その手を繋ぐ【後編】
「……ゲ、ゲームの世界……ここが……じゃあ、わたしゲームの中に入り込んだんですか?」
「正直そこまでは? ヘンリエッタ様をこの世界に呼び寄せた、女神アミューリアの話ではモデルとなった世界、というのが最もしっくりくるかと……」
「モデルとなった世界……え? あ、待ってくださいね、今エメが…………」
モデルになった世界。
ゲームの中に入り込んだ、か。
確かにそれだとしたらゲーム補正とかバリバリありそう。
でも、アミューリアの話から推測するとこの世界をモデルに、『フィリシティ・カラー』は作られた、らしい的なニュアンスだったし。
「…………本当にそうなの?」
「? エメリエラ様はなんと?」
「確かに、そのゲームのモデルはこの世界なんだそうです。エメがアミューリアに聞いた話だと……。けど、そのゲームのシナリオの影響が、この世界には強く現れるそうです」
「…………。なぜ?」
「『フィリシティ・カラー』のゲームを作った人が、力のある女神と契約した人だから、だ、そうです。……けど、それで納得しました。だからエメは従者のみんなの『好感度』がどうとか『こっちに出会いがある』とか色々言ってくるのね!? ……いや、そういうの良いってば! だから! …………そうじゃないってば! あのね、わたしは……、……も、もう! 話を聞いてってばっ!」
「…………」
なにやら謎の言い争い。
女神エメリエラ、サポートキャラとしての役割をきちんとこなしていたらしい。
好感度ね……あれ、好感度?
「真凛様、好感度が見えるんですか?」
「っ!」
……なんだ、スゲー『ギクッ』って顔をされたぞ。
いや、他の奴らの好感度とか、誰を攻略中とかは気にはなるぜ?
でも、今はそれよりも真凛様に分かって頂かなければならない!
あと、その好感度の見え方でゲーム難易度が分かる!
「真凛様、話を続けてよろしいでしょうか?」
「えっ、え?」
「俺が言いたいのはここからなんです。確かにマリン様の仰っている事も色々突っ込みたくはあるのですが、まずはうちのお嬢様の事を聞いて頂いても?」
「え、えーと、は、はい?」
というわけで、俺は全てを真凛様に打ち明ける事にした。
うちのお嬢様が『フィリシティ・カラー』シリーズ通しての『悪役令嬢』である点。
そして、ほぼ全てのエンディングで死亡、または凄惨な末路、更には、ヒロインたちとのエンディングでは顔に大きな傷を負ってしまう事……。
なぜか確信がある。
この人は信じてくれる。
と。
「…………というわけで、可能なら真凛様にもご協力頂きたいのです。うちのお嬢様を、破滅エンドからお救いする為に」
「はい! 分かりました!」
……すごいあっさり了承頂いてしまったよ。
「……でも、具体的にわたしは何をしたらいいんですか?」
「え! ……そうですね……」
具体的に何をしたら、と質問されると思わなくて一瞬面食らった。
というか、協力してくれる気満々!?
「…………」
「え、な、なんですか、どうしたんですか?」
「……い、いや、あの、その……俺のここ十年来の悩みを……真凛様はあっさり……、こうなんと言いますか……」
けろりと、飛び越えてしまったというか……。
「…………俺が、馬鹿みたいだな、と」
「?」
頭を抱えて、情けなく笑う。
ラスボス。
お嬢様を破滅に導く悪魔のような、そんなイメージでこれまで敵視していたのに。
戦巫女が来たら、最悪ノーマルエンディングで一人寂しい余生を送ってくれ、なんて……そこまで思っていたのだ。
それなのにこの人は、俺が長年、勝手に敵視していた戦巫女は、実に戦巫女らしくて。
もっと嫌な女の子だったら……徹底的に、俺の全能力で邪魔して潰してやろうと思っていたのに。
「貴女はすごい人ですね」
「へ? え、いえ!? わたしなんか! な、なんですか突然!」
俺の数年の悩みをあっさりと覆してしまった。
ああ、この人が戦巫女ならお嬢様は大丈夫かもしれない。
そう思える。
「貴女が戦巫女で良かった」
「……え、えぇ? ほ、本当にどうしたんですか……? あ、あの、それよりも! わたし何したら良いんですか? どうしたらローナ様を守れるんですか?」
「ええと、そうですね……。じゃあ、今度ケリーとヘンリエッタ様と、あとアンジュ……うん、五人で話しましょう」
「?」
「あの三人も協力者なんです」
「!」
いよいよ、みんなに相談してしまった方が良いような気もするけど……そうなると俺の前世の話までする事になるからな。
俺は……スティーブン様のようには、なれない。
今更『ヴィンセント・セレナード』以外のものにはなれないし、今更『水守鈴城』にも戻れない。
というか、多分……戻ってはいけない。
それなのに、俺は『水守鈴城』の人格の方が強く現れている、と思う。
前世の悔恨が、ヴィンセントを殺した。
この悔恨は、俺の代で終わらせなければ。
『鈴流木ライレン』のような呪いを残さない為に。
だが、前世の悔恨をどうやってこの世界で終わらせる?
少なくとも『水守鈴城』の心残りは……この世界ではどうする事も出来ない。
唯一、前世の記憶……この世界の命の恩人……お嬢様を、破滅エンドからお救いするという、その目的。
これを果たさなければ、俺の人生には悔恨が残り、それはいつか呪いになって次の転生者に引き継がれていくだろう。
『禁忌の力』のお世話にならない限り。
いや、なったとしても、その時代の転生者だけが救われる。
呪いは永遠に引き継がれ続けるのだ。
「分かりました。じゃあ、その時は誘ってくださいね!」
「はい。それから」
「はい!」
「俺を、従者にしてください」
「…………」
気合の現れだった両手の拳がしなしなと下がっていく。
従者の枠は、あと二つ。
ただ、多分……俺の頼み方はこれまでとは違っていた。
真凛様もそれが分かっている。
だから、少し俯いた後、意を決したように顔を上げて魔宝石から従者石を取り出した。
「ヴィンセントさん……いえ、鈴城さん……わたしからもお願いします。一緒に、戦ってください」
「…………。ありがとうございます」
受け取った従者石は瞬時に黄色に変わる。
ん、また色が変わった……?
従者石の色……はて、これ、何か意味でもあるのか?
「そういえばこの従者石の色って……」
「ッ! っ、っ……」
「あ、なんでもありません……」
なんか聞かない方が良いっぽい顔になっている。
了解しました黙ります。
今度ヘンリエッタ嬢に聞こう。
「あ、それからもう一つ」
「は、はい?」
「真凛様は『好感度』が見えたりするんですか? あ、好感度っていうのは、俺のような攻略対象からの真凛様への感情のようなものなんですが……」
それによってゲームの難易度が分かる。
確か、最高難易度『鬼』だとヒロインから好感度は見えない。
ん?
いや、でもここはゲームの世界ではなくゲームの世界の影響を受けるゲームのモデルとなった世界って——……。
「そろそろ!」
「は、はい!?」
「も、戻りましょう! ロ、ローナ様のところへ!」
「…………。はい」
あ、そ、そうだな?
確かにそろそろ戻った方が良い、か。
……あれ?
でも、なんで『好感度』の件、そこまであからさまにはぐらかすんだろう?
見えてんの?
じゃあゲーム難易度は『犬』『猿』『雉』のどれか?
ん?
でもゲーム難易度『鬼』じゃないとクレイはお嬢様に一目惚れをしない……んじゃないっけ?
あれ?
「…………」
乙女ゲーム……ややこしい!







