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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園一年生編

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お嬢様と偽装イチャイチャ



翌朝。

レオの誕生日まであと3日。

こんなに日が近づいても、やはり城からは王子の誕生日を祝う舞踏会の報せは出ない。

婚約者のいない令嬢にとって、王子の誕生日を祝う舞踏会などまたとない機会。

だが、国費の圧迫を慮ってレオは自分の誕生日は慎ましくするのが恒例となっていた。

その為、城は王妃の誕生日が年末にあるのでそちらを優先しているようである。

国王は何故か王妃の誕生日にパーティーを行う事を毎年嫌がって、色々文句をつけ潰しているというが…さて、今年はどうなることやら。

…………王妃、ね…。

これまで気にも留めなかった。

『フィリシティ・カラー』では、名前も出ない、存在も空気…攻略サイトでも関連記事はゼロ…そのくらい、存在感のない人物。

しかしこうして『フィリシティ・カラー』の世界に生まれ落ちてみれば、その存在は無視できるものではなさそうだ。

エディンの昨日の話が本当なら…『マリアンヌ』の取り替えは王妃主導で行われた可能性が極めて高い。

なぜそんな事を…?

自分の娘のはずなのに…。


「は! お嬢様の気配…!」


この凛としながらも華やかな気配はお嬢様!

感じた気配を辿ればやはりお嬢様〜!


「おはようございます、お嬢様!」

「おはよう、ヴィニー。今日も早いわね」

「本日のお弁当は…………」

「ローナ、おはよう。今日もまた肌は透き通り、唇は果実のように瑞々しい…美しさに磨きがかかっているのではないか? ああ、いや…本当に日に日に美しくなっているな。なんと罪深い…ローナ、お前は美の女神ルシーナすら足元に及ばない。 はあ、こんなに美しいお前に振り向いてももらえないのは悲しいな…。駒鳥も踊り出す、その愛らしい声を聞かせてはくれないか?」

「っ……」

「……………………」



あ あ 、 殺 し た い … 。



ギギギ…と自分の首に油ぎれと錆びで朽ちるのを待つばかりの鉄棒でも入っているのでは、と思うくらい首がなかなかに回らない。

俺の首とは反対に、実に滑りの良い口をつり上げ、色味の強い甘い笑みを浮かべるエディン。

…お嬢様との偽計再婚約の為、周囲に『エディンがローナ嬢に婚約解消後本気で恋をした』ように見せかけるための演技であると分かってはいるものの…見ていて気分がいいものではない。


「…お、おは、おは……ようございます、エディン様…、あ、あの、そ、そういうのは、恥ずかしいので結構、ですわ」

「恥ずかしがるお前も可愛いな。そんなことを言われては『星降りの夜』、俺との婚約を受け入れてくれるのかと期待してしまう」

「……あ、あ…あのその…っ…わ、わたくし先に失礼致します…!」

「お嬢様!」


…………逃げた。

いついかなる時もご令嬢たれ、と意識の高いうちのお嬢様が…あのお嬢様が走って逃げた。

…計画を始めて1週間近く経つのだが、お嬢様は本日もエディンを避けに避けておられる。

理由は単純明快……不慣れだからだ。

婚約者だったエディンは、レオがお嬢様に想いを寄せていることにいち早く気が付き、婚約解消を長年ごね続けてきた。

婚約を解消するためにお嬢様に一切興味を持っていないアピールをし続けたエディンのおかげで、お嬢様は生娘よろしく男免疫ゼロと言っていいだろう。

義弟のケリーや俺だって、お嬢様に気安く触れることはないし、恋人のように接したことも勿論ない。

おかげで、突然エディンに迫られる(演技)事になってお嬢様は大層困り果てているのだ。


「…………」


頭を抱えてしまう。

ああ、くそ、どうしてこんなことに…お可哀想なお嬢様…。

そもそもエディンもお嬢様との婚約解消の件は俺と目的が一致していたのである。

しかし、エディンの父、そして王子であるレオの意向がそれを阻み、結局入学までズルズル伸びてしまった。

そして俺という存在のおかげで念願の婚約解消!

これでレオとお嬢様をくっつけにかかれると、これまた俺と同じ事を画策していたところに今回の『マリアンヌ姫によるレオ監禁事件』が起きたのだ。

奴があの綺麗な顔を歪め、心の底から「面倒な」と舌打ちしたのは記憶に新しい。

ま、慕う相手は違えど目的は一致している。

よもや、エディンが俺とこうも目的を同じくする同志となるとは…分からんもんだ。


「……やり過ぎではありませんか?」


そう、目的は一致している。

ともかく、今はお嬢様とエディンの婚約を再び結び…お嬢様、ひいてはリース家に降り掛かる火の粉を事前に消火し、振り払わなくてはならない。

エディンもまた、監禁状態のレオを救出したい。

勿論、レオの友人の1人として俺もそれには大賛同する。

だが、それにしたってエディンのここ数日のお嬢様へのあの迫り方は…。


「あのくらいした方が周りへアピールになる。余計な虫もつかんだろう」


余計な虫…リース伯爵家の権威を後ろ盾に欲しい二流、三流の貴族子息どものことである。

まぁなぁ…それはそうなんだよなぁ…。

元々エディン・ディリエアス公爵令息の婚約者、ということでこれまでも相当変な虫からは守られてきた。

癪ではあるが、ディリエアス公爵家の名前は鉄壁要塞と呼んでも過言ではない。

しかし、お嬢様は主にお前のせいで男免疫が育っていないのだ。

だというのに、いきなりあんなのぶっ込まれたらキャパオーバーするに決まっている。


「あと5レベルくらい落としてください。お嬢様が処理不良で倒れたらどうするんですか」

「いや、なんだ5レベルって。どんなだそれ。…そんな風に言うならお前も口説けば良いだろう? お前の知名度はアミューリア内で相当高いし」

「お嬢様と俺では他の貴族に太刀打ちができないでしょう。それよりレオやそちらのご家族に話は?」

「ああ、城に行った時に報告はして来た。そっちは?」

「こちらも手紙は出しましたが…返事はまだですね。義父から旦那様にどう伝わるか…。まあ、義父のことだから悪いようにはしないと思いますが…計画通り、星降りの夜の前には『反対』の手紙が来る事でしょう」


あと、リース伯爵家の力ならマリアンヌ姫の暴挙を多少どうにか出来るかもしれない。

こちらで噂の火元を抑え込んでいる間にローエンスさんが旦那様に働きかけて、旦那様から陛下にマリアンヌ姫を止めてもらうのが一番確実。

再婚約は『元サヤ』の噂が十分広まってから、両家の親が『反対』すれば一撃で粉砕可能。

それには当然、両家のご両親にも協力してもらわなければならない。

旦那様たちのお手を煩わせる事になってしまうが、エディンが言うに「母はなんかノリノリで拳を握っていた」からなんとかなる気はする…………んだけど、なにそれこわい…。


「…というか……それはそれとしてなんですかあの歯の浮くような台詞は。いつもあんなことご令嬢に言って回ってたんですか? 死ねよ」

「クク…レオの周りをうろつく頭の悪い令嬢にはよく効くんだぞ…?」

「……………」


…………え。

ッえ、ええ?

顔が、顔がひくつく。

こ、こいつ今、笑いながら……なんて?


「……俺も反省点は今後に活かすタチでな…。ま、人前以外であいつにはやらんさ…安心しろ」

「……そ、そんなの当たり前だこのクズ野郎…」


絞り出すようにしか言い返せなかった。

…ええと、つまり…?


「……いえ、それよりも…本来は女性はお好きではないと?」

「好きだぜ? 王子妃を目指していた割に俺に言い寄られてコロリと騙されるのは特に」

「…………………」



……拝啓、昨夜の俺へ。

届かないのは重々わかってはいるが、これだけは言わせて欲しい。

こいつ、やっぱ根っこの部分からクズ野郎だった。







********





「はぁ……」

「どうされたんですか? ローナ様」

「スティーブン様…」


教室に入るとダッシュとエディンの歯の浮く口説き文句で疲弊したお嬢様を、スティーブン様が気遣っているところだった。

それを遠巻きに見るクラスメイトたち。

俺は教室内のヒソヒソ話に耳を傾けながら席を目指す。


「朝の見たか? 今日もディリエアスがローナ嬢を口説いていたぞ」

「本当か? あの2人、婚約解消したんじゃなかったのか?」


「昨日お帰りの時もディリエアス様がローナ様にお声をかけておられたわよ」

「どうして突然…」

「許せない…ローナ様…。レオハール様とも親しげなのに、エディン様にまで言い寄られるなんて…っ」

「でも、ローナ様では無理ないかもしれませんわ。なにしろリース家のご令嬢ですもの…やはり後ろ盾として申し分ない方をお選びに…」


などなど。

…クラス内でやっとこれだけエディンとお嬢様のことが話題になってきた。

学園中に広がるのも時間の問題だな。

というか、クラス同じなのにあんなちらちらと見ながらよく堂々と噂話出来るなぁ。

この辺は俺の世界と違う文化って感じだ。


「…エディン様のお言葉に…つい恥ずかしい思いが勝ってしまいますの…。これではいけないはずなのに…」

「エディンの言葉などお気になさらないでください。あれは全自動で垂れ流される嘘偽りの妄言です」

「…………」


ス、スティーブン様…計画を立てたのはあなたでは⁉︎

別にエディンの味方するわけじゃあないがすごいこと言ってるな⁉︎

荷物を整理してから、2人の近くへと寄っていく。


「あ、おはようございますヴィンセント」

「おはようございます。スティーブン様、最近お早いのですね?」


俺よりも先に学園に登校しているようなので、ちょっと新鮮だ。

これまでは朝食に誘われたりもしていたのでよく一緒に登校していた。


「はい。図書館で色々勉強を始めたのです」

「まあ、年末試験のお勉強ですか?」

「いえ、それもありますが…今回のことで私も自らの未熟さを痛感したのです。将来レオ様のお力になるには今のままではいけません。もっとお父様のように裏から手を回してあれこれできるようにならねばと思いまして…」

「あ、あれこれですか?」

「ええ、あれこれです」


……なんだろう、可愛い顔してすごく怖いこと言ってる気がする…。

背筋がゾクッとしたのだが、俺の気のせいだろうか?

気のせいであれ!


「…別にライナス様が早朝剣技の練習でお早く出られるから付いて来たとかではないですよ…。べ、勉強はちゃんとしておりますからっ…本当ですよっ」

「……そうですか…」

「お2人とも、朝食はちゃんと食べておられますか?」

「は、はい…」


良かった気のせいだった。

頰を染めてもじもじと付け加えられた事情はなんとも微笑ましい。

微笑ましいのだが複雑な気持ちの方が強くてこれ以上怖くて聞けない。

…こ、このお2人、今後どうなってしまうのだろう…?

地味に順調に見えてしまうのだが…そんな、まさかな?

ライナス様はそれはもう生真面目で一途ないい男だと思う。

なにより乙女ゲームの攻略キャラだ、容姿だって厳つい系で男も認める肉体美。

対するスティーブン様は中身は女性、容姿もヒロインと遜色ない可憐さ担当。

こ、怖い…怖くて聞けない…。

お似合いだけど怖くて今後どうしたいんですか、なんて聞けねーよ…。


「……あ、あのう、それでその、朝食といえばなのですけど、ヴィンセント…」

「はい?」


なんだ?

明日も早く来るからついでに作ってくれとかそういうのか?

それは別に構わないが、なんでそんな言いづらそうに口籠っ…………


「お、お料理を教わっても良いでしょうか…」

「…………は…え?」

「…ぜ、前世では多少覚えがあるのですが…ここ16年何もしていなくて…。思い出すついでに、ヴィンセントがよく作ってくれる美味しいお料理のレシピを、教えていただけないかと…思い、まして……」


つん、つん、と人差し指をくっつけつつ、真っ赤なお顔を俯かせて…………いや、まあ、可愛い。

めちゃくちゃ可愛いけど…。


誰のためにとか何のためにとか、聞くだけ野暮ですね…。


「……私は構いません…」

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます! で、では寮に帰ったら…」

「あ、申し訳ございません。本日は所用で町に行かなくてはなりませんので…明日以降でよろしいですか?」

「そうなのですね。分かりました。では、明日の夜にでもお願いします」

「かしこまりました」

「? なにか買うの?」


不思議そうなお嬢様。

まあ、パーティーの予定も定かではない時期に町に降りる用事などお嬢様には思いつかないのだろう。


「どうなるかは分かりませんが、レオハール様のお誕生日がもうすぐですので…砂糖を使わないケーキの試作をしようと思いまして。その材料などを買い出しに」

「わあ、それは素敵です! 私も手伝って良いですか?」

「では明日ケーキの試作を致しましょう。今日は遅くなるかもしれませんから」

「分かりました」

「…お砂糖を使わないケーキなんて出来るの?」

「ええ、多分出来ると思います。素材に甘い野菜や果実などを使うんですよ」


でもその果物がなかなかにお高い。

ウェンディールは寒い国なので。

だから、野菜…レオの好きなお芋系。

さつまいもなどがあれば最高なのだが…市場で探してみないとなんとも言えない。


「ヴィンセントは本当にすごいですね。お野菜をケーキに使うなんて…考えもしなかったです」

「試作するなら、試食はどなたが?」

「…明後日持って参ります」

「……楽しみにしているわ」


まあ、もちろん町への用事はそれだけではない。

でもこれは、お嬢様たちにはまだ言えないのだ。

だから今はただ、試作ケーキを楽しみにしていてください、お嬢様。




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