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その者ゆえに勇者なり  作者: ヴァル原
11/12

揶揄い上手のおっさんたち

 祭りまであと1週間。レオンとアド爺は自分たちの屋台の準備はもちろん、他の屋台の手伝いをするため今日から村の空き家に泊まることとなった。


「よし、これであらかた掃除は終わりかのう。」


「まじで汚かったよな。あの村長、まさか俺たちに掃除させる為にこの家を貸したんじゃないのか?」


「それこそまさかじゃよ。あの村長に限ってそれは無いじゃろ。」


 2人はいつもニコニコしていて、優しい村長を思い浮かべる。あの笑顔の裏にそんな思惑があるとはとても考えられない。


「きっと知らなかったんじゃよ。ここまで汚いとは。」


「まあ、そうだな。」


 掃除を終えたレオンたちは村への中心へと向かった。そこは円形の広場になっており、中心には木で組まれた櫓のようなものが佇んでいる。


 あれは巫女が祈りを捧げる為に作られた神輿(みこし)のようなものだ。屋台をそれを囲むように広場の端に並んでいる。


 レオンたちの屋台はすでに完成しており、『きのこ鍋』と書かれた大きな看板まで立っている。


「うむ、我ながらよいできじゃ!」


「アド爺ってあんまりセンス無いよなあ。」


「なんじゃと!」


「お、2人とも相変わらず元気だな。」


 アド爺が今にも拳を振り下ろしそうなときだった。背後から2人に声をかける人物が現れた。


「ん?おお、ジルではないか。」


「あ、ジルだ。」


 アド爺は嬉しそうに、レオンはどこか嫌そうに返事をする。


「なんどよ、レオン。久しぶりにあったっていうのに。」


「いや、別に会いたくねえし。」


 ジルが現れれば決まって、アド爺と一緒にからかってくる。そんな天敵のような存在に会いたいとは思えない。


「まあ、そうだよな。俺なんかよりも巫女様と一緒にいたいもんな。」


「あ?そんなの当たり前だろ。ジルとは違ってユーフィアとはどれだけ一緒にいても苦にならない。」


「お、おおう、そうか。そこまで否定されないと少し反応に困るな。ま、まあ、そのなんだ。よかったな巫女様。」


「え?ユーフィア?。」


 レオンはジルに気を取られすぎていて、屋台の準備を見て回っていたユーフィアに気づかなかった。そして、あろうことか先ほどの言葉を聞かれてしまった。


「あっ……その……嬉しいわよ。」


 顔を赤くし、恥ずかしそうに言うユーフィアの様子を見て、レオンは先ほど自分がかなり恥ずかしいことを言っていたことに気づく。


 そして、ジルとアド爺がそんなレオンを見逃すわけもなかった。


「そうか、そうか。レオンは巫女様とどれだけ一緒にいても苦にならないのか。それはつまり、巫女様とずーっと一緒にいたいって受け取っても良いのか?」


「はあ!?ジル!いきなり何を言っ……!!!」


 レオンの言葉を遮るようにアド爺が話を始める。


「そう言えば屋台の準備のとき、最初はやる気じゃなかったのに、巫女様が屋台を回ると聞いた途端、破竹の勢いで準備してあったのう。不思議じゃったんだが、あれはどうしてだったんじゃ?」


 おっさんとじじいがいやらしい笑みを浮かべて、その顔を近づけてくる。反論もできずに真っ赤になるレオン。おっさんたちはさらに畳み掛ける。


「ん?あ、そういうこと!」


「どうしたのじゃ、ジルよ。」


「つまりはそういうことだ、アド爺。レオンは巫女様のことが!」


「おおお!!!」


 ブチン。


 ここでレオンの怒りが頂点に達した。


「いい加減にしろ!クソ中年に!クソじじい!」


「「はっはっはっは。」」


 2人はとてもその歳とは思えないスピードで広場を走り去って行った。そこに残されたのはレオンと巫女、それに気を使って少し距離を取ったアレクのみ。


「……さっきのことは。嘘じゃないが、あいつらがかなり!かなり盛って!話してるからな!」


「……ふふ、わかってるわよ。そういうことにしてあげる。」


「…そういうことって何だよ。全く。」


 レオンは不機嫌そうな顔をして、ユーフィアに背を向ける。彼女からも揶揄われたような気がして少し拗ねてしまったのだ。


 ユーフィアはレオンを元気づけるために声をかける。


「レオンの屋台はきのこ鍋を出すのよね。」


「そうだけど。」


「実はね、私あまりきのこを食べたことが無いの。きのこは山の奥で取れることもあってこの村では余り流通しないから。だからね。」


 ユーフィアはレオンを後ろから優しく抱きしめる。


「とっても楽しみにしてる。」


「っ………!!!」


 ドキリと心が、体が弾む。


 突然のことで反応できなかったレオンだが、状況を理解すると慌てたようにユーフィアから離れた。


「い、いきなり、な、何するんだ。」


「ふふ、落ち込んでる人にはスキンシップが効果的なのよ。」


 ユーフィアの言う通り、先ほどまであったモヤモヤした感情は消えていた。しかし、代わりに別の感情がレオンの胸いっぱいに広がっていた。


「…ま、まあ、確かに効果はあったよ。ありがとな。」


「どういたしまして。」


 レオンは再び、ユーフィアに背を向けた。だが、また拗ねたわけではない。そこには恥ずかしくて彼女の顔を直視できないという何とも可愛らしい理由があった。


「ふーっ。…よし、俺はそろそろアド爺を懲らしめに行ってくるとするよ。」


 ここにいてもこの恥ずかしさは紛れないと思ったレオンは広場こら離れることにした。


「ユーフィアもまだ屋台を回るんだろ?」


「ええ、じゃあ、私もそろそろ次の屋台に行くわ。」


「そうか。じゃあ、また後でな。」


 レオンはそう言い、走り出したが、数歩進んだところですぐに足を止めた。


「あ、そうだ。きのこ鍋、楽しみにしてろよ。絶対に上手いから。」


「わかったわ。楽しみに待ってる。」


 レオンはその言葉を聞くと満足そうに広場を走り去った。その様子を見ていたジルとアド爺にまた揶揄われるとも知らずに。










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