ユーフィアの気持ち
「それで結局、俺も屋台には参加することになったんだ。全く、アド爺は…。」
「2人は相変わらず仲がいいのね。」
「そうか?まあ、ユーフィアが言うならそうなのかもしれないな。でさ、面白いのはここからなんだ!」
祭りの準備が進む中、レオンは屋台の場所を確認するためにカーマ村を訪れていた。そして、カーマ村までわざわざ足を運んで、ユーフィアに合わずに帰るわけにはいかなかった。
レオンはマジックボアを倒したことや、魔法が更に上手くなったこと、そして、剣術をアド爺に褒められたことなどここ最近のことを話した。
その様子を楽しそうに聞くユーフィア。それがレオンの気持ちを昂らせる。
「それで……。」
「ちょっと待って。」
レオンが話を続けようとしたとき、珍しくユーフィアが割って入った。どうしたのだろうと不思議に思うレオンに彼女は悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「今日は私の話も聞いてほしいの。」
「ユーフィアの話か?何か良いことでもあったのか?」
いつも話してばかりのレオンは話を聞いているだけのユーフィアに申し訳ない気持ちが少なからずあった。そんなレオンが、ユーフィアから話を聞いてほしいと言われて断るはずがない。
「実はレオンから魔法のことを聞いて、それなら私もこの社の中で練習できるかもしれないと思ったの。それでアレクに許してもらって、1週間くらい前に許可が取れたの。それで最近は魔法の練習ばかりしてて。」
「ユーフィアが魔法を?凄いな!まあ、でも魔法は難しいからな。まずは魔力を感じるところから始めないと…。」
「それでね、一昨日くらいだったかしら魔法を使えるようになったの!」
「え!?そんな短期間で魔法を?」
レオンは驚いた。アド爺から聞いた話によると魔法を覚えることもちろん、魔力を感じることも決して簡単なことではなく、並大抵の努力で為せるものではない。レオンが幼くして魔法を使えたのは才能があったからで、普通はそうはいかないのだと。
しかし、ユーフィアは短い期間で魔法を習得してしまった。つまりそれは…。
「ユーフィアには魔法の才能があったんだな!」
レオンは嬉しさのあまり、ユーフィアの手を強く握る。
「レ、レオン!?」
「凄いぞ!ユーフィア!そうだな、魔法が使えれば外の世界を見に行くときにもきっと役に立つ!それに!………あ。」
興奮のあまりレオンは身を乗り出していた。ユーフィアと手を握った状態でそんなことをすれば2人の距離はほとんど無くなってしまう。
目の前にはユーフィアの顔がある。そのことに気づいたとき、レオンの体温はみるみる上がっていき、頬が赤く染まった。
「わ、悪い。」
手を離し、背を向けるレオン。
「べ、別に気にしてないわ。」
レオンからは見えていないがユーフィアの頬も赤く染まっていた。
恥ずかしさから思うように言葉が思いつかない2人。静かな雰囲気が気まずさに拍車をかける。このままではまずいとレオンが何とか話題を切り出す。
「ま、魔法って何が使えるようになったんだ?」
「え?あ、風と水の魔法が使えるようになったの。」
「風と水ってもう2種類も使えるのか。」
「そうなの。まあ、それだけ練習したんだけどね。」
一度、会話を再開してしまえば後はいつも通りだ。
空が夕焼けで赤く染まるまで、レオンとユーフィアは2人の時間を楽しんだのだった。
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「楽しかった…。」
1人になったユーフィアはレオンのことを思い出していた。
どこまでも真っ直ぐで、元気で、素直な少年。初めてできた友達。
ユーフィアはレオンの話はいつも面白くて好きだった。そして、その話を楽しそうにするレオンの姿がもっと好きだった。
いつからだろうか。レオンともっと一緒にいたいと思うようになったのは。そして、そう思い始めたとき、レオンの冒険に一緒について行けたらどれだけ楽しいかと考えるようになっていた。
レオンはその変化に気づき、ユーフィアが外の世界に行きたいのだと思い、いつか連れて行くと約束をした。
その言葉だけでもユーフィアの心は幸せで満たされていた。だが、その約束を叶える為に努力するレオンの姿を見て、自分にも何かできることは無いかと考えた。
だからこそ、ユーフィアは少しでも力になれるよう魔法の練習を始めたのだ。
「……でも、そんなことレオンには恥ずかしくて言えないわね。だって、簡単に言えばレオンが好きだから、レオンのために魔法を練習したんだもの。」
ユーフィアの顔がまた少し赤くなる。
「けど実際、私が外の世界を見るなんて夢のまた夢。きっと叶いっこない。でも…。」
ユーフィアはあのときの、必ず外の世界を見せてくれると言ってくれたレオンを思い出す。
「いつか叶うと良いなあ。」
レオンがユーフィアを想うように、ユーフィアもまたレオンのことを想っていた。