勇者
早速、投稿!
主人公は勇者です!
その者は強者なり。敗北の文字を思わせぬその戦いは美しささえも感じる。如何なる敵を相手にしようと臆することなく、立ち向かっていく。
その者は正義を貫く者なり。弱きを救い、己が信じる正義のもとに行動する。悪を許さず、この世を覆う闇を斬りはらう。
その者は勇敢な者なり。誰かがするのではない。己がするのだ。決して引かぬ。ただ進み続けるのみ。
強く、正義を貫き、勇敢である。どの様な劣勢も、逆向もその者が救い続ける。
その姿は美しく、気高く、そして勇ましかった。
ゆえに人々はその者を勇者と呼んだ。
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闇に覆われた空からは雷鳴が轟き、暗き森からは魔物の声が鳴り響く。人間の住まう地からは遠く離れた魔大陸。
人類の敵である魔人。彼らの住まうその場所に今、1人の男がいた。名を“アドミラル・レイ”。聖剣に選ばれし勇者である。彼は4人の仲間たちと共に魔王討伐のためこの魔大陸へと足を運んでいた。人とは信じられぬ力を持った彼ら。しかし、それでも魔人たちは強かった。人間よりも高いスペックを持つ戦士たち。自分たちと同等の力を持つ、魔の十人衆。誰も一筋縄ではいかなかった。だが、勇者たちは勝った。そして、魔王の元へと向かったのだ。
魔王。魔人たちを統べ、人類を滅ぼさんとす邪悪の化身。無数の魔法を操り、変幻自在な剣技を見せつける。勇者の聖剣は全て防がれ、仲間たちは攻撃に移ることも出来ない。
雷の鎌が胴体を切り裂く。炎のハンマーが仲間を潰し焼き尽くす。氷の槍が頭を貫く。風の剣が胸に刺さる。圧倒的な実力差。仲間たちは成すすべなく死んでいく。
勇者は魔王の攻撃をなんとか弾くと、まだ息のある仲間に駆け寄った。
「死ぬな!ギレン!お前にはまだやることがあるだろ!」
勇者の言葉に反応し、ギレンと呼ばれた男は閉じていた目を開け、弱々しく言葉を発した。
「そう……だな。まだ……自分の子も……抱けてねえや。」
旅に出る前、ギレンの妻は妊娠した。そして、ギレンは妻と約束したのだ。必ず帰る。だから、帰ってきたら、おかえりと言ってくれ。そして、子供を抱かせてくれ、それで一緒に元気に成長するように育て上げていこう、と。
だが、その約束を果たすのは絶望的だった。回復魔法の使える仲間はもういない。血が溢れ、傷口を抑えようとも無意味。ギレンは死を待つしかないのだ。
「アド……息子たちのこと……頼むぜ。」
「ふざけるな!お前の子だろう!お前が育てなくてどうする!」
「……ああ……もう何も聞こえねえ。……息子の成長する姿……見たかった………リーナ………やく……そ…く……まも…れ……。」
ギレンの体なら力が抜けた。まだ温かい体。しかしそこに魂はない。勇者の目の前でギレンは死んだ。
「ギレーン!」
勇者の目からは涙が出た。もっと一緒にいたかった。この戦いが終わったらまた酒を飲んでふざけた話をして、馬鹿みたいに笑い合いたかった。だがそれももう叶わない。
後ろからの殺気に勇者はギレンを抱え、その場で飛び上がる。直後、勇者がいた場所を業火がおそう。
勇者は涙を拭った。今は泣いて、後悔している場合ではない。仲間の、ギレンの仇を取らなければならない。そして、人類に平和を齎さなければならない。
勇者はギレンをゆっくりとおろし、振りかえる。聖剣を構え、再び魔王と視線を交えた。
「行くぞ!魔王!」
「…………。」
魔王の返事はない。勇者は構わず魔王に向かう。そして、大きく聖剣を振りかぶり、力一杯に振るった。小細工などもうしない。今の自身の全力で魔王を打ち倒す。
「うおおおおおお!!!!!」
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勇者たちが魔王に立ち向かったその日、魔王は打たれた。その報告を聞いた人間たちは喜び、抱き合い、勇者たちを讃えた。しかし、勇者たちが魔王城から帰ってくることはなかった。こうして勇者たちの冒険は幕を閉じたのだった。