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お料理教室【後編】



「お義兄さん、材料を入れたら煮込むだけでいいんですか?」

「ん、ああ、素材が柔らかくなるまで中火で煮込む。ちょっと大きめに切ったから五分くらいで弱火にして中までゆっくり火を通すようにしよう」

「あの、ヴィンセントさん? 結局ダシの取り方がよく分からなかったんですけれど……一晩置いたニボシは煮出したあとどうすんですの?」


 ん、そういえば俺とルークとアメルで煮出した煮干しは取り除き済みのやつを使ったからな。

 言い出しっぺらしく、一応ちゃんと学ぶつもりはあるのか、マリー。

 勉強は嫌いと言っていたけどな。

 あれか? 食べ物関係だからか?


「捨てるのはもったいないんだ。一煮立ちさせた葉物野菜に醤油と絡めて佃煮にしてもいいし、甘辛く炒めてもいい。水分を炒めて飛ばした後、塩で軽く味付けしてナッツなんかと一緒に混ぜるのもありだな。あとはポン酢で炒めたり漬物と一緒にしたり海藻サラダに絡めたり……」

「活用法がたくさんあるんですね」

「そうですよ。まあ、さすがに貴族の皆様にはお勧めできませんけど」


 巫女殿は勉強熱心なのかな。

 いつの間にかメモを取ってる。

 ……え? 巫女殿がメモるの?

 食事作る担当はマリーだろうに。


「お前本当にすごいな。『スズルギの書』にそんなに色々書いてあるのか?」

「ボクが読んだ限りそこまでのレシピはなかったような……?」


 ぎくっ。

 しまった、アルトはある意味地元。

 ラスティは日本語が少し読めるんだった。


「も、もちろんアレンジで考えたものですよ? 俺はスラム出身ですから、食べ物に関しては無駄にしたくないのですよ」

「そうですね! ぼくもそう思います! 冬場は特に食べ物がないですから、保存食に出来そうなものは積極的に保存食にしますよね!」

「そうそう!」


 ありがとうルーク!

 お前の援護がありがたい!

 良かった、アルトもラスティも「なるほど」という感じだ。


「でもこのにぼしって、そのまま食べても絶対美味しいよねぇ……」

「分かる……」

「…………」


 そしてメグとアメルは視点が違うんだよなぁ……。

 メグはともかくお前もかアメル。

 よだれを拭け。


「ヴィンセントさん、その煮干しの甘辛煮ってどうやって作るんですか?」

「興味がおありですか?」

「はい、美味しそうです!」


 うーん、巫女殿もしかして洋食より和食派?

 それでマリーの食事はあまり食べてなかったのか?

 まあいい、知りたいならレシピは教えよう。

 別に難しくないし!?


「イテェ!」

「え! ヴィンセントさん!?」


 なんか後ろから膝の後ろ蹴られた!?

 なんだ!? 誰だ、いきなり!?

 振り返っても、ルークしかいない。

 ルークがこんな事するはずないし……?


「マ、マーシャさん……」

「お前か、マーシャ! 何するんだ!」

「義兄さん、鼻の下が伸びてるから治してやっただけだべさー!」

「はあ? 鼻の下なんか伸びてねーよ!」

「自分で分かんねーだけだべ!」


 ぐ、ぬぬ……反抗期か?

 反抗期なのか?

 確かに出会って二、三年経つし、そろそろそういう時期に突入しても不思議ではないが……。

 だからって暴力は良くないよな?

 こいつ、下手したら俺並みに戦闘力高いんだから。

 俺はチョップとかめちゃくちゃ手加減してるのに!


「ははは、微笑ましいなぁ」

「何がだよアメル!」

「いやぁ……。まあ、それより、そろそろ弱火にしていいんじゃないか?」

「? ……あ、ああ、それじゃあ火は弱火にして味噌を混ぜる。味が染みてきたら火を止めて試食してみようか…………ってなんだよマーシャ」

「別にだよ」


 …………なんで俺の横に腕を組んで仁王立ちしてんの?

 メモ帳持ったまま巫女殿が困ってるじゃん。

 別にって感じには見えねーんだけど?


「あ、ああ、そういう……」

「なるほど」

「そうか、そういう事だったんですね、マーシャさん」

「え? は?」


 なにやらラスティとアルトとルークも納得顔。

 ええ? いやいや、何が? 何が!?

 なんで、みんな微笑ましく眺めてんの?

 俺がマーシャに蹴飛ばされるのってそんな目で見られるような出来事ではないよな?


「わあ、お味噌の良い匂〜い」


 そしてメグは無視!

 マーシャの反抗期は俺にだけ発動してるという事か?

 くっ、年頃の女の子って難しいな!

 そういえば前世の妹も、中学高校と俺に近寄ってこなかったっけ!

 なんか「スズ兄と関わるとろくな事にならない」とかなんとか……。


「そろそろ火を止めて器によそっても良いでしょうか? お義兄さん」

「そうだな」


 まあ、今回はみんなで作ったし変なものも入れていないし問題はないだろう。

 出来ればこれっきりで終わりにしたいが、巫女殿が割と熱心にメモしてるから第二回の料理教室も考えた方がいいかなー?

 少なくともマーシャとメグは包丁の使い方をもう少し練習して……いや、ピーラーがあればマーシャが指を血まみれにする事もないだろうし……でもピーラーも使い方を間違えると皮がごっそりめくれるしな〜……?

 だが包丁よりはまし、か?


「……、……そういえば巫女様、先程仰っていたピーラーとはどのようなものなのですか?」

「ピーラーですか? ピーラーはこう、とっても細い刃みたいなものが斜めに付いてる道具で、野菜の皮を簡単に剥けるんですよ」

「興味深いですね、あとでイラストにして頂けませんか? 城の鍛治師に作ってもらえないか頼んでみます」

「え?」

「……包丁だとマーシャが怪我をしそうで……」

「あ、ああ」


 納得頂けて何より。

 まあ、俺自身も多少楽したいしな。

 時短にもなるし。


「むーーー!」

「だからなんだよ!?」


 なんで俺と巫女殿の間に無理やり入り込んで来るんだこいつ!

 まさか包丁だとマーシャが怪我をしそうってところに不満でも!?

 本当の事だろうがぁぁ!


「なんか、ヤ! なのー!」

「なんだそれ!」

「…………あ、ああ、なるほど……そういう……」

「!?」


 巫女殿まで!?

 巫女殿までなぜか笑顔に!?


「分けましたよ〜、お義兄さん」

「あ、ああ」

「じゃあ試食してみるか! いいか? ヴィンセント」

「あ、ああ」


 ルークとアメルも爽やかに無視!

 ふくれっ面のマーシャに疑問しか湧かないのは俺だけなのか!?

 普通に人数分の器に盛られる味噌汁。

 テーブルと椅子の方に運ばれて、なぜか俺の腕に膨れっ面のまましがみつくマーシャをとりあえず放置しつつ席に着く。

 邪魔だなぁ……なんなんだよさっきは蹴り飛ばしてきたくせに……。

 振り解きたいが、メグとアメルとルークの表情がによによしててそっちの方がなんかムカつく。


「……うん、まあ、こんなものだろうな」


 いかんいかん、今は試食タイムだったな。

 箸がないのでスプーンで味噌汁を掬うという絶妙に許し難い現状だが、致し方ない。

 はあ、箸が懐かしいな。


「ああ、焼き魚とたくあんと白米が欲しい……」

「そうでございますね」


 ……アルトの呟きには全面的に同意するが公爵家貴族の嫡男のセリフとしてそのメニューのチョイスは良いのか? 良いのか!?

 もう少しこう、刺身とか尾頭付きとか煮物とか天ぷらとか……も、もっと色々あるだろう!?

 なぜ最低限なそのメニューなんだアルト!?


「なんだかほっとする味ですね。これがイースト地方の料理……美味しいです! とても貴重な体験をさせて頂きました!」


 うーん、ラスティはこの子はこの子で天使みたいな子だなー!

 めっちゃ良い子ー!


「本当ですね、すごく美味しいです! ……確かにご飯と焼き鮭が欲しい……」

「分かる」


 分かる。

 俺も巫女殿の意見にめっちゃ賛成。

 頷けるアルトが羨ましいぐらい賛成。


「お魚……! 鮭……!」


 ……メグのはなんか違うな?


「ご飯というのは時折ヴィンセントさんが煮ている白い穀物ですの?」

「そういえばこの世界に来た時に食べました!」

「ああ、ええ、アルト様やアミューリアの生徒会に頼んで寮に入荷して頂けるようにしたんです」


 生徒会長には色々恩も売ってあるので容易かった。

 ……そういえばそろそろ生徒会長も変わる時期だな。

 スティーブン様が「レオ様が二年間、生徒会長を務められるように裏から手を回します」と笑顔で言っていたので多分そうなるんだろう。


「炊飯器……なんてないですよね? どうやって炊いてるんですか?」

「お鍋に水を入れて炊くんですよ。水は量を間違えるとうまく炊けなかったり、お粥のようになってしまいますから、最初は少し難しいですね」

「炊き方を教わっても良いですか?」

「ええもちろ……くっ!」

「ヴィンセントさん!?」


 う、腕を……摘ん……!


「お〜ま〜え〜! いい加減にしろよマーシャ!」

「わ、わたしもご飯の炊き方教わりたい!」

「ええ……?」

「パン焼くより簡単そうだし!」

「いや、どっちもどっちだと思……」

「では第二回はご飯の炊き方ですわね! 楽しみにしていますわ、ヴィンセントさん」

「っ……」


 しれっとマリーがそんな事を提案しやがる。

 アルトが「なら、寮に卸しているのとは品種の違う米を持ってこよう」とか言い出すもんだからそりゃ俺も気になってしまうだろう?


「…………分かりました」


 料理教室というか和食教室に改名すべきかもしれないな。




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