人々
その日最後の電車が駅を出て行き、改札から現れた大勢の人々が家路に着こうとしていた。
人々は自宅を目指すが、人混みの凄さに歩む速度は自然とゆっくりになった。大行列と言って良い程の人々の群が一定の速度で進んでいく。
その内、前方の信号が赤になった。だが、守る者は誰もいない。車に跳ねられる心配がないのだ。大通りや裏路地と、道という道で渋滞を起こし、もはや数メートルも進む事の出来なくなった、誰も利用する事のない車の間を、人々の行列はすり抜けていく。
やがて、誰かが自身の近くに乗り捨てられた車の窓ガラスを割り、中で横になった。帰宅を諦めたようだ。それを見た別の者達も、車の窓ガラスを割り、中で横になる。帰宅を諦めた人々は寝床確保の為、我先に車に群がり、そこで争いが起こった。その争いで何人かが亡くなったが、そんな事は些細な問題で誰も関心を示さない。重要なのは、横になって眠る事なのだ。
ガラスの割れる音と共に、上から人が降ってきた。収容人数を超過した、すし詰め状態の高層マンションの一室から人が押し出され、落下したらしい。
誰しもが両手を空に伸ばし、大きく深呼吸でもしたい所だが、手を挙げる事すらもままならない人混みの中では、そんな動作も簡単には出来そうにない。