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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園三年生編

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クレイからの相談事



「…………」

「あのな、いい加減『抜け駆けしやがって』みたいな顔で見るのはやめろ」


 と、言うのもクレイの奴が俺をジト目で睨んでいるのだ。

 俺が『従者』になってから、顔を合わせると大体この顔。

 いや、言いたい事は分かる。

 クレイにとって同じ『闇属性』の俺は従者になる為の最大の障害だったからな。


「貴様にも譲れぬものがあるように、俺にも亜人族の未来という譲る事の出来ないものがある」

「分かってるけど、せめて今日だけはその話題出すのやめろ。俺はそれでなくともこの日が一年で一番胃が痛い」

「……」


 むう、という顔をされる。

 城の廊下を歩き、階段を登っていき、たどり着くのはレオの自室。

 相変わらず王太子にあるまじき狭い部屋を好んで使っているようだ。

 まあ、さすがに今は護衛の騎士が扉に立っている。

 取次を頼めば、代わりに扉をノックして声掛けし、開けてくれた。

 室内では僧侶のような正装のレオ。

 と、騎士団の見習い制服を纏ったエディンとライナス様。


「呼び出してごめんね〜」


 レオの安定のゆるさ。

 構わないけどな。


「でもなんだ? この面子での呼び出しって」

「んー、それはクレイに聞いて欲しい」

「…………」


 半目で睨む。

 思い切り顔を背けられる。

 ……この狼耳め、耳と尻尾が可愛いからって今週の俺への態度が許されると思うなよ。

 尻尾触らせろ。


「……少し厄介な情報だ。メロティスが従えていた奴らが、ズズというもう一派の勢力と合流して武器を集めている。こちらの諜報員が何人かやられた」

「ズズ……えーと確か、人間族に復讐したい一派、だっけ〜?」

「ああ。まだ派手な動きはない。思想の異なる者同士が集まった事で、混乱しているようだな。ズズにメロティスの暗示を受けた者たちを御するのは厳しいのだろう。動きが乱れている」


 ああ、結構……時間が掛かったな?

 でも確か北の方に潜伏していたんだっけ?

 あちらは雪解けが遅いし、ある意味『ようやく動けるまでになった』といったところなのかもしれない。

 しかしなんでこのタイミングで——……メロティスの一派が接触してから動いた、のか?

 でも正直、こっちは今から北の方に兵力を動かすのには時間が足りないよな?

 となれば北区の方へ王都の騎士団が出張るしかない。

 当然、俺たちも駆り出されるだろう。

 戦争前の実戦経験はしておきたいが……んー?


「あちらの動きは筒抜け、という事か?」


 腕を組んだエディンがクレイを見ながら目を細める。

 まあ、そこだな。

 亜人の諜報員が何人かやられた、と聞くと……動きを掴むのが難しいのかもしれない。


「ズズは体が大きいから目立つ。隠密には向かない。動けばすぐに分かる」

「ええ、そんなでかいの?」

「全長五メートルはある」


 ライトな巨人じゃん。

 いや、前世の実家で猪や熊が道路に出没していたから、でかい動物のヤバさは分かってるつもりだけどそれはでかすぎる。


「だが『斑点熱』で混乱した今、合流しているのなら一度で済む」


 んー、クレイよ言葉が足らない!

 レオとライナス様が汲み取りきれずに明らかにハテナマークが浮かびまくってるぞ!


「ああ、まあ、つまり……彼らは合流したものの、足並み揃わずグダグダしていた。でも王都が『斑点熱』で混乱しているので好機と思い、自分たちがまとまりない中でも強行に出ようとしている。そこをいっぺんに叩いた方が効率的……という話だと思います」

「あ、ああ、なるほど。……クレイってたまに言葉がものすごく足りなくなるね?」

「……」


 そう、たまに行動で示して満足するタイプ。

 そこがまた俺の前世の兄貴に似ていてカッコいいと思ってしまうし、言いたい事が分かってしまうんだが。

 そういうところだよ、クレイ。


「そこは合点がいったがクレイよ、そのズズという亜人と和解は出来ないのか? 代理戦争まで残り半年と迫った今、避けられる争いは避けるべきだと思う」

「俺もベッグフォードと概ね同意見だ。が……ぶっちゃけここ半月程で『斑点熱』は終息しつつあるな?」

「そうだね〜」

「……足並み、揃ってなさすぎじゃないのか?」

「…………」


 クレイが思い切り困った顔。

 表面上は無表情だが、耳が垂れているのでこれは困っている。

 そうだな。

 まあ、それをクレイに言われてもな。

 むしろ同種族としても複雑なんだろう……。

 完全に好機を逃している。

 なんて残念な亜人なんだろう、ズズとやら……。


「ズズを含め、獣の亜人は……その、あまり頭を使うのが得意ではないのだ。俺も正直それ程得意ではない」

「まあそれは……、俺もだな!」

「僕もどちらかというと作戦立てるのは得意じゃないなぁ」

「俺もどちらかというと殴った方が早いなら殴りたいな」

「…………」


 やめろ、エディン。

 そんな目で見るな。

 俺たちは素直なのだ。


「問題はメロティスがズズと合流していた場合だ。メロティスには暗示と魅了の力が備わっている。人間でも意志が弱いものはころりと取り込まれるだろう」

「……魅了か……それは人魚の女が持っている力だと聞いたけれど……メロティスも持っているんだったね」

「妖精の魔法の一種なのだろう。俺は昔からそういうのが効きにくかった。恐らくこれが、闇の魔力……」

「ああ、そうだろうねぇ。エメもそう言ってたし」


 魔法無効化の『闇属性』魔力。

 ふうん、持っているだけで魅了は効かない、か。

 じゃあ人魚戦、俺も多少は役に立つかな?


「ズズはバッ……、……単純だがその分自身の信念には忠実だ。メロティスのつまらない口車に乗らなければ……奴の方が強い」


 今さり気なく『バカ』ってディスらなかったかクレイ。


「ちなみに規模は?」

「五十もいないはずだ。……が、メロティスの一派は五百近い」

「王都に住んでた亜人は確か三百人くらいだよね? ……彼らが合流していたら、面倒くさいなぁ」

「いや、合流したところで向こうも非戦闘員の方が多いだろう。戦おうと思えば亜人は誰もが人間族よりも高い身体機能を持っている。だが、実際訓練を受けた事のある者は一握りだ。ズズはバッ……、……頭を使うのが苦手だが、戦闘能力だけは高い」


 ……フォローした割にボロクソ言ってるように聞こえるなぁ。

 けど、亜人ってそう考えると意外と数が少ない。

 少数精鋭といったところか。


「なので、俺から提案だ。亜人式の『決闘』をズズに提案してはどうだろうか」

「決闘?」


 唐突に物騒になったな。

 決闘っておおい……。

 しかしクレイが真顔なので、とりあえず最後まで聞いてみよう。


「亜人式の決闘ってどんなものなの?」

「勝てばなんでもあり。形式は乱戦。その中で勝ち抜いたものが勝者。シンプルだろう?」

「「「「…………」」」」


 シンプル、だけども……絶句だよ。

 反応に困る。


「いや、だが……ズズという亜人は戦闘能力が高いと言っていなかったか? そんな相手に乱戦で勝ち抜く、のか?」

「えーと、その決闘僕らもやらなきゃダメなの?」


 と、忘れそうになったけど当然の事を言うのはエディンとレオ。

 あ、そういえばそうだな。

 なぜ俺たちがそんな決闘に巻き込まれなきゃならん?


「ズズとメロティス派閥の者たちは『人間を倒したい』という点で一致している。ズズはバッ……アレなのでそこに気付いていない」


 もう『バカ』って言っていいよ……クレイ。

 無理にフォローする必要ないよ、ここで。

 大丈夫、多分聞いてないよ俺たち以外。

 そこまで『バカ』である事をフォローする必要性がどこにあるんだ。

 優しさか?

 優しさなのか?

 でもそれでも遠回しに今完全にバカにしてたよ。


「亜人族は獣人と人魚の亜人が半々。そのどちらも、一番強いものが正義であるという考え方なんだ。それは血に刻み込まれた心理。人間の方が強いと証明すれば、ズズやメロティスの派閥の者たちも『理解』せざるを得ないし、認めざるを得ない。簡単に言うと『力づくで分からせる』だ」

「力づくで……」

「分からせる……」

「シンプルで分かりやすいな!」


 ライナス様ァァァアァ!

 エディンとレオのあの微妙な顔見て同じ事言えるぅ!?

 確かにシンプルで分かりやすいけれどもォ!


「同族である俺が長になっても奴らは『復讐心』が優った。その根幹は『人間族という劣等最弱種の分際で』という傲慢な思想からだ。強い者が支配する。ズズは特に、人間は弱く脆い、俺の方が支配者に向いている、と信じている。王子たちにはそれを打ち砕いて、ズズに人間族がこの五百年で得た力を見せ付けて欲しい」

「……あ、ある意味分かりやすいけど……」

「そうだな。レオ、お前が争い事を好かんのは分かるが、そっちの方が手っ取り早そうだ。俺は長殿の意見に賛同する。必要ならば俺が出よう。お前の騎士として」

「エディン……」


 まあな!

 確かに非常にシンプルで分かりやすいけどな!

 ……考え方はあまり好きではない。


「レオハール様! もちろん俺も、その時には!」

「……。……うん、分かったよ。頭の片隅には留めておこう。クレイ、ズズという亜人の動きは……」

「こちらである程度は把握している。……まあ、頭が悪い分……んん……参謀役のような者がいない分、情報の重要性を分かっていないはずだ。動きがあれば連絡する。が……タイミングは俺にも分からない」

「わ、わあ……」


 し、素人の戦略って型破りすぎて逆に分かりづらいんだよなぁ……。

 聞いてるだけで不安になる。

 いつ来るか、分からんとは。


「つまり、出来るだけすぐに動けるようにしておいて欲しい、という事か?」

「ああ」

「なるほど、分かった了解だ。一応お嬢様やケリーにも話しておこう」


 レオとクレイはなぜか嫌そうな顔だが、伝えておかずに突然いなくなったら絶対後でめっちゃ怒られるじゃん。

 お嬢様に怒られるのは良いけどケリーに怒られるのは嫌だ。

 絶対めちゃくちゃ怖い。


「俺からは以上だな」

「ありがとう、話してくれて。クレイに頼ってもらえるのは嬉しいよ」

「……た、頼ったわけではなく、人間族がズズたちに直接勝利した方が手っ取り早くて効率的だと思っただけだ」


 ツンデレかよ。


「「はあ……」」

「……なんだ、そして唐突な重い溜息は」


 俺とレオが肩まで落として息を吐き出す。

 ああ、そうか……クレイは、まだ知らないんだったな。

 俺とレオにとって『王誕祭』は一種の苦行となりつつあるのだ。


「ちょっとね……」

「もう帰りたい」

「思ってても口にすんな」


 エディンにまで怒られる始末。

 クレイは不思議そうにしているが、あのライナス様ですら苦笑い。


「……観念して行こうか……」


 ですよね。




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