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レオとクレイと俺と【後編】

 


 そう言って、手を差し伸べるレオ。

 全くもって俺の弟は大した奴だと思うのだが、クレイは絶句してるな。

 あまり長く沈黙されて、レオも俺も困惑してきた。

 あれ、クレイ、フリーズ……?

 なぜ?


「…………」

「クレイ?」

「……、……っ……感服した」

「は?」

「え?」


 突然何を言い出すのか。

 頭を抱えて、動揺するクレイ。

 レオと顔を見合わせる。

 どうしたどうした?


「……俺は亜人族の皆の事しか考えていなかった」

「え? それは……当たり前なんじゃないの?」

「だが、お前は……我ら含め、全ての種族の未来を想っていた」

「単に僕が臆病だから……」

「五百年後の事まで、俺は考えられていなかった」

「今が大切なのは僕も同じだよ」

「…………」

「クレイ」


 なんか一人反省会始まってる。

 レオがクレイの側に一歩近付く。

 真面目な奴だな、クレイ。

 確かに背負うものは同じ『種族』。

 でもレオは見ているものが少し違っていた。

 クレイは不遇の自分の種族の今をなんとかしようと奔走していたのだから、それは絶対に間違っていない。

 現に、その努力で人間族と亜人族は同盟を組んだんだ。

 今日はそれを、祝う日。


「……俺の父はこの国の国境騎士だった」

「へ?」

「!?」


 国境騎士!

 え?

 クレイの親父が?

 え、待て……どういう事だ?


「お前の父親がこの国の国境騎士? え? どういう事だ? だってお前……」


 見るからに、亜人では?

 耳も尻尾も触らせてもらったけど、どっちも本物だった。

 しかも国境騎士ともなれば、王都に戻る事もほとんどないはず。

 母親が亜人だったのか?


「俺の母は『獣人国』から内戦で追われた一領地の領主の娘だったという。国境まで逃げて、怪我をして倒れていたところを父が助けたのだ。本来ならば追い返さねばならないところを、父は怪我をしているからと母を助け、怪我が治るまで介抱した。そうして俺が生まれたんだ」

「……っ! ……では、君は……」


 亜人は亜人でも、本物のハーフ……。

 入り混じった血の亜人ではなく、人間と獣人から生まれた?

 嘘だろ……。


「父は亜人を認めないこの国で騎士を続ける事を諦め、連絡を絶った。きっと死亡扱いされているはずだ。……俺と母、そして亜人族と共に生きる事を、選んでくれた。だから、ずっと、俺は……俺の中では……人と獣人、亜人は、手を取り合って生きていけるものだと……」

「……うん……」

「それなのに俺はいつからか……その想いも捨てて亜人族の事だけを優先するように……」

「そんな事……!」


 それは違うと否定しようとして、首を振られた。

 他ならぬクレイ自身がそう感じている。

 けれど、そういう家庭事情なら……いや、だが……なぜクレイはそんな大切な事を『捨てて』なんて……?


「メロティスが……」

「メロティス?」

「新たな長の座を狙い、派閥を作った時に、俺の父を暗示で洗脳し連れて行った。俺と母は父を取り戻そうと『長の座』を賭けた戦いに参戦した。だが、母は純血の獣人。だから『亜人』である俺が戦い、そして勝った」


 うわ、もうその時からコイツそこまで強かったのか。

 ……いや、それが『純血の獣人』との間に生まれた『亜人』なのかもしれない。

 寿命が長い妖精とエルフ。

 メロティスは妖精と人間の間に生まれた亜人らしいから……。

 純粋な、という言い方は少し変だが……亜人としてメロティスと対等なのはクレイとツェーリさんだけという事か。


「だが勝負の後、メロティスが姿を消した時……一緒に俺の両親も連れて行かれたんだ。俺はどうしても、奴の居場所を知りたい。ズズに合流した同胞たちの中に俺の両親はいなかった。……俺は……」

「クレイ、違う……待って、落ち着いて」


 レオがクレイの肩を掴む。

 クレイの——……。


「そうだ、クレイ、それは……」

「違わない! 俺は! 本当は……! 父と母を取り戻したかっただけだ! 亜人族の、同胞たちの為だと言いながらも本当は! レオハールよ、俺は! お前の足元にも及ばない! 俺はただ、自分の為に……今まで長のふりをしてきただけの……ただの……!」

「君がいなければ! 僕は亜人と同盟を結ぶ事は出来なかった!」


 声が響き渡る。

 俺はちょっとだけ、驚いた。

 レオが……クレイに叫んだ事が、ちょっとだけ……意外というのも変だが……思いも寄らなかったので。

 けれど……。


「ああ、お前がいなければ今日という日はあり得なかった。俺もレオと同じ意見だ、クレイ。理由はどうあれ、お前が亜人族の為にしてきた事は無駄じゃない。絶対に」

「…………」

「何より、お前に否定されたら……お前と志を同じくした奴らや、俺たちまで無駄な事したみたいだろうが」

「……! ……あ……」

「うん、そうだよ」


 レオがクレイの腕から手を離す。

 一歩下がって、微笑み掛けた。

 始まりがどうであれ、がむしゃらに突き進んできた、その成果は現実だ。

 亜人のおかげでレオも無事振るっても壊れない剣を得られたし、『斑点熱』の予防食レシピも完成した。

 あとは根付かせていくのみ。

 もう俺たちは手を取り合って進んで来れているのだから。


「でも、そういう理由があったなら君の父君は国境騎士から解任だね。そして、改めてきちんとその名と功績を讃えよう。君と僕たちを出会わせてくれたのだから」

「!」

「国境騎士になる程の人物だから、多分貴族だろうけど……最低伯爵位まで地位は与えなければいけないなぁ。報償金と……土地、いる? 王家から与えられるものって、意外とそんなものしかないのだけれど……」

「それなら町一つ任せたらいいのでは? リース家とリエラフィース家の領地内に亜人の町を作る予定なんですから、そのどちらかの領地を任せればどっちもWIN-WINかと」

「それいいねー、さすがヴィニー!」


 問題はその人がまだ行方不明な点かぁ。

 メロティスに連れ回されているのならクレイの両親は……無事、だろうか?

 無事なら良いんだが……。

 うんうん、それなら尚の事、メロティスの手掛かりをここで探しておかねばならんな!

 ……でも、ここでそれを調べられるか?

 辺りは粗方調査された後だろうし……。


「……罰さないのか、父はこの国の法を犯したのだろう。獣人の母を追い返さずに助けたのだ。あまつさえ、持ち場を放棄して……亜人たちと……」

「そうだね、当時の法ならば罰則の対象だろう。だが僕が王になった後、法はもっと変える。君の父上に関しては遡って新しい法を適応させる事とすれば良い。もちろん、今後もお互いに歩み寄っていかなければダメだ。そして、それには君の協力は必要不可欠だし、戦争で僕とヴィニーが帰らなかった時、僕たちが願った事を叶えてくれる最後の希望は君になるだろう」

「っ!」

「もちろん俺もレオも負けるつもりも死ぬつもりもないけどな」


 その上、なんか俺の前世の一人、人外レベルの化け物らしいし。

 クレースに『お前一人でもなんとかなるんじゃね?』的に言われる程。

 実際『アレ』を経験した後だとそんな気はするけど。

 それはそれでヤダっつーか。


「それでも、戦争だから……何が起きるか、予想も付かない。僕は、僕たちはこの戦争を五百年後に持ち越したくはない。君も同じ気持ちなら、どうか僕らがこの国に戻れなかった万一の時はマーシャと……そしてこの国を頼むよ」

「…………」


 レオの言葉が途切れたところ。

 マーシャと、うちのお嬢様を——……そう、聞こえた気がした。

 俺たちがどちらも戻れなかったその時は、マーシャが女王になる以外選択肢がなくなってしまう。

 エディンの野郎もどうなるかは分からない。

 保険はかけておきたいし、何よりクレイなら大丈夫だと確信がある。

 多分、レオも気付いているんだろう。


 ……クレイはうちのお嬢様が、好きだ。


 あの時……初めて会ったあの日に本当に一目惚れしてしまっている。

 立場とか、レオの婚約者だからとか、そして何よりうちのお嬢様がレオを好きだと気付いてて口を噤んでる、と、思う。

 根が真面目……真面目すぎる。

 真面目レベルで言うとライナス様レベルではないか?

 ……だから、もしもの……その時は……。


「…………」

「クレイ」


 レオが優しい声で、しかし凛とした響きで名を呼んだ。

 クレイの両親の事。

 戦争の事も、メロティスとの決着の事も、種族の事も……本当ならクレイ一人で背負えるものではない。

 ぐしゃりと歪んだ顔も、しかしそれでも、イケメンだな。

 何より、目尻から落ちた雫は綺麗だと思う。


「……心より感謝する、王子……王太子殿下。亜人族の長として、お前を尊敬する。お前が王となる事を、俺も心から望む。五百年後の世界が、種の隔たりのない、平和な世界である事を……俺も……願おう」


 頭を下げたクレイ。

 レオは少し恥ずかしそうにしていたが、顔を上げたクレイの清々しいまでの笑顔は忘れられそうにない。

 イケメンすぎて、ヤバくない?

 これだから顔のいい奴は。


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