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幸せを見届けて【残留エンディング】

 

 この世界に転生して二十年が経つ。


 最後の『大陸支配権争奪戦争』のあと、『ウェンディール王国』は他の種族と不可侵及び和平の条約を締結して世界の賞賛の中心となった。

 数ヶ月後、俺は『アミューリア学園』を卒業してレオのサポートに奔走。

 体が空いたのはほんの三ヶ月前である。

 その間にケリーやラスティ、アルトと真凛様も学園を卒業なさり、各々結婚やら家督の引き継ぎでそっちはそっちで忙しそうだった。

 俺としては、陛下の退位とレオの戴冠が一番——最高潮に地獄のような忙しさだったように思う。

 なにしろ国の要人だけでなく、各種族の要人まで招かれたのだから。

 そして、三ヶ月前……お嬢様とレオは結婚し、『ウェンディール王国』の国母となった。

 相変わらず笑うのが苦手な人だが、民の前に出た時は日々の練習の成果を遺憾なく発揮しておられた。

 俺はそれを見て、お嬢様の破滅エンド完全救済を確信したものだ。

 あ?

 泣いたかって?

 泣いたししばらく寝込んだわちくしょう。

 いろんな感情がせめぎ合って、心と感情の整理に三日寝込んだわ。


 まあ、けど……お嬢様が幸せになったならそれで良いんだ。




「では、ヴィニー、マリン。よろしく頼みます」

「はい、お嬢様! ……あ、ではなく——ローナ様」

「がんばります!」


 王との謁見の間。

 そこで俺と真凛は跪いて、王と王妃に頭を下げる。

 出会った頃とは比べ物にならないほど凛々しい王の姿。

 俺を救ってくれた頃と変わらないどころか、ますます美しさに磨きがかかった神々しい王妃の姿。

 二人の姿を目に焼きつける。

 俺と真凛は立ち上がり、騎士となったエディンやライナスに見送られて外へと出た。

 ケリーやマーシャやメグ、スティーブンとクレイに横目で別れを告げて、馬に乗る。


「たまには帰ってこいよ」

「そうだべさ! 一年に一回くらい!」

「うーん、一年に一回……努力はしてみるけどな」


 ケリーはヘンリエッタ嬢と、マーシャはエディンと結婚。

 ヘンリエッタ嬢は今妊娠中らしいから、見送りには来れなかったそうだ。

 まあ、仕方ない。

 一応先日お別れは済ませてきたし。


「寂しくなりますが、報告を楽しみにしておりますね」

「本当は俺も行きたかったんだが」

「なに言ってんの! クレイは他の亜人族の長としてやることが山積みなんだよ!」

「わ、わかってる!」


 すっかり次期宰相らしくなったスティーブン、ライナスと結婚……すんのかね?

 家同士でまだごたついていると聞いているし、俺たちが一時帰国する時に進展があればいいな、と思う。

 やはり知り合いには幸せになってほしいし、二年以上続いてるのなら結婚もありだろう。

 ライナスとスティーブンのおかげで、完全に男同士あれそれに偏見がなくなった。

 まあ、元々幸せにはなってほしいと思ってたし。

 で、クレイとメグも結婚した。

 亜人族は今も人間族の——『ウェンディール王国』属種族となっている。

 だが、他種族の国にも隠れた亜人は多く存在しており、それらの亜人族を集めて新たな区画を作る計画が進んでいるそうだ。

 これから『ウェンディール王国』はイースト、ウエスト、サウス、ノースの地区以外に亜人地区が作られる予定だ。

 場所はサウスとウエストの地区の間。

 イースト地区もそれに伴い狭くなる。

 地区領主たる公爵家は反発必須かと思ったが、「管理する土地が減って税金が安くなる」と歓迎されたとか。

 複雑である。

 なにしろクレイはそれを聞いて「ぜ、税金……」と、色々悟ったのだ。

 まあ、頑張っていただきたい。

 この先大陸中の亜人が『ウェンディール王国』に集まり、田畑を作って家畜を増やせば、なんとかなる、はず。


 で、俺と真凛がこれから旅立つのは——。


「大陸の今の姿って、本当にどんな感じなんでしょうね」

「うーん、アニムやマーケイル、クレヴェリンデも『地図なんかない』っていうからなぁ。未知数すぎる」


 戦ばかりの『獣人国』以外、妖精族とエルフ族と人魚族は地図を作っていなかった。

 俺たちは地図作りの仕方の指南や、他国の文化を学びに留学の旅に出る。

 俺は前世から割と旅が好きだ。

 在学中も、卒業して、お嬢様が結婚したあとのことを真凛と話していた結果、国のためになることがしたいと思っていた。

 で、それならばまだまだ知らない他種族の文化を学びに行こう、ということになったのだ。

 戦争とは、知らないから起こる摩擦によるところが大きい。

 文化の違いで致命的な事態が起こる前に、お互いのことをもっと学び、知ることは大切だ。

 実はすでに多くの士官が各国に交換留学しているのだが、交流はまだまだ足りないと言わざる得ない。

 なので、国内が一段落ついた今、戦場で戦った俺たちが他国を一巡することになったのだ。

 向こうも不慣れな貴族たちを受け入れて、色々困ったことも出てくる頃合いだろう。

 そういう齟齬(そご)を、異世界から来た真凛と、異世界の記憶のある俺で一つ一つ潰していく、というわけだ。

 俺はお嬢様とマーシャの花嫁姿が見れたので思い残すことはない。

 そして——


「楽しみですねぇ、各国の花嫁衣装」

「わたしも、どんな結婚式になるか今からちょっと楽しみです」


 えへへ、と笑い合う。

 俺と真凛は戸籍上結婚済み。

 だが、結婚式はまだあげていない。

 これは国の職務でもあるが、俺たちの新婚旅行も兼ねている。

 俺たちはすでに起きているだろう他国との齟齬の解消と、結婚式の様相を自らが体験することで学びの一部とするつもりなのだ。

 あと、ついでに『結婚式の時に女神エメリエラに愛を誓う』という『ウェンディール王国』に根付かせた例の文化を、他国にも浸透させる。

 それによりエメリエラはますます強くなるだろう。

 それは他の四女神にも受け入れられるはずだ。

 アルトはアニムと話した結果、「五種族と亜人族共通の信仰があれば、信仰による衝突もなくなるかもしれない」と分析した。

 なるほどなぁ、と思った。

 信仰は、地球でも戦争の理由によく使われる。

 六つの種、すべての共通の信仰女神として、エメリエラを奉るのだ。

 これはその布教活動の第一歩とも言える。


 と、まあ、そんな感じで俺と真凛は政治的な意味もある新婚旅行に出かけた。

 馬二頭と、少ない荷物。

 旅は狩りをしながら、野宿しながらの過酷なもの。

 なにしろ『獣人国』以外は地図がない。

 地図作りは始まってるだろうが、首都へ行くまで大変だろうなぁ。


「しかし、本当に帰らなくてよかったんですか? 元の世界に」


 真凛には選択肢があった。

 元の世界に帰る術が見つかったのだ。

 エメリエラがティターニアとして覚醒したことで、異界を渡る術が。

 今更な気もするが、彼女はいつでも帰れる。

 俺についてこなくても、良かったのだ。

 それを最後に確認する。


「いいんです。わたしの居場所はヴィンセントの隣ですから」

「……そうですか」


 なら、やはり最後まで——今度は、この人のために生きよう。

 平和にするより、平和を維持する方が大変。

 それは愛情も同じだ。

 この人に見捨てられないように、今度は俺の破滅エンドを回避するべく頑張ろう。

 俺を救ってくださった、ローナお嬢様の破滅エンドよりも、もしかしたらこちらの方が難易度高いかもしれん。

 でも大丈夫、俺は乙女ゲームの悪役令嬢たるお嬢様の破滅エンドを救済して幸せになるのを見届けた男だぞ。

 このハッピーエンドを、きっとどんな困難も乗り越えてみせる。


「では行きましょう」

「はい!」





 END

エンディングは2種類ご用意してます。

明日で完結です。

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