カーマ村
「ほれ、ついたぞ。」
「へ?」
「何が、『へ?』じゃ。もうカーマ村じゃ。」
「えっ!?いつの間に?」
村までの道中でレオンは眠気に耐えきれず、何と立ったまま眠りについてしまった。アド爺は何度かレオンを起こしたが、数分も経たぬうちにまた寝てしまう。アド爺は仕方なく、レオンを背負い、村までやってきたのだ。
「全く、年寄りに何をさせるか。」
「ごめん。あ、ヨダレ垂れた。」
「レオン、お前。」
レオンたちが住む家から西に向かうことおよそ一時間、そこにカーマ村がある。ナル芋を主とした農業で生計を立ている村だがその土壌は決して農業に向いた物とは言えない。村の人々が必死に育てその殆どを売ったとしても収入は少なく、この村は貧しい。
しかし、だからこそこの村では互いを支え合うことを大事にしているその為か村人たちはとても優しく、突然、訪れたアド爺たちを温かく迎えてくれた。
「アド爺さんじゃないか。今回は何しに来たんだ?」
「これはジルさん。何、今回は少しのお肉と野菜を交換してもらおうかと思いましてね。後は村の人たちに挨拶をするくらいですかね。」
「またまた。こう言ってアド爺さんはいつも大量の肉と山菜を届けてくれるじゃないか。毎度助かってるよ。」
「いえいえ、こちらこそ。」
おっさんと老人の世間話。レオンがそんなことを聞いていたところで何も面白くはない。そんな事よりも早くユーフィアのところへ行って、話をしたいのだ。
「なあ、アド爺。俺、先に行っても良い?」
「ん?まあ良いぞ。」
「レオンはまた巫女様の所に行くのか?だが今日はちょっとお役目があったはずだからな。あと30分は会えないぞ。」
「え!そうなのか。何だ。」
レオンは思わず項垂れる。そのわかりやすい反応を見てアド爺とジルはニヤニヤと笑う。
「なんだよ。」
「何、好きなんじゃなと思ってな。」
「べ、別にユーフィアのことなんか好きじゃねえよ!」
「誰も巫女様のことなんて言ってないぞ?」
「なっ!」
2人はニヤニヤと笑みを浮かべる。レオンは顔を真っ赤にし、プルプルも震えている。まんまとやられたことに腹が立ったことと恥ずかしさとで何とも言えない気持ちになっていた。
「うるせえ!」
そう捨て台詞を吐きながらレオンは駆け出した。
「わしは買い出しをしとるからなあ。」
アド爺がそう言う頃にはレオンの背中は見えなく立っていた。が、いつも帰る時間になれば戻ってくる。そのため、その事については特に心配はしていない。
だが走って逃げていくレオンの後ろ姿を目にして、アド爺は考えていた。あの速さは決して少年が出せるようなものではない。山の中での生活がレオンを成長させていることを理解した。
(…早いうちから力の使い方を教えねばな。)
「どうした?そんなボーッとして。」
ジルは不思議そうに問いかける。
「いや、何でもないぞ。」
「そうか。まだまだレオンにはアド爺さんが必要だからな。あんまり早いうちからボケないでくれよ。」
「余計なお世話じゃ。」
アド爺は拗ねたようにそっぽを向き、そのまま買い出しへと向かった。
「あの爺さんも子どもっぽいところがあるんだよなあ。」
その姿を見てジルは笑みを浮かべ、楽しそうにするのであった。