【帰還エンディングおまけ】
真凛様と共に現代日本——俺が死んで一年後の地球へ戻ってきた。
いや、普通に驚いたわ。
俺が死んでちょうど一年後、つまり一周忌のその日に俺は実家に帰ってきたのだ。
俺が驚いたんだから両親はより驚いたことだろう。
なんなら親父は腰抜かして気絶。
母は入院した。ごめん。
茶の間にある自分の位牌に手を合わせるという大変奇妙な経験をしたあと、俺はこの世界に帰ってきた当日に再会を果たした兄貴の方へと向き直る。
「で、みすずは……」
『やだー! 本当にヴィンセントになってるんだけどー!? 三次元化したヴィンセントやべぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
「……このように異世界でとても元気にやっている」
「そのようだなぁ」
テレビ画面に張りついて『はぁ、はぁ、生ヴィンセントヤベェ』と鼻息粗く覗き込んでいる妹の姿に頭を抱えた。
行方不明になった妹、水守みすずは『リーネ・エルドラド』という異世界に、事故で召喚されてしまっていた、らしい。
にわかには信じ難いが、自分が『異世界転生』している身なので絶対「嘘だろ」とは言えないよなぁー!
『ところでそれ、本当に鈴城兄なの? 隣にいるカワイイ女の子誰? まさかヒロイン!? 戦巫女なの!? フィリシティ・カラーには帰還エンディングなかったはずなのに! どういうことなの! 詳しい説明プリィーーーズ!』
我が妹ながら本当うるせぇな。
「あ、えっと。はじめまして、昊空真凛と申します。ヴィンセントさん……あ、す、鈴城さんと、お付き合いさせていただいてます」
『は——?』
「っ」
ま、まま、まま、真凛様……!
あ、いや、そんな直接、正々堂々と!
いや、俺から言わねばいけないことなのだろうが!
わああああああっ!
恥ずかしーなこれーーー!
『あの鈍感の権化みたいなお兄ちゃんにかかかかかかかか彼女!? 彼女!? 世界滅ぶの!?』
「失礼なことを言うな!」
「俺も最初は驚いたが、一度死んだおかげで鈍感がやや緩和されたらしい」
「あ、兄貴、言い方ァ!」
俺の鈍器ぶりしななきゃ直らないレベル——!
くっ、否定できない。
『そんな鈍感男のどこがいいんですか!? 顔ですか!?』
「おいいぃ!」
「え、えーと、なんでもできてすごいところはもちろんなんですけど、人のために本当に一生懸命になるところや、ローナ様に一途なところとか、仕事に対してすごく真摯でプロ意識が高いところ、あとは表情豊かでかわいいところと……見てて楽しくて飽きないところですかね! 他にもたくさんあります!」
『「「…………」」』
俺が死ぬかと思うので。
うわ、恥ずかしい……。
『えー、うそー、信じられないー。鈴太郎お兄ちゃんも来月結婚するって言うし〜!』
「兄貴も異世界関係の人なんだっけ?」
「ああ、異世界召喚に巻き込まれて、帰るための作業を手伝っていたらなんとなく」
なんとなく。
この兄貴を射止めた女性か。
兄貴は「なんとなくまだ会わせたくない」と言って会わせてくれないんだが、どんな人なんだろう?
一回りくらい年上って言ってたけど。
兄貴が結婚か〜。
俺も真凛様が成人したら入籍しよう。
…………そもそも俺、死亡届出されてて『ヴィンセント・セレナード』は兄貴の上司のおかげで戸籍新しく作ってもらったんだけど結婚届け出せるもんなの?
真凛様が成人するまでに定職見つけて養えるように頑張ろう。
じゃなくて。
「いや、俺たちのことよりお前だよお前。どうなってんだよそれ、どうすんの? 帰って来れるのか?」
問題はみすずである。
聞けば事故で誤召喚されたことで、正式な手続きのようなものを踏んでおらず、こっちに帰ってくるには素になった魔法を調べて解読して、新たな契約を結んで帰還の送還術を作らねばならない、らしい。
多分真凛様がこっちに帰ってくるよりも難しいことになってる。
なんでも超優秀な国らしくて、みすずの身柄はとても丁寧に扱ってもらっており、なんなら国として謝罪までされ、国が送還術の開発も手助けしてくれているほどだという。
それでも太古の昔の滅んだ国の言葉の調査から行わねばならないとかで、本当に大変そうだ。
年単位は覚悟して欲しい、と言われており、こうしてテレビで連絡を取り合えるようにあっちの異世界の魔法騎士団長さんが配慮してくれたそうだが、もう少し具体的なことはわからないのだろうか?
『えー、わかんない。私だって色々自分なりに調べてるけど、異世界の、それももう滅んでる国の言語なんかわかるわけないし』
まぁなぁ……。
『私だって早く帰りたいよ……』
「みすず……」
『買ったばっかりの乙女ゲー、封も開けてないんだよ!? 今頃新作もバカスカ発売してるはずでしょ!? リーネ・エルドラドにもゲームやドラマや映画みたいな娯楽はあるけど乙女ゲームはさすがになかった!』
「みすず……」
思ったより色々ある世界だな。
兄貴も「かなり科学が進歩している世界のようだ」って言ってたし、みすずには護衛に竜までついてるそうだ。
身の安全も、生活の保証もされてるとはすごい世界もあったもんだな。
そしてみすずは今、厄介になっている貴族のお屋敷で護衛の竜のお世話係をやっているらしい。
いや、仕事は?
それが仕事? 嘘だろ?
竜のお世話してゲームしてご飯食って風呂入って寝てるだと?
しかもそれに飽き足らず乙女ゲーしたいだと?
ダメ人間じゃねーか。
『ミスズお嬢様、そろそろお夕飯のお時間となりますが……お夕飯はこちらにお持ちいたしますか?』
『あ、ううん、食堂に食べに行くわ! ありがとう、マーファリー。ってわけでご飯食べてくるね! じゃ、お兄ちゃんたちまたね!』
「え」
「あ」
ぷつん。
テレビ画面が真っ黒になる。
「……みすずお嬢様……?」
「あちらではそう呼ばれているらしい」
「居心地良さそうだったなぁ……お嬢様かよ……」
「だからまあ……心配は必要ないだろう……」
「そのようだな……」
沈黙。
このなんとも言えない空気。
俺は水守鈴城の人生を終わらせ、『ティターニア』での地位も名誉も生活も全部捨ててみすずを探すために帰ってきたんだが……。
「あいつ帰ってきたらゲンコツで殴る……」
「す、鈴城さん、乱暴はダメですよ!」
「すみません、真凛様。これだけはお許しを」
おわり。
おつかれさまでした。







