き、レオンが今なお勝てないと感じる相手はアレクくらいだろう。
アレクの右手がゆっくりと動き、レオンの肩に触れる。そして…。
「レオン……。」
「な、なんだよ。」
「バレないように気を付けろ。」
アレクはそう言うとレオンをくるりと回しその背中を押す。
「…おう!ありがとな!」
「静かにしないとばれるぞ。」
「分かってるよ!」
レオンはそう言って手を振るとそのまま巫女の元へと向かった。
「全く…。」
何も分かっていないその姿を見て、思わず笑みがこぼれるアレク。
アレクはいつも楽しそうに話すレオンと巫女の姿を思い出す。もしも、レオンがいなければ巫女があそこまで感情を表に出せることなどきっと無かっただろう。幼くして母親を失い、しきたりに囚われ孤独だった少女。戦士であるアレクがそばにいたが、巫女は心を開いてはくれなかった。生きていることに意味を見出せないそんな様子であった。
だが、それもレオンと出会うことで変わった。初めてできた友達であり、秘密を打ち明けることができる存在。巫女が最も必要としていて、生きる意味を与えてくれた存在だった。
今、巫女の笑顔を見ることが出来るのはレオンのおかげだ。アレクは本当に感謝していた。もっとも…。
「本人には絶対に言わないがな。」
調子に乗るのが分かっていたからだ。だから、せめて2人の時間が誰にも邪魔されないようにと、アレクは戦士の務めを果たすのだった。