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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
閑話

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番外編【アメル】





俺たち亜人という生き物は蟻の巣のように王都の真下にどこまでも深い穴を掘り、生活している。

こんなことが出来るのは土竜もぐらや犬、兎などの穴を掘るのが得意な亜人が頑張ってくれたおかげだ。

ウェンディール王国の王都『ウェンデル』が小高い丘になっているのも、俺たちが地下世界を作るのに適していた。

それはそれとして俺は今日非常に機嫌がいい。

なぜかと言うと…。


「おーい、アメルー」

「タホル」


タホル。

人魚の亜人を母親に持つ亜人だ。

美しい薄い水色の髪と、顔に人魚の亜人特有の輝く鱗を持つ。

…彼女はその美しい髪を一纏めにして後ろで結い、走る度にそれが揺れる。


「頼まれてたナイフの調整終わったぜ」


…そして、こんな男のような喋り方をする。

勿体無い。

人魚の亜人…特に女性は顔も整い美しい人が多いのだが…。


「ああ、ありがとう。助かる」

「おう! じゃあ後で親方のところに取りに行けよ。…ん? なんか今日は随分機嫌がいいな?」

「あ、ああ、父さんが来てるんだ」

「え…⁉︎ あの噂の…⁉︎ あたいも見に行っていいか?」

「…俺の父さんは見世物じゃねぇぞ」

「だって『外』に住んでる人だろー⁉︎ 見てみたい見てみたい!」

「はぁ…。クレイ様に頼んでやるよ。でも、あまり言いふらさないでくれよー?」

「ありがとう!」


俺の父親は『外』に住んでいる。

あまり王都にも来ない。

最上階の『応接間』に来ている俺の父親。

噂になってるのか…まあ、それはそうだろうな。

階段を登り、最上階…出口の一つがある『応接間』にタホルとともに向かう。

最後の扉を開くと、そこには亜人族の長クレイ様。

クレイ様の横には腹心の熊の亜人レッカ。

その手前に俺の母ナタルと…その横に居るのが…。


「アメルー! パパだよぉぉ〜っ!」

「わぁ! もお、父さん!」


ガバリ!

出会い頭に俺にしがみつくハイテンションな初老の“人間”。

髭を頰にわざと擦り付けて来る!

ああもう、いくら滅多に会えないからって…もう子供じゃないんだぞ!


「? タホル? 何か用か?」

「はっ! …え? ク、クレイ様…? そ、それ、人間じゃ…!」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「アメルの、父親って…」

「アメルは亜人と人間の混血児だ。知らなかったのか?」

「っ!」


…………タホル、俺のこと知らなかったのか。

てっきり知っていて俺の父に会いたいと言ってきたのかと思っていた。

というか……。


「もういい加減離れてくれよ父さん!」

「あ〜ん、息子が反抗期〜!」

「もー! 俺今年20歳だぞ! 反抗期なんてとっくに卒業してる!」

「……こほん」


咳き込みするクレイ様。

もー、クレイ様の前で恥ずかしいな!

引き剥がして、ソファーに座らせる。

2人が座るのが精一杯のオンボロソファー。

俺は両親の横に立つ。


「タホル、この事は他言無用だ。言いふらすならそれなりの処罰は覚悟しろ」

「…………」

「え? アメルの彼女ちゃんじゃないの? パパに紹介じゃないの?」

「そ、そういうんじゃないけど…」


タホルのことは嫌いじゃない。

でも、父さんのことを気にするなら好きにもなれない。

俺は諜報員だから、鍛冶屋の弟子の彼女に嫌われるのは避けたかったけど…。


「レッカ」

「タホル、こっちへ」

「あ、は、はい。お邪魔してすいませんでした」


レッカに促されて地下街の方に戻るタホル。

…まあ、あれが普通の亜人の反応だよな、悲しいけど。


「嘆かわしいですね…。あれでは他の種族が我らへ向ける反応と変わらない」

「…そうだな…」

「まあ、それだけ君たちが長く差別されてきたということだろう。ボクは気にしないよ〜。…………でも…」

「大丈夫だよ、父さん。俺も気にしてないから」

「…………そう」


俺の母は豹の亜人。

耳と尾を隠し、城下町で酒を売る仕事をしている諜報員の1人。

父はお偉い貴族の執事の家系で、その貴族がアミューリア学園に入学した時に従者として『ウェンデル』にやって来た。

2人はそこで出会い……恋に落ちたそうだ。

4年で離れ離れになってしまったが、父の母への愛情は変わらず…主人の用事で月に一度王都に足を運ぶ時、こうして必ず会いに来てくれるから俺は寂しいとあまり感じたことはない。

そして面会の時、決まって父は母の目の前で母への惚気を語る。

「お前のお母さんの拳は最高なんだよ!」と。

……最初は意味がよくわからなかったけど、人間の女の細腕から繰り出されるパンチでは父は満足できない体になったということなんだそうだ。


「そういえば、お前に話しておくことがある」

「え? なになに?」

「お前の引き取った娘の話だ」

「? マーシャのこと?」


この国で国民として認められない亜人の母とその子である俺を正式に父の家に迎えることは出来ない。

それは、仕方のない事だ。

だから父は自分の家を守るために養子を引き取って育てている。

ある意味、俺の義弟と義妹ということだが向こうは俺のことなど知らないだろう。

知られれば父は亜人の妻子を持つ異常者として社会的に生きていけなくなる。

俺も母も、そんなのは望んでいない。

そもそも、父と母は普通に愛し合っている。

異常な事なんかじゃない! 絶対に。

父がそんな汚名を着せられて、亜人族のように偏見や差別にさらされるくらいなら離れて暮らした方がお互いの幸せのためだ。


「お前のもう1人の息子が出自を調べてくれと依頼してきてな…調べた結果、王家の娘である可能性が出て来た」

「え…?」

「⁉︎ クレイ様、それはどういう事だい? ローエンスの引き取った娘が、お姫様…⁉︎ じゃあ、あのマリアンヌ姫の偽物の噂は…」

「今もう少し情報を集めているところだ。ただ、可能性は極めて高い。…一応、伝えておく」

「…………マーシャが……なんという事だ……そんな事があるのか…⁉︎」

「…………」


いつもちゃらんぽらんしている父が素で驚いている。

この国の姫、マリアンヌには偽物の噂が絶えなかった。

亜人族は長年、裏で『便利屋』という稼業を生業として生きてきた。

それで見逃してもらっているのだ。

昨今の貴族たちの専らの依頼は、そのマリアンヌ姫の偽物疑惑について。

…しかし、これまで明確な証拠は出なかった。

でも、父の引き取った娘がその『本物』…?

そんな事があるのか?


「……。…それなら、ボクからも一つ報告しておこうと思っていたんだけどねぇ…」

「なにかあったのか?」

「その、ボクが引き取った息子が………王族の可能性が出てきたんだよ」

「は?」


は?


「なっ…ええ? どういう事だい?」

「ヴィンセントがいたスラムはリース伯爵ご支援の下、ルコルレの街として新たに名を変えて復興している。その際、ヴィンセントは赤子の頃に墓から助けられた子供だと分かってね…。詳しく調べたら、その墓は赤子の時に亡くなった元正妃ユリフィエ様のご子息、オズワルド殿下の墓と一致したのよ」

「な、んだと…⁉︎」

「ば、ばかな⁉︎」

「っ」


前のめりになるクレイ様とレッカ。

母も俺も言葉を失う。

だって、そ、それが本当ならーーー。


「………なんという事だろうね、ほんとに。…ローナお嬢様の嗅覚たるやと感心すべきか…。マーシャまで…とは…。こんな事が、あるものなんだねぇ…」

「…………。…そ、それが本当なら…王家の血筋は一気に増える…。……、…………国は混乱に陥るぞ…」

「そうだね…………、…………わかった、ボクから伯爵にお話しておくよ。…少しでも混乱が避けられるように…事前に手を打っておかないと」

「…………ああ、そうだな…。こちらも手を貸す。…この時期に国が荒れるのは亜人族としても好ましくない」

「頼むよ」

「……………………」




衝撃的な展開だ。

それからいくつかの情報交換の後、父は人の世界へと戻る。


「ナタル、君はいつまでも美しいねぇ。最後にいつものお願いしてもいい?」

「全く仕方のない変態だねぇ。歯ぁ食いしばりな」

「……ああん!」


ドゴン!

と、それなりに痛そうな音。

脇腹への強烈な一撃。

クレイ様とレッカのなんとも言えない表情。

…………正直俺も何回見ても見慣れることはない、2人だけの愛の語らい。


「…………っ、ぐは…っ、さ、さいこう…っ! ナタル、さいこうだよぉ〜」

「ホンット救いようのない変態だねぇ、アンタは! さっさと帰りな!」

「次は『星降りの夜』の前に来る予定ですぅ…!」

「はいはい、わかったわかった」






…………台無しだなぁ。







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