私はお助けモブです~一目惚れしましたので運命を変えさせていただきます!~
思いつきで一気書きをしました。
おかしいところ満載かもしれないです
視点変更が何度かあります。
何も書いてないところは主人公視点です
わたくし思い出しました
久しぶりに王都から帰ってきたお父様から王太子の婚約の話を聞いたときにいきなり頭の中に火花が散ったような衝撃を受け私は、あぁ、攻略対象と悪役令嬢が婚約したのね・・・と
ってかなんじゃそりゃ?
普段使わない言葉使いでそう思ったその瞬間私の脳裏に膨大な量の記憶が濁流のように押し寄せ、それを処理しきれず家族の前でぶっ倒れてしまったのである
記憶の中で私はスーツを着てパソコンと書類とをいつもにらめっこしている仕事中毒な独身アラサーの女性だった
その頃は完全なるインドア派で休日は、1日中ネットに興じて過ごしていた。
趣味と言えば、某アイドルグループのファンで、でも現地民にはなれない代わりに自宅待機型ファンとしてDVDやグッズに囲まれ、ネットで見つけた料理レシピを見て作ったり、ネットで色んな観光地のビューイングを見て旅行気分を味わったりなどするなんとも地味なバーチャルで満足している生活を送っていた
尤も、それは社会人になってから仕事以外時間が割けなくなったからであって大学を卒業するまでは違う意味で忙しく余暇の時間がなく過ごしていた
幼少から習い事が多くて、母の趣味でクラシックバレエ、心配性の父からは合気道を護身術に習うよう言われ、祖母から華道と茶道を進められ免状まで貰っているのだ
更に、学習塾をしていた祖父の塾にも通って部活をする時間も恋をする余裕もなかった
そんな私は、大学卒業後所謂一流企業に就職したが頼まれれば卆なく仕事を裁く私に日々仕事量を増やされ、帰っても恋人もいない一人の私は日々仕事漬けで気がつけば仕事中毒のできあがり
「異世界転生?・・・これは如何考えてもどっかの小説みたいなことになってるのよね?」
ぶっ倒れて、前世と思しき記憶が蘇り落ち着いて、目が覚めた私がおきぬけに呟いた
だって、今の私はニホンジンではないのだから
ニホンと違ってここは19世紀ヨーロッパのようなまだ少し中世の名残があるような国マラカイト国
なのにどこかニホンのようなちょっとした便利な文明がある不思議な空気感がある世界
そして一番の違いは魔法があるのだ!
剣と魔法のファンタジーな世界
つまりは異世界
そして私は転生人のようだった
何で死んだかって?
ええ、思い出しましたよ
体調崩しても休めず仕事漬けでやっと年末最後の仕事を終えて帰宅したところで記憶が途絶えてる
なんか、玄関で倒れたような・・・
そのまま、死亡かな?
誰か気づいてくれたかなぁ?
嫌だよ、死後○ヵ月後に腐乱白骨で発見って
賃貸だから事故物件になっちゃうじゃん!
多分、帰省しない私を心配した家族が発見してくれたよね
そうだよね
じゃないと寂しい・・・
今の私は、
クリスティーナ・シェルマン
シェルマン侯爵の長女だ
ふわふわした淡い色の金色の髪に紫繋った碧い瞳。
顔は・・・まあ普通だ。どっちかと言えば楚々とした大人しそうな女の子
特別美人でもない。愛嬌があってかわいいと言われればそうなのだろうな。
ヒロインは可憐で庇護欲のそそるかわいい系で悪役令嬢は見るものを釘付けにするほどの美貌の美人さんだったはず。
うん、私はモブだな。
普通だもんね。
普通でいいもんね、いじけてなんかいないやい!
父と母、3つ上の兄と4人の家族と沢山の使用人と領地の本邸で過ごしている
父は、お城に勤める宮廷人でもあるので1年の半分以上を領地から2日離れた王都のタウンハウスで暮らしている
私は生まれてから未だに王都には行ったことがないけど何れは行くことになるだろう
15歳になれば国内の全ての貴族が通う学校があるのだから
それまでは学校に対して興味もなかったけど、前世の記憶が蘇ってからはそうとは言えなくなってしまったのだ
と言うのも、この世界はどうも前世でしていた恋愛シミュレーションゲーム『貴方が為の花束』に酷似しているのだ
お父様が持ち帰った王都の土産話で、先だって発表されたこの国の第一王子で王太子フェリクス様とレーヌ侯爵令嬢シルヴィア様が婚約されたこと、これがゲームの登場人物の名前と立場も一緒なのだから・・・
『貴方が為の花束』は、主人公の男爵令嬢マーガレットが15歳になり通う学園で王太子をはじめ攻略対象たちの心の傷や問題を笑顔と癒しの魔法で解決して更に愛を育むゲームだ
ハッピーエンドにのみマーガレットの花束を持ってプロポーズされるという巷に溢れまくっている定番中の定番ストーリー
恋愛未経験の私は暇つぶしにスマホ版のゲームをしてみたが王太子の攻略が結構簡単で飽きてしまい残りの攻略キャラもネタバレをネットでみて満足してしまったのよね。
その中にあった、隠しキャラ攻略へのお助けキャラが私、クリスティーナみたい
まあ、詳しいことは追々ということで・・・
ネタバレサイトではキャラの裏設定とかも載っていて、意外と本編より隠しキャラの設定の作りこみが緻密で面白かったから覚えている
もしも、この世界がゲームの通りならば私はもう直ぐ隠しキャラとそのトラウマを作る対象者に出会うはず・・・
◇
「おめでとう、クリスティーナ」
わたしの10歳の誕生日には、お母様の従姉妹である隣国の王妃様と2人の王子様がやって来ていた
隣国フォルトゥーナはマラカイトより大国で、国土は勿論人口・経済・軍事力・魔法力にも大きく差が出来ている周辺国で絶対的勢力を持つ国
私のお母様とフォルトゥーナ国の王妃様は従姉妹、しかもおばあさまが双子であったせいか姉妹のように見た目もそっくり仲良しで王妃様は私のことを娘のように思っていたという・・・今日、初めて会いましたけどね・・・
「まぁ、クリスはなんてかわいいの!
リリーの子供の頃にそっくりだわ」
家族、屋敷中の使用人も総出で出迎えたとき豪華な馬車から飛び出て一目散に私に抱きつかれたときは驚いたけどね・・・
因みにリリーはお母様の愛称。お母様の名前はリリアーナです。
普段は体が弱くて優しい笑顔のお母様なのですが
そのお母様が怖~い笑顔でひっぺがしてくれたから良かったけど王妃様の豊満なお胸に窒息するところでしたよ。
とても大国の王妃様とは思えない行動に続いてやってきた王子様たちも顔を引き攣らせながら挨拶も漫ろにお家の中に入ってもらった
その後、王妃様と王子様たちを交えての私ささやかなお誕生日パーティーがおこなわれた。
「はじめましてクリスティーナ嬢。僕は、レオナルド
あなたの誕生日を一緒に祝えることを喜ばしくおもいます」
そういってかわいいピンクの薔薇の花束を手渡してくれたレオナルド王子は私より1歳年上だ。少し癖毛の明るいキラキラした金髪をにエメラルドグリーンの瞳が特徴の綺麗な兄王子様
「会うのを楽しみにしていたよ、僕はルーカス。10歳の誕生日おめでとう僕も3ヵ月後には10歳になるんだよ」
ルーカス王子は、こちらも癖毛だが色味が柔らかい栗色の髪にレオナルド様と同じエメラルドグリーンの瞳のちょっと子供っぽい雰囲気の弟王子様がかわいくラッピングされた本をプレゼントしてくれた
「この本は、僕の国の魔道士の入門書なんだ。僕も読んだけどおもしろかったよ。おすすめはね・・・」
本を手渡してそのまま話込むものだからちょっと距離が近い
ルーカス王子は、魔法が好きなのだろうぐいぐいくるな
「ルーカス、クリスティーナ嬢が驚いてるよ。」
「ウフフ、ありがとうございます。レオナルド殿下、ルーカス殿下。わたくしもお会いできましてうれしいです。」
レオナルド殿下か窘めてくれてやっと一歩さがってくれたけど、一歩下がっただけだからやっぱり距離が近い
そのうえ、いまだに本の説明を朗々と続けている
この人は、周りが見えていないのかな?
そのルーカス殿下にやれやれと困った顔をして眉を寄せるレオナルド殿下
レオナルド王子にかまいませんよと笑って答え見上げると優しいねとほほ笑んで返してくれた
見上げたときその美しいキラキラとした宝石のような瞳が優しく煌いた
その微笑に心打たれました
その瞬間、まさしく前世で見ていたドラマのように分岐点に流れる音楽が私の中で鳴り響いた
ええ、
恋が始まるあの、恋愛ドラマにつきものの音楽ですよ
ヒトメボレ
主食の銘柄じゃないですよ
恋に落ちた瞬間ですよ!
リンゴンリンゴーンっていう鐘が鳴ったという人も、ビビビッってしたというかたもいますが(古いなぁ)私は、ポップな某アイドルの曲が鳴り響きましたよ
やばい!レオナルド殿下ってば、よく見れば前世で好きだったアイドルのようにキラッキラの王子様じゃないの!
私のドストライクついてるじゃないの!!
あぁ、なのになんでこの人があんな結末のキャラなのよ!!!
もう!このままいけば私はどちらにしてもつらい目にしか合わないのなら
この王子様を守り切ってみせます!!!!!
◇
私のお誕生日の出会いから3年が経ちました
その間、2人の王子さまは年に数回の割合で当家の領地に遊びに来てくれていました。
お兄様を交えて遊び仲の良いお友達として過ごしていました
というより、よく考えると隣国とはいえ大国の王子様2人が年になんども一貴族の領地に遊びに来ていいのでしょうか?
だって、その間王城へ行ったとは聞いていないですよ
いや、1度聞いたら大使が王城へ招かれている間ここで待っているんですよって言われたなぁ
いいのか?
王子が王城への訪問スルーで・・・
侯爵家へとばっちりが来なければいいですが・・・
そして、今日も久しぶりに2人の王子がいらっしゃいました
3年の間に私たちも慣れたもので玄関についてすぐに案内されるサロンにレオナルド様の好みのさわやかな香りの紅茶とルーカス様の好みのジャムを添えたスコーンが何も言わずに用意される
王子たちも我が家のように案内より先にサロンに入り長い足を組んでソファーに座りくつろぎ始めるのだ
サロンのソファはとても寛ぎやすくて大きなソファですよ
アイボリー地に緻密で綺麗な彫刻の彫られた手摺、クッションもいいですし
腰掛けたときの沈み具合なんて抜群ですよ。ゆたっり広々長ソファーと一人用のソファーもあります。
なのに何でですかね?
何でいつも
大きいとはいえ他にもソファーがあるのに長ソファに3人で纏まって座るかな?
いつものようにレオナルド様とルーカス様が先に座られてお二人の間を空けてぽんぽんって笑顔で誘導されます
いつもです
毎度です
3年間ずっとです
なら、いい加減諦めて慣れろってとこですが、この3年でもともと端正な顔立ちで綺麗な王子様だった2人は更に磨きかかって気品が加わり完璧王子様に成長されたのですよ
えっ、わたくしですか?
モブの成長なんてたいしたことありません
身長も容姿も平均点まっしぐらです
唯一、体型だけは順調で女性らしい丸みを帯びていますけどね。
容姿の件についてはモブなので期待はしてはいけませんね
そんなわけで惚れた王子様が更にかっこよくなってるのだから私のほうも更に緊張しております。
「えっと・・・今日はいつもと装いが違いますね」
レオナルド様は紺の、ルーカス様は臙脂のそれぞれ乗馬服を着ていた
いつもは馬車で来るのだが今回は騎乗でいらしたそうだ
「最近、ルーが騎士団の訓練に参加していて乗馬の上達が著しいのでね。
それに以前話していた僕の愛馬をクリスに見て欲しくて騎乗してきたんだよ」
早速紅茶の香りを楽しみながらレオナルド様が答えてくれた
「うん、今回は初めてここまで馬にまたがってきたけど結構距離があるんだな。」
ルーカス様はスコーンに豪快にかぶり付いて続けた
「ルーは馬車ではいつも寝てるからね」
「お体は疲れていませんか?晩餐の前にお風呂を用意させますからおくつろぎになってはいかがですか?」
我が家のある領地は、フォルトゥーナに隣接しているので馬車でゆっくり走って王城まで3日あれば十分だが騎乗なら1日と半日で到着できるとのことだ
時間は半分に短縮できる
とはいえ座っているだけの馬車と常に馬に直接揺られる馬上では疲れが大きく違う
疲れていないはずはない
況してや今回がはじめの騎乗での来訪なのだから・・・
「ありがとう疲れていないわけじゃないけど、もう少しクリスとお話したいな」
「そうだよね、最近のクリスの話を聞かせてよ」
笑顔がキラキラして眩しいです。
そんな事笑顔で言われたら喜んでいくらでもお相手しまけど・・・
っていうかレオナルド様もルーカス様も疲れなど微塵も見えない・・・
元気だなぁ
「わたくしのことですか?
面白くもございませんよ。毎日お母様から課題を出されていて外出もできませんもの」
ちょっと拗ねたように聞こえるかもしれないが仕方がない
3年前よりわたくしは領地から一歩もでていないのだ
基本的なお勉強はもちろんのこと、『叔母様が大国の王妃様なのだから』というお母様の一言によりマナーやダンスも王都から一流の先生が呼ばれて厳しいレッスンが毎日行われていた
お勉強だって家庭教師が増やされて歴史と語学なんてマラカイトだけでなくフォルトゥーナのことまで学んだ。
前世でお勉強は嫌いでなかったからいいけど・・・
次々出される課題を片付けていく達成感が楽しくて、つい真面目に弱音も吐かずにこなしてしまったのが運の尽き
できればわたくしも普通のお嬢様のように優雅にアフターヌーンティとか楽しみたい!
だって、全然お茶会も夜会も行く暇がないんですもの
マナーを学んでもそれを披露することができなければどのくらいできているかわからないと思うんだけどな
そのことに不満を漏らすと2人がいい笑顔をして
「順調だね」
「うん、そうだね」
なんだそれ?
だから、順調に身についているのかわからないんだってば!
「じゃあさ、あとで僕と踊ってみようよ。
僕らが来てる間は家庭教師は全部お休みなんだよね」
ルーカス様が手についたジャムを舌で舐めとりながら提案する
もう、お行儀が悪いなぁ
「こちらで拭いてください。
ルーカス様もそんな折角寛いでいらっしゃるのに申し訳ないです
もう、口元にもついていますよ」
そばに控えるメイドに難く絞った手拭きを持ってきてもらって渡しなががらいうとその手をルーカス様にとられた。
「クリスが拭いて♪」
とろけるような甘えた声
「~~~~~っっっ、ルーカス様、もうっ!子供でないのですから・・・」
恥ずかしくて拒否をするとシュンと見るからに項垂れて上目づかいで哀憐の篭った目で見てくる
ああぁぁぁ、折れたわんこ耳が見えるようだ
そんな顔で見られたらもぉ~
今、顔が赤くなってるよ、絶対
「僕のほうがクリスより下だよ
お姉さんが年下のお世話してあげるのはあたりまえでしょ」
「そんなたった3か月じゃないですか~っ、・・・もうっ」
にこにこと笑顔でジャムがついた顔をこっちに寄せてきていて
これは拭かないと収まりつかないやつなのか・・・
ドキドキして濡れた手拭きを持つ手が震えるのを反対の手で支えながらルーカス様の口元に近づけた・・・
パッと手拭きを取られルーカス様に顔にクリーンヒットした
「自分でできるな」
レオナルド様は笑顔です
とっても笑顔です
でも
なぜだか怖いです
「・・・・・・・・・・・・残念」
私は助かりました
「レオナルド様、お代わりはいかがですか?」
新しく入れなおしたポットを手にレオナルドを伺えば眉を顰めたレオナルド様と目が合った
「ねぇ、クリス。」
「はい、なんでしょうか?レオナルド様」
ポットを置いてレオナルド様のほうへ向き直ります
レオナルド様は難しい顔をしてじーっとこちらをみつめていますね
ルーカス様はなにやらニヤニヤしています
「・・・・・・はぁ」
暫らくして諦めたように息を吐かれ少し考え込んでしまいました
なんでしょうか?
なにかしましたでしょうか?
そんなにみつめられると落ち着きません。挙動不審になりそうです・・・淑女教育の賜物で堪えましたけど・・・
「クリス、明日の予定はどうなっていますか?」
顔を上げたレオナルド様は笑顔に戻っていました
笑顔ですよね
きっと・・・
なにか違う笑顔に見えます
「明日ですか?特になにも予定ははいっていません
先程ルーカス様が言っていらしたようにお二人が滞在の間は授業もありませんし・・・」
「そうか、なら明日は一本木の丘まで乗馬をしないか?」
「えっ、乗馬ですか?」
一瞬、私の顔に緊張が走ったのがレオナルド様が気がついたのだろう
「うん、大丈夫だよ。僕もルーも乗馬は得意だし君を僕の愛馬に乗せてあげたいんだ。ゆっくりと君の負担にならないように配慮するから。どう?」
心配そうに伺うように尋ねられれば本来は断ることはできないのだけどね・・・
乗馬未経験で恐れていると思われているのかな?
「・・・あの、明日はお昼過ぎから雨が降る予報が届いております。
季節の変わり目のこの頃は雨が早く降るかもしれないですよ?」
「予報って・・・あの君が風の魔道士と開発した新しい魔法の使い方だよね!どのくらい当たるの?」
「翌日のことですと殆ど外れることはないですよ」
魔法予報の話をすればすぐにルーカス様が食いついてきた
そう、天気予報を風魔法で出来ないか魔道士と試してみたら思いのほか上手くいった我が侯爵家が開発した魔法の使い方なのだが誰でも出来ることではない
風魔法を使い風の流れ、遠くの雲の様子に水分量がどのくらい含まれているか毎日の記録を付け表にして統計して、実際の風の状況を読み取ることで予報を出すのだ
我が侯爵家お抱えの魔道士は風と火と水が使える優秀な人材が2人もいた。
彼らと毎日天気予報を出しているのだが、的中率は週間だと5割ほど、翌日になれば外れることは殆どないといっていい
前日分かってもと言う人がいたが酪農が盛んな我が領地では重宝された
今のように春から夏にかけての季節の変わり目は嵐のように酷い風が吹き荒れたり雷がなって短い強い雨が降ったりなど天気が安定しないので放牧が難しかったが、予報がきちんとしだしてからは計画的に放牧が出来て家畜のストレスも少なく酪農家からは感謝されている
「でも、一本木までなら直ぐだから昼まで帰ってこれるし、大丈夫だよ」
ルーカス様はそうおっしゃいますが・・・
「でも・・・」
出来れば明日は・・・
「クリスは一緒に行きたくないの?」
レオナルド様が悲しそうな顔をする
いや、そんなわけない・・・
でも本当の理由なんて言えるわけないし・・・
「そっ、そんな事ないです!」
「じゃあ、決定だね。」
さっきの悲しそうな顔からパッと嬉しそうな顔に・・・
もう、かわいいっ、その顔スクショしたい!
これって、どの属性魔法だったら開発できるかな?
水魔法?うーん、水鏡を変換した画像処理させるはどうかなぁ?それともあの魔法の応用でそれをこれと合わせて・・・う~ん・・・
「-----食事前の運動ってことで」
「それでいいね、クリス」
魔法のことを考えていたらお二人の話を聞きそびれました・・・
聞いていませんでしたって言えませんね
「はい・・・?」
返事と共にレオナルド様とルーカス様が私の手を片方ずつ持ってひきよせて・・・
「では、移動しましょ。お姫様」
「エスコートから練習な、お姫様」
「ふあっっっ・・・なんっ、えっ?」
手の甲にチュって口付けるんですか!!!!!
なんの話をしてたんですか!!!!!
教訓:おもてなし中に考え事はやめましょう
その後私は、レオナルド様ルーカス様それぞれとダンスのレッスンをさせていただきました。
密着した状態でそれぞれ5曲も・・・つまり、わたしは10曲踊りましたよ
普通の貴族令嬢の体力でしたら4曲が限界でしたよね・・・
ええ、色んな意味での確認ができましたよ。
順調に体力がついていたようです
◇
翌日の朝の天気はとりあえずお日様が出ています
所々雲が見受けられますが今のところ雨が降る予兆はないようです
今回は乗馬と言うことでわたくしも乗馬服をきています
男性の乗馬服は機能重視の騎士の制服に近いものですが女性のものはブラウスにはフリルがあしらわれ、袖のところはふくらみを大きく作ってギャザーが寄せてありベストとパンツは型こそ男性のものと変わりがないのですが所々女性らしいフリルなどの飾りが施されているものが最近の流行とのことです
革の編み上げブーツを履いて準備万端です
鏡の前でチェックします。身だしなみ大事ね
うん、かわいい
服がね・・・
着ている私は普通です
ただ、この装いだとちょっとお胸が強調されていますね
うん、その成長も順調のようです
しかし、昨日あれだけ動いたのに全く疲労感がないとは・・・これなら今日と言う日を無事過ごすことができるはず
厩舎から出された昨日お二人が乗ってきた馬がおとなしく待っていました
レオナルド様の愛馬は、真っ白で前足に靴下をはいたような黒い模様があり、ルーカス様の愛馬は頭と首元に白い模様のある栗毛の毛色をしています
わたくしは乗せてくれる馬たちにご挨拶で籠に入れて持ってきた林檎を差し出したのですがすごい勢いで食いついてきて1頭にあげているのにもう1頭は待ちきれずにこちらに顔を寄せてきたりしていて食べても顔を寄せて離れずに一頻撫でると満足してくれた。
う~ん、馬にもてる何かがわたくしにはあるのかしら?
「わたくし!ルーカス様とがいいです!!」
そんな出発前の穏やかな空気の中レオナルド様が私を乗せようとしたのですが、ルーカス様をわたくしが指名したことでその雰囲気が一遍してしまったのです
「クリスっ、僕と一緒に乗ってくれないの?」
レオナルド様からしたら拒否されたと取られたのでしょう・・・
とても悲痛なお顔をしています
うぅ~、そんなお顔しないでください
「う~ん、僕としては嬉しいけど・・・」
ルーカス様も困ってしまってます
ごめんなさい
そうじゃないの
でも、これだけは譲れないんです
「・・・だって、いつもレオナルド様が先ではないですか。お年が上だからってそんなのずるいです
昨日のダンスもレオナルド様が先でしたし・・・」
それらしい言い訳をしてみる
これはずっと前から考えていたことなのだ
ずっと
ずっと・・・
3年前から・・・
この日が来なければいいのにとずっと思ってた
「っ!それはそうだけど・・・でも」
このわたくしの言い訳は長年考えて準備してきたのです
簡単に論破させません
「あぁ~、兄上の特権ばれちゃった。
それ言われたら兄上何も言えないもんね」
今度は嬉しそうにルーカス様が援護して下さいます
「それに乗りたくないわけではありません
行きはルーカス様で帰りはレオナルド様とご一緒ではいけませんか?」
そう、行きが重要なのだから
帰りは無事ならば大好きなレオナルド様とご一緒したい
そう
無事に・・・
<ルーカス視点>
僕の前に少し体を硬くして馬上で座っている女の子
顔もどこか強張っていて初めての乗馬に緊張しているのかな?
しっかりと背筋を伸ばして座って愛馬のサムの歩く揺れに身を任せている
「クリス、このサムはとても穏やかな馬なんだ。
そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
そう声をかけるとまだ少し白くなっている顔をこちらに見上げてぎこちなく微笑んだ
「ルーカス様ごめんなさい。わたくしが我が儘を言ったから・・・」
そういいながら既に潤んでいた瞳が更に膜が濃くなった
そう、兄上はクリスが僕と一緒に乗ることを望んだことで少し拗ねている
いつもだったら直ぐ横でついて話しかけただろうに、今は3馬身くらい先を行っている
まるで早く目的地に着かんとしているみたいだ
そんなに見たくないかねぁ。他の男と一緒にいるクリスを・・・
「気にしなくていいよ。兄上が先って別に決まり事もないし、クリスが指摘しないと兄上も気がつかないと思うよ」
嘘だ
決まりはないけど、兄上はクリスに関しては譲らない
他のことについては、僕を優先してくれることもある優しい兄上だけど
事、この可愛らしいクリスティーナに関しては、僕が先んずることを許してくれない
自国の人間の前では決して見せたことのない外向きの微笑ではない、本当の笑顔をクリスには見せている
それ以外にも拗ねたり困ったりなど、大きく口を開け声を上げて笑うこともあったほど、表情も豊かに・・・
兄上は、クリスに恋をしている
本人からは聞いていないけど絶対そうだ
だから、クリスが指摘しようがそれは本人が意図的にしていることなのだ
だが、さすがにそれをクリスに指摘されるのはばつが悪かったのだろうな
「それに、僕としてはクリスが指名してくれ嬉しかったよ」
うん、僕だって・・・
クリスのことは好きだ
兄上がクリスが好きだと気がついてからクリスを観察していたらいつの間にか好きになっていた
僕は、兄上のように独占欲を露わにはしていないけど多分兄上にはばれている
だからたぶん一番のライバルなんだろうな
確かに兄上のほうが先に好きになったみたいだけど僕も譲るつもりはない
「できたら、僕と一緒のときは他の男のことは考えてほしくないな」
クリスの耳元で囁けば白かったクリスの顔は真っ赤に染まった
もうっと頬を染めたまま振り向きながら微笑むクリスは本当にかわいいなぁ
クリスの屈託ない笑顔は僕らの癒しだった
大国の第一王子と第二王子なんて媚を摺り寄せてくる輩で回りは溢れていた
高位貴族は自分の娘を嫌らしい顔で勧めてきて、年頃の令嬢たちは香水臭い姿でベタベタ体に纏わりついてくる話すこともくだらない自己満足なことばかり
嫌気が差していたところへ母上から隣国の伯母上のところに行くと言われた
何でも伯母上はお体が弱く、王都でなくフォルトゥーナに隣接している田舎の領地で過ごしているらしい。
子供が2人いて兄のほうは僕より3つ年上だが妹のほうは同じ年だという
妹のほうが誕生日が近いのでその日に合わせて訪問することになった
はじめてあったクリスは楚々としていて僕らに媚を売ったり撓垂れてくることもなかった
慎ましやかで話の聞き上手で、そのくせきちんと自分の意見も言えて
とても好印象な女の子だった
それがいつしか恋と言う好意に変わった
初対面、折角の誕生日だからプレゼントを用意したけどどちらも手前味噌で兄上は、途中で侍従に命じて用意させた花束で僕はただ自分が好きだというだけで他意のない魔道書。
今考えると失敗のプレゼントだ
相手のことを思って用意していないプレゼントだった
それからは、クリスの好きそうなものを用意した。
いつかはその身を飾るアクセサリーを贈りたい
「遅れているぞ早くこいよ」
耳まで赤くなっているクリスを後ろから眺めていると前を行く兄上の不機嫌そうな声が聞こえた
気がつけばもう直ぐ一本木のある丘まであと少しだった
丘の手前には開けた草原がありいつもここを走らせたら気持ちが良いだろうなと思っていた
クリスと一緒なら猶更だ
「わかったよ!
クリス少し早めるよ」
兄上に返事を返して、クリスに声をかけ愛馬の腹を軽く蹴って駆け足をさせる
僕は閃き兄上に追いつく手前からスピードを上げて止まらずそのまま追い越す
追い越し際に兄上に意味ありげに笑って見せた
「おい!ルー!!」
兄上が僕の笑みに反応して慌てて追いかけてくる
「ルッ、ルーカス様!」
いきなりのスピードに怯えたのか声を上げ胸元にしがみついてくるクリス
その顔は先までの赤い顔から青くなって強張っていた
本当にころころ変わるなぁ
「大丈夫だよ!サムにとってはこれくらい本気の3割も出していないから」
笑いながらそういって草原を駆け抜ける
怖がるクリスの腰を片手で強く引き寄せた
腕の中には大好きな女の子がいて、愛馬と2人で気持ちよく風を感じながら駆けるのは楽しかった
「クリス、風が気持ち良いね」
楽しくで自然と笑い声が出た
一本木が見えてきた
この楽しい愛おしい時間がもう直ぐ終わりを告げる
兄上から抜け駆けする機会なんて早々ないだろう
そう思うと一抹の寂しさが迫りくる
視線をまたクリスに向けた時だった
バリバリバリバリバリッッッッッ!!!!!
耳をつんざくような音と共に稲妻が目指す先、一本木に落ちた
その瞬間視界が真っ白になり次には乗っていた愛馬のサムが前脚を上げ嘶いた
「うわっ!」
「きゃあぁぁぁ」
手綱を強く引きクリスを抱える腕に力を込め落馬は免れたが恐怖に我を忘れたサムは暴走し始めたのだ
「サムっ!落ち着け!!クリスしっかり掴まってろよ!!」
僕はサムを止めようと手綱を強く引くが暴走は止まらない
「クリス!ルー!」
暴走する僕らを兄上が追いかけてくるが我武者羅に走るサムには追い付けない
「くそっ!サム!!止まってくれ!!!」
ひときわ強く手綱を引くが全く効き目がない
寧ろ嫌がり頭を振り始めた
「うわぁ!!!」
頭を振られたことで手綱を落としそうになった
「ルーカス様貸して!!!」
前で小さく固まっているとばかり思っていたクリスが横から手綱をつかんだ
えっ!
クリスは手綱をつかみ右に舵を切り始めた
最初は嫌がったサムだったが手綱はびくともせず、クリスが柔らかく落ち着いた声かけをずっとしていた
その声とは違い、顔は力強く前を見据えていた
いつもの柔らかく愛らしいクリスとは違って見えた
「大丈夫よ、恐くないわ。ゆっくりと、そう上手よ」
手綱はしっかり握り右に切ったまま、時計回りに旋回して最初は疾走していたのが駆け足になり徐々にゆっくりになり、大きかった円も小さくなっていった
どのくらい旋回していたのだろうか、気がつくとサムは落ち着きを取り戻しゆっくりと、足踏みをして止まった
はあぁぁぁぁぁ
僕の前には緊張から解放されたクリスが息を深く吐き出し脱力していた
「大丈夫?クリス。ごめん」
さっきまで手綱を操っていたクリスは堂々としていて、暴れるサムを上手く御して顔つきもいつものへにゃんとした可愛らしさでなく雄雄しく・・・女性であるがまさしくそれが一番にしっくり来る、そんないつもと違ったクリスだった
そんなクリスは疲れからか肩で息をしていた
「二人とも大丈夫か?」
兄上が心配そうに寄ってきた
「わっ。わたくしは大丈夫です。レオナルド様もルーカス様もお怪我はありませんでしたか?」
疲労が濃い、顔色の悪い中弾かれたように顔を上げ僕らの姿を改めるクリス
「ありがとうクリス・・・君のおかげで僕は無事だよ・・・」
情けない・・・
感謝の言葉は尻窄みになった
大好きなクリスを危険な目に合わせ、更にその窮地を救ってくれたのもクリス本人なのだ
好きな女の子守れないなんて
浮かれていたんだ・・・
ギリッ
思わず強く手を握りこみ歯を食いしばっていた
悔しくって・・・情けなくって・・・力ない自分が、守れない自分が・・・
「ルーカス・・・」
兄上が労わるようにこちらを見ているが何も言えない
直ぐ前のクリスも心配そうに見ているのが分かる
「あっ、雨」
ポツッポツッ
粒で落ちてきた雨は瞬く間に大降りになり草原で佇む僕らを濡らした
まるで今の僕の心情のような雨だ
このまま濡れてしまいたいと思っていた
「このままではずぶ濡れになります。直ぐそこに狩小屋がございます。雨宿りに移動しましょう」
クリスの声を聞いてハッとした
そうだ、クリスもいるんだ。僕が幾ら自責の念にかられてこのままでいても良いけどクリスは女の子なんだ
雨の中一緒に濡れるわけには行かない
クリスの案内で直ぐ側にあるという小屋に着いた
そこは狩用の小屋と言うだけあって簡素な厩も着いていた。小屋と言うにはしっかりとした丸太作りの部屋が2間あるものだった。
そして、なぜかクリスは持っていた小屋の鍵を取り出し開けて中に僕らを招いてくれた
クリスは小屋に入るとすぐさま、薪が用意されていた暖炉に火を着けた
僕は入って直ぐのキッチンと食卓、ソファーセットのある居間で休んで下さいと気遣われた
「もう少しで温まります。濡れた上着は乾かしますから、脱い・・・「クリスっ」」
クリスが上着を掛けるハンガーを出しながら話しているのを兄上は遮った
「クリス・・・ねえ、君は・・・もしかして・・・」
兄上は何か考えながら言い淀みながら・・・言葉を選んでいるようにも見える
そして意を決したように顔を上げてクリスの側に・・・正面に立ち見据えて聞いた
「君は、今日起こることを知っていたのか?」
<レオナルド視点>
真正面からクリスを見据えて言うと、目を丸くして驚いて固まってしまっている愛しい女の子
そんな顔をさせた自分の発言に苦渋の顔になる
でも、必要な確認だった
愛おしいクリスティーナ
一目ぼれだった
初めて会ったとき誕生日と言うことで社交辞令の祝いの言葉とピンクの薔薇の花束と言う無難なプレゼントを渡した。しかも用意したのは侍従だ
それを受取り、花が綻ぶように満面の笑顔でお礼を言った女の子
その笑顔を見た瞬間、渡した花束を奪い返したい衝動に駆られてしまった
きちんと自分でクリスティーナへのプレゼントを選んで渡したかった。
そう思ったとき一目見たクリスティーナの微笑みに恋をしたと悟った
最初は自分にそんな感情があったことに驚いた
僕の周りは、物心ついたときから本心の見えない人間ばかりがいた。
父上からこれが王家に、権力に群がる輩だと教えてくれた。だけどそのドロドロとした汚いように見える人間の中にも信用に足る必要なものもいるそれを見極め、自分の『唯一』をいつか見つけろと言われた。
将来、国を一緒に支えてくれるであろう同世代の友人は時間を掛けて見極めて出来たが『唯一』は無理だと思った。
僕とルーカスに群がってくるご令嬢たちは目が獲物をねらうハンターのようで愛を囁く気にはなれなかった。
それが母上の親戚と言うこのクリスティーナの笑顔を見た瞬間溢れ出る温かい感情に彼女こそが僕の『唯一』だと思った
僕は帰国後、父上と母上に密かに報告をしてクリスティーナを僕の婚約者にとお願いをした
父上は喜んでくれたが、母上からはクリスティーナからも同じ愛情を貰ってこそお互いに幸せになれるのだからと言われ。クリスティーナと愛を育みなさいと諭された
だから、僕は公務や勉強の合間を縫ってクリスティーナに会いに行った。国を跨いでの訪問だ、そう簡単にはいつも行けない。でも頑張って時間を魔法のように作って通った
その度、ルーカスも一緒についてきたが・・・いつの間にか、ルーカスもクリスティーナに恋をしていた
譲るつもりはない。僕のほうが優先だと独占欲丸出しの男で不恰好なときもあった
たぶん僕は恋する男の顔になっていると思う
なのにクリスは恋情には鈍い・・・いや、慎重だったようだ
僕がクリスティーナからクリスと呼ぶことは容易に赦してくれたのに、なぜかこちらを愛称で呼んでくれない
訪問のたびにお願いしているのに恐れ多いと言われ素気無く断られる
気安くして欲しいと言っても同じだった
過度な触れ合いは真っ赤な顔で拒否される
この3年間は近づいて遠ざかっての繰り返しだった
どこか距離を置かれているようで、でも気がつくと懐に入っていて居心地が良くって・・・
そんな不思議な女の子だった
適度な触れ合い程度なら今までは、僕と一緒に楽しんでいたと思っていたのに今日は違っていた
クリスは行きの同乗を僕に赦してくれなかった
ルーカスが良いといったのだ
愛しく好きな女の子の口から別の、弟とはいえ男の名前を優先されるのは目の前が暗くなる感じを受けた
こんな感情は初めてだった
僕の中でドロッとして醜くて嫌な感情が襲ってきた
みっとも無く縋りついてみたが、クリスは至極全うなことを言って僕を黙らせた。
今まで意図的に僕はルーカスよりも僕を優先させるようにクリスを誘導してきた
いつか気がつくとは思っていたけど、いざクリスに言われると辛いものがあった
クリスは僕が嫌だと言ったわけじゃない。帰りは一緒がいいと言ってくれた。
頭では分かっていても僕を優先してくれなかったクリスに・・・いや、指名されて得意げに喜んでいるルーカスに面白くないと思うのは仕方ないと思う
だから、早く一本木に着いてしまいたいと早足で愛馬のフィンを走らせた。フィンも厩舎前でクリスに林檎を貰ってその後もクリスから離れなくって相棒もクリスが一目でお気に入りになったと思っていたのに・・・
そんな時、随分と遅れている ――先に僕が進みすぎただけなんだけど―― 後ろに目をやれば何かをルーカスが耳元で囁いて真っ赤になって恥ずかしがっているクリスが見えた
嫉妬
僕のこのドロッとした始めての感情がそう名前のあるものだと知った
僕は不機嫌を隠すことなく早く来るように呼びかけた
そして、ルーカスはやっと駆け足でこちらに向ってきていた、のだが、事もあろうか近づく直前になり行き成り疾走を始めたのだ
しかも、すれ違いざまのあの笑み
憎憎しいまでに晴れ晴れとしたそれでいて何やら言いたげな表情
我慢していた何かが弾けた瞬間だった
僕は慌てて二人を追いかけた
前を走るルーカスは愉しそうで、前に乗るクリスの様子は伺えない
昨日、乗馬の話をしたときの怯えた様子に乗馬は初めてと思うのに
ルーカスめ!
クリスが怯えていたら如何するんだ!!
そして、2人までまだ少し距離があるところで事は起こった
目的地の一本木に雷が落ちたのだ
フィンは驚き暴れそうになったが元より軍馬としての教育もしているフィンは直ぐに抑えることが出来た
しかし、ルーカスの乗るサムはまだ幼く軍馬の教育は始めたばかりのはずだ
見ると大きく前脚を上げて降ろしたかと思うと暴走を始めた
「クリス!!ルー!!」
僕は必死で追いかけたが何故だか追いつかない、
おかしい
向こうには2人乗っているのに
僕のフィンなら直ぐに追いつくはずなのに・・・何故?
前では必死にサムを落ち着かせようとルーカスが手綱を引くが強くしすぎたのか余計に暴れていた
危ない!!!
そう思った瞬間クリスが手綱を掴み巧みな手さばきで旋回させて行った
疾走してサムは徐々に速度を落とし描いていた円も小さくなりゆっくりと止まった
僕は呆然とその光景を見ていた
クリスが止めた?
何故?
何故、暴れ馬を・・・?
止まった馬上でクリスが脱力する様子が見て取れた
僕は慌てて2人の下に行き声をかけた
声をかけると弾かれたように顔を上げ僕らの心配をして無事をその目で確かめるとあからさまにほっとして肩の力を抜いた
そして、ルーカスを見ると酷い落ち込んでいた
ルーカスの気持ちはわかる
好きな女の子を危険な目にあわせただけでなく、その女の子に助けられてしまった
男として立つ瀬がない
情けない不甲斐ない気持ちでいっぱいだろう
ポツッポツッ
そうして佇んだいたら雨が降り出し僕らは、クリスの案内で狩小屋へ雨宿りに避難した
そこで僕は、疑問が徐々に深くなることになった
何故、クリスは小屋の鍵をもっている?
何故、暖炉の薪はいつでも火がつけられるようになっている?
何故?何故?何故?
そうして小屋の中でくるくる動くクリスに僕は一つの答えのような仮説をぶつけた
「君は、今日起こることを知っていたのか?」
◇
無事、怪我無くお二人を避難場所の狩小屋に案内して、まだ落ち着かないルーカス様をソファーに座らせて、濡れた上着を受取ろうとしていたところにレオナルド様が言い難そうにして、そして意を決して聞いてきた
「えっ?あの・・・なん、なんで?私、あの・・・」
思いも寄らなかった質問に驚いて言葉が出てこなかった
知っていたか?
はい、知っていました
でも、そんなことをいえるはずはありません
言えば何故知っていたかになるからです
ここは前世でみたゲームの世界ですなんて言えるはずない
「クリス、誤魔化さないで・・・
ねぇ、今日、君はこの外出で何かが起きるのを知っていたよね」
一言、一言かみ締めるように・・・レオナルド様はとても辛そうな顔で聞いてきます
知りません、たまたまですって言えばいいの?
でも、何を思ってそうレオナルド様が思ったのか・・・
「兄上?・・・何を?言って・・・」
ルーカス様もまだ青白い顔でレオナルド様を見上げます
「・・・クリス?
今日、出掛けたくなかったのは本当に雨が降る予報だったから?
本当に?今日、こんな事故が起こると思っていたからじゃないのかな?」
返事が出来ずに俯いてしまった
無言でいると言うことは肯定になると分かっていても嘘も真実も言えない
レオナルド様は、俯いた私の手を取った
「ごめんね。ルーを助けてくれたのに詰問して。
責めてる訳じゃないんだよ。もし、知っていて・・・クリスが知っていて悩んで今日をどんな気持ちで迎えたのか・・・僕は君の・・・」
私の手を取ったまま跪いて見えあげた
とても美しいエメラルドグリーンの瞳と視線が合わさる
「まだ、僕ではクリスティーナに信用してもらえる人物になれてないのかな?」
いつもの少し困っているようなのとは違う、本当に悲しそうな辛そうなその顔でわたくしは・・・私はもう隠し事は出来ないと悟りました
「・・・・・・わたくしは、いえ私は、今日が来ないといいとずっとおもっていました・・・」
強張っていた体の力を抜き口を開くと自然と涙が静かに零れた
もう、限界だった・・・
「私にはクリスティーナとして生まれる前の記憶があるのです・・・聞いて頂けますか?」
目の前で大好きなレオナルド様の瞳が驚きに見開いた
私が前世で知った情報では今日は、とても、とても悲しい出来事がおきる大きな切っ掛けとなる日でした。
私とレオナルド様、ルーカス様は、今日と同じ様に一本木までピクニックに乗馬で出掛けるのです。でも今日と違うのは私はレオナルド様と一緒に乗ったこと。そして、愉しく3人でおしゃべりをしながらゆっくりと進んでいってあの草原に差し掛かったときにルーカス様が競争だと言って行き成り駆け出しました。
私たちは2人乗りのため追いつくことが出来ないで、ルーカス様がもう直ぐ一本木のところで、あの雷が落ちてルーカス様の乗っていたサムは暴走を始めるのです
レオナルド様はサムの軌道を読んで先回りしてルーカス様より手綱を奪い、旋回するように併走して誘導してサムの暴走を止めました
私は恐怖で固まりレオナルド様の馬にしがみ付くのがやっとでした。暴走が落ち着いて私は、ほっとして体から力が抜けてズルッと馬上から気を失って落ちてしまうのです。
それをレオナルド様が私の体を掴んで一緒に落ちてしまったのです。そして、落ちたときに庇われた私は幸いに擦り傷と軽い打撲だけですんだのですが、レオナルド様は大怪我をして打ち所が悪く半身不随で寝たきりの身になってしまいました
私は、事故の原因が自分にあるとレオナルド様に一生を捧げて身の回りをお世話をしにフォルトゥーナに移り住むことにしたのですが、自由の利かないお体になったレオナルド様はそれまでの朗らかな人柄がかわって卑屈になって人を寄せ付けない方になってしまっていたのです。ルーカス様も事故の一因があると自分を責められて、レオナルド様がされていたご公務と勉強を引き継ぎ更に忙しくなるように様々な職務を行っていました
そして、2年近く経ったときにあることが切っ掛けでレオナルド様は自分の存在に嫌気がさして自害されてしまうのです。
私、クリスティーナの誕生日に・・・
そして、レオナルド様が亡くなって私は自国に帰されることになったのですが、王妃様のお心遣いによってルーカス様の婚約者にしていただき、心に傷を負ってしまったルーカス様もフォルトゥーナを離れてマラカイトの学園に留学することになったのです。
そこで美しい女性ヒロインにルーカス様は出会って、癒されて元気を取り戻されるのです。
私は、婚約を解消してもらいフォルトゥーナの教会に巫女として入りレオナルド様の御霊の側で生涯を過ごすと言うストーリーであったのです。
「・・・・・・わたくしは、最初の落馬事故さえ起こらなければレオナルド様もルーカス様も悲しむような未来を作らずに済むと、それはこれから起こりうることを知っている私だからできるのだと思って準備をしていたのです。」
話は長くなるので、ソファーに座りレオナルド様が入れてくれた紅茶はもう冷めてしまったけど話終わって一口喉に流し込んだ
両隣に座るレオナルド様もルーカス様も厳しい表情のまま固まっていた
「・・・まず、そのクリスの前世で知っているそのストーリー・・・確かに今日の状況に似ていたけど・・・」
ルーカス様がまだ信じられないと言うように言ってきます
そうですよね、お二人にはゲームとは言っていませんが書物か何かのように匂わせてそれに酷似している世界だとそこはぼかしたのですが・・・
「わたくしも、最初はしんじられませんでした・・・ですが、お誕生日のプレゼントが毎年一致していたのです。レオナルド様は、花束、花のペーパーウェイト、天使の置物、アクセサリースタンド。ルーカス様は、魔道書、花図鑑、クリスタルの動物の置物、花模様のキーホルダー。
情報通り全て一致していました。それで疑いもないと確信しました。」
そういうと、レオナルド様は左手をとり優しく握ってくださいました。
レオナルド様の手がとても暖かく私の手は強張っていたことに気がつきました
「クリスはどんな準備をしていたの?」
その視線はとても労わって下さる優しいものでした。
「まずは3年前より乗馬を習いました。侯爵家の騎士たちに訓練に参加させてもらいました。最初はよく落ちていたのですが受身を直ぐ覚えたので怪我は少なかったです。
それから、天気予報魔法です。急に雷がなるのを予測すれば少しでも回避できるかとおもったのですが・・・。
あとは、これは偶然産物なのですが我が領で採れる林檎は、リラックス作用があるようでして気性の荒い馬に食べさせると幾分か落ち着きだすのです。だから、出発前に食べてもらいました。少しは役に立てたかと思います。」
レオナルド様は話を聞いていくうちに大きく目を見開き、ルーカスも驚きに口をポカーンと開けている
どんな表情でも美形の顔が崩れないのはうらやましいです。
零れんばかりに瞳を見開いて驚いていたレオナルド様はソファーから立ち上がり、私の左手は離さないまま・・・
「ありがとう、クリスティーナ。
君の話を聞いて、君の素晴らしさを再確認したよ」
キラキラとしたエメラルドグリーンは、まっすぐこちらを見ていた
「やっぱり、クリスこそが僕の『唯一』だ。
好きだ・・・愛してるクリスティーナ」
そういうと跪いたまま左手に口付けをおとした。
ひゃぁぁぁぁぁっ!
いやぁ、待って、なんでそうなったの!!!
「えっ、まって、だって、前世の話って、信じてくれるの?私の頭が可笑しくなったとか思わないの!!」
あせって、言葉使いが荒くなる
「思わない!」
「最初は戸惑ったけど信じてる!」
自信満々に言い放つ2人
「ってか、兄上何をどさくさに紛れて告白してるわけ!」
「ふん!父上も母上も賛成して下さってるんだ。クリスさえ頷いてくれれば直ぐに父上に貰って婚約申込書を侯爵に渡す準備はできてるんだ。侯爵夫人からも許可貰っている」
何?何?何?
お母様もグルなの?
はぁ?
何が何なの?
「母上からは聞いていたけどまさか父上も抱きこんだのかよ!
クリス!・・・クリスティーナ僕も、ずっと君が好きなんだ・・・僕のことも考えてくれないか?」
横から手が伸びてルーカス様の両手で頬を包み込まれて正面を向かされてルーカス様も何故、愛の告白をするんですか!
はい?
ルーカス様も何故?
どうして?
「レオナルド様もルーカス様もちょっと待って!私のキャパオーバー!!!」
「うん、待つよ。お願いを聞いてくれたらね」
頭を抱えるようにして嫌々と首を振るとレオナルド様が優しく囁く
「お願い?何?」
もう、令嬢のクリスティーナの言葉使いは崩壊していた
「僕のことはレオと呼んで。呼んでくれたら婚約申込書を待ってあげるよ」
「僕もルーって呼んで」
さらっと愛称呼びの嘆願ですか?
でも、婚約ってそりゃレオナルド様のことは好きですが私は、普通の地味っこのモブなんですよ
メインキャラ並みのキラキラ王子様に釣り合うわけ無いじゃない!!!
もう!折角、運命のフラグ折りできたのに!
「「ねえ、呼んでよ♪」」
甘く囁く王子様2人
あぁぁぁぁぁ、私はモブなんだってばぁ!
モブが頑張ったばっかりに!
わたくしの平凡なモブ生活をかえしてぇ!!!!
読んでくださりありがとうございました
まだ確認中ですが誤字脱字が満載ですね
報告ありがとうございました