お嬢様とレオの初デートですよ!【5】
……そもそも、最近ちょっと面倒くさい事が多すぎると思う。
ラスティの執事、エリックに然り、巫女殿のメイドになったこのマリーに然り。
俺はお嬢様にご奉仕していたいだけなのに!
「…………」
とは言え、お嬢様もレオとの婚約が決まり、本日は初デートだ。
婚約内定から二ヶ月でようやく、とも思うが、そこはレオが王族、そして王太子なので致し方ないとする。
一月は死ぬほど儀式が詰まりまくってるらしいので。
この世界が乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』で、ついに戦巫女が召喚され時期的にゲームが開始されているという中でのこの厄介事の数々!
お嬢様を破滅エンドからお救いするという俺の目的に、エリックやマリーの相手は含まれないのに!
余計な手間ばかり増やしやがって、歪んだDV執事もどきと偽者姫メイド!
……いや、落ち着け俺。
お嬢様の破滅エンド回避に最も影響のある人物を間近で見張る事が出来ると思えば、多分無駄ではない!
そう……そう考えよう。
「マリーちゃん、もう帰ろうよ? ヴィンセントさんはローナ様とレオハール様のデートに付いていなきゃいけないんだよ? つまりお仕事中なんだよ? ……こんなの迷惑だよ……」
「まあ、巫女様! 巫女様がこちらで生活されるのに今後必要になるかもしれない物を買う事のどこが迷惑になるのでしょう!? ねえ、ヴィンセントさん?」
「……そうですね。まあ、急ぎで必要ないのでしたら早々に寮にお戻りになって頂きたいですが。主に君に」
「ほらー」
「巫女様、あちらに下着がありますわ。下着はいくらあっても困りませんもの、買って参りましょう! どれがよろしいですか」
「「っ!」」
な、なんつーもんを!
いや、わざとか。
顔を背けるが、一応遠のく足音は聞こえてくる。
その足音は一つ。
つまり、マリーだけが下着売り場に入っていったという事。
お、おのれ、女の特権を!
「も、もうう……マリーちゃんってば〜……」
「巫女様〜、お早く来てくださいませー! ほら、コルセットも巫女様に合うものを選ばなければなりませんわ〜」
「い、いらないよ〜、この間もらったし……」
「あれは巫女様のサイズには合いません。きちんとオーダーメイドで作らなくては!」
「え、ええ〜、いらないよ〜」
真横で声がするので、巫女殿は動いてないらしいな。
うーん、俺、やっぱり外で待ってようかな。
レディースの服屋はさすがに浮く。
なんかマリーの思い通りになってる感じで癪ではあるけど……。
「巫女様、マリーの言う通り、今のうちにコルセットや下着の類は揃えておいた方がよろしいかと」
「ヴィンセントさんまで!?」
「巫女様に贈られているコルセットやドレスはこちらでおおよそのサイズをお聞きして、多少のサイズ直しをした既製品ばかりですよね? 今後夜会などに招待される機会も増える事と思いますので、ないよりはあった方がよろしいかと……。まあ、巫女様のお立場を利用しようとする輩は多いでしょうから、夜会やお茶会などに参加される場合は我々にご相談頂けると助かるのですが……」
「…………」
巫女殿の方を向けず、目を閉じたまま少し早口で言う。
そ、そこで黙り込まれるのもな〜。
なんか言って欲しいんですけど。
「利用って……ええと、わたしなにかの役に立つんですか?」
黙っていたのはそこに引っかかったかららしい。
……そうか、巫女殿は普通の現代人だもんな。
俺もその辺りはまだまだ勉強不足が否めない。
だが、まあ、巫女殿よりは分かるし……。
「はい、とても。巫女様はこの国の希望なのですから。……まあ、それを言うとマーシャもなかなかに重要人物なのですが……あいつにはエディン様がいますからね」
不愉快極まりないが、実際あいつは守る事に関して実績があるからな。
虫除け機能は陛下並みと言っても過言ではない。
「せ、政治的利用って事ですか? わ、わたしなんかが?」
「巫女様は守護女神エメリエラ様のお力を解放出来る無二のお方なのですから」
「…………魔法、ですか」
「はい」
実際使ったケリーやレオを見た時は憧れが現実に! ……どころではなかったな。
だが使える事は証明された。
ミケーレではないが、魔法の訓練は必要だろう。
その要となるのが巫女殿なのだから、政治抜きでも巫女殿はやはり重要人物なんだよな。
あ、そうだよ、巫女殿、重要人物なんだよ!
「巫女様、今申し上げた通り巫女様はこの国で最も重要なお方と言っても過言ではありません。町に降りて来られる場合は従者候補に声を掛けてください。何かあってからでは大変です」
「え、でも……皆さん忙しい時もあると思いますし……、……従者候補っていうと、その……」
「まあ、確かにレオハール殿下辺りはちょっと難しいかもしれませんが……俺やケリー様やエディンの誰かに声をかけてくだされば……」
あ、いや、まずいな?
ケリーとエディンは婚約者がいる。
レオはまあ、忙しいからそもそも微妙なのだが……。
「他にもそうですね、スティーブン様やライナス様、あとはハミュエラ様やアルト様も一応従者候補ではありますので……」
「は、はあ……」
うーん、いまいちピンと来ない感じ?
面識はあるけど、親しいわけでもないしな。
ハミュエラの場合は……まあ、アレだけど。
「巫女様!」
「うっ! ……ねぇ、マリーちゃんもう帰ろうよ〜」
「いけませんわ。早くご試着なさってください!」
「そ、そんな……」
「四月にマーシャ……マリアンヌ姫のお誕生日や七月に陛下のお誕生日などもありますので、せめて一着ぐらいはオーダーメイドのコルセットや下着、シャツやドレスなどはあった方が良いかと思いますよ、巫女様」
そうだそうだ、それもあったな。
まあ、早く帰りたいけど、コルセットとかドレスとか靴とか早めの方が良いのは確かだろう。
三月は新しく入学してくる令嬢の駆け込み時期になる。
新年度が慌ただしいのは異世界も同じという事だ。
「で、でもわたし、そんなお金ありませんし!」
「は? いや、城の方で出してもらえるかと思いますよ?」
「お城に!? そ、そんな申し訳ないですよ! それなら、あの、わたし、バイトします! バイトで稼ぎます! ……バイト……こっちの世界にもありますか?」
「え、えーと」
バイト!?
戦巫女がバイトだと!?
「あ……」
いや、でもゲームでバイトのミニゲームみたいなのあったな。
ゲームだと確か……マリアンヌの嫌がらのせいで、巫女殿はドレスも与えられなくて、最初はバイト先でお下がりの型落ちドレスを着て参加する。
で、その後は仲良くなった攻略対象たちに靴やドレスや装飾品を贈られるようになり、それらでパーティーに参加したり。
……うーん、確かステータスを上げるのにお茶会や夜会に参加すると『気品』や『淑女レベル』みたいな……あー、なんかこの辺はうろ覚えだけど、うん、なんかそんなようなのが上がるんだよな。
うちのお嬢様はそういったお城で行われるお茶会やパーティーに登場して、巫女殿をネチネチお説教するのだ。
「…………。バイトですか……」
「はい!」
ダメだな、今だと浮かぶのは劇場のチケットもぎりだ。
さっきそれをしていた公爵家ご子息二名を見たばかりだからか……くぅ。
多分頼めばハミュエラは喜んで巫女殿にもぎりをさせる事だろう。
けど、確かミニゲームのバイトってパン屋の店員とか学園の掃除とかだったような?
うろ覚えすぎて確信はない……んだが……。
「………………」
「ヴィンセントさん? どうしたんですか? 頭痛いんですか?」
ゲ、ゲームだから。
そう、ゲームだからとはいえ!
仮にも異世界から無理やり戦争の為に呼び出しておきながら、バイトさせなければ生活もままならないなんてウェンディール王国ヤバすぎるだろおおぉ!
「……い、いや、うん、巫女様、やはりお金は国の方でお出しします。それがウェンディール王国として巫女様に対する誠意かと」
「ええぇ!? い、いえ! 本当にそんな、申し訳ないですし!」
「み、巫女様、申し訳ないとかそういう問題ではないのです。一国家としてお客様……ええ、巫女様は国賓なのです。その国賓にアルバイトでお金を稼がせるなど、国の沽券に関わります。その、働くよりも出来れば……戦争に関する事などの勉強に時間を割いて頂きたいと申しますか……」
「え、あ……あうぅ……、そ、そうですか、そ、そうです、よね……戦争……」
まあ、そういう反応にはなりますよね。
うん、それは仕方ない。
「巫女様!」
「あ、あう……あ、あの、マリーちゃん、わたしやっぱりドレスは……」
「まあ、それはそれとして公的な場に出る用の物は必要かと思います。お代はお城に請求して頂けるように店主に話しておきます。存分にお選びください」
「えええ!? え、えええ……そ、そんな事言われても、わたし、よく分からな……」
「さあ! ヴィンセントさんもそう仰っておられますから巫女様!」
「ひ、ひえ〜!?」
と、マリーに攫われていく巫女殿。
……果たして俺はお嬢様とレオのデートに戻れるのだろうか?







