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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園二年生編

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重要会議の開催です




「宗教学に関して聞きたいことがあると言うのはどいつだ」


…………え、偉そうだなー…。


腕を組み、尊大な態度で薔薇園に現れたアルト。

ライナス様は目を丸くする。


「お、お前がハミュエラに連れられずに普通に現れるなんて…!」

「なんの感動ですかライナス兄さん…」


プルプルと感動に打ち震えるライナス様。

…全くである。

なんの感動だ、それは…。

だが、記憶を辿ると確かにほぼハミュエラに強制連行で薔薇園に来ていたな…。

そう考えると…こ、こいつも大概ハミュエラの餌食、いや犠牲…被害者だな。


「ケリー・リースの従者に聞いたから、来てやっただけだ。べ、別にあいつにはここ数日食事を世話してもらったからその礼というわけじゃないからな!」

「意外と律儀ですよね、アルト様」

「は、はあ? だから別にそういうわけじゃ…」


……わぁ、ほ、本当に典型的ツンデレだぁ…。

意外とツンデレキャラも嫌いじゃないんだよ、俺。

…………じゃ、なくて。


「そういえばハミュエラはどうした?」

「あいつ抜きで落ち着いて宗教に関して聞きたいというから、ケリー・リースの従者に囮を頼んだ」

「…………」


ライナス様が無言で先に来ていたケリーに頭を下げる。

それを何も言わずに頭を下げて受けるケリー。

…もはやあの2人の間に言葉はいらないらしい。

その関係性に落ち着くの早すぎやしないか…?

まだ2週間だぞ…?


「で、どの宗教の話を聞きたいんだ? なんでも答えてやろう」


むっふー、とドヤ顔で胸を張るアルト。

俺が思っていたより宗教学にどハマりしてる奴だな。

だが、こちらも朝に事前に打ち合わせしている。


「はーい。僕だよ」


手を挙げたのはレオ。

アルトの表情が、一瞬固まった。


「…レ、レオハール殿下…⁉︎ 居たんですか⁉︎」

「え、僕そんなに影薄い?」

「ち、違…、…そ、そこのデカブツが邪魔で見えなかったんです!」


デカブツ…俺、エディン、ライナス様…が、それぞれ指差される。

お、おおう…。

確かに俺とエディンとライナス様は180超え…。

とは言えエディンはセントラルに唯一家を置くことを許された公爵家子息。

それは無礼にあたるんじゃ…。


「ふむ、デカイと言われるとなんとなく悪い気はしないな」

「エディン、ヴィンセントでかなり暴言に対して免疫が付きましたよね…」


俺やライナス様はともかくエディンは怒るんじゃ、と思ったがスティーブン様の言う通りなんか免疫付いてる…。


「良かったね、義兄さん! デッカいって褒められたさ!」

「……そうだな…」


お前もかマーシャ…。


「す、すみません。なにをご説明すれば宜しいでしょうか…」

「急にかしこまられるのも変な感じだから今まで通りでいいよー?」

「いえ、それはさすがに…」

「そう? えっと実はエメリエラの事で困っていることがあるんだ」

「‼︎ 新しい女神様ですね⁉︎」


く、食い付きがめちゃくちゃいい!

椅子を掴んでレオの横に持ってくると、ドスンと座る。

ひ、人嫌い設定は何処へ⁉︎


「やはり王家で新たな守護女神に関して宗教を立ち上げられるのですか⁉︎ オレでよければお力になります!」

「あ、うーん、ちょっと違うんだ。あのね………」


まあ、食い付きが良いのはむしろ助かる。

レオがエメリエラに関する心配事…人々の信仰により、歪んでしまう可能性。

そして、信仰がなければ存在が安定しない話を丁寧にしていく。

なんとかプラスに働くよう、人々の信仰心を誘導できないものか…。

戦争や戦巫女のこともあるし、エメリエラの力の安定は必要だ。

女神祭だけでより安定してくれればいいが…レオ曰く「ヴィニーなら声くらい聴けそうなんだけどなぁ」らしいので俺が声を聴き取れないという事は、まだそこまでの力を取り戻したわけではないという事らしい。

…まあ…『クレースの恩恵』…クレースの名前を頂いていない事もあるのかもしれないけど。

因みにマーシャの場合は「魔力が全然ないのだわ、らしいよ」との事なので声を聴けるかどうかも微妙なようだ。

まあ、自分が本物のマリアンヌ姫ということもまだ知らないから……いや、本当タイミングが難しいよコレ…。

俺みたいに爆弾投下されたみたいなのは可哀想だ。

うーん…。


「成る程…より多くの認識と信仰。そして、民の信仰心を正しく導く方法ですか。……………。…あ、それならば結婚式を利用してみてはいかがでしょう」

「結婚式?」

「多くの女神信仰があるにも関わらず、結婚式は互いの親類に愛を誓う風習が多い。でも、ラスティの話だとノース区の一部地域には女神にそれを誓う風習があるそうです。今のお話ですとエメリエラ様は愛の力でお力を増すと仰っていましたし、それならば結婚する2人の愛を女神エメリエラ様に捧げれば良いのではないでしょうか! それを国全土に風習として広げ定着させればエメリエラ様は愛を司る女神様になられることでしょう!」


…………今呼吸してた?


「愛…。確かにエメは愛の力がどうとかよく言うな…………、あ、はい、そうだね、愛の力で力が強くなるって……、わ、分かってるよ〜…」


エメリエラになにか言われているらしいレオ。

…というか、アルトがキャラ変わりすぎてちょっとビビる。


「アルト・フェフトリーってあんなやつだったんだ…」


ポツリとケリーが呟いた。

…良かった、そう思ったの俺だけじゃなかった。


「…うん、良い考えかもしれない。結婚式は愛と希望に満ち溢れた行事だし、年に一度ではなく国中のどこかで毎日行われているものね…! それが習慣となればエメの存在は安定するし、力も増す…! 素晴らしい考えだよアルト! ありがとう!」

「では早速詳細について書き記していきましょう」

「⁉︎」


ドサッとどこからともなく分厚いノートを取り出すアルト。

ど、どこにお持ちだったのでしょう?


「オレは本来古い宗教についての解釈を調査するのが好きなんですが、新たに宗教を立ち上げるのであればこれまでの歴史に残る宗教を参考に、より国に浸透していくものを考えるのも悪くない。そもそも宗教というのは洗脳の一部であり、人は自ら進んで神という存在に洗脳されていくものなんです。実に興味深い…! なぜ人間はわざわざ自ら進んで洗脳に染まるのか…宗教というものがなぜそこまで人の生活の一部として定着するのか…守護女神が人心に浸透していく様をこの目で観察できるなんて最高だ…! 歴史の証人となるのだから最初から全てを記して…………」

「…………」


……レオがドン引きしている。

無理もない。

そして、俺たちもドン引きしている。

仕方ない。

…な、なんかこの光景前にもどこかで…。


「とりあえず、問題は一つ解決でしょうかね?」


あはは、と乾いた笑いで場を締めるスティーブン様。

そ、そうですね…ははは。


「そうだな、ある種一番難しそうな問題が解決したな。……あのぶつくさ言うところはともかく、フェフトリーに知恵を借りるのはいい案だった。よく思いついたな?」

「え? あ、ああ、女神といえば女神信仰だろう? 俺たちより専門的に調べている人の方が良い考えを出せると思って…」


どうせ攻略対象とは親睦を深めたいと思っていたしな。

…ラスティがここにいないのが少し心配だけど…、ライナス様やアルトと親睦を深めていけば紹介してもらえるだろう。

というか、ハミュエラとアルトがケリーと共に薔薇園で昼食を摂るこの流れ的にラスティも来年から参加しそう…。

辛い…ものすごいカオスな予感しかしない。


「では次の問題…『元サヤ作戦』収束について!」

「それはもちろん…!」

「公表もしていないのに例の作戦は出来ないだろう」

「…くっ…そうなんですよね…」


レオとエメリエラの事はアルトに任せることにして、俺たちは『元サヤ作戦』をいかにスムーズに収束させるかの話し合いだ。

俺が王族である件は伏せている。

今後公表するつもりもない。

だって混乱を招くだけだし、次期王はレオに決まっている。

ここで『正妃ユリフィエ』の息子が出てきたら血筋的になんか勝ってるらしい俺を祭り上げる連中が現れるのは目に見えている…絶対お断りだ!

スティーブン様もレオ派だから、俺を無理に引きずり出す事は出来ない。

年始に言っていたお嬢様を『王族2人の婚約者に作戦』は実質不可能。

となると、俺とエディンの念願…『ローナ・リースをレオハール王子の婚約者に据える』しか方法がなくなる。

…だが、これも些か面倒な弊害があるんだよなぁ…。


「…とは言え、レオハール様だけだと例の噂の延長になりそうなんですよね」

「そうなんですよね…。それも問題です。どうしたらいいでしょう。やはりエディンの暗殺でしょうか?」

「おいコラスティーブ…!」

「それはいいお考えですね。協力いたします」

「ケリー?」

「すみません、冗談ですよ義姉様」


…多分九割本気だ。

俺は…エディンがレオ大好きなだけの可哀想な奴だと悟ったので、もうそこまでの憎悪と殺意はないが…ケリーはまだ沸々と滾らせている感あるし。

…しかし、婚約一つでこんなにあーだこーだと…貴族ってめんどくさい。

まるで芸能人だな。

…………芸能人…。


「…………いえ、逆にそれを利用しましょうか…」

「え? なんですか、ヴィンセント」

「ですから、あの噂を逆に利用するんです」

「あの噂…? それは、まさか…」


「いっえーい! 仲間はずれはいっけないんだーよーん!」

「あううう〜!」


バッ、と全員が薔薇園の入り口を見る。

ルークを担いだハ、ハミュエラ⁉︎

あからさまにアルトとケリーが表情を歪めるが、そんな事お構いなしで入ってくる。

う、うわあ、見つかった!

…や、やはりルーク1人では限界があったか…!


「す、すみませんお義兄さん〜…」

「い、いや…すまなかったな。お疲れ…」

「はいはーい! みんなで劇を観に行きましょー⁉︎」

「は、はい⁉︎」


ばばっと椅子と椅子をくっつけ、そこに登るハミュエラ。

さ、最初からエンジン全開過ぎて追い付けない…!

人差し指を天に掲げて、何か言い出した。


「え、演劇?」

「じゃじゃんとす! 昨日街に遊びに行ったらもらったんだよーん!」


と、懐から取り出したのはチラシだ。

流麗な絵と文字で『薔薇乙女騎士エリーゼ』と書いてある。

…あ、れ? どこかで聞いたような…?


「『薔薇乙女騎士エリーゼ』が演劇になってるんですか⁉︎」

「わあ⁉︎ ほ、ほんとだべ⁉︎」

「⁉︎」


ハミュエラの見せてきたチラシにがっつり食いつくスティーブン様とマーシャ。

…スティーブン様が、落ちた…!

この瞬間、俺とエディンは悟る。

『元サヤ作戦収束会議』終了!

バ、バカな……早すぎる…!

まだなんの解決もしてない!


「『薔薇乙女騎士エリーゼ』とは、恋愛小説ですか?」

「はい! そうです! クールな乙女騎士エリーゼはたくさんの男性に愛を囁かれるのですが彼女は自分が認めた女王…アメジストにのみ忠誠を誓い…愛を捧げるのです…!」

「……は、はあ…」

「あの禁断の恋のイケナイ感じが素敵なんだよなぁ〜! スティーブン様!」

「そうなんですよねぇ〜!」


きゃっきゃきゃっきゃと始まりましたー…。

ああなると手が付けられない…。

…っていうか、それ演劇にして大丈夫なのか…?

か、かなり危なそうな内容に感じたんだけど…。


「また始まった…」

「ハミュエラ、スティーブンたちを巻き込むんじゃない! 演劇なら1人で観に行けばいいだろう⁉︎」

「何を仰るんですか、ライナス様! 私は行きます! 1人でも!」

「ええ⁉︎」

「わたしも行きます! スティーブン様!」

「はい! マーシャ、一緒に行きましょう!」

「え、ええ〜…」


…ラ、ライナス様が秒で敗北した。

そしてマーシャも何か言い出した。

あ、頭が痛い。


「おいこら待てマーシャ、演劇を観に行くお金なんてあるのか?」

「ぐはうす⁉︎」


お小遣いもすぐに恋愛小説で使うこいつに、貴族の娯楽である演劇を観に行く金があるとは思えない。

演劇ね…城下町に歌劇場があるのはなんとなく知ってたけど、まさか恋愛小説が実写化して公演されているとは…。


「マーシャの分は私が出します!」

「いけませんわ、スティーブン様。甘やかさないで下さい」

「あ、あう…。で、ですがローナ様…私はマーシャと…」

「それにマーシャには来年からアミューリアへ通うための準備をさせています。演劇を観に行くほどの所作が出来ているのなら話は別ですが…」

「へ、へ⁉︎ 演劇観るのにマナーがあんのですかお嬢様⁉︎」

「…コレです。…許可できません!」

「んがっふ⁉︎」


…お嬢様NG…。

だがお嬢様がダメというのも当たり前。

演劇は“貴族”の娯楽!

…当然、観に来る客は全員が貴族!

そんな場所にこの何も分かってない田舎娘が行けるはずもない。


「えー、じゃあ特別席を用意するよー!」

「へ?」

「ハミュエラ様?」

「劇団長は知り合いだから区切って貰えば良いよねー! はーいけってーい! あ、お金もいらないよー、俺っちが誘ったんだもんみんなの分は奢りまーす! じゃあ今度の日曜日、お昼の1時にウェンデルの西の歌劇場前に集合ヨロでーす! いっえーい、そうと決まれば劇団長にお話して来るよー! にゃーんははーん!」


………あ…嵐が去った。


「…………。ハ、ハミュエラ様めっちゃ良い人…!」

「⁉︎」


マーシャまで陥落⁉︎

手を組んで、キラキラとその後ろ姿を見送る。

スティーブン様も嬉しそうにマーシャに近付いて「よかったですね」と微笑む。

しかしお嬢様は頭を抱える。

反論の隙さえ与えられずに決まってしまった。


「…意外だな、ハミュエラ様は演劇や歌劇を嗜まれるのか…」

「そういえば…」


俺の横にいたケリーの言葉。

確かに俺もハミュエラのイメージにそんなもんはない。


「そうでもないぞ。ウェンディールウエスト区、首都『エステル』は芸術の街だ。演劇、歌劇はもとより美術品や工芸品、絵画や彫刻…様々なものが生み出されている」

「ああ、そういえばそうでしたね…。けれど、あまりにもハミュエラ様とイメージが…」

「それはまぁ…」


そうなんだよな。

エディンの言う通り、ウエスト区の首都は芸術の街と言われていてこの国の美術品や工芸品のほとんどはウエスト区から生み出されている。

『ウェンデル』の西側はその影響を受けて、ウエスト区から来た者たちが『エステル』の街で磨いた腕を発揮する夢の場所となっているのだ。

えーと、日本でいうと『エステル』は東京?

そんで『ウェンデル』はアメリカだな…。

そんな感じだ。


「! そうだ、イースト区といえばコメ!」

「は?」

「アルト様! お話があります!」

「は?」


俺が突然手を叩いて何か言い出したケリーを見た時にはそこにケリーの姿はなく、アルトへとずんずん近づいて行っていた。

え? 今なんて言った?

コ、コメ? コメって言った⁉︎


「イースト区では小麦に似た、しかし全く違う主食があると聞いたのですが⁉︎」

「ああ、米か?」

「お米があるんですか⁉︎」

「ひ⁉︎ な、なんだ⁉︎」


米⁉︎ 米がある⁉︎

でもよく考えればあっても不思議じゃない!

だってここは『フィリシティ・カラー』の世界…。

そして『フィリシティ・カラー』製作会社は日本!

曜日も月も時間も全てが日本基準!

そう思えばお米もあってもおかしくなかった!


「く、詳しく! ぜひ詳しく!」

「なんでもイースト区には独特の食文化があるとか!」

「…あ、ああ…そ、そうだなこちらよりは変わっているとは思うが…ちょ、近い! 離れろ!」

「ヴィ、ヴィンセント、ケリー君! 少し離れてくれ! さすがに近すぎる!」


米があればおにぎり! 丼! カレーライス!

日本人の心! 米ー!

詳しく! めっちゃ詳しくー!




「……お前の執事と義弟は料理が相当に好きなようだな」

「…え、ええ…わたくしが思っていたよりも好きみたいですわね…」

「料理かぁ…僕も今度やってみようかな〜」

「え」

「え?」






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