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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園一年生編

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人と亜人



「ヴィニー、怪我は?」

「あ、はい、血は止まりました…。ハンカチはまだありますので大丈夫ですよ」

「そういえばいつも5枚持ち歩いてるんだっけ…。でも、ちゃんと手当はさせてね」

「あはは…はい」


そして次にレオが声をかけてくれたのは俺。

使用人風情に声なんてかけなくてもいいのに。

でも、ありがたくはある。


「さて、アミューリアの生徒のみんなも呼び出しておきながらこんなことになってすまなかったね。僕もまさかこんなことになるとは思わなかったよ…あははは…」

「笑い事か」

「もうパーティーという雰囲気でもないから解散ということで構わないかな? えーと、でも夜に馬車で帰るのは危ないよね? どうするつもりだったの?」

「大変申し訳ないが、客用の宿泊部屋は領主たちで埋まっております。衛兵が帰り道を護衛しますので、寮へお帰り頂くことになっておりました」

「え、本当? それでなくとも人手不足なのにそんなことしてたの⁉︎ …それは外で帰り道を護衛する兵には何かご褒美あげないとダメだね…。では、みんな申し訳ないけれど帰り支度を取ってもらっていいかな? 後ろの人から待合ホールに戻って…………」


レオがディリエアス公とエディン、3人ほど残った衛兵たちで生徒たちを会場の外へ誘導していく。

俺は医務室に寄らせてもらおう。

いや、しかし…なんにしても…なんか、疲れたな…。

無事に収まって良かった。


「ローナ」

「はい」

「怖い思いをさせてごめんね」

「…………いえ、わたくしは…ヴィニーが身を挺して守ってくれたので…」

「医務室まで歩けそう? 君たちは少し休んでから帰ったほうがいいんじゃない?」

「そうですね、レオ様! ローナ様も少しお休みになった方がいいです! 私、部屋を探してきます!」

「スティーブン様…」

「ヴィンセント、肩を貸す。歩けるか?」

「すみません、ライナス様…お願いしてもいいでしょうか…?」


そういえば、と後ろの玉座を見るとクレイが腕を組んでまだその場にいた。

しかし、なんでか天井を眺めている。

頭の耳をピクピク動かす様は何あれかわいい。

でもなんか、段々クレイの表情が歪んでいくんだけど…ど、どうした?


「おい、急いだ方がいいぞ王子!」

「え」

「崩れる!」

「え⁉︎」


パラパラ、パラパラと…あれ、そういえばさっきから粉やら小石やらが上から落ちてくるんだけど…こ、これはなんだ?

ライナス様も「ひびが増えていくな」となにやら冷静に言ってるんだけど…え、本当だ、壁や天井に罅が……ひ、罅ってなんだよ⁉︎

というか壁の罅はもう亀裂になってるぞ⁉︎

小ホールどうした⁉︎


「ちょ、なんですかあの亀裂⁉︎」

「…………てへ」

「てへ⁉︎」


てへってなんだレオ! てへって!

まさかお前が何かしたのか⁉︎


「そういえばヴィンセントはあの時ぐったりしていたから見ていないのか」

「ほ、本当になにをしたんですか⁉︎」

「走れ!」


クレイの声にアミューリアの生徒たちも慌て出す。

入り口は広いが、避難するなら押さない、走らないは鉄則…………。


バキ! バキ、バキ!


…………とか言ってる場合ではない感じで壁や柱の亀裂が増えてますね…?


「ヴィンセント、急げるか⁉︎」

「は、はい! いや、俺よりお嬢様を…」

「ローナとスティーブンは僕が! 2人ともちょっとごめんね!」

「「え」」


俺たち以外の生徒は比較的ホールの後ろの方に居たが、俺たちは玉座近くに居たんだよ。

レオがお嬢様とスティーブン様の肩を掴み、並ばせて後ろ向きにさせる。

そして、腰に手を回す。

うん、お前じゃなかったら殴ってるけどそこからどうするつもり……。


「きゃああ⁉︎」

「ひええぇっ⁉︎」


2人をくの字にして肩に抱えて、走り出すとか…お、おおおお⁉︎

俺には、無理だ!

怪我もあるけど2人を肩に乗せて走ると!

嘘だろ⁉︎ こ、これが王家の記憶継承プラスαだというのか⁉︎

人命優先なので仕方ないけども!


「貴様らも急げ!」

「わ、わかっている!」


エディンは慌て始めた生徒たちをできるだけスムーズに待合ホールへ誘導するべく公爵と働いている。

脇腹を怪我してはいるが、俺だってライナス様に支えられなければ走れないことはーーー


「ふぐっ」

「む、無理するなヴィンセント! 血は止まってきているが無理すればまた…!」


あ、け、結構本当に痛いな…!


「グズグズするな」

「うわ!」

「‼︎」


クレイに怪我をしていない方の腰を掴まれ、担がれる。

俺だけでなく俺よりも体格のいいライナス様まで!

俺と大して体格変わらないのに…180超えの男を2人も同時に担ぐって…⁉︎


「クレイ!」


俺の制止の声も…わかってたけど聞く耳なし。

走り出すとあっという間に待合ホールの真ん中辺り。

は、速ぁ…⁉︎


「いて!」


そして落とすの乱暴だな⁉︎

と、思ったらマントの下から双剣を取り出して構える。

双剣使い…!

あ、いや、そうじゃなくて、なんで構えたの?


「王子!」

「エディン、剣貸して!」

「は⁉︎ なにする気だ!」

「衝撃波と瓦礫を押し戻す! やるよクレイ」

「もとよりそのつもりだ」

「ちょ、ちょっと待っ…」


エディンから剣を奪い取るように借りたレオと、クレイが入り口の前を陣取る。

ダンスホールが崩れる時に待合ホールに流れ込む衝撃や瓦礫を…押し戻すって言った?

い、いやいや、人間にそんなこと出来るわけが…!

だが、引き留める前にダンスホールが…崩壊する。

轟音が重なり響く。

2人が剣を構えて、そして一閃だ。

その瞬間、風の流れが一度俺たちの方へ押し寄せ…今度は逆に吹き荒れた。


「ーーーっ」


建物が倒れる衝撃により起こる風圧を、剣圧で相殺した?

それだけではなく、隣接するこの待合ホールに瓦礫が流れ込むのすら…阻止したって…?

目を開けていられなくて腕で覆って全ては見ていなかったけど…そんな漫画みたいな……。


「マジか…」


風が治ったと思って腕を外すと、待合ホールには粉塵が流れてきたがそれも微々たるもの。

小石一つ、こちらには転がっていなかった。

それよりも先程までこの待合ホールから見えていたあの絢爛豪華なダンスホールは跡形もない瓦礫と化している。

俺は元々座り込んでいたが、生徒の何人かは腰が抜けて座り込んだ。

無理もない。

だってマジで…たった2人の人間の剣圧で小さいとはいえ伯爵家よりも大きなダンスホールが粉微塵だぞ?

こ、これがーーー


「やり過ぎちゃったかな」

「そもそも貴様が亀裂など入れるから…」

「えへへ…怒りで力み過ぎちゃったんだよね。…あ! 剣が壊れた!」

「人間の剣は脆いな」

「…ごめんエディン、壊しちゃった」

「…………は、はあ…」


従者“最強”キャラ、レオハールと、亜人の長クレイ!

…エディンが力の抜けた声を出すのも分かる圧倒的な人間離れ感。

成る程、これが…世に言うあれだな…。

…………勝てる気がしない、っていうやつだな……?

エディンが貸した剣がポッキリ折れてしまった、根元から。

正直、この2人と肩を並べて戦争行くっていう未来に俺の心も折れそうである。


「さてと、ディリエアス公、怪我人の有無を確認して欲しいな」

「は! はい!」

「エディンはヴィンセントを医務室に連れてって。場所知ってるでしょ?」

「ああ…」

「スティーブンは他の怪我人がいたら医務室にその都度連れて行って。ライナス、悪いけどディリエアス公を手伝ってもらっていいかい? 怪我をしていない子から順に帰寮してもらおう。ローナは立てる?」

「は、はい! …はっ、あ、ヴィニーの手当は私が行いますわ! 医療には覚えがありますの」

「本当? それは助かるよ。転んで怪我した子もいるみたいだから…じゃあエディン、ローナを一度ヴィンセントと一緒に医務室に」

「分かった。ローナ」

「あ、ありがとうございます」


エディンが手を差し伸ばす。

その手を取って立ち上がるお嬢様。

…俺も自分で立ち上がるが、脇腹からまた血が出た。

やばい、傷口開いたか?


「……はぁ……はぁ……血、血……い、頂いてもよ、宜しいですか? フ、フフフ」

「………………いいよ、って言うと思ったのか?」

「そこをなんとか!」

「やめろ馬鹿野郎」


どこに潜んでいたのか知らないが、ニコライが俺の腰の側で鼻息荒く…頬を染めていた。

あれかな、ダンスホールにいたのかな。

…こいつ吸血蝙蝠の亜人だっけ。

クレイが脳天を鞘で殴って気絶させてくれなかったら俺が殴ってた。

でも、気絶させられたかは微妙だ。

ありがとうクレイ。


「事の顛末は見届けさせてもらった。今日のところは引き上げる」

「そうか。色々ありがとな」

「別に…ついでだ」

「でもお前たちのおかげだよ。…最後のコレは特に…」


多分レオ1人でも難しかったんではないだろうか、建物一つ分だ。

…そもそも普通無理だけどな。

でも、建物が倒れる衝撃が待合ホールまで届いていたら怪我人は“転んだ”どころではなかったはず。


「…………あの王子は、信頼出来るかもしれない。そう感じたから、賭けたに過ぎない。まだまだ甘い故、様子は見る」

「……そうか」

「ではな」


幸せそうに気絶したニコライを抱えて飛び上がると天井窓から外へと消えて行くクレイ。

相変わらずすんげー身体能力。


「え、クレイ……普通に門から出て行っていいんだよ⁉︎」


と、レオが驚いて叫ぶ。

…………言われてみるとそれもそうだな?

まあ、まだ難しいんだろうけど…いつか…いつか、クレイたち亜人が城で働くような…それが当たり前になったなら…。


「ヴィニー…あの亜人の方と知り合いなの?」

「レオ、お前いつの間に亜人と知り合ったんだ」

「え? あー、ええと…春先、でしょうか?」

「ほら、川で溺れた亜人の子を助けたでしょう? そのご縁で…と、それはいいからヴィニーは早く手当して来なよ!」

「そ、そうですわ!」

「そうでした」

「なんで忘れてるんだよ」


…………そうだな、まずは…手当をしてもらおう…痛い…。





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