宝登山に魔王があらわれました
宝登山は、埼玉県秩父郡長瀞町にある山。標高497.1m。 by wikipedia
宝登山に魔王があらわれましたらしい。
「とうとうこの時がきました、俺は勇者としての責務を果たせなければならない」
「もう行くの?」
「ああ、止めても無駄だ。しかし宝登山にいるとは好都合だ」
「どうして?」
「お正月食べまくってたから低山は助かる」
「そうね・・気をつけてね」
「ああ、いってくる」
勇者は意気揚々と出て行った。その時は彼はまだ知らない、この先に待ち構えている試練のことを。
一ヶ月後・・・電車のホームにて
「それで?どうしてわたしまで一緒に行かなければいけないの?」
「ああ、単刀直入に言う。俺の仲間になってくれ、ツーちゃん」
「どうして?わたしは魔法使いでも聖女でもありませんけど」
「問題ない、仲間になってくれればそれで。どうやら俺一人では、魔王のもとにたどり着けないような呪いがかかっているようだ。何回もチャレンジしたが間違いない」
魔王はどうやら小心者のようだ。
「仕方がないですね」
「助かる」
こうして、勇者は初めて仲間ができました。
「じゃあ乗りましょっか」
「おい、どこに行く」
「宝登山行きは前の4両だけだから」
「なん・・・だと・・・」
勇者にかかった呪いは解けました。
・・・・
・・・
・・
・
「よし!ついたぞ!」
「寒いですね」
「早くも魔王の影響だな。見よ、雪が積もっている」
「そうね、天気予報もそう言ってたね」
かすかな雪の痕跡を勇者は見抜きました。
「慎重に行くぞ」
「うん」
勇者一行は警戒しながら先を急ぎました。山の麓、そこにあったのは・・・
「池が・・・凍りついてるだと」
「がっちがちだね」
池の水が完全に凍結状態でした。勇者は焦る心を抑えて山を登りました。
「人がいるぞ、魔王から逃げているかもしれん」
「どうするの?」
「ほっとこう」
勇者は一般人の救助には興味がなさそうだ。
「あ、すいません」
「っ?!」
「こんにちは」
仲間は冷静でした。
「こんにちはー、えっと氷池はこっちから降りるであってますか?」
「こっちであってると思います」
「ありがとうございます!」
謎の人物は勇者一行が来た道に去っていく。
「さも当然のように氷池と・・・魔王軍の幹部か?!」
「そうね、その看板も魔王軍が立てたものかもしれませんね」
「なに?!」
魔王軍は道作りに抜け目がないようだ。
・・・・
・・・
・・
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稜線に出た勇者一行の目に映ったのは異様な光景でした。
「人が・・・列をなして移動している」
「そうね、あっちは山頂らしいから」
「魔王に操られたのか・・・」
勇者は考えた。
「しかし思ったよりも力が強いかも知れんな、魔王が」
「どうするの?」
「八ヶ岳の仙人から聞いた鍛錬法、それでレベルアップしておこう」
勇者は謎のストレッチをしました。勇者の表情は苦痛に満ちたものに。
「だいじょうぶ?」
「問題ない」
「レベル、上がった?」
「ああ、1回でレベル30上がる優れものだ」
近未来的なレベリングテクニックは凄まじい。
「レベルは最大いくつなの?」
「99だな」
「駅前でもストレッチしたよね?」
「あぁ、きっちり左右8回ずつで2セットだ、基本中のき・・・ほん・・・?」
勇者はすでに最強でした。
・・・・
・・・
・・
・
ようやく山頂に到着する一行。そこは一面の薄黄色でした。
「はぁはぁ、匂いで・・・はぁ・・・わかるぞ・・・はぁ・・・魔王が近くに」
「綺麗なお花、ここは蝋梅園ね」
「はぁはぁ」
勇者は途中で消耗して、回復が必要でした。
「ふぅ、ふぅ、助かった。それにしても、なんて迂闊な。魔王の居場所はわかった」
「どこ?」
「あっちだ、花が赤くなっている。行くぞ!」
「作戦とかはいいの?」
「魔王をぶっ倒して、ここの自然を元に戻すのみ!」
勇者は脳筋でした。
「そう、でもあの花はもう助からないの」
「なぜそれがわかる?!まだ間に合う」
「あれは梅の花だから」
「おうふ?!」
・・・・
・・・
・・
・
『グアァァァァ』
魔王は倒されました。
「いかん、魔王を倒してここの空間が崩壊し始めた、早く離脱するぞ!」
「あ、待って」
「よし、ロープウェイで逃げよう」
勇者は活路を見出した。
「・・・勇者なのに?」
「なにをいう、利用できるものは何でも利用して生き残るのが勇者!」
勇者はずるかしこかった。
「なに、案ずるな、あれに乗れば5分で下まで行ける、俺を信じろ」
勇者はチケットを購入することにした。
「ロープウェイのチケットをお求めですかー?」
「あぁ、大人二人だ」
「はい、これチケットね、列の最後尾はそちらになりまーす、今30分待ちになりまーす」
「ちくしょーーーー」
勇者一行は崩壊に巻き込まれました。
・・・・
・・・
・・
・
「ひどい目にあった・・・」
「でも無事に下山できたし」
「そうだな・・・」
こうして、宝登山の魔王は勇者一行の活躍により見事に討伐されました。
「だが、すでに出た被害は無くならない、子供達は・・・」
「子供達はなんともないんだから、ほら元気出して、せっかくだしかき氷食べよ」
「なっ!」
勇者は目を見張った。
「そうか!その手があったか!」
「どういう」
「魔王の高純度氷魔法の爪痕を削り取って売り物にするとは、くくく、人間はなんと逞しい!」
「・・・確かにそれ美味しそうね」
「よし、俺の奢りだ、好きなだけ食え!」
「いいの?ちょっと嬉しいかも」
勇者は太っ腹のようだ。
「はい、こちらお会計-----円になりまーす」
「ぐはぁぁぁぁ」
今日も山は平和でした。