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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園一年生編

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だから脳筋トリオではありません。



「おお、ヴィンセントとディリエアス! おはよう!」

「お、おう…早いなベックフォード…」

「最近は早朝練習をしている。放課後は生徒会の仕事があるからな!」


………ライナス様とエンカウント。

あまりの爽やかな笑顔に殺る気が削がれる。

あー…昨日スティーブン様がライナス様は早朝練習してるって聞いてたけど…今日もか。

やはり真面目な奴だなぁ。


「お前たちも早朝練習か?」

「「え、あ、ああ、まあ…」」


マーシャを口説く口説かないで模擬戦やろうとしてた、とは、この爽やかな笑顔の前ではなんとなく、言えない。

むしろエディンは思い切り目を逸らし一刻も早くこの場から逃れたいかのように「し、しかし今日はやめておく」とか言い出した。

え、ど、どうしたんだ?


「待ってくれディリエアス」

「ヒッ…。い、いや、待て…ベックフォード、例の話はここでは…」

「いや、ヴィンセントにも相談したいと思っていたんだ」

「はい?」

「マジでやめてやれ!」

「え…?」


な、なに?

エディンが顔を真っ青にしてライナス様を引き留める。

い、嫌な予感しかしない。

逃げるべきだと、本能が告げている…!


「…ヴィンセント、その、実はな」

「っ」


エディンが頭を抱えた。

しかも両手で!

ちょ、ちょっと待て…ライナス様よ、なにを俺に相談するつもりだ?

や、やめて、マジでやめて怖い怖い怖い!


「…ほ、星降りの夜にスティーブンに婚約を申し込むつもりなんだが…受けてもらえるだろうか…?」



まんまと巻き込まれたーーーー!!!!



「…………そ、そ、それは…え、ええぇ…?」

「リセッタ侯爵には既にご挨拶もしたのだが…や、やはりいざとなると緊張してしまうんだ。それに、結婚後のことなども考えると踏ん切りがつかなくて…」

「っ、け、けっ…」

「⁉︎」


バッ!

勢いよくエディンを見てしまう。

どうなの? き、貴族同士とはいえ、同性の結婚ってこの世界アリなの⁉︎

そそそそそんな知識ないんだけど俺!

そんな勉強してないんだけど俺ーー!


「…なんだっ」

「で、出来るんですか結婚…」

「い、一夫多妻と一妻多夫、そして同性婚は国王に許しを貰い、経済的に問題ないと判断されれば可能だ」

「うわ、知りたくなかった…」


思わず小声で聞いてしまう。

そして、思いもよらぬ返答に顔を両手で覆った。

うー、思えば『トゥー・ラブ』で逆ハーレムエンドもあると言うし…国王も王妃以外に2人の側室を抱えている…。

しかしまさか同性婚までも…。

心広すぎやしないかウェンディール王国。

アレか、『フィリシティ・カラー』のプレイヤー層に貴腐人や腐男子系ががっつり組み込まれているせいか⁉︎

俺の世界でのプレイヤー層の影響がまさかこんな形で現れたとでも言うのか⁉︎

すごいな『フィリシティ・カラー』!

すごいな腐ったプレイヤー層!

ファンに優しすぎやしないか『フィリシティ・カラー』製作会社‼︎

恐れ入ったよ!

と言うことはライナス様とスティーブン様は国王に許可さえもらえれば問題なく結婚できると言うことか。

スティーブン様の昨日の様子から考えてもライナス様の婚約の申し込みはまず断られることはないはず…。

うわぁ…禁断の扉を開いた挙句にくぐってしまわれたのか〜、ライナス様〜…。


「………。……で、結婚後のなにが問題なんですか、ライナス様」


覆っていた手を離し、笑顔で聞き返す。

うんもういいや。

多少、若干…あの可愛い男の娘スティーブン様を嫁に出すのが心の底から「惜しいなぁ」と思ったが、あの方には幸せになっていただきたい。

ライナス様ならきっと一途にスティーブン様を大切になさるだろう。

そして俺の質問にエディンがスン…と表情を消し、むしろ心を無にしたのを感じて「早まった」と悟った。

もう遅いが、この時やっとエディンがこの場から逃げようとした理由を突き付けられることになる。


「…………は、恥ずかしながら…夜の営みというやつを俺は体験したことがなくてな…。それに、スティーブンは体は男だろう? やはり男と女では体の作りも違うし…やり方も違うのではと……」

「…………………そうですね」


…口の中が血の味でいっぱいになったんだが、俺は今、口から血でも流れ落ちているのか?

そうであってもおかしくない気はする。

これは相当ヤバいところに首を突っ込んでしまった気がするんだが。

首を突っ込んでしまったのは俺だ。


「…因みに、ライナス様の使用人の方には相談しましたか? 使用人の方に資料を探してきて貰えば…」

「ん? ああ、そうか…そういえば言っていなかったな。俺は使用人は連れてきていない」

「は、はい?」


こいつなんて?

使用人を連れてきていない⁉︎

公爵家の子息が⁉︎

どういう事だ⁉︎


「…幼いころに俺はやんちゃで…付き人だった使用人を置いてあちこち逃げ回った。ある日、町に行った時にもその使用人から逃げ隠れした。…その時に…その使用人は馬車の事故に巻き込まれた。それ以来、使用人を連れ歩くのがどうにもな………」

「…………」


………きゅ、急に重い話に…っ。

あ、もしかして……これはライナスルートのストーリーか?


ライナスルート…。

追加攻略キャラクターであるライナスは、1周目クリア後に解放されるルートの一つ。

もう一つはスティーブン様だ。

騎士専攻科に通うようになった巫女は、先輩であるライナスに剣を教わるようになる。

最初はたどたどしい2人だが、ライナスの真面目で爽やかな人柄にすぐ懐く巫女。

そしてライナスは、魔力適性が『中』だけど、自分を従者に選んでくれないかと頼む。

それは騎士を目指す者として、ノース区公爵家の跡取りとしての願い。

巫女としては渡りに船なので喜んで了承する。

しかし、親しくなるにつれライナスのどこか頑なな「強さへの執着」を感じ始める巫女。

それが決定的となるのは2人で町へ降りた時。

大通りで馬車に轢かれかけた巫女をライナスは助けるが、慌てぶりが異常だった。

理由を問うと、それはライナスの幼少期の過ちによるもの。

彼は昔やんちゃで、町へ行く時に使用人から逃げ回り隠れ回る遊びを毎回行っていた。

そしてある日、いつも一緒に居た使用人が大通りで馬車に轢かれてしまう。

一命は取り留めたらしいが、その使用人は怪我が理由で屋敷を去った。

後悔したライナスは使用人を連れ歩くことはなくなり、また、性格も今のように愚直なまでに真面目になったという。

それを聞いた巫女は改めて助けてくれたことへ礼を言い、ライナスが従者になってくれた事へも感謝した。

そんな巫女にすっかり心を奪われるライナス。

そして突入する戦争。

強い絆の力で魔宝石の力を引き出し、勝利に導く。

帰還した巫女はライナスにプロポーズされ、末長く幸せに暮らしましたとさ…………。


…………成る程、ライナスルートのストーリーだ。



「…しかし、さすがに不便では…?」

「自分のことは自分でやるだけの事。屋敷にいた時とさほど変わらん。食事も寮の食堂のシェフが作ってくれる。頼めば弁当も」

「あ、ああ…」


まあ、確かにそうだが…。

うちのケリーも着替えも風呂も物の管理も全部自分で出来る。

でもそれは、リース伯爵家のよそとは違う家訓によるものだ。

この人は自分の意思でそれをやっているのか…。


「変なやつだな」

「お嬢様もそういうところがありますので、個人的にはもっと使用人を頼っていただきたい気持ちがありますね」

「そうだな、ヴィンセントくらい強い奴なら…俺も頼ってもいいと思う。…だが、お前ほどの使用人はそうゴロゴロいるものではない」

「え? そうですか? 義父ちちは俺より凄いですよ?」

「リース家どんなだよ」


一見するとただのお茶目なおじさんだが、ローエンスさんは知れば知るほど底知れない。

仕事も気付けば全部終わってるし、先回りして出来る仕事も終わってるし、柔軟で、臨機応変。

突然の来客もそつなくお迎えし、旦那様が常に快適に生活できるようありとあらゆる懸念をいつの間にか排除完了済み。

まだ俺はあの域に達してないからな〜…悔しいけど…。


「……でも、そうですか…ライナス様は使用人をお連れでない、と」

「ああ、だから……だ、男子同士で行う行為がどんなものなのかを、どう調べたらいいか!」


…………口の中の血の味が戻ってきたな…。


「…ベックフォード、朝からそういうのはどうかと思うぞ、俺ですら!」

「む、そ、そうか…それもそうだな…。し、しかし今日の放課後、ヴィンセントはレオハール様への誕生日ケーキの試作をすると聞いて…」

「あ、ああ…スティーブン様と、そうですね…」


でもだからと言って今はやめて欲しかった。

というか、そもそも巻き込まないで欲しかった。

相談内容的に。

く、くそう、エディンめ…知っていたのならもっと上手く逃げようぜ⁉︎


「ディリエアスの方が詳しいかと思って聞いても知らぬと言われるし」

「貴様、俺とスティーブが幼馴染であるという事を忘れているんじゃないだろうな…⁉︎ そんな話に付き合えるか! 精神的にきっついわ!」


ごもっとも…。


「……、…ええと、ライナス様? その件はその…ご婚約が確定してからでも遅くないのでは? そもそもライナス様は何もスティーブン様の見目だけがお好みだから結婚されたいと思っているのではないのでしょう?」

「ん? うん、まあ…。そうだな、以前のスティーブンはどこか頼りなく、同じ男として認められんところがあったのだが…今のスティーブンは堂々としていて、信頼に足る素晴らしい人物だと思っている。む、無論、容姿も美しく、そしてとても愛らしい…。あの可憐な姿はまるで湖に舞い降りた水鳥のようで…」

「やめろ、聞きたくない」


確かに俺もそろそろ耳が右から左へと内容を聞き流し始めたところだ。

エディンが割とガチめのトーンでストップをかけると、我に返ったかのようなライナス様はまた顔を赤くする。

…別に忘れてたわけじゃないけど…そうか、やっぱりお前も乙女ゲームの攻略キャラなんだなぁ…!

脳筋とばかり思っていたが、すらすら出てくる褒め言葉はこっちの歯が浮くようなものだ。

エディンは明らかに慣れてるが、どう考えても慣れていないライナス様がつらつらとあんな褒め言葉を垂れ流すとしみじみそう思うわ。


「…………そうか、確かに…少し気が早かったかもしれない…。うん、まずは婚約を受け入れてもらえるように努力しよう」

「そ、そうしろ…」

「そ、そうですよ…」



俺とエディンの気力値が朝っぱらからゼロになった。





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