お役目
短めです
「着いた。」
アド爺たちのもとを去ったレオンは村を走り抜け、崖の上へとやって来ていた。ここからは村全体が見渡せ、更にしたを見下ろせば巫女のお役目を行う社が見える。
レオンはジルから巫女がお役目を行っていることを聞き、その様子を見ることのできるこの場所にやって来たというわけだ。
「ユーフィアは…あ、いた。」
レオンが社を見下ろすとそこには巫女装束を見に纏った少女の姿があった。腰まで伸びた銀色の髪はまるで絹のように美しく、白い肌とは異なる赤い唇からは妖艶さを感じる。更に長い睫毛に青い瞳。そこにいるのは最早、完成された美であると言っても過言ではない。
何度も会い、話したことがあるレオンだがユーフィアの姿を目にするといつも見惚れてしまう。最初は一目惚れだったのかもしれない。しかし、彼女と話していく中でその内面にも惚れてしまった。つまりぞっこんである。
「……って、なに見惚れてるんだ、俺は。」
最も本人はそのことを認めない。彼女は友達だ!と言い張るのだ。
レオンがユーフィアの姿に見惚れていた間に彼女は社の中央に移動した。お役目が始まるのだ。
ユーフィアが詠唱を行うと同時に彼女の周りに紫色の魔法陣が広がる。魔法陣は光を放ち、その光は次第に収束し、まるで糸のようになるとユーフィアの周りを円を描くように浮かび始める。
そして、彼女が両手を上げると円になった光は上昇していき、レオンが見上げる高さまで上がると広がっていった。そして、光は徐々に収まっていき、やがて完全に消える。その頃にはユーフィアの周囲に浮かび上がった魔法陣も消えている。これでお役目が終了する。
「いつ見ても綺麗だな。」
アド爺が言うにはこのお役目には魔物除けの効果があるらしい。人間の領地の端にあるこのカーマ村の近くにはよく魔物が現れる。
しかし、巫女がお役目を行うことにより、魔物たちを遠ざけ、村に魔物が寄り付かないようにしているのだ。そのため、この村が魔物に襲われることはなく、安心して人々が暮らすことが出来るのだ。
「よし、これでユーフィアのところに……ん?」
レオンが社に視線を戻すとこちらを見つめるユーフィアの姿があった。
「え?見つかった?」
レオンはまさか見つかるとは思っておらず、予想外のことに目を開いて驚いき、固まってしまった。その様子を見たユーフィアは何かを感じ取ったのか、クスリと笑うと口を動かした。そして、社を後にした。
レオンは暫く固まっていたが、急に立ち上がるとその場を走り去った。
「早く行かないとな。」
レオンは走りながらそんなことを呟く。彼には彼女が何と言っていたのか伝わったのだ。
「『早く話したいわ。』か。へへへ…。」
嬉しさのあまり鼻を伸ばすレオン。
しかし、その姿をジルに目撃され、笑い話にされることをこの時の彼は知らなかった。