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ズズイベント終了のお知らせ



 更に三日後。

 九月になり、ようやくズズイベントが終了したとのお知らせが入った。

 まあ、正確にはケリーたちが無傷で帰還して、レオが学校に来るようになったのだ。

 いつもの喧騒を取り戻した薔薇園にて、事の顛末を聞かされる。

 その場にクレイとメグはいなかったし、クレイたちは今もズズと密に対話を行なっているんだとか。


「……はあ……」


 まあ、それは……それは一応クレイたちの方の事情で、レオが頭を抱えて溜息を吐いている理由はまた別な事。

 今月の末にある『同盟祭』である。


 さて、この『同盟祭』とは?

 昨年人間族と亜人族が『同盟』を組んだ事を祝した祭である。

 仲介役となった守護女神エメリエラ(という設定)に、今年も仲良く出来ました、と報告し来年も仲良くしましょうね、と約束を捧げる祭。

 もちろんその実は女神エメリエラに人間族や亜人たちのプラスの信仰心を捧げる事が目的だ。

 結婚式の時に愛を女神エメリエラへ捧げる、という風習は王都を中心に怒涛の広がりを見せており、アルトの作戦は上手くいっていると思う。

 だが、来年ついに戦争が始まるのだ。

 祭とエメリエラの祈りは多い方が良いに決まっている。


「はあ……」


 そしてレオがこのように溜息連発しているのは今回ズズの件で発覚した諸々のせいだ。

 まず整理して説明すると、ズズのイベントは滞りなく終了。

 ヘンリエッタ嬢の言っていた通りイベントが起き、クレイの提案していた通り『人間族代表五名』と『ズズの派閥代表五名』による乱戦……勝ち残り決闘が行われた。


 で、イベントの流れとしてはそのバトルに戦巫女側が勝つ。

 ↓

 ズズが素直に負けを認めるが、ズズ側にいた『狼の獣人』がメロティスに洗脳されたままだった。

 ↓

 その『狼の獣人』はクレイの実母だった。

 ↓

 クレイは実母の洗脳を解く為にメロティスを捜索、決着の為に動き出す。


 こんな感じらしい。

 このシナリオはクレイルートでは共通イベント。

 というか、これがクレイの『恋愛ルート』入り口。

 クレイのルートマジ濃ゆい。

 こっからが本番とかさすが追加のメイン攻略対象。

 ——そして……クレイは『実母』が『獣人』。

 ヘンリエッタ嬢は「ネタバレだから内緒!」とテヘペロっておられたが、まさかクレイが『純粋な亜人』だとは誰が想像するかよ?

 まあ、今頭を悩ませているレオの件とは話が違うので元に戻るが……そのように勝利を収めた我々人間族をズズは認め、クレイを今度こそ亜人族の長として認めると宣言した。

 まあ、報告を聞く限りやはりケリーが丸め込み、ラスティが亜人側に付いたお陰で大分マイルドに収まったようではある。

 今までの事やこれからの事を共有しているクレイとズズ。

 そして、新たにクレイの下に集まった数百人の亜人たち。

 これ。

 問題はココ。


「困りましたね」

「困ったよ……どうしたものだろう?」

「しかし、『同盟祭』は行わねばならんだろう?」

「しなければダメだ。というか、今更出来ないとは言えない」

「だよなぁ」


 幼馴染組が困り顔を揃えて頭を抱えている。

 そう、『同盟祭』に、新たに加わった亜人たちが参加するとなると用意していた食糧が圧倒的に足りない。

 元々ズズたちが変なタイミングで動き出したのは、彼らの食糧問題もあったという。

 北に身を隠していたズズたちだが、ノース地方は氷の大地でも育つ特別な野菜、ノースフォレストの実が主な食糧として成育されている。

 甘い木の実で、ヤシの実の五倍くらいあるらしい。

 当たり前だが管理が行き届き、迂闊に盗めるものでもない……まあ、まずもって盗むなと思うけど。

 ——収穫前の作物盗難は前世の実家が兼業農家だったのでマジ滅べとガチで思っています。

 ともかく、そんな食い物に困ったズズたちは、王都の方が『斑点熱』で大変と聞き「今なら人間どもに報復し、ついでに食糧を奪える!」と考え動いた。

 だがしかし、うちの国は収穫がまだである。

 九月……つまり今月の末辺りから収穫期となり、各作物の収穫が始まるわけだ。

 品目によっては収穫が始まっているものもあるだろうが、数百の亜人たちに施していける量はない。

 毎年ギリギリなんだから、自分達の事は自分たちでなんとかして頂きたい。

 少なくともクレイたちは自分たちの食糧は自分たちで生産していた。

 もちろん、クレイたちの方も新たな数百の同胞たちを賄えるほどの余裕はない。

 これが頭の痛い問題の中身である。

 その上、今月末には『同盟祭』。

 来月の末は収穫祭を兼ねた『女神祭』。

 そしてお嬢様の十八歳のお誕生日。


「なんというか、食べ物以外で祝いを示すしかありませんよね」

「そうだな。例えば?」

「うぅ……」


 スティーブン様も頭を抱える。

 ライナス様は腕を組んで直立不動だが安心して欲しい、貴方には割と最初から誰も期待はしていない。

 そして俺も割と誰にも期待されていないっぽい。

 なぜ?

 まさか手にお嬢様のお店の資料や経営に携わるスタッフの面接書類とか持ってるから「あ、今こいつ忙しそうだからダメだ」って思われてる?

 まあ!

 お嬢様の破滅エンド回避の方が重要なのでそうさせて頂きますけど!


「食べ物以外のお祝い……。当初はどのようなものになる予定だったんだ?」


 とアルトがケリーに問い合わせる。

 ケリーも頭が痛そう。

 しかし、アルトには色々と実績もある。

 主に女神に関しては。


「当初は『斑点熱』予防食のお披露目が出来ればと思っていたんだ。あれから試行錯誤して、庶民でも簡単に作れるレシピが完成しつつあるから」

「そ、そうか……それは、確かに『同盟祭』に相応しいな」

「だがここで食糧を使うと冬越えする事が出来なくなる町が出る。……食糧以外の、祝い方……」


 うむ……この国は雪国。

 食糧の備蓄は命綱そのもの。

 天候による不作が来年起きるかもしれない中、無駄には出来ない。

 ……お、この方は来年卒業のご令嬢だな?

 就職先にうちのお嬢様のお店をご希望とは……結婚する気ないのかね?

 いや、爵位の低い令嬢が仕事を求めるのは別に珍しい事ではないけど。

 仕事をしながら家を助け、婚活を続けるのは婚約者が決まらなかった令嬢あるあるだけど。


「ヴィンセントさん」

「はい、なんでしょうか真凛様」

「……は、何かないんですか?」

「………………。そうですね、折り紙などいかがでしょう?」

「折り紙?」


 反応したのはアルト。

 やはりイースト地方にはあるのか?


「ええ、この国はご存じの通り雪が多く、雪解け水による紙の生産が盛んです」


 なので、毎月スティーブン様とマーシャのお楽しみ……恋愛小説など、書籍が発売されまくる。

 ある意味文化的な国だが本は庶民に浸透が薄く、それらのものは貴族が嗜む。

 本当ならもっと庶民にも浸透して良いと思うんだが……字を覚えるのを面倒くさがるんだよな。

 庶民が使うのは精々鼻紙や紙袋だな。

 一応紙作りはこの国の貴重な『職』となり、経済基盤を支える一つとなっている。

 せっかくなのでそれを大いに使ってはどうだろうか?

 日本でも紙を使った祭りはたくさんある。

 青森ねぶた祭り、仙台七夕祭り、山形花笠祭り……他にも……ああ、懐かしいな。


「せっかくなので、紙を使った祭り……みんなで紙を使ってなにか折ったり作ったりはどうでしょう?」

「紙か……確かに今からかき集めれば何とかなりそうだね! 来年からの仕事にもなる!」


 よしよし、レオの感触は悪くない。

 スティーブン様やエディンも頷いてる。

 お嬢様も、無表情だが反対ではなさげ。


「だが、具体的に何をどう作る?」


 不満そうなのはアルトだな。

 他の公爵家面々……ハミュエラ以外は乗り気な表情なのだが。

 ん、ハミュエラはあれだろう。

 あいつは紙というより本の類が苦手なのだ。

 教科書を読むと寝るらしいからな。

 その関係で紙にも幾分苦手意識があるらしい。


「そうですねぇ……」


 一番簡単なのは絶対『七夕祭り』だろうな。

 竹に願いを書いた短冊を飾るだけだ。

 これなら誰でも簡単に出来る。

 問題は庶民があまり文字を学ばない事だろうか?

 貴族や、一応一通りエルフ文字を学ぶ亜人族には出来そうなもんだが……。

 それに時期が……。

 ま、まあ、いいか?

 異世界だし?

 願いを捧げる、的なものにすれば?

 うん、これで行こう。


「こう、多くの人が気軽に参加出来る感じが良いので……」


 とはいえ、ここまで具体的な祭り案を俺が提示するのはどうなんだろうな?

 変に勘繰られない?

 スティーブン様とかケリーとかエディンは嫌に勘が鋭いしな〜。

 面倒臭いので真凛様、頼みます。


「真凛様の世界には、何かありませんかね? 紙を使ったお祭り。誰でも簡単に参加出来る、そう、折り紙を何か、木などに飾ったりするような!」

「折り紙を……飾る……木……、……あ! 七夕祭りがあります! 時期は過ぎちゃってますけど……」


 さすが真凛様!

 察して頂けて何より!

 ……ヘンリエッタ嬢……いや、佐藤さん、そんな顔で見ないで欲しい。

 これは仕方ないのだ。


「タナバタ……? 何? それ」

「……巫女の世界にもあるのか?」

「え?」


 ん?

 アルト……?


「俺の住む地域にもある。七夕祭りという。スズルギが残した文化だと言われ、七月の七日に竹に短冊や折り紙飾りを飾って一年の健康と目標を星に願う祭りだ」

「!」


 モロに七夕祭り。

 名前まで同じとは……。


「…………」


 鈴流木ライレンはもしかしてマジに俺の前世の世界の侍なのか?

 だが、魔法も使えたと言うしな?

 あの世界に極めて似た、別な世界?


「そうだな、それがいいと思う。願いを捧げる相手を女神エメリエラにすれば良いのだから」

「ねぇ、アルトアルト、タケってなーにー?」

「……王都の東区に竹林があったはずだ」

「そうなんですか?」

「王都に入る時に見かけた。ただ、具体的な場所はちょっと……。それに、祭りに使う竹は見定めた方が良い。これから毎年行うなら、竹林の規模も確認した方が……」

「じゃあ決まりかな。言い出しっぺの三人は今日の放課後そのチクリン? からタケとやらを一本取ってきて? とりあえず僕たちだけでその祭りがどんなものなのか試してみよう」


 エ……。

 レ、レオハール様……今なんと……?


「お、お待ちくださいレオハール様……俺はお嬢様のお店の準備が……」

「町に行くんだろう? 町でやる事ついでにやって来たら良いんじゃないか?」


 にこり。

 と、笑顔で言い放つケリー。

 き、貴様ァァ!


「それならわたくしも参ります。お店の改装が終わる頃でしょう?」

「は、はい。え、しかし……」

「そ、それなら巫女とローナ様は色紙を見繕って来れば良いのではないか?」

「! そう、ですね……手分けした方が……。いえ、しかしお嬢様たちだけというのは……」

「でしたら私とマーシャも参ります! ちょうど新刊も買いたいと思っておりましたし! ね、マーシャ」

「あ! うん! 行く行く!」


 ……あ、あの『暁の生首は月夜に舞う』とかいうやつ?

 ひょ、表紙見るのコェーな。


「ベックフォード、お前暇か?」

「うむ、姫君たちの護衛、謹んでお受けしよう」


 くっ!

 エディンとライナス様がむちゃくちゃイケメン騎士の会話してやがる……!

 はいはい、竹は俺とアルトが担当な!

 了解ですよ!


「では、アルト様、竹に関してはお願い致します。運ぶのは俺が行いますので」

「……あ、ああ……」


 なにやら顔が赤いまま目を逸らされる。

 アルト……また顔が赤いな?


「熱ではないですよね?」

「ね、熱はない!」

「本当ですかぁ?」

「ほ、本当だ!」

「……ヴィンセントのオニーサマ、それ以上アルトに顔を近付けるならセクハラで訴えますよー」

「なぜ!?」



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