定期会議【前編】
「ヘンリエッタ様! お聞きしたい事が!」
「わたしも! ヴィンセントに聞きたい事があるわ!」
「え? 何ですか?」
お先にどうぞ、とその夜に使用人宿舎の歓談室に現れたヘンリエッタ様が腕を組んで、すごーい形相ではしたなく大声を出す。
アンジュもやや困惑気味。
そして、一応同席してもらっているケリー。
一人脚を組んでハーブティーを味わっている。
優雅か。
それに対してヘンリエッタ嬢は顔を赤くして半泣き。
どうしたどうした。
「い、いつ! いつハミュたんとアルトんまで攻略していたのよ貴方!」
「は? 何の話ですか?」
ハミュたん。
アルトん。
うん、そこは突っ込みません。
つーか、攻略?
本気で何の事だ?
「嘘でしょ自覚ないの!? これだから! これだから!」
「え、え? え、ちょ、なんかすみません?」
ヤバイ俺またなんかしたのか?
自覚なく?
嘘だろ、いつの間に!?
「ここ数ヶ月! お昼にハミュたんやアルトんを観察してて確信したわ! あれは間違いなくヒロインに攻略されたあとの二人よ! エディンと、あと微妙に方向性は違うけどスティーブンやライナスと同じく!」
「え?」
「それとルークとミケーレも! まあ! あの二人はケリーが絡んでるしゴヴェスがやられちゃってるから納得してたけど! まさか! まさかでしょ! まさかハミュたんやアルトんまでなんてええぇ!」
「…………え、えーと」
ヘンリエッタ嬢……いや、佐藤さんが荒ぶってる。
なんか前世の妹の荒ぶりを思い出すな〜。
よく乙女ゲーしながらこんな感じになってた。
乙女ゲームってプレイしてると発作的にこんな感じになるもんなのかな?
仕方ないので落ち着くのを待つ。
アンジュがケリーにお代わりのお茶を入れる頃、ようやく「きーーー!」と叫んでから息を切らしつつ座り込む。
お、落ち着いた?
「はっ!」
あ、ケリーに見られてたの思い出したっぽい。
しかしケリーは優雅に微笑む。
うん、あれ俺知ってる。
悪魔の笑顔だ。
「なんだ終わりか? もっとトチ狂ったように踊ってて良いんだぜ?」
「んぐうううううぅ〜〜! アンジュ! わたしにもお茶を!」
「はい、どうぞ」
ケリーとアンジュの佐藤さんへの扱いが雑すぎやしないか?
「…………。で、ヴィンセントの用事は?」
え、俺の用事に移るの!?
た、大した問題じゃなかったのかな?
ま、まあいいか?
「え、えーと……ケリーに魔法に関して助言とかしました?」
「え? したわよ。色々聞かれたから」
「…………」
やっぱり……。
頭を抱えつつケリーをじとりと睨む。
こんのやろー……やっぱりヘンリエッタ嬢の知識を借りて魔法の訓練に活かしていやがったんだな。
まあ、だがそれではっきりしたな。
ヘンリエッタ嬢の知識があれば、俺たちも今より魔法を扱いやすくなる。……かもしれない。
うん、じゃあ次だな。
「もう一つ。ゲームの中に『斑点熱』が流行るストーリーとかありますか?」
「え…………」
あれ、固まった?
「え? 嘘、それって……『斑点熱』が、まさか、流行ってるの?」
「正確には流行る二、三歩手前……だな。リース家の薬草園を解放して、在庫の薬も全て出荷しているところだ。……あるのか?」
「あ、あるわ……、……『例の人』のルートよ」
「っ!?」
「!?」
「えっ……! ど、どういう事ですか、お嬢……! 妨害は終わってるんじゃ……」
終わってる?
それなのに『例の人』……『オズワルドルート』のストーリー通りに進んでるっていうのか?
そ、そんな! なんでだよ!
「あ、あの人のルートは、『斑点熱』という流行病に……ユリフィエ様が……か、罹ってしまうの。それで、あの、えーと……」
「ユリフィエ、様が……!?」
え、待て待て待て待て!
聞いてない!
いや、色々、教わると危ういと聞いていたから迂闊に聞けなかったけどそれは教えておいて欲しかった!
どういう事だ!
「なんで!? 『例の人』のルートは巫女たその暴露がなかったから回避成功したと思ったのに!」
「ほ、他に『斑点熱』が流行るルートがあるんじゃ……」
「え? 他のルート…………。…………あ! えーと、各ヒロインのローナルート!」
「「「は!?」」」
手を叩いて「そうだ!」とばかりのヘンリエッタ嬢。
いや、待て!
そっちはそっちでヤバい!
「ちょちょちょちょ! それってつまり『例の人ルート』もしくは『お嬢様ルート』爆進中って事ですか!?」
「そ、その可能性は高いんじゃないかな〜?」
「た、高いんじゃないかな〜って! どうしたらいいんだそれ!」
「少なくともマーシャはエディンと婚約したし、マーシャじゃないと思うよ!?」
ぐっ!
よりにもよってあの野郎が今更お嬢様を救うとは……!
いや、やっぱムカつく!
「……じゃあ巫女殿か……メグ……か」
「今の感じだとメグっぽいかもね……。『例の人ルート』の可能性もゼロではないけど……」
「じゃあメグを攻略対象の誰かとくっ付ければお嬢様は大丈夫なのか!?」
「ま、また極端だけど、まあ、その可能性はなきにしもあらず……。というか、後残ってる攻略対象ってクレイとラスティとニコライだけじゃない? 大丈夫なの? イケるの?」
「は?」
何言ってるんだ?
『フィリシティ・カラー』って追加攻略対象たくさんいるじゃん?
メイン五人、追加六人、隠れが二人、敵国四人……こんなにいて残りがあと二人って……?
「…………………………」
この時高速で処理したところによるとメイン五人中三人は婚約者あり。
俺は隠れも兼任しており、攻略されるとまずいキャラなので除外とする。
追加であるスティーブン様とライナス様は攻略対象なのに攻略対象同士で婚約。
深く突っ込まないぞ。
同じくラスボス討伐済みの隠れであるミケーレと追加の一人だったらしいルークもバツ印。
ん? じゃあ残ってるのはハミュエラとアルトとラスティとニコライとクレイなのでは……?
「ハミュエラとアルトは……?」
「あの二人はヴィンセントが攻略しちゃってるじゃない!」
「は、はあ? そういえばさっきもそんなような事を仰ってましたが何の話ですか?」
「そ、そうだな? ヘンリ、説明してくれ。何でそんな事になってる?」
「…………」
ケリーが首を傾げると唇を尖らせるヘンリエッタ嬢。
そしてなぜか渋々といった様子で口を開く。
「あのね、ハミュたんとアルトんはヒロインに攻略されるとキャラが少し変わるのよ。えーと、エディンと同じかな? ジョブチェンジするっていうか〜」
「はあ?」
巫女殿に負けたエディンが努力家にジョブチェンジする、という話は聞いた事があるな?
でも、ハミュエラとアルトも?
あいつらなんか変わった?
「…………あっ」
「……ん? ヴィニー、何か心当たりがあるのか?」
ハミュエラは分かりやすく思い当たるところがある。
今月初めのあの出来事。
ルークと登校中『俺がオズワルドであるという噂』が流れていると情報をくれた時だ。
「…………ただのアホが切れ者になっていたような……」
「ん、そういえば……」
「そうよ。それに、ハミュたんはヒロインに心の拠り所を見付けるとものすごーく彼氏力が爆上がりするの!」
拳付きでなんか言い出した。
彼氏力?
何それ女子力の男の子バージョン?
「「か、彼氏力……」」
「そう! 庭にいたらさり気なくショールを肩に掛けてくれたり、体調を気遣ってくれたり、荷物を持ってくれたり、とにかく気が付くようになるのよ! レオ様とケリーも紳士なんだけど、同じぐらい! あのハミュたんがよ!?」
「そ、そうなんですか?」
……でも、そういえばスケートの時にアルトに対してうちのお嬢様へ「翌日熱出すので気を付けて見ててくださーい」的な事を頼んでいたな?
ああいう感じか?
ああ、アルトといえば、ハミュエラのやつ最近昼間の薔薇園でよくアルトにショール掛けてやってたり、アルトが読みたがってた本持ってきてやってたりするな?
ルークに対しても食器の片付け手伝ったり……公爵家のご子息にしては雑用を率先してやるというか……。







