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どうやら逃げ場はない模様



怒涛の年末年始を経て、3月に4年生は卒業。

4月はケリーとルーク…ハミュエラとアルトが入学。

我々は2年生へと上がる。

2年生になると授業は1、2限目に1年生の時から継続して貴族としての教養を学び、3限目以降は専攻する分野を重点的に学ぶこととなる。

3年や4年生は専攻する科の幅が増え、質も量も濃くなるというわけだ。

で、俺は『戦略科』と『剣技』『弓技』、『裁縫』と『医療』を希望していたのだが…。


「……………………」

「あと、これが城で働いてきた大臣の名簿と、500年分の王家の家系図と、それ関連の資料と、こっちが領主全員の名簿と家系図と領土の地図と…」

「あの、レオハール様、少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか」

「うん、なーにー?」


山積みの資料に挟まれて、そろそろ前が見えませぬ。

レオの胸元には魔宝石の核。

王子の正装のレオと、似たような服を着せられた俺。

まぁな、エメリエラに『王家の血筋なのだわ』認定をされてしまった俺がレオと似たような服を着せられるのはこの際我慢するとして…。

城に呼び出されて早々に俺の寮部屋の8倍ありそうなだだっ広い部屋に通され、普段使う机の2倍ありそうなテーブルにドカドカ本やら資料やらを積み重ねられたら…とりあえずストップかけたくなるのは当たり前じゃないか?


「ヴィニーがオズワルドお兄様とエメに断定されてしまったからね。自覚云々はともかく、ヴィニーは独学で学んでるところも多いみたいだから、王族に必要な教養を身に付けるついでに矯正しろって……」

「誰がそんなことをっ…て…1人しか浮かびませんけど!」

「うん、アンドレイね」


…好きに生きていいって陛下は言っていたが、王族である以上王族の務めは果たしてもらわねばならない…だっけ?

その為の教養というわけなのか…クッ。

そ、想像を絶する量なんだがコレ…。


「まさか本当に俺を王家の一員に迎えるおつもりではありませんよね?」

「うーん…。でも血筋は正当だしねー…。ユリフィエ様は陛下の正当な御婚約者で、王妃だった。その方が王妃の時代に産んだのが君だ。普通に考えれば第一王位継承者は君だよ」

「うう…そんなことを言われても…」

「ぶっちゃけ陛下もお立場が危ういんだよね…ユリフィエ様…正確にいうとそのお父上であるケディル・ディリエアス元公はミケイル・リース伯爵が台頭してくるまで貴族の中では圧倒的な権威をお持ちだった。そのご息女がユリフィエ様」

「…うわぁ…」


エディンの「根性論が服を着て歩いている」祖父か。

うわ、そんなすげー人だったのか…。

レオが王家の家系図を開く。


「ん⁉︎」

「分かる? ケディル・ディリエアス元公のお母様は王族なんだ」

「え、じゃあエディンも王家の血筋を引いているってことに…」

「うんそう」


さらりと⁉︎


「まあ、ディリエアス公爵家に限らず、ベックフォード家、ハワード家、ダモンズ家、フェフトリー家…公爵家は必ず王家の血筋の者が輿入れしているね。リース伯爵家は現当主のミケイル伯爵のお祖父様に王家の姫が輿入れしているから、本当ならこの時に侯爵の地位になっているはずだったんだ」

「……つまりお嬢様にも王家の血筋が…」

「そう、『記憶継承』はこうやって貴族たちに広まっていったんだ。女神エメリエラと契約したウェンディール家の者の血を取り込んでね。国王以外も一妻多夫、一夫多妻が認められているのは出来るだけ人口を増やしておきたいのと、『記憶継承』の血を濃く保ちたいからなんだよ。まあ、セントラル以外の…特に雪深いノース区は一妻多夫が根強い。子供を産む能力のある女性の地位が非常に尊重され、女尊男卑の文化の残る土地だから。これは一度絶滅しかかったせい、という学者も多いけど……人魚族に支配されていた時代の名残や女神信仰の影響もあるんじゃないかなぁ」


…そういえばライナス様が「俺の母の姉妹がよそに嫁いだのは、ノース区より安全だからな」とか言ってたな。

確かに最北端は万年雪やら永久凍土なんかまである極寒の地らしい。

正直同じ国なのに随分極端だなと思ったが地形のせいなのか。

地図を見るに、ノース区はかなり高い山が多い。

…良く人が住めるな…。

あ、いや…ここまで逃げた人がいたから、人間は絶滅を免れたのか。


「…知識として学んではいましたが、改めて家系図を見せられると…」

「うん、血の濃さを保ちたいと…王家の者は大体公爵家の者を妻か夫に迎えているね。マリーも本当なら公爵家の中から夫を選ぶ予定だったんだけど…エディンはローナと婚約したし、他の4人は住んでいる場所が遠かった。あと、色々アレだった」

「…………」


今、色々省略したなぁ…。

性格とか容姿とか美的センスとか…諸々の問題を一言で片付けたな…。


「もしかしてお嬢様とエディンの婚約をレオが勧めたのは、マリアンヌ姫とエディンを婚約させたくなかったんですか?」


だとしたらエディンが喜びそうだ。

レオがマリアンヌと婚約させたくなかった、なーんて聞いたら絶対別な理由を考えてによによする。

あいつレオのこと大好きだから……多分、友情以外………性的な意味でも。


「それもあるけど、単純にお似合いかなと思って」

「どこが」


ものすごいガチトーンで聞き返してしまった。

レオってたまにものすごく独特な自論を持ち出してくるよな。


「まあ、そんなわけでオズワルド・クレース・ウェンディール…君は王家の血筋の中では最も正当で濃い血筋って事になるんだよね」

「………マジかよ…」


頭を抱える。

信じられない…俺が一番正当で、濃い血筋、だと⁉︎

…でも、レオは下女との間に生まれた「浮気」による子供。

マリアンヌは子爵家の娘だったマリアベルの娘。

第二側室…次の王妃に決定したルティナ妃は侯爵家の令嬢だが子供はいない。


…………ホントだー…。


身体中から力が抜けていくような感覚で、机に突っ伏した。

…もはや逃げ場もない。

認める他ないのか。

王家…ウェンディール家と契約したエメリエラが、俺を『王家の者』と断定した。

そしてユリフィエ様は黒髪黒目。

亡くなったとされ、埋葬された墓の場所はルコルレ街の大人たちが俺を助けた墓の場所の証言と合致。

魔力適性『極高』。

刀の使い方を思い出すのに要した時間の短期っぷり。


「…………わかりました、認めます」

「あ、ついに王族って自覚が生まれた感じ?」

「でも俺はお嬢様の犬として生きます!」

「だよね!」


ニコ!

爽やかな笑顔で親指を立てる俺とレオ。

もう王族らしいのは間違いないっぽいから受け入れよう!

でも俺はお嬢様の犬として生きるぞ!

最低限の王家の務めとやらさえ果たせば好きに生きていいんだろう⁉︎

俺は一生お嬢様の犬として生きる!


「で、その最低限の王家の責とはなんでしょう?」

「最低限の王族としての教養と、子孫を残すことだね」

「…………」


分かってはいたけどやっぱり結婚して子供を残せか…。

思わず頭を抱える。

結婚…子供……正直想像出来ないんだよなー。


「王位は僕が預かるよ…陛下のご意向もあるけど、この国の守護者として生まれた以上、この国をより国民が安心して暮らせる場所にしたいから」

「ああ、王位とか俺には到底無理だ。政務とか、手伝ったからこそ出来る気がしない」

「あとは本物のマリアンヌが生きて見つかって、彼女がどう思うかだね…」


多分、俺と同じ意見だと思う。

というか、あいつに女王は無理だ。

あいつに王位なんか与えたら結局は傀儡になって国が傾く未来しか見えない。


「マーシャなら君と同じ意見になりそうだけど」

「ああ」

「もし、一部の者たちが彼女や君を懐柔して王位を奪いに来るとなると…僕は少し立場が弱いんだよね…血筋的に」

「そんな事にはならないさ。俺は少なくともお前が王に相応しいと思っている。マーシャのアホがそんな連中にたぶらかされて、その気になるなら俺がぶっ叩いて正気に戻す」

「………。…ふふ…そういえば2人は義兄妹だったね。……まさか本物の異母兄妹とは…」

「…………そういえばそうなるのか…」


うーわー…運命って数奇…。

事実は小説よりも奇なりか……………って待て。

ちょっと待て。

…それ以前に、マーシャは『フィリシティ・カラー 〜トゥー・ラブ〜』のヒロインの1人だろう?

ネタバレサイトではレオとの恋愛は出来なかったが、…ヴィンセントに関して特に記載はなかったぞ?

…公式で『ヴィンセント・セレナード』は『オズワルド・クレース・ウェンディール』ではなかったって事か?

だって近親相姦になっちまうもんなぁ?

レオがダメってことは俺だってだめだろ。

ん? わからん。

どういう事だ?


「あんまり学校行きたくないなー…」

「突然どうした」

「だって、エメにマーシャを会わせたら…異母妹って断定されるかもしれない」

「ああ…。…え? なんで嫌なんだ?」


むしろさっさとエメリエラに断定してもらった方が、俺としては助かる。

正直この資料の量を思うと「お前も同じ苦しみを味わえ…!」と思ってしまう。

だが、レオはまだマーシャを異母妹とは認めたくないという事なのか?

しゃがみ込んで、頰を少し膨らませながら俺を見上げる。

…お前…エディンでなくともそれはダメだと思う。


「せっかく兄様が出来たんだもん。もう少し独占したーい」

「……………………」


……お前…!

エディンじゃなくてもそれはダメだと思う…‼︎

乙女ゲーム攻略キャラクター不動のNo. 1人気がそれはダメだろ!

変な扉開かせるつもりかァ⁉︎


「…ま、まさかそれが理由で復学伸ばしていたわけじゃないよな?」

「ううん。公務がおかしな量だから………」


目が遠い…!


「王誕祭の準備も始まっているけど…雪も溶けてきたから田舎に帰った役人、騎士たちもぞくぞく戻って来ている。王妃の引き継ぎも終わってひと段落ついた。でも、陛下の体調はちっとも良くならないしね」

「病は気からと言うからな…」

「…最近すっかり気が弱ってるみたいで…僕にまで弱音を吐くんだよ…。あんな陛下逆に怖い」

「…………」


己の腕をさするレオ。

寒気を覚えるレベルで恐ろしいのか……それは恐ろしいな…。


「今日はヴィニーの側にいて王家について教えて良いよ、ってアンドレイに言われてるけど…」

「仕事したいのか」

「役人が戻って来るから、仕事量は減っていくと思う。でも、研究所との確執は無くなるわけではないんだよね…」

「そんなに揉めているのか?」


研究所とは魔法研究所のことだ。

…ミケーレが浮かぶ。

くっ、あの変態め…。

いや、だが…予算関係で揉めに揉め続けているっていうのは…去年からだよな?


「具体的にどんな問題を抱えているんだ? 予算関係での問題だったよな?」

「そうだね…。…まあ、今の君になら話してもいいかな…」


…あ、去年の俺はあくまでお手伝いの部外者として扱ってくれていたっぽい。

え、偉いなレオって…!

っていうか、俺それなのにわざわざ自分から首突っ込んじまったな…。


「簡単に言うと陛下が積極的に魔法に関する研究を行って良い、という御触れに乗っかった連中が魔法研究所をある種乗っ取って利権を独占しようとしているんだよね。利益どころか国から捻出される予算が潤沢なのをいい事に、横からかすめ取って贅沢三昧してるの。当然だけど、戦争関係の予算は騎士団にも配分されるでしょ? マリーのせいでクビになった騎士の分の予算まで研究所が欲しがったから、文官たちもブチ切れてね…」

「マリアンヌ姫のクビ騒動は文官たちも他人事じゃなかったもんな…」

「元々、文官と騎士団は持ちつ持たれつ。魔法研究所がどしんと入り込んできてバランスがおかしくなっていたんだよ。今後のことを考えると、規模は多少縮小して研究所そのものは継続させたいとは思うのだけれど…」

「…そうだな…」


戦後のことを考えるのなら、これっきりではなく魔法研究所は残すべきだ。

500年後もまた『大陸支配権争奪代理戦争』は行われる。

500年後の未来の為に、魔法はより研究されていくべきだろう。


…………ミケーレは魔法を使いたいみたいだったしな…。


正直隠れキャラ、ミケーレのストーリーは…最初からうろ覚えだったりする。

隠れキャラということでネタバレそのものが暗黙の了解で、ネタバレサイトですら“あんまりするんじゃねぇよ”的空気に包まれていたからだ。

多分公式の攻略本とかには載ってるんだろうけど、一度しかプレイしていない俺は妹に攻略本なんか見せてもらっていない。

全部ネットで調べればいいやと思ってたから。

それにローナ・リースとの接点は、ない。

イコール、興味もない。

だが、お嬢様救済のためにも戦巫女には是が非でもケリー以外のルートに進んでいただかねば…。

ライナス様やスティーブン様はどう見てもルートどころか攻略対象として終わってる!

あと、新たな問題として俺とレオはルートそのものがどうなってんの…?

レオは悪役姫マリアンヌが退場したし、次期国王って事で現王バルニールに確約されてしまった。

それ自体悪いこととは言わないが…ルート的にどうなのコレ。

俺も…『ヴィンセント・セレナード』でありながら王族『オズワルド・クレース・ウェンディール』という新たな立場を得てしまった。

…………マジでどうなのコレ…?


「…ん?」

「? どうかした? 何かわからない事でも?」

「あ、いや…これまでなんとなく王族だから名前が長いんだろうなぁ、くらいにしか思ってなかったんだが…『クレース』って初代の名前だったんだな」


クレース・ウェンディール。

女神エメリエラと契約した、初代国王の名前として家系図の一番前に記された名前。


「王というか、女王…。クレースは女性だよ」

「…⁉︎」

「エメから聞いたけど、生まれたばかりで誰にも気付かれずに泣いていたエメの泣き声に気がついた人だったんだって。とても澄んだ心を持った人で、エメの今の姿は彼女を真似ているって言ってた」

「…え…」


エメリエラって確か毛先パッツンの黒髪ロングの女の子だよな?

王家イコール金髪青眼だと思ってたけど…。


「昔は黒い髪と黒い瞳は不吉…魔女の証とされて忌み嫌われてきたみたい。でも、女神が見えるという事で彼女は500年前の戦争で最初の戦巫女として祭り上げられた。戦争に参加して治癒の力で他の代表者たちをサポートしたらしい。…ところで、クレース女王について他に気づいた事は?」

「え? 他に気づいた事…? ……………なんか、王位…長くね?」


家系図とは別な巻物。

広げると、やけにクレース女王時代が長い気がするんですけど…?

いや、長い長い長い!

なんだこれ、100…いや、150年?


「は? ど、どういう事だ⁉︎」

「クレース女王は不老だったんだって。自らの曾曾孫が生まれるまで存命で、今もご遺体は当時の少女の姿のまま残ってる…らしいね」

「ご遺体が残ってる⁉︎」

「僕もまだ見た事はないんだけど…そう伝わってる。このお城のどこかにご遺体があって、戴冠の儀の時に必ずクレース様のところへご挨拶に伺うのが習わしなんだってさー」

「っ、…そ、それは…それも女神エメリエラの力なのか?」

「……うーん…」


なんとも煮え切らないレオの反応。

腕を組み首を傾げながら唇を尖らせる。


「エメの話だけだとクレース様がどう思っていたのかイマイチ分からない。…クレース様は人間に味方するエメの存在を知らしめるために生きていたんじゃないかなって思う」

「エメリエラの存在を知らしめる為…?」

「見える人間は自分しかいなかった。彼女の子供やその子孫は声を聴くことこそ出来ても、やはり姿は見えない。エメリエラを身に宿し、器となり、老いることをやめたクレース様を見た者たちの気持ちは察するに…奇跡を目の当たりにしていたんじゃない?」

「…………」

「僕はなんとなく分かるけど…でも、そこまでする勇気はないな。…自分から信仰の対象になるなんて…ゾッとするよ」


それでクレースはウェンディール王国の初代女王になった。

彼女は治癒の力と、不老でもって信仰の対象になり…王家信仰が生まれたのか。

…確かに自分から信仰の対象になるなんてゾッとするな。

凄い覚悟を持った人だった、っていうのは分かる。




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