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町へ行こうよ! 【2】



王都『ウェンデル』。

その中でも城から一番近い城下町は通称『プリンシパル区』と呼ばれ、賑わいが半端ない。

アミューリア学園とも隣接しており、制服を着ていれば貴族でも降りることが許されている唯一の町である。

ただ、その立地やアミューリア学園の生徒も訪れることができる為、当然…。



「た、高い…」



ある店のウインドウに張り付いたマーシャの心からの声。

まあ、当たり前だろ。

スティーブン様が覗き込むと、マーシャが盛大に肩を落としてガラスから離れる。

ああ、靴屋さんか。


「わあ…可愛らしいメリー・ジェーンシューズですね」

「え、スティーブン様お詳しいですね…」

「え! あ、ええまぁ…」


メリー・ジェーンはストラップで留めるタイプのパンプスだ。

ヒールはほぼなく、メイドにも愛用者が多い。

だがここは貴族学生の町でもある。

光沢のある革で作られたその靴は恐らく一級品。

ストラップにも輝く装飾が施されているので、これはメイドや侍女でなく貴族のご令嬢用だな。

値段がマーシャが今履いている奴の五倍だ。


「僕はマリーの誕生日プレゼントその1を発注してくるけど、ヴィンセントは?」

「お嬢様」

「…はぁ…」


深いため息を漏らされるが、今日サイズを測ってデザインを決めておいた方がいい。

マリアンヌ姫の誕生日パーティーは末とは言え今月だ。

間に合わなくなる。

そりゃ、靴もドレスもいくつか持ってきてはいるが…。


「さっさと決めて他の店も回りましょう。今日はそのつもりで来たわけではないし」

「はい」


本当ならあれやこれやとデザインやイメージをこだわってオーダーしたいところだが、お嬢様はサクッとデザインと色を選び、サクッとサイズを測らせて店から出て行く。

…男の買い物のようだ…。


「むしろレオハール様の方がお悩みですね」

「…下手なもの選ぶと店に迷惑がかかるからね…」


…闇が深い…。




「あ! 本屋だよ!」


で、次に当初の目的地、本屋にたどり着いた。

目を輝かせるスティーブン様とマーシャ。

2人が本屋に入って行くのに、レオハール様もついて行く。

そしてものの10分ほどで出てきた。


「買ってもらっちゃった!」

「レオハール様! 甘やかさないでください!」

「え! な、なんで僕が買ってあげたってバレたの⁉︎」


スティーブン様に本を買って返すと言っていたレオハール様。

その流れで例の新刊とやらを読みたがっていたマーシャに「じゃあついでに買ってあげるよ」と言うレオハール様が容易に想像できる!


「マーシャ、お礼はちゃんと申し上げたの?」

「あ! そ、そうだった! ありがとうございます、王子様!」

「レオハールでいいよ。殿下とか、王子って呼ばれるの好きじゃないんだ」

「? 分かりました、レオハール様! ありがとうございましたっ!」

「うん、どういたしまして」


…うーん、甘い!

そして、金髪青眼のマーシャとレオハール様…並ぶと兄妹に見える。

美男美女兄妹…。


「なんだかレオハール様とマーシャは並んでいると本当のご兄妹のようだな…」

「髪と瞳が同じお色のせいでしょうか…」

「……………」


…あ、そう思ってたの俺だけじゃないらしい。


「あ、いや、断じてお前とマーシャが兄妹に見えないとかではなく!」

「え、なんですかライナス様、そのいらぬフォロー。気にしてませんよ。むしろ俺も同じことを思ってましたし」

「そ、それもどうなのですか…」




次。

園芸用品店。


「……………」

「…そんなに睨むように見なくても種を買うだけよ」

「お嬢様〜、コレとかどうでしょう⁉︎」

「まあ、“テディ・ベア”ね…。良いのではないかしら?」

「お嬢様、それ“種”じゃなく“苗”ですけど」


しかも薔薇の苗じゃねーか!

育てる気満々じゃねーか⁉︎


「心配しなくても部屋の中のプランターで育てるのよ」

「すでにプランター設置済みということですか⁉︎」

「このくらいなら大丈夫よ」

「〜〜…っ」


…はぁ、お嬢様はお花がお好きだからな…。

部屋の中なら、まあいいか?

…と、俺が文句言う前にすでにお買い上げされてるけどな…。

もういいよ、もう。


「お帰りなさい。なにを買われたんですか?」


店を出るなり、スティーブン様が俺の持つ苗を覗き込む。

お嬢様に荷物を持たせるわけにはいかないので、当然俺が荷物持ちだ。


「これはテディ・ベアの苗だね」

「⁉︎」

「! レオハール様、薔薇にお詳しいんですか…⁉︎」


ライナスだけでなく俺もびっくりした。

お嬢様も、マーシャも驚いた顔をしている。

花どころか蕾も付いていないのに、まさか葉っぱだけでわかったのか⁉︎


「…ああ、うん…好きなんだよ。男で花が好きというのは珍しいだろうけど」

「苗だけでわかるなんて凄いです!」

「ありがとう、マーシャ」


へえ、意外な新情報だな。

……あ、でもねーな。

攻略サイトのレオハールプロフィールに『好きなもの…薔薇、サンドイッチ』って書いてあったわ。

…ん? サンドイッチ?

なんて安いもの好きな王子…。

いや、理由がある、と思う。

でもレオハールルートやってないから理由がわからねーや。

お嬢様の破滅エンド救済にも関係ないと思ってたし。


「……………………」


…破滅エンド。

レオハールに王位を継いでもらわねーと…代理戦争で優勝出来たとしてもマリアンヌ姫が女王になったら…ウェンディールは破綻するんじゃあ…。

それは、 もうお嬢様だけの破滅エンドじゃない。

この国そのものの破滅エンドだ。

そっちもなんとかしないと、お嬢様は結局生涯ご苦労される羽目になるんじゃないか?

そういう未来しか見えねーよ。

どんだけ破滅フラグ乱立してるんだよこの世界…。


「えーと、じゃあ次にここから近いのは…呉服屋さんかな」

「ドレスのデザインとお色を、お嬢様」

「わかっているわ」

「俺もタキシードを作らねば」

「…あ、え…ま、まだお持ちではなかったんですか…ライナス様…」

「サイズが合わなくなったんだ」

「あ、ああ…」


…ライナス様はそんな感じだな。

お嬢様の誕生日に会った時より身長が成長してる気がする。



で、呉服屋。

呉服屋とはまるで日本の古き良き時代のような言い方だ。

洋々してるくせに変なところ和な呼び方する。

ただ、中身は本当に呉服屋。

たくさんの生地を取り扱っていて、ドレスやタキシードを提携している裁縫師にオーダーして作ってもらう。

デザインも同じく呉服屋で提携しているデザイナーが行うが、当然流行り廃りもある。

一応、ここはその最先端が並べられている場所の一つだ。


「今年は流行り色がピンク系で、リボンが多い可愛らしいものが流行っているそうですよ」

「ピンクは嫌いではないけれど…わたくしあまり似合わないのよね」

「「そんな事ないですよ!!」」

「………ありがとう」


俺とマーシャの声が被る。

その横でライナス様はタキシードを。

レオハール様は妹姫のドレスを発注する。


「…?」


提携してあるデザイナーが差し出すドレス見本を見ていたら、真横になんか変な熱気…圧を感じた。

見ればスティーブン様も熱心にドレスデザインを見ている。

は、はあ?


「…スティーブン様、どなたかにドレスを贈るご予定でも…?」

「あ! い、いえ!」


そういえばスティーブン様もまだ婚約者がいらっしゃらないと聞く。

しかしお年頃には違いない。

実は気になる令嬢でもいるのか?

…だがスティーブン様の容姿が容姿だから、あんまり想像出来ねー。

まだヒロインも召喚されてないし。


「…あ、あの、その…ローナ様にはこちらのデザインが、お似合い、では…と」

「ちょっと露出が多くありませんか?」

「えー、義兄さんこのくれぇでないと地味過ぎになっちゃうけ」

「いや! だが肩が丸出しじゃないか。まだ早い!」

「わたくしもあまり露出するのは好きではないのよね…。早いかどうかはさておき、もっとシンプルな物でも良いのだけれど」

「お嬢様! もっとお嬢様のおうちゅくしっ、…おうちちく…、おいちつく…」

「お美しさか?」

「そう! おうちつくしさを引き立たせるデザインが良いべさ!」

「噛み噛みな上、訛りが出てるぞ」

「うっ」


その意見には賛成だが…俺はやはりお嬢様にはこんな色っぽいデザインは反対だ。

あまりにもお嬢様が大人の色気を出し過ぎて、色ボケクズガキ(エディン)がお嬢様に惚れてしまったらどうする⁉︎

………?

あれ? それでいいのか?

あいつがお嬢様に夢中になればお嬢様の破滅エンドは回避…………いや、ヒロインが召喚された後鞍替えされても腹ァ立つな。

やっぱ無しだアイツ。


「この薔薇のあしらわれたドレスはどうだい?」

「わっ! レオハール様っ」

「マリアンヌ姫への贈り物のドレスは決まったのですか?」

「うん。ドレスはね、高くて可愛くて最先端ならそれでいいんだよ」

「なんと」


靴ではあんなに悩んでたのに。

いや、まあ、靴が決まればドレスのイメージも固めやすいか?

普通逆な気もするけど。


「ローナは紫色の薔薇が似合うよね」

「…………。…ありがとうございます…」


お?

お嬢様が珍しく照れてらっしゃる。

…さすがメイン攻略対象人気不動のNo. 1王子…。

お嬢様を照れさせるとは…!


「そういえばお嬢様、ネックレスも髪留めも紫色の薔薇の形ですっけね!」


…そういえば去年の誕生日以降、髪留めも紫色の薔薇のバレッタになったな。

以前はその日の気分で変えてらっしゃったのに。


「え、ええ…髪留めは昨年の誕生日にプレゼントで頂いた物よ。せっかくだから使わせて頂いているの」

「贈られた方もお喜びですね。…あ、それならレオ様の言う通り、この薔薇のあしらわれたドレスをライラック色の生地に合わせてみてはいかがでしょうか?」

「…しかし肩が…」

「ボレロかショールを合わせてみてはどうでしょうか? ボレロならブローチ、ショールならドレスよりも薄い生地で、端に刺繍を施してもらうととても可愛いと思いますっ」

「ああ、それならば……」


…ん?


「…スティーブン様、コーディネートにお詳しいんですね…?」

「…………ッッッ」

「あ、ああ…いや、あの、スティーブにはよく、僕が相談するんだよ、ほら、あの、マリーのドレスの事を!」

「…そうなんですね」


レオハール様が…成る程?

それなら納得だが…。


「ですがなぜスティーブン様に?」

「え……えーと…」

「……………」


…すんげー目が泳いでる。

レオハール様がここまであからさまに動揺するのも珍しいな?


「ヴィニー、いいじゃない。わたくしはスティーブン様に助言していただいて助かったわ」

「…はぁ…」


お嬢様がそう言うなら。

それに、そこまで興味あるわけじゃねーし。

…なんつーかむしろスティーブン様だと逆に納得というか。

実際お嬢様のドレスがこんなに早く決まったのは初めてかもしれない。

そこからはサクッと採寸して、呉服屋での用件は終了した。


「ところでライナス様はタキシード、お決まりになられましたの?」

「うん、よく分からないから店の者にすべて任せた」

「まあ…」


貴族あるあるだな。


「…うー…」

「? …マーシャ、ど、どうしたの…?」

「なんかお腹空いちゃって」

「マーシャ」

「はっ! あ、お腹空いてしまったでして!」


またもスティーブン様にタメ口利いてるマーシャを咎める。

…敬語がおかしくなりやがった。


「確かにそろそろお昼だね。……………」

「レオ様、どうしますか…?」

「……。うん、よし! 今日は逃げ回ろう。お土産買っていけば機嫌は取れる!」


…あ、スティーブン様のどうしますかって「マリアンヌ姫のお茶会間に合わなくなるかもしれないけどどうしますか」の意味か⁉︎

お、幼馴染すげぇな!

そして、ちょいちょい王家の闇をブッ込んでくるな…!


「それにまだマリーのリクエストの肌の薬、見つけてないし」

「…そうですね…。お化粧品なんかも買っていけば、マリー様もそこまでお怒りにならないかもしれません…」

「では食事を摂って、そのあと薬屋と装飾品店を探しますか」


けど、王族や貴族が飯食えるようなところあるのか?

町中で貴族が飯を食える場所って想像つかないんだけど…。

それに、そんな場所じゃ俺とマーシャが一緒に食べられないし…うーむ。

弁当でも作ってくればよかったな。


「あの、レオハール様、スティーブン様。わたくしたちとヴィニーたちが一緒に食事を出来る場所がありますの?」


……お、お嬢様!

俺たちのことを気に掛けて下さって…!

な、なんという慈愛…!

なんというお優しさ…!

改めて一生ついて行きますぅぅぅ!


「うん、あるよ」

「え、あるんですか⁉︎」

「…お、同じテーブルで…、というのは無理ですけれど…同じ店内で…使用人にも食事をさせるスペースがあるお店が、あるんです…」

「この辺りはアミューリアの生徒も多く来るからね。所謂“ならでは”ってやつだろう」

「成る程…」

「こっちだよ。さあ、行こう」








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