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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園一年生編

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うちのお嬢様は世界一可愛い。




「そうですわね…」


意気揚々としたケリー。

確かに公爵と旦那様も居るし、再婚約の件はここでぶっ潰しておかねば。

何故か思案顔になるお嬢様。

いやいや、ここは人の集まるなんかのパーティーでエディンをこっ酷くフって終了です! お嬢様!


「思いの外時間はかかったが、お前が俺の婚約の申し込みを断った、という事にすれば良い」

「エディン様は、それで宜しいのですか?」

「あ? ああ。俺はお前に断られても痛くも痒くも無いな」


何故ならエディンはお嬢様とレオをくっつけたいからですお嬢様。

だからガツンとお断りしてしまってください!


「…本当に根は真面目な方なのですね…」

「は?」

「いえ、レオハール様がエディン様は根が真面目な方だと仰っていたのを思い出しただけですわ」

「レオ…」

「うふふ〜」


頰に手を当てて溜息を吐くお嬢様。

どうしたんだ、まさか、まさかこれまでのあの歯の浮くような口説き文句の数々に心が傾いてしまった、なんてことはないですよねお嬢様⁉︎

お嬢様〜〜⁉︎


「…ですが、それですとお断りの理由を考えなければ…」

「パパママ反対しまーす」

義弟おとうとも反対します!」

「愚息の父も反対します」


保護者満場一致!

お嬢様、これなら…!


「ローナはエディンが嫌い?」

「嫌いではありませんわ。存外誠実な方なのだと分かりましたもの」

「お、お嬢様⁉︎」


なにを言い出すレオ⁉︎

何を言いだされるんですかお嬢様⁉︎

だめだ、絶対!

エディンとの婚約は! それだけは!


「両家の反対…。そうですわね、それでも十分なのかもしれません。でも…」

「そうだね、それだけでは少し足りないね」

「…確かに…エディンのグイグイっぷりを思うと、それでは足りないかもしれません…」

「おいコラ指示したの貴様だろスティーブン!」

「す、すみません…」


それでなくとも一度婚約解消している仲だ。

それなのに、またエディンがお嬢様をグイグイ口説いていた…という設定となると…。

そんなエディンを“完全に黙らせる理由”が今度は必要だというのか⁉︎

もうお嬢様がエディンを嫌いになったでいいじゃないですかー!


「色恋は難しいな…」

「そ、そうですね…」


ライナス様、元サヤ作戦の事ご存知なのに「色恋」って…。

しかもそんな真顔で。


「あ! 私、いいこと思いつきました!」

「あれー、なんだろ〜。すごくロクでもないことの予感がする〜」

「そ、そんなことありません! 酷いですレオ様!」

「…うーん…マリーの口癖だったからつい…」


いや、俺もなんとなく嫌な予感はする。

戦略トップのスティーブン様。

そのスティーブン様の「良い考え」…。

なんだろう、すごく不安だ。


「…まあ、一応聞いてやる。なんだ?」


と、エディンが促すと、ない胸を盛大に張って…。



「ローナ様に『王族2人の婚約者』になって頂くのですよ!」



…………は?




「は?」


あ、良かった「は?」って思ったの俺だけじゃなかった。

エディンとケリーも「は?」だった。


「スティーブ、ヴィニーはまだ確定じゃないよ?」

「確定したらですよ!」

「話の前提が確定前提なんですけど⁉︎」


ちょっと待って俺が思わぬ形で巻き込まれているってこと⁉︎


「うっ!」

「ヴィニー⁉︎ だ、大丈夫⁉︎」

「っ、だ、大丈夫です…」

「さっきから少しはしゃぎすぎよ。傷を見せなさい」

「だ、大丈夫です」


お嬢様のお手を煩わせるまでもないです…。

傷口そのものはちゃんと塞がっている…………多分…。

前の世界と違って痛み止めとかないから、はしゃぎすぎて痛み出しただけです…。


「そ、それ以前になんだ、その王族2人の婚約者って」

「レオ様早く結婚しないといけないじゃないですか」

「うっ」


陛下にも言われてしまったしな、レオ…。


「そしてヴィンセントも王族だったら早く結婚しないといけないじゃないですか」

「うっ」


そ、そういう話の流れだったのは…。

い、いやでも…!


「だからお2人の婚約者候補にローナ様が抜擢された、という事にするんです! 王家から星降りの夜の事件のお詫びも兼ねて申し入れがあった! という事で!」

「それちゃんと陛下の了承が必要なやつだろう⁉︎」


エディンのナイスツッコミ。


「それは良い考えだね私の可愛いスティーブン!」


宰相様が現れた⁉︎

陛下を部屋に帰して戻ってきたのか⁉︎

……は! …親バカ宰相様がスティーブン様の提案を「良い考え」って…ま、まさか…⁉︎


「まあ、元々バルニールにはそういう話もされてたしね」

「し、しかし、王子殿下2人の、というのはいかがなものなのでしょう?」

「いいんじゃないかな、一妻多夫は陛下の許可があれば問題ないし」


そうだった!

『フィリシティ・カラー』は逆ハーレムルートがあるから一妻多夫は可能なんだった!


「そ、そもそもなんでレオだけじゃなくコイツもなんだ⁉︎」

「そ、そうですよ! それに俺はまだ王族と確定したわけではありませんし!」

「うふふふふふふふふふふふ…」


なんの笑い⁉︎

スティーブン様のその含んだ笑いはなんの笑いなんだ⁉︎

怖い!


「…スティーブン様…」

「ね? 良い考えでしょう?」


なぜそこでお嬢様に話を振るんですかスティーブン様!

意味がわからない!

どうしてそんな事に⁉︎


「レ、レオ、お前からも何か言え! せめてお前だけなら…」

「スティーブ…天才なの? その手があった…」

「レオ⁉︎」

「レオハール様⁉︎」


まさかの反応だな⁉︎


「あ、じゃあやっぱりエディンは婚約申し込みしたら? 4人で結婚しようよ」

「はぁあぁ⁉︎」

「はあああ⁉︎」

「レ、レオハール殿下⁉︎」

「レオハール様⁉︎」


俺とエディンだけでなく、これにはお嬢様とケリーも驚いた。

どどどどうしたレオ⁉︎

どうしてそんな事になる⁉︎

待って待って一妻多夫ってそんな事可能なの⁉︎

じゃなくてどうしてそういう事になるーーー!


「うっ!」

「ヴィニー、大丈夫⁉︎」


思わず脇腹を押さえてしまう。

こ、興奮したところが痛みでクールダウンするが、頭の混乱は留まるところを知らない。

な、何が起きている?

俺は今どこにいるんだ?

は、はあ?


「…これはまたなんか大変なことになりましたねぇ、旦那様。どうされますか?」

「リース家的には大歓迎な展開じゃない?」

「まあ、王子殿下2人と公爵家子息との一妻多夫ではお断りの理由もありませんしねぇ」


とか呑気に話してるうちの旦那様とローエンスさん。

そ、それはそうかもしれないけど…!


「まあ、公爵家うちとしても殿下達と同じ奥方となれば…」

「父上⁉︎」


ディリエアス公爵までえぇぇ⁉︎


「ま、待ってください! お嬢様…お嬢様はそれでいいんですか⁉︎」


ここはガツンとお断りして下さいお嬢様!

い、一妻多夫だと⁉︎ そんなアホな!

いくらゲームの世界の設定だからって現実にそんなことが許されてたまるもんかぁ⁉︎

お嬢様が嫌だと言えば…!


「それがこの国の為になるのでしたらお受けします」

「はい⁉︎」

「嘘だろ⁉︎」

「わたくしは貴族として、この身はこの国に捧げますわ」 


お嬢様ぁぁあ⁉︎


「ほ、本気ですか義姉様⁉︎」

「それが必要なら、わたくしは構いません」

「男の相手を3人も、そんな、淑女として! 義姉様!」

「一妻多夫は陛下の許可があれば問題ないはずです。ですからそれが必要なことなら……」

「それは女王陛下の時代に出来た法ですよね⁉︎」


ケリーガンバッテー!


「エディン様とヴィニーがお嫌ならそれは勿論無理ですし」

「じゃあエディン、僕と結婚しよう?」

「ンンッ! ……………………する…」

「エディーーーン⁉︎」


落ちるの早すぎだろうお前えええぇ!


「あはは! まあ、冗談はさておきスティーブの提案は面白いかもしれないね。でも、今の陛下にその話をしたら体調が悪化しそうだからとりあえずヴィニーの怪我が治ってから改めて考えよう」

「え〜〜っ」

「…………な、なんだ、冗談かよ…」

「ん? ディリエアス、何か言ったか?」

「なんでもないっ」


…よ、良かった…。

エディンがレオに落ちた時はどうしようかと思った…!

…………。

…エディンってマジで女好きのクズではなくレオ大好きな可哀想な奴だったんだな…。

涙出そう…。


「まあ、どんな事になっても僕はお前の味方だからね、ローナ」

「お父様…、…はい」

「戦争さえなければお前たちの未来にはもっと考える時間があってもいいのだろうが…」

「なぁに、ディリエアス公爵、戦争を生きて帰って来ればいいだけのことですよ。レオハール殿下もヴィンセントくんも、御宅のご子息もお強いのですから」

「宰相…。…そうですな…」

「というわけで我々は仕事に戻りますか。食糧問題に魔法研究所の予算圧迫問題、マリアンヌ姫に辞めさせられた者たちを呼び戻す手紙…やることは山積みです。はあ、そろそろ王誕祭の準備も始めないと…。姫の誕生日がなくなったのはありがたいですな」

「あ、そうだ。パーティーで思い出した」


パン、と手を叩くレオ。

げっそりする宰相の仕事の量を思うに、慢性的になった人手不足の解消を願うばかりだ。

マリアンヌが辞めさせた人々を戻す作業か…まあ、辞めた人たちも「ざまぁ」と思いながら戻ってくることだろう。

それよりも、レオがパーティーで思い出したことの方が気になる。


「皆さんに残念なお知らせがあります」

「な、なんだよ」

「残念なお知らせ…? なんですか、レオ様…」

「今年も予算が足りないのでアミューリアの卒業と入学のパーティーは中止です」

「…………マジか…」

「なんということでしょう!」

「そういえば俺たちの入学の時もありませんでしたね」

「そうですわね…。本来は行われるものなのですか?」


エディンとスティーブン様は悲しそうだが、お嬢様やライナス様は冷静だ。

…確かに…アミューリア学園には立派なダンスホールがある。

『星降りの夜会』しか使われないのは少し勿体無いと思っていたんだ。

そうか、本来は入学と卒業にパーティーが行われるものなのか。


「通例なら行われるものなのです!」


と、拳を握るスティーブン様。

なんだ、なにか恋愛イベント的なものがあるのか?

でなきゃこの人がこんなに残念そうなわけがない。


「卒業パーティーは星降りの夜に生まれたカップルが結婚を申し込む一大イベント! 入学パーティーは男女の出会いのイベントなのです!」

「要するに婚約者の決まっていない者同士が親睦を深めるのが入学パーティー。結婚の決まった者同士がプロポーズの場に使うのが卒業パーティーだ。…残念…星降りの夜会で出来なかった『再婚約申し込み』はそこでやろうと思っていたんだが…」

「そ、そんな恐ろしい行事があったのか…あっぶねー…」


との弁はケリー。

そういえばこいつもまだ婚約者がいないな。

…………でも今の俺の立場的に「早く婚約者を見つけてください」なんて言うとブーメランで返ってきそうだから言うのやめとこう。


「…しかし、そんな行事が潰れるほど国費は圧迫されていたのですか」

「うーん、本来はアミューリア学園の生徒会の方で管理している予算から捻出されるものなんだけど…国がアミューリアに割く予算が減ったのと、貴族たちの援助額が毎年下がっていたからねぇ…」


…生々しい理由だった…。


「仕方がありませんな…貴族たちに課せられた税は5年前に増えていますから…」

「! …そ、そうだったのですね…」


俺、意外とそういうこと知らないもんだな…。

旦那様が「税金が高いから爵位上げたくない」も意外と本音だったのか…。

…国民への増税は貴族の税金を上げてからだったんだな…。


「お陰でいくつかの家は潰れてしまったものね…。貴族の血が潰えるのは避けたかったんだけど…」

「まあ、金食い虫が2匹も減りましたから戦争さえ終わればすぐに元に戻せるでしょう」

「そうだね、民の税額は戻してもいいだろう。貴族に課すものはもうしばらく様子を見てからだねー…。今年国庫の食糧を使い切ってしまうから…また一から買い集めないと…」

「ああ…そうですな…。それに亜人たちの土地の買収もあります」

「うっ…それはすまないが…そうだね、頑張ってもらっていいかな」

「まあ、なんとか交渉してみましょう」


…………別世界の会話のようだ…。

つーか、宰相様…金食い虫って…。

いや、誰とは聞かないけど。


「宰相、因みに…次期正妃については決まったのかね?」

「うむ、ユリフィエ様は残念ながら体調が芳しくない…。第二側室、ルティナ様になって頂くことになっている。まあ、あの方は御子を身ごもった事もない。ユリフィエ様がルティナ様はその事をいたく気にされているからとお気遣いもあった。…ご自身があの状態なのに…」

「伯母上らしい…」

「…妻が義姉様を心配しておるのだ。…もう家に帰ってくればいいのではないか、と…。正妃がルティナ様になるのなら、義姉様はディリエアス家に戻してもらえないだろうか」

「…! 父上…」

「…そうだな…それもいいかもしれない…。だが、一応陛下と…ご本人の了承も得ないとなんともな…」

「…頼みます」


王妃か。

…女神祭は女性メインの祭。

この国は女神の加護を信仰する。

そう考えると王の横に座る王妃は必要だよな。


「あ、そうだ。ねぇねぇ、僕考えたんだけどさ〜、ヴィニー、今日はお城に泊まっていきなよ」

「何故」


話もまとまり、やっと帰れるのかと思ったら城に泊まれとは⁉︎

あ、もしかして…。


「もしや私に仕事を…⁉︎」

「なんでそんなに働きたいの…。働くんなら今すぐエメの所に連れていくけど」

「な、なぜに⁉︎」

「魔宝石はほんのちょっとだけど怪我や疲れを癒せるから…」

「! それでヴィニーの怪我を治してくださるのですね」

「一石二鳥でしょう? …でも僕はこれから政務だから…連れて行っても通訳できない。だから、明日かな〜って」

「明日まで休みなしで働かれるのですか⁉︎」


驚くケリー。

まだ昼前だから、今からノンストップ政務はどう考えても働き過ぎだ。

しかし、レオはにっこり笑うと「うーん、でも陛下の分もあるしね〜」となんともないように言ってのけた。

マジか。


「魔宝石に手をかざすと少しだけ治りが早くなるはずだよ。今日は一日魔宝石の側にいたらどうかな」

「それで泊まれと…」

「うん、そして明日エメにヴィニーの血筋を確認しよう」

「…………」

「そうしましょう、ヴィニー」


お嬢様に言われては嫌だとは言えない。

がっくりうなだれる俺の肩をローエンスさんが叩く。

その時ふと、この人との朝の会話を思い出した。

ローエンスさんの事を今後は「義父さん」と呼んでやろうと思っていたんだ。

それなのに…俺の本当の父親が国王バルニールかもしれないなんて…。


「えっと、では私たちもお父様たちのお手伝いに参りましょう。ローナ様はどうされますか?」

「わたくしはヴィニーを魔宝石の間に連れて行きます」

「そうだな、お前の言う事ならその執事も聞くだろうしな。ベックフォードも父上の手伝いをしてくれるんだろう?」

「ああ! 今から騎士団の仕事を手伝えるのは願ったり叶ったりだ!」

「ふふふ、こちらこそ有能な騎士志望に手伝ってもらえるのはありがたい。騎士団も人手不足だからな」

「ケリーは僕と今日も他の領主たちと会議だよ」

「はーい、義父様」

「さあ、行くわよヴィニー」

「は、はい」


『魔宝石』は城に戻っているのか。

スティーブン様は父上の宰相様と共にレオの政務の手伝い。

ケリーは旦那様と他の領主たちとの会議。

恐らく食料問題だろう。

それにリース家の次期当主だ、今から色々仕事を見せておくんだろうな。

ライナス様とエディンは騎士団の手伝い。

まあ、あの2人どちらも騎士志望だし当然か。

ローエンスさんは旦那様とケリーのサポート。

あれ?

つまり……。





「『魔宝石の間』なんてあるんですね」

「魔法研究所の者たちに与えられた一室を『魔宝石』の研究用に一室拵えたそうよ。とは言っても、今はレオハール様が女神様とお話できるようになったので具体的な魔法の研究は滞っているようだけれど」

「え、そうなんですか? それはまたどうして…」

「女神エメリエラ様が魔力適性の低い者に触られるのはお嫌だと仰っているらしいの。それにレオハール様のお話だと器となる戦巫女様が見つからない限り、具体的な魔法の使い方もよく分からないらしいわ。女神様曰く、巫女様を器として『従者石』で従者に力を与えるので…肝心要の巫女様が居ない今なにもできることはないのだそうよ」

「…そうなのですね…」


やはり戦巫女の発見が急務になるのか。

でも、戦巫女は異世界から召喚される…んだよな?

レオが『魔宝石』を持ち歩いて巫女を探すが見つからず、最終的に異世界から呼び出そうなーんて事になるのか。

でもよく異世界から呼び出そうなんて思ったな?

……もしかして、鈴緒丸の前の持ち主が異世界から来た剣士…ってところと何か関係あるんだろうか?

異世界の存在はうっすらとだけど、認知はされている?

うーん…。


「お嬢様は魔宝石の場所をご存知なんですね」

「ええ…」

「? お嬢様…?」

「…………。女神様が見える者は、戦巫女になれる…わたくしには見えなかった。…わたくしは戦巫女には、なれなかった…」

「お嬢様…!」

「…貴方は以前言ったわね、わたくしはいつも通りでいればいいと。…でも、やっぱりわたくしも何かしたかったの」


立ち止まり、ほんの少し目を伏せてどこか辛そうに仰るお嬢様。

…この方は責任感が強い方。

だから、ずっと悩んでいたのだろう。

俺、ちょっと無責任なこと言っちゃったのかな。

…逆にお嬢様を追い詰めてしまったんだろうか…?

そういうつもりで言ったんじゃないけど…。


「…………」


あれ…。


お嬢様の右手が、俺の腕の裾を摘む。

引っ張られて…そしてその手を辿るようにお嬢様を見た。

涙を浮かべたお嬢様。

なっ…………!



「…わたくしも…なにかしたいのよ……」

「…お嬢様…」



震える声で。

目一杯、涙を溜めて。

そんな、お嬢様…俺は貴女が…。


無事で、幸せなら…他に何も…。



「………………、……では、一つ、だけ」

「…なにか、わたくしにできる事があるの?」

「………笑顔の練習、頑張って頂いていいでしょうか? …やっぱり一度でもいいので…お嬢様の笑顔が見てみたいです」

「…………がんばるわ…」

「はい。俺もお手伝いしますね」

「…ええ…」

「っ……」


多分、自覚ないんだろうな。

こんなお願いしたそばから、そんな風に……嬉しそうに笑われてしまうと。

涙を浮かべて、それを指でぬぐいながら…なんて可愛いうちのお嬢様。

世界一可愛い。

記憶に永久保存だ、これは。



「…………」



嬉しいのに、なのになんだ。

胸が痛んだな。

ちくちくと、針で刺されるように。

なんでだろう、前世からずっと見てみたかったはずの笑顔なのに…どうして。

心がもやもやする。

お嬢様…俺の、世界一大切で可愛いお嬢様。


「…ねぇ、ヴィニー…これからもわたくしにして欲しい事があったらなんでも言ってちょうだい」

「お、お嬢様にですか⁉︎ …そ、そう言われましても」

「お願い…。わたくしにも、貴方のためになにかさせて」

「…………、…では、考えてみます」

「約束よ」

「はい」


くい、と摘まれたままの袖を引っ張られて歩き始める。

え、このまま…?


「……………………」


お嬢様…?

…なにか、お嬢様が…変…?

いや、なんかこれまでのお嬢様と…………変わった…?

なんで? どうして? ど、どこが?

積極的? いや、それは少し違うような…なんだ?

いや、可愛いけれども…。

お嬢様は、元々お綺麗だし可愛いけど…。


…………まあ、いい、か?


うん、なんとなく…悪い変化では、なさそうだし。

この人が…この人の中の何かが変化して、それで破滅エンドが回避できるのなら俺はそれでいい。

ゲームが始まって、そしてエンディングで貴女がご無事な姿で…幸せになるまで…必ず俺がお側でお守りします。

貴女の破滅エンドは俺が全部へし折るので、安心してくださいね! お嬢様!








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