祭り
お久しぶりです、ヴァル原です。何年ぶりかの更新になるのですが小説をまた書きたくなりここに戻って参りました。
文章が下手になっていたり、不定期更新になってはしまいますが、また、頑張りますのでよろしくお願いします。
気がつけば1週間はあっという間に過ぎ、祭が始まった。祭りは例年通り大盛況であった。一年に一度の行事だそれは当たり前だろう。多くの屋台が並び、舞台の上では手品や漫才などそれぞれがこの日に向け準備してきた成果を十分に発揮している。
子供たちは目を輝かさながら屋台を周り、大人たちはまだ昼間だと言うのに酒を飲んでいた。楽しみ方は違えど、村の人々の表情は笑顔に溢れている。これがこの村の祭りのいつもの光景である。
だがそんな中、例年と少し違うこともあった。それは人気の屋台だ。
例年人気なのは、ジルの家族が提供する猪の串焼きだ。他にも猪の串焼きを屋台はあるのだが、ここだけはレベルが違った。猪独特の臭みがなく、香草を使った自家製のソースがさらに美味しさに拍車をかける。また、その匂いは風に乗り、村中を包み込むのだ。客足が増えるのも当然である。
だが、今年はその串焼きに劣らず人気を掴んだ屋台があった。レオンたちよきのこ鍋の屋台だ。珍しいきのこがふんだんに使われていることや、そもそもカーマ村にきのこが余り流通しないことなどから、店には客が殺到した。更にはレオンが風魔法を操り、村中にきのこ鍋の匂いを広げるという方法を使った為、例年広がる串焼きの香りを上書きする形になった。その結果…。
「ほっほっほっほ!大盛況じゃ!」
「アド爺!口じゃなくて手を動かせ!手を!」
客の数がどれだけ増えても屋台を回してるのは2人だけ。繁盛するのはいいことだが、人の手が足りない。
「まあ、安心せい、レオンよ。」
「安心できる状況じゃないだろ。」
「いや、して良いぞ。そもそも提供するきのこ鍋が底をついたんじゃからなあ。」
そういうとアド爺は満面の笑みで空になった大鍋をレオンに見せる。そこにはきのこ一つ残っていない綺麗な鍋があった。
「ア、アド爺…。」
「ほらの?言ったではないか。これで一休みできるぞい。」
「……は。」
「ん?どうしたんじゃ?レオンよ。」
体をプルプルと震わせるレオンににやにやとしながら近くアド爺。お褒めの言葉の一つでも貰えるものと耳をより一層近づけている。しかし…。
「早く言えぇぇ!!!」
「ぶふぅ!?」
アド爺に向けられたものは言葉と拳だった。レオンの全力の一撃を受けたアド爺は宙を舞うと客の上を通り抜け、広場に落下した。
「な、何するんじゃ!」
アド爺は頬を押さえながら声を上げるがそれを上回る声でレオンが叫ぶ。
「材料が無くなったらまた取りに行く必要があるだろうが!何してるんだよ!わかったらさっさときのこを取ってこい!」
「な!?爺ちゃんに向かってその口の聞き方はなんじゃ!」
「うるせえ!くらえ!」
レオンはそう言うと炎魔法を使い、アド爺に向け、火球を放つ。もちろん、そんな火球を受けるアド爺では無いが、レオンの気迫に負け、逃げるようにきのこを探しに行く。
「くそう!覚えておれ!取り敢えずきのこを取ってくるまで待ってるんじゃぞ!」
「最初からそうしてればよかったんだよ!と言うわけで皆、悪いがアド爺が戻ってくるまで屋台は一旦、中止だ。」
その言葉とともに屋台の周りに出来ていた人だかりは他の屋台へと散らばった。それぞれの屋台に均等に客が集まり、祭りとしては良い方向に向かったのかもしれない。
しかし、レオンも1日目にして材料が底を尽きるとは思っていなかったため、正直、どうしたものかと悩んでいた。
アド爺に任せておけば間違い無いだろうが、毎日きのこ狩りをして貰うのも流石に申し訳なく思う。
(まあ、そもそも屋台をやりたいって言ったのはアド爺だし、いいのか?)
腰を下ろし、考え込んだレオンだったが、時間の無駄だと思いそれもやめた。
何もやることもなく、1人でいると何とも言えない気持ちになり、思わずため息を吐く。
「……俺もきのこを取りに行こうかな。」
ゆっくりと立ち上がり、山に向かおうとするレオン。そのとき、だったレオンを引き止めるように誰かが声をかけた。
「レオン、屋台はどうしたの?」
「ユーフィアか、それが…。」
ユーフィアの声に反応し、後ろをむり向くレオン。そこには祭の衣装を身に纏ったユーフィアの姿があった。普段とは違い化粧をしているのか、どこか大人びて見える。その変化はレオンの目を奪うには十分すぎた。
「…………。」
「私のこの姿を見て、何か言うことはないの?」
「え、いや、あの…だな。」
「……ふふふ。」
レオンの慌てふためく様子を見て、ユーフィアは口を押さえて笑う。笑われたのを不満に思ったレオンは彼女に背を向ける。
「ごめんなさい。だってあまり見れない様子だったものだから。」
「……全く。そんなこと言わなければ素直に褒めようも思ってたのに。」
「ん?何かいったかしら?」
「何でもねえよ!…まあ、ただ、似合ってるとは思うぞ。」
「そう。ありがとう。」
ユーフィアは照れるレオンの顔を嬉しそうに眺めながらそう言った。微笑ましい光景に村の者たちまで笑顔になる。
しかし、その状況は長くは続かなかった。
「ユーフィア様、まだここに残りたい気持ちはわかりますが、儀式の準備もあります。早めに他のお店も見て回りましょう。」
アレクの登場に驚くレオンだが、彼は最初からユーフィアに付き添っていた。ユーフィアの美しさに目が眩み、他のものが何も見えていなかったのだ。
「そ、そうなのか。なら早くしないとな、村のみんなもきっとお前のことを楽しみに待ってるさ。今日、きのこ鍋が出せなかったのは残念だけど、明日もやってるからさ、また、来てくれよ。」
「そうさせて貰うわ。」
ユーフィアは返事をするとゆっくりと歩き出した。そして、レオンの耳元に顔を近づける。
「楽しみにしてるからね。」
「お、おう…。」
ユーフィアが移動すると村の者たちもそれに合わせて移動した。彼女周りには常に人が絶えず、笑顔も絶えない。祭りの中心がそこにあった。
ただ、祭りの中心から少し離れ、動かない少年が1人いた。曰く、彼は顔をりんごのように赤くして、まるで石像のように動かなかったとのこと。
後にジルにその姿を見られており、揶揄われる少年がいたことも言うまでもない。
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2日目はアド爺が1日目よりも多くのきのこを用意したこともあり、夕方まできのこ鍋が空になることはなかった。売れ行きも落ちることはなく、間違いなく1番繁盛した屋台であった。
しかし、レオンは1日目よりも機嫌が良くなかった。それは一体なぜか。答えは単純、ユーフィアと話すことができなかった為だ。
レオンが昼食をとりに出かけた間にユーフィアが屋台を訪れてしまい、入れ違いになってしまったのだ。アド爺からはユーフィアがきのこ鍋を食べておいしいと言っていたと聞いたのだが、折角なら本人から直接聞きたかったと言うのがレオンの本音であった。
「……はあ〜。」
「そんなでかいため息をついても仕方ないじゃろう。別にこのまま一生会えんわけじゃなかろう。」
日が沈み、辺りが暗くなり始めてもまだレオンの機嫌は悪いままだった。
「はいはい、分かってるよ。」
「本当かのう?まあ、ええわ。それよりもそろそろ舞台に行くぞ。儀式が始まってしまうわい。」
そう言ってアド爺は舞台の方へと歩き出した。レオンもそれを追うような形で歩き出す。
儀式。それはこの祭りの目玉であり、巫女によって執り行われるものだ。レオンも実際に見たことはないがその存在自体はアド爺から聞いていた。
「なあアド爺、儀式って何をするんだ?」
「ん?おお、そうか。お前には儀式で何をするのかまでは話しておらんかったのう。そうじゃな、儀式とは村の繁栄の為に行われるものじゃ。だがそれは神頼みのお祈りだとかそう言ったものではない。巫女が代々継承してきたある能力を発動させることを指すのだ。」
「ある能力?どんな能力なんだ?」
「それは簡単に言うと魔物を操る能力じゃ。」
「魔物を?」
「そうじゃ。レオンよ、お前はこの村の近くで魔物に会ったことはあるか?」
レオンは過去に魔物と戦ったときのことを思い出す。何度か魔物とは戦ったことがある。だが、それは全て山奥にある家にいるときであり、言われてみれば村への道中や村の周辺で魔物と出会ったことはなかった。
「村の近くで魔物と戦ったことはないな。考えてみれば戦ったときは全部、家の近くで狩りをしてるときだな。でも、そんなの普通じゃないのか?家の周りの方が山奥だし、猪や熊だって村の周りよりは良く出るぞ?魔物だってそれと同じじゃないのか?」
「確かにそうじゃな。そう言った要因も十分に考えられよう。じゃがな、そうは言ってもカーマ村だって十分に山に近い。餌を求めて魔物たちが歩いてきてもおかしくない距離じゃ。」
「確かになあ。で、その魔物が来ない理由ってのがユーフィアの力ってことなのか?」
「そうじゃ。わしもあまり詳しくはないのじゃが、村の周囲に魔物が入らないよう能力を使っているようじゃ。しかし、わしたちの家の周りはその範囲にギリギリ入っているか、いないかという場所らしくてのう。場所によっては魔物にあってしまうということじゃ。」
「なるほどなあ。」
「世界広しと言えどそんなスキルを持ってるのはここにいる巫女くらいじゃろ。だから、王国もここに巫女を置いているのじゃろう。」
カーマ村は王国の最東に存在する村であり、その先は魔物が巣食う魔境となっている。アド爺は巫女をそこに置くことで魔物が王国に侵入することのないようにしているのだという。
「へー、凄いんだなユーフィアは。それに比べて俺は。」
レオンは自分がただ剣と魔法が使えるだけでしかないのだと悲しんだ。毎日、稽古をしていることもあり、日に日に力がついていることは実感している。だが、所詮はその程度。特に能力があるわけでも無く、平凡なだけ。レオンは、もしかしたらユーフィアは自分が守る必要なんて無いのかもしれないと考えてしまった。
目に見えて表情が曇ったレオンを横目にアド爺がため息をつく。
「はあ〜、全くレオンよ。今、お前が考えていることは無駄なことじゃと思うぞ。」
「何がだよ。」
「どうせ、自分よりもユーフィアの方が強いかもしれないとか守る必要が無いんじゃないかとか、考えておるんじゃろ?」
「………。」
「黙るということは図星かのう。まあ、よい。レオンよ、聞け。」
アド爺はそういうと後ろを振り向き、真っ直ぐとレオンを見つめた。いつもは見せない真剣な表情にレオンは思わず身構えてしまう。
「まず第一に巫女はただの女の子じゃ。魔物を操れるとは言え、この村に寄せつけないようにしている以上、巫女が襲われたときには何もできない。実際、今、レオンと戦えば100%レオンが勝つじゃろう。」
「そりゃそうだけど。」
「レオンよ、能力だけが全てではない。技術や柔軟な思考。そう言ったさまざまなものがあって初めて強さになる。巫女は実践経験のない少女じゃ。これから先も村の外に出ることなどほとんどなく、過保護に育てられるじゃろう。戦う力なんてものは何も身に付かん。そんな彼女に危険が迫ったとき、自分が必要ないなどとまだ言えるのか?」
「……いえない。」
「そういうことじゃ。そんなこと考える暇があるんじゃったらわしに勝てるくらいの実力がつくよう努力するんじゃない。」
余計な一言をとレオンは思う。だが、レオン自身は気づいていなかった。その余計な一言があるからこそ、強くなりたいという彼の気持ちに更に火をつけさせたことを。ずっと一緒にいるアド爺だからこそ、レオンのことをわかってくれていることを。
「そんなこと言ってられるのも今のうちだ!すぐにアド爺に追いついて、ユーフィアにふさわしい男になってやる。」
「ほっほっほっ、そこまで減らず口がたたければ十分じゃな、ほれ行くぞ!」
「あ、まてよアド爺!」
レオンは走り出したアド爺の背中を追う。とても大きく、広い背中だ。まだまだ今の自分では追いつけないとわかっている。けれど、いつかは……。
レオンに背を向け走るアド爺。彼は考えていた。
(全力ではないとはいえ、この歳でわしについてくるか。レオンよ、巫女よりもやはりお前の方がよっぽど……。)
レオンは小さく幼い子供だ。まだまだ未熟で危なっかしくて心配になる。けれど、いつかは……。
(……考えるだけ無駄か。これではレオンと同じじゃのう。やはりわしもまだまだ未熟じゃな。)
レオンとアド爺が舞台に着く。ユーフィアが舞台に上がったのはそのときだった。
次回は儀式回です。