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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園二年生編

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サバイバルゲーム【前編】



「無痛症?」

「らしーでーす! 頭の怪我から意外な事実が判明したね! 俺は病気だそーだよー悲しーよー! ケリー、優しくしてねー」

「知りません。離れてください」


「……………………」



本日も薔薇園はえげつない喧しさに支配されている。

昨日ライナス様がハミュエラを説得し、エディンが口八丁で丸め込み病院を受診させた結果…やはり難病『先天性無痛無汗症』だった事が判明。

どうやら汗もかかない無汗症というのも併発しており、体温調節もド下手だという。

ウェンディールの気候は夏も涼しいので熱中症などになりにくいが、汗で体温調節が出来ないのは結構これもこれで危ない。


「他にはどんな事に気を付ければいいんだ?」

「えーと、骨折や裂傷等にも気付きにくいようだ。後はやはり体温調節が出来ないので熱中症や低体温症に気付かないうちになっている事もあるらしい」

「うわぁ、怖いさ〜っ!」

「気付かないうちになっているというのが恐ろしいですわね…」

「ハミュエラの場合、常に動き回っていて体の熱が逃げない事が問題だろうな…。よく今まで病に気付かず生きてこれたものだ…」


と、開いた本の上から目を細めるアルト。

いや、もう本当ごもっとも…。

親もよく気付かなかったもんだなぁ…。


「ところで今日はエディンがいないんだね?」


お茶淹れながら…って待てレオ、それは俺の仕事だぞお前また…!


「俺が淹れます! なんでナチュラルにお茶を淹れてるんですかレオハール様!」

「あ、ご、ごめんつい…」


恐るべし使用人体質…!

王子なのに…!

……あ、俺人のこと言えなかった…。

まぁいいや。


「どうせ早速有言実行しようとしてるんじゃないんですか」

「あ、ああ…」


スティーブン様の冷たい眼差し。

…例の件か…成る程な。


「はいはーい! 皆さん今日の放課後宝探しやりましょー!」

「は?」

「はい?」

「宝探し?」


ケリーの顔がヤバい。

またもなんか言い出したハミュエラに、眉を下げつつ視線を向ける一同。

宝探し?


「南校舎の裏側で宝探しサバイバルいえーい! 5つのお宝隠しまーす! 5人1人ずつお宝守りまーす! 隠して守って遭遇したらバトって奪う! 探して見つけて我が物でーす」

「アルト、ルール説明を頼む…」

「つまり、南校舎の裏側に森林公園があるだろう? あそこに1人1つお宝を持って潜む。ゲーム参加人数は最大5人。つまりお宝も5つ。宝は隠して、参加者は他の参加者の宝を探しつつ自分の宝も見つからないようにする。参加者同士は他の参加者の宝を探し回り、参加者同士が遭遇したら戦って勝った方が負けた方の宝を奪える。最終的に全員の宝を総取りした奴が優勝」

「成る程、なかなか面白そうだな」

「そうですね」

「私は遠慮します…戦うってつまり剣技の勝負ですよね?」

「はーい! 訓練場ばかりだとそれ以外の環境下の戦い方下手になるんで森の戦い方とかの訓練になるんですよいえーい!」

「くっ…同意したくないが言ってることは正しい…」


ああ、ケリーがまた凶悪面に…!


「俺っちは参加しまーす! ケリー遊ぼう遊ぼう!」

「上等ですね叩き潰して差し上げます…」

「俺も是非参加しよう! …それにしてもケリー君はたまにヴィンセントみたいになるな?」

「どういう意味ですか?」

「そのまんまの意味だべさ…」

「あ?」


ライナス様もマーシャもケリーが俺みたいになるって…どこがだ。

なんとなくいい意味で言われていない気がする!


「オレは絶対やらない」

「僕も遠慮するよ。城に帰って仕事しないといけないんだ」

「ぼ、ぼくも……剣も隠れんぼも得意じゃないので…」

「はいはーい! それならわたしやりたいでーす!」

「マーシャ…貴女は今日ダンスのレッスンの日でしょう」

「うっ!」

「勿論お前もやるよな? ヴィニー」

「ええ〜…」


剣技の勝負アリの宝探しサバイバル…。

ハミュエラめ、変なゲーム考えやがって…。

それとも貴族の間ではポピュラーな遊びなのか?

ポンコツメイドはともかく、ハミュエラとケリー、ライナス様…俺を入れても1人足りないぞ?


「残り1人はどうす…」

「ルクたんやろうよやろうよ! 遊ぼう遊ぼう!」

「あううううぅ〜」


ル、ルークが捕まった…!


「こ、こらハミュエラ! 無理を言うものではないぞ!」

「大丈夫だよルクたん! ライナスにいには隠し事下手くそな最弱確定! 俺っちも隠れるのは大の苦手ー!」

「…………」

「…………」


た、確かになー…。

っていうか、苦手なのに…やるの?

言い出しっぺも不利なゲームってなにそれ…。


「ルクたん小さいから絶対有利ー!」

「まあ、確かにな」

「体格的には一番小さいですしね」


…あ、それって俺も不利じゃね?

…………まさか…ケリー…。


「なんだ?」

「お前まさか俺の体格不利なのを承知で…」

「それもあるけど、お前の剣、変わってるんだろう? ちょっと見てみたかったんだよなー」

「…………」


こ、このガキ…!


「じゃあ放課後南校舎裏の森林公園でー! いえーい!」

「ハミュエラ! 走り回るな! 周りをちゃんと見ろ、怪我したらどうする! タオルと水筒は持ち歩け!」

「はーい! 多分ねー!」

「多分じゃダメだバカ!」


………アルト、ハミュエラのお母さんみたいになってるぞ…。











********



…うーん、もう五月になるから大分あったかくなったなー。

南校舎の裏の森林公園…去年は全然来たことなかったけど、こんな開放感ある爽やかな場所だったのか。

今度の昼飯、ここで食べるのもありだなー。


「わ、わあ…ピクニックしたくなる場所ですねー…」

「それもいいな。近場だけど、今の時期ならピッタリだ。あの丘の部分にマットを敷いて、机を持ってきて…、…あ、バーベキューするのもありかもしれないな」

「バーベキューってなんですか? お義兄さん…」

「えーと、外でやる盛大な焼肉パーティー?」

「わあ、すごいですね!」

「だろう? 楽しそうだろう?」


あれ、なんか心が癒される…。

ルークってほんとにレオと同じ癒し系だな〜…ほっこりする〜…。

…レオは最近俺の王族の勉強の時はあんまり癒し系じゃないけど…。


「…焼肉パーティーだなんてさすが貴族の方々はやる事がすごいです…」

「え?」

「お肉だなんて…ルコルレ村では『女神祭』の時にしか食べません!」

「…あ…」


そ、そういえばそうだな?

家畜業でもやってなきゃ肉は高級品か…。

食っても鳥だ。

や、ヤベェ、俺もなかなかに感覚が貴族寄りかもしれない。


「そういえばルークはあんまり肉は食わないな? 調理場に材料として置いてあるのに」


と、会話に入ってきたのはケリー。

確かにルークの弁当は大体ケリーやハミュエラたち用のものより質素なことが多い。

パンと野菜の炒め物とかパスタとか。


「貴族の皆様の食べられるお肉を僕が食べるなんて、そんな恐れ多いです…!」

「はあー? 良いんだよ置いてあるんだから。なあ? ヴィニー?」

「そうだぞ。それに食べなかったら悪くなる。肉になった牛や豚に失礼だろう。ちゃんと食べてやらなきゃ。あいつらは命を懸けて俺たちの食卓に並んでいるんだ」

「……‼︎ ……、そ、そうだったんですね…っ。ぼ、ぼくは今までなんてひどいことを…」

「……いや、そんな深刻になられても…」


……天使かな…?


「ハミュエラ参上ー! 俺っちが現れましたよー!」

「ハミュエラ! 普通に道を通れ! なんで林を突っ切ろうとするんだ!」

「コラ! 定期的に水分を摂れ! お前は体温調節もまともに出来ないんだぞ!」


うーん、完全に保護者とオカン!

ライナス様、アルト!


「フェフトリー様はダモンズ様の母君みたいですねー」


あはは、ってケリーそれ言っちゃう⁉︎

俺ですら飲み込んだのに…!

は、はっきり言っちゃったー⁉︎


「なっ! ふ、ふざけるな! オレは別にハミュエラのためにやってるわけじゃ…! こ、これは、そ、そう! コイツの体質を記録して後世の『無痛症』患者の治療に役立てる為の観察だ!」

「ナルホドー」

「なんだその棒読み!」

「いえ? フェフトリー様は素直ではないな〜? と思って。お優しいんですね」

「なっ! なっ! ち、違う! ほ、本当に別にハミュエラのためじゃ…」

「はいはい、ダモンズ様の為じゃないんですね。可哀想ですねー、ダモンズ様。フェフトリー様に大嫌いなんて言われて」

「い、言ってないぞ⁉︎」

「じゃあ大好きなんですか」

「だ、大好きなんて言ってない!」

「ケ、ケリー様…」


や、やめたぁげて〜…。

顔真っ赤だし涙まで浮かべてるからやめてあげてよ〜…。

ケリー、俺の思ってる以上にサディストっぽいんだけどどうしてこうなった〜?

昔はやんちゃだったけどこんな言葉責めするような子じゃなかったのに〜!


「あ! お宝はコレだよー!」


空気クラッシャーナイス!

無意識であろうが半泣きになりつつあったアルトを救ったハミュエラが取り出してきたのは、紙ナプキンで可愛らしくラッピングされた…クッキー?


「ローナオネーサマに作ってもらいましたー!」

「は?」

「は?」

「ライナスにいににはスティーブン様に作ってもらったクッキーでーす!」

「な、なに⁉︎ スティーブンから⁉︎」


青いリボンの包装紙に包まれたクッキーがスティーブン様の手作りクッキーらしい。

は?

待て、ハミュエラ、貴様どういう事だ? は?


「義姉様から? いつの間に…⁉︎」

「ご飯の後お宝欲しーですってお願いしたら作ってくれたんだよーん! スティーブン様も練習がてら作ってくれたから俺っちの分もくれたよラッキー! ルクたんにもローナオネーサマの手作りクッキーあげる〜」

「あ、ありがとうございます。わあ、ローナお嬢様の手作りだなんて光栄でっ⁉︎」


受け取った俺とケリーに先ほどまでの「テキトーに負けて終わらせよう」感は既にないだろう。

ルークが跳ね上がる程度に、もはや俺とケリーからいつもの感じは消えているのだ。

つまり、あれだろう?

お宝とは、隠してもいい。

というか、隠す。

そして奪われないように守りながら他の参加者から宝を奪う。

ふ、ふふふ…成る程?


「いやもうこのままピクニック的な感じで食べません?」

「それな」

「えー、それじゃつまんないよー、遊ぼーよ〜!」

「逆にした方がいいんじゃないのか? 作り手を」

「⁉︎」

「は⁉︎」

「あ! さすがアルト! それはいい考え! そうしよーそうしよー交換しよーう!」

「ええ⁉︎」


悲痛なライナス様の声。

そして俺とケリーの分はスティーブン様の手作りクッキーに取り替えられる。

ライナス様とハミュエラはお嬢様の手作りクッキー。

お、お嬢様の手作りクッキーぃぃい!


「はい、木剣!」

「は…!」

「では開始〜! いっえーい!」

「っ!」


……真っ先に森の中に隠れるハミュエラだが、このゲームがそもそも初めての俺たちはその場でどうしようかと立ち竦む。

ライナス様もアルトを振り返って困惑気味だ。

体格的に俺とライナス様が不利なのはなんとなく分かるが…。


「このゲーム、ウエスト区ではポピュラーなんですか?」


とはケリーだ。

話しかけた相手は無論、一番澄まし顔のアルト。


「知らん。…ただ、普通に考えて先に動いて陣地の確保をした方が有利ではあるだろうな」

「そうですけど…この公園意外と広いですよね? あまり広すぎても守りきれませんし、せめて範囲を決めないと…」

「普通はな。…あいつそこまで考えてないんじゃないか?」

「…………」


頭を抱えたケリー。

…まあ、つまりそういう事のようだ。

あ、これ結構頭も使うゲームっぽい。

……え、ますますハミュエラには不向きなのでは?


「…罠オーケーだったら俺もソッコー森林エリアを取りに行くが…」

「ケリー?」

「そういう事も特に言ってませんでしたよね? フェフトリー様」

「ああ。そこまで複雑に考えてないと思う」

「それでも真っ先に森林エリアを進むとは…。無意識か? 本能か? ハミュエラ・ダモンズ、読めねぇ…」

「とりあえず俺たちも移動するか。その、陣地? と言うのを決めておいた方が円滑に進められるなら我々だけでも決めておこう」

「そうですね。ヴィニー、森林公園の全体図は?」

「東西南北を木々に覆われていますが、敷地内ですのでそれ程木々が密集してはおりません。公園を目的として作られているのでざっくりと東の森林にガゼボ、西にベンチ、南に丘、北に花壇、中央に噴水広場とお考え頂ければ分かり易いかと」

「ハミュエラが突っ走った方向は南西だな。つまりベンチか丘の付近。行動は読めないがむざむざ目に付く丘の方を陣取ったりはしないだろう。丘の上は迎撃に向いている。ライナス様とヴィニーはそちらをお勧めしますが…」

「そうだな。では俺は丘を頂く」

「ガゼボは砦として使えますね。ルークはそちらが向いているんじゃないか?」

「え? あ、は、はい? はい」

「じゃ、俺は中央…この場所を貰う」

「分かりました、俺は花壇の方へ参ります」

「…………」


ポカーンとなるルーク。

だが、俺とケリーはもう遊びではなくなっているのだ。お前は数的にお嬢様のクッキーを手にしているが、アルトの提案のせいで俺とケリーはスティーブン様の手作りクッキーを渡されてしまった。

つまり…。



(義姉様のクッキーを手に入れるために、ハミュエラとライナス様をブッ潰す…!)



状態のケリーと同じ状況なのだ!




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