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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園一年生編

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エディンルート、破壊完了!



今日は朝からピリピリとしている。

正確には昨日の朝からだ。


「ローナ、覚悟はいいな?」

「覚悟もなにも、昨日のお話をエディン様とわたくしの両親にお話するだけです」


背中から聞こえてくる冷めきった会話。

思えば出会った時からこの2人は全くと言っていいほどお互いに興味がなかった。

それは昨日の朝に、エディンがお嬢様に「明日お前の両親を我が家に招待している。一緒に婚約解消の旨、了承しに行くが問題ないな?」と確認した時も…。


「まあ、エディン様…ようやく本気で婚約を解消するおつもりになりましたの? わたくしは構いませんわ。お父様のお手紙でもディリエアス公とその方向で話を進めていると書いてありましたし」

「え、俺それ知らないんだが」

「お嬢様…! やっぱりそのおつもりでいてくださったんですね…!」

「…そうね、色々と思うところがないわけではないけれど……ケリーがマリアンヌ姫様のお誕生日にもエディン様がエスコートを放棄された事など、お父様に報告したようなの。…それで完全に「ない」と手紙に書いてあったわ」


…うわぁ、シンプル…。

そして多分笑顔で言っていそうだ…。


「う…姫の誕生日の件をか…」

「学園生活で多少歩み寄りが見られればと、様子を見ていらしたのでしょう。でも、エディン様もわたくしも、お互いに興味はない。…両家と国のためにこの婚姻が役立つのであればわたくしは構いませんでした。…ですが…ヴィンセントの非礼の数々を抜きにしても、エディン様はわたくしと結婚する気はない。…ならば、わたくしも応じる必要はない…両家の両親もまた、それをお許しになる。ならば解消しても問題はないでしょう」


…思っていた通り、お嬢様が婚約に応じたのは国や家のため。

政略結婚ならばまだしも、エディンの両親がお嬢様に望んだのは息子の手綱を握って正しい方へ導く事。

しかし、お嬢様から逃げ回るエディンに、ディリエアス公爵夫妻も諦めた。

ローナ・リース嬢でもうちの息子は“変わらない”と。

それならば無理にお嬢様をエディンの婚約者に据えておく意味がない。


「…わかった。では俺は今日の放課後お前の気持ち含め、父と母に報告に行く。明日の放課後、我が家に来てくれ」

「分かりました」





……そして場所は学園より離れた、とあるお屋敷。

その屋敷はディリエアス公爵邸。

エディンの実家である。

授業が終わったその足でお嬢様とエディン、そして俺はディリエアス邸へとやって来た。

因みに俺が二人の乗る馬車の御者だ。

シンプルだが、あらゆるものが一級品と一目でわかる公爵家の応接室には既にディリエアス公爵夫妻と、リース伯爵夫妻、そして何故かケリー。

きっと明日の舞踏会に招待されていたからだろう。

今夜はディリエアス邸に泊まる事になるかもしれない、と気合を入れて来たのに…………。


「ローナ〜、久しぶり〜。ちょっと早いけど誕生日おめでとう〜!」

「久しぶりね、ローナ。元気だった?」

「は、はい…」


お嬢様のお父上、ミケイル・リース伯爵。

一見レオ系のゆんる〜いお方に見えるがセントラルの東を預かる立派なお方。

セントラルの食糧のおよそ半分はリース伯爵家管理の土地で生産されると言っても過言ではない。

それ故に爵位を侯爵に上げる話が何度も来ている。

ミケイル様は「あ、興味ないです」といつも断っている。

「税金上がるし、めんどい」とどこからどこまで本気なのか分からない口調で言っているのだが、ローエンスさん曰く「これ以上爵位が上がると足の引っ張り合いに巻き込まれるのが増えるからねぇ」…らしいので、つまりそういう事なんだろう。

そして奥様…アリーナ・リース様。

貴族にしてはお転婆なアリーナ奥様がいらっしゃるのは少し珍しいが…な、何もしないで欲しいな…!


「で、最終確認なんだけど…ローナはエディンくんとの婚約解消して大丈夫?」

「…お互いにどうにも興味が持てませんので…」

「まあそれはしかたありませんよね、義姉様! そんな事もありますよ! 手続きはこちらで始めさせて貰いましたから、来週には完全に解消となります! おめ、っ……うおっほん、それはそれとしてお誕生日おめでとうございます!」

「あ、ありがとう…?」


…………どことなくいつもよりテンションが高い旦那様とケリー。

え、なにこれ逆に怖い。

ローエンスさんに目で説明を訴えるが、まあ、いつもの笑顔だ。

それじゃ分かんないってば………ん?


「え、手続き始まっているんですか?」

「あー、うん。ディリエアス公爵から本日この件で話し合いをする旨の手紙が来てから、すぐに手続き始まってたよ」


ローエンスさんに小声で聞くと、そんな回答。

…主にケリーが率先してやっていたらしい。

というか、あいつは俺の知らぬところで書類やらなにやらをいつ婚約解消が決まってもいいように用意済みだったそうだ。

…さすがシスコン…。


「こほん。ローナ嬢、今夜は我が家でささやかながらローナ嬢の誕生日パーティーを開くことにしたんだ。1日早いが、せめてもの償いとしてどうか楽しんでもらえないだろうか…」

「まあ、ディリエアス公爵様…その様な…。わたくしとエディン様が婚約解消に至ったのは、公爵様のせいではございません」

「我が家の愚息が原因なのは明白だ! 無理に婚約話を進めて本当に申し訳ない…。リース卿に許可はもらっている。どうか…」

「…………。…お気遣い感謝致します。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


ん? …え、…どゆこと…?

ちょっと頭がついていかないくらいスムーズに話が進んでいて置いてかれてるの俺だけ?


「…昨日、一応話はしたと言っただろう」

「聞き及んでおります。ですが何故にパーティー…」

「言葉通り詫びだな。実に無駄な6年間だっただろう?」

「否定はしませんが」


俺と同様、扉をくぐった途端に話が終了した為に席にも付かなかったエディン。

腰に手を当てて、ポツリと、俺にだけ聞こえる声で「最後くらい婚約者らしい事をするだけだ」と呟いた。

こいつなりのけじめという事なのか。


「…それより気になる事が一つ」

「あ?」

「こ、公爵夫人が憑き物でも落ちたような一見晴れやかな表情だが、明らかにここではないどこかを眺めておられるようなのだが…」


な、なんか怖い。

倉庫番のミミさんや昔飼っていた犬が天井の隅を真顔で眺めてる時のような…そういう目。


「…………。…け、仮病を使っていたことをな…」

「あ、あれ話したんですか」

「あ、ああ。…俺の様な病弱な子を代理戦争になど出せないと騒がれたので」

「もっと早く話して差し上げるべきだったかと」

「うっ…。いや、話はそこで終わりじゃなく」

「?」

「…は、母が…すっかり祖父様のように…」

「え」


いまいち要領を得ないので詳しく聞いてみたところ…これまで散々仮病で心配をかけてきたことの反動なのか。

これまでの女遊び、夜遊び事案、婚約解消、仮病の発覚、そして極め付けは代理戦争の代表者へ立候補した件…。

全てを説明し、両親の理解と許しをもらおうとしたところ公爵夫人は驚異の変貌を遂げたという。

この時初めて知ったのだが、エディンの父親は婿入り。

珍しいが公爵家ほどの爵位ならなくはない。

そして以前レオに「根性論が服を着て歩いている」とまで言われたエディンの祖父は、母方の祖父。


「ち、血が目覚めたんだ…!」

「台詞はかっこいいですね」


厨二くさいけど。

その血はお前にも流れてるんだろう?

…………え、じゃあエディンも将来「根性論が服を着て歩いてる」系に進化したりするのか?

うわぁ、自分の想像だけど超怖…。


「服はそのままで構わないよ。内々だけのパーティーだ」

「そうそう、スティーブン様やライナス様もお呼びしたの。もうすぐいらっしゃるわ」

「まあ…。明日もお城で舞踏会がありますのに…」

「なぁに、彼らも若い。大丈夫さ。それに、君の誕生日パーティーと言ったら喜んで了承してくれた」

「エディンと違ってローナ様は人望がおありなのですわ。うふふふふ」

「…?」


成る程、夫人の笑顔が…怖い。

グルン、と振り返った夫人に隣のエディンだけでなく俺まで肩が跳ね上がった。

さ、殺気…!


「分かっていますわね? エディン…解消されるまでは婚約者です。それまできちんと婚約者らしくローナ様をエスコートするのよ?」

「は、はい、母上…」

「もちろん明日も…分かっていますね?」

「も、勿論です…」


ガタブルじゃねーか。


「…こ、こほん。では、我が家のダンスホールに案内する」

「…………?」

「お嬢様、手、手です」

「あ、ああ、そうでしたわね…」


顔色の悪いエディンに差し出された手に対し、小首を傾げるお嬢様。

そ、そうですね…これまでの奴の行動から考えて「え? これ何?」となるのは分かりますけど一応まだ婚約者ですから。

どうやら今夜と明日の『女神祭』ではちゃんと婚約者らしく振舞うつもりのようだ。

というか、婚約者らしくしないとエディンは公爵夫人になにをされるのか………ちょっと気になる…。


「旦那様、ライナス様とスティーブン様がいらっしゃるそうなので私は出迎えに行って参ります」

「ん? ああ、いや、それはディリエアス公の使用人に任せなさい。お前はローナの側で控えていればいい」

「…はい」


ローエンスさんも一緒だし、俺やることないっぽい。

あ、でもローエンスさんが居るんなら…来年ケリーの面倒を誰が見るのか聞いておこう。

…………それにしても…。


「…なんだろう」

「どうかなさいましたか、ケリー様」

「エディン様が義姉様のエスコートをしておられるの…………あれはあれで腹ァ立つな」

「分かる」


ローエンスさんには聞こえたかもしれないが、非常にこっそりと二人で毒突く。

散々お嬢様を放置しまくったくせに、婚約解消が決まってから婚約者らしく振舞うって…。

モヤモヤするな、なんか、すっごく。

しかし、悔しいがさすが乙女ゲームの攻略対象。

お嬢様と並んでも、全くなんの違和感もなく…むしろお似合い。

2人とも学園の制服ではあるものの明日の『女神祭』、城の舞踏会は正装だろう。

きっと今までにない光景を見ることになるんだろうな…。

そう考えると感慨深く、そして別なモヤモヤが…!


「ま、この腹のモヤモヤももうすぐ解消されるしな」

「ま、それもそうですね」


俺と同じように腹にモヤモヤを抱えていたケリーが満足げに頷く。

そうだよな、お嬢様とエディンの婚約の解消は決まった。

これでお嬢様の『女好きのクズ男エディンと結婚して生涯悩まされながら苦労する』エンディングと『婚約者が心奪われたことを知り崖から落ちて自害』エンディングはーーーー。


「…けど、そうなると義姉様の嫁ぎ先はどうするんだろう。俺は家にいてもらって全然構わないんだけど」

「既にいくつかのお家からは『婚約を解消された場合』と前置きでお声は頂いておりますよ」

「そうなんですか?」


ニッコリ微笑むローエンスさん。

間もなく公爵家のダンスホールに到着する。

板チョコみたいな艶やかな木製の扉は、実にシック。

使用人が公爵の合図で扉を開くと、城のものと劣らないようなシャンデリア。

俺が見てきた中では城に次いでの広さを誇るダンスホール。

すぐに音楽家たちが演奏を始めて、メイドたちが一斉に頭を下げる。

うわ、さすが…。

だが、俺とローエンスさんは執事と執事見習いなので壁際へ。


「…ローエンスさん、少し仕事の話をしていいですか」

「うん、なぁに?」

「来年、ケリーが入学してくるじゃないですか? 誰が世話役で来るんです?」

「それなんだけどね、自分のことは自分でやるし、お前がもうあっちに居るから使用人はいらないって言ってきかないの」

「…………」


よ、予想を裏切らないな…!

思わず頭を抱えてしまう。

確かにケリーはお嬢様の厳しめの躾により、表面上は実に紳士だ。

しかし中身はある意味全然幼少の頃から変わっておらず、しかもお嬢様の変な影響で「自分の事は自分でやる」感覚が身についている。

悲しいが、お茶も自分で自分好みに淹れられるし、服も自分の好きな服を自分で選んで買ってきて自分で着る。

誰の影響か知らないが、俺がアミューリアに来る少し前…ついにお菓子や料理も作るようになっていた。

そう、まさに貴族とは思えない…しかし、内面野生児なのが分かるような顔立ちと国で一番権威を持つ伯爵家跡取り…外面が紳士的な事もあり当然婚約者志望の令嬢は後を絶たない。

もっと言えばそんな感じで、割となんでもそつなくこなすケリーは絶対に結婚したら素敵な旦那になると確約できる。

なにしろ、根は真面目なので一途な男だからだ。

こんな優良物件そうそうないぞ。

…………ではなく。


「まあ、確かにケリー様はお嬢様以上になんでも自分でやる方だけどね」

「そうですね。…でも、使用人を連れて行かないのは他の貴族からバカにされます」

「そう言ってるんだけど…言いたい奴には言わせておけばいいと…」

「男前か」


なにその割り切り方かっこいい。

…ほんと、中身は野生児…。

お嬢様は令嬢としての意識が高いから、奥様の助言もちゃんと耳にいれたんだろうが…。

ケリーは元から貴族らしからぬところが多々あったからなぁ。


「…それでね、旦那様はヴィニーが良いならそれでもいいんじゃないかと折れてしまってるんだけど」

「まさかの俺の返事待ち」

「そう。どうする?」


…………。

どうって、お嬢様は元々手のかからない方。

ケリーも然り。

むしろマーシャが一番手がかかる。

昼食の弁当作りは楽しいくらいだし、そこに1人増えたところで別段負担のようなものは…………ないな。


「大丈夫な気はしますね…。大丈夫な気はしますけど…ダメだったら誰か寄越してもらっていいですか?」

「オッケー、それで行こう」


……話がまとまってしまった。

まあ、どうせ近々する予定だったし…そもそも話を振ったのは俺だからいいけどさ。


「それともう一つ。お嬢様とケリーの婚約者候補」

「やっぱりそこ気になっちゃう?」

「ケリーはともかく、お嬢様は…」

「そうねー、今のところほとんどセントラルの侯爵家や伯爵家の方ね。メルティール家、クレディア家、コフィンディレイ家…一番大きいところだと…レオハール王子」

「!」


最も小声で上げられた名前。

横目でローエンスさんを確認するが、相変わらずヒゲの下の唇は弧を描いたまま。

知っていた事だが、本当食わせ者だよなぁ。


「勿論、王家からの正式なお話ではないけれど」

「でしょうね」

「…本日、スティーブン様のエスコートはお父上様である宰相様との事だから…もしかしたらなにか面白いことになるかもしれないねぇ」

「へえ…それは楽しみです」


………あれ、普通にスティーブン様がエスコートされる事になってるけど俺の耳が聞き取り失敗したのか?

それとも…。

もう一度横目でローエンスさんを確認するが表面上の変化はない。

…でも、スティーブン様の変化については知っている…って感じか。

例え同じセントラル内でも、アミューリア学園の一部生徒にしかスティーブン様が吹っ切れた姿になった事は知られていないはず。

『王誕祭』の城のパーティーに、スティーブン様は生徒会の仕事で出られなかった。

と、いうことは…。


「…………ローエンスさんの情報網マジでどうなってるんですか」

「うふふふふふ。そのうち教えてあ、げ、る」



執事の秘儀か…俺もまだまだだな…‼︎

だがなんにしても…………


『エディンルート』破壊完了!

お嬢様の『一生苦労人』エンディングと『崖から自殺』エンディング…救済…………‼︎





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