とある山奥
勇者が魔王を倒し十年の月日が経った。魔王が討ち取られたことにより魔人たちの活動も急激に減っていき、世界には幸せが満ちていた。
その立役者である勇者を輩出した王都アヴァンス。活気があふれ、子供たちの無邪気な笑顔が溢れる都市。また、商人たちが集まる、貿易の中心地。人間、エルフ、獣人、多くの種族が分け隔てなく暮らす理想の街である。多くの人々がアヴァンスでの生活を夢見るのだ。
だが、逆に己が生まれた場所を大切に思い、そこで暮らす人々もいる。王都から遥か東、山脈や森林を超えた先に1つの村がある。その名をカーマ村。歴史こそ、王国よりは浅いが昔からこの地にある村だ。ナル芋と呼ばれる農作物や牛などの家畜を育て、それを近くの村(とは言え向かうのに1週間ほど掛かる)と貿易を行って生計を立てている。
そんなカーマ村だが、森や山に近い為、魔物がよく訪れる。しかし、この村には巫女と呼ばれる不思議な力を持った存在がいた。巫女は魔物を自由に操る能力を持っており、それは巫女の一族が代々継承してきたもので有る。今の巫女も先代の巫女がなくなったのと同時にその力を継承した。この力を使うことで魔物たちから村人、家畜、そして農作物を守ることができるのだ。
巫女を中心とした辺境の村。生まれ育った者はこの村から出て行こうとは考えず、逆に村の外からこの村に訪れようと思う者はいない。しかし、十年ほど前だっただろうか。1人の老人が幼児を連れ、この村をよく訪れるようになった。不思議なことにその2人はいつもカーマ村よりもさらに東から歩いてやって来る。何度か村人は老人に一体どこに住んでいるのか、と訪ねたことがある。しかし、老人はいつも同じことしか言わなかった。
「この子を無事に育てあげられる場所じゃよ。」
そう言って老人はカーマ村を背に東へと歩いて行くのだった。
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カーマ村より東に行ったとある山奥。そこには1つの小屋が建っていた。人など一生訪れることのないだろう山奥の小屋、そんな場所には老人と少年が住んでいた。
「アド爺!剣の稽古してくれよ!」
「良いぞ。今日こそわしに一撃でも加えられれば良いな。」
「今日は秘策があるんだ!」
「ほほう。それは楽しみじゃい。いつでも来て良いぞ。」
「うりゃー!」
声を上げ、アド爺と呼ばれた老人に斬りかかる少年。名をレオンという。レオンは木剣をアド爺に当てようとする。しかし、力一杯振られた剣先が当たるどころか掠ることさえしない。アド爺は今日もこれかとため息を吐きながら残念そうに木剣を交わす。しかし、その瞬間をレオンは狙っていた。
「今だ!」
「ほお。」
レオンが放った技。それは一度だけアド爺がレオンに見せたものだった。それは片手で持った木剣を振ると見せかけ、空中で手放しもう片方の手で掴み直し、ワンテンポ遅らせて剣を振るうものだった。しかし、この技は所詮はただのフェイント。そして、技を知るアド爺からすれば引っかかるものではない。
「まだまだじゃのお。」
「もう1つ!」
「何?」
次の瞬間、アド爺の後ろで地面が隆起し、筒のような形になりながら迫って来た。これにはアド爺も驚いた。だが……。
「ふん!」
「えっ!?へぶっ!」
アド爺は片手でその筒を破壊し、もう片方の手でレオンの頭にチョップをした。
「まだまだじゃのう。しかし、レオンお前いつ魔法を覚えたんじゃ?」
「そうなんだよ、アド爺!昨日何か変な力を感じてそれを動かすイメージをしてみたら何か地面が動いたんだ!で、これを明日アド爺に使ってやろうと思ってたんだけど、やっぱり無理だったかあ。」
「そうじゃのう。せめて『もう1つ』何て言わなければ当たったかもしれんのう。」
「くそー!アド爺!何か技とか教えてくれよ!」
「良いが基礎がしっかりしてからのう。」
「わかった。じゃあ!素振りして来るよ!」
レオンはそういうとその場で素振りを始めた。それを温かい目で見守るアド爺。
これが山奥に住む2人がおくる日常の風景だった。
『気がついたら魔神でした』も書いてますよ?でも、こっちも書きたいんです。