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例の件!【前編】



 さて、あのポンコツメイド二人と、ルーク、アメル、ついでにマリーの料理研修を催すとして……どの程度のレベルが望ましいのか。

 学園の授業を受けつつ、二時間目の休み時間に学園の歓談室へ向かうべく席を立つ。


「あれ? ヴィンセント、どちらへ?」

「ああ、実はうちのポンコツメイドたちに料理研修を受けさせようかと思っておりまして……メニューを検討したいのでちょっと図書室に……」

「まあ、ヴィンセントのお料理教室ですね! 私も参加してよろしいですか?」

「え?」


 スティーブン様に捕まった。

 まあ、席を立つ理由を聞かれるのは想定内。

 しかし、その理由に食い付かれたのは想定外。

 ええ〜!? マジ〜!?


「イースト地方の調味料などが入って来てからますますメニューにも幅が出てきたものね。わたくしも興味があるわ」

「お嬢様!?」


 待って待って待って、お嬢様は最近、地固めでお茶会の渡り歩きをしてらっしゃるんですから、こんな事にお時間を割く必要は!

 しかし、ふと、ケリーの提案その3を思い出す。

 お嬢様とレオにはデートしてもらわねばならない。

 今はクレイがお嬢様に一目惚れするのではないか、とそっちの心配が先立っていて、その妨害工作に動いているであろうヘンリエッタ様とケリーの進捗状況の確認に……これから向かうわけなのだが……。


「…………そうですね」

「?」

「今後レオハール様とお出かけするのに至り、確かにお嬢様の料理の腕前も、多少確認はしておきたいですね……」

「っ!」


 カァ、とお嬢様のお顔が可憐な熟れた桃色に。

 とはいえ、デートのお誘いは基本男の方から。

 チラリと席の前の方を見れば、金髪から覗く耳の裏が真っ赤になっている。

 その様を隣のエディンがにまにま眺め、恐らく俺と同じようにお嬢様の耳の後ろの色味を確認してより笑みを深めた。

 ふむ……初々しいにも程があると言うかなんと言うか……。


「そうだな、レオ。儀式の類もひと段落したし、そろそろ誘ってもいいのではないか?」


 おお、エディンが珍しく良い事言い出した!

 スティーブン様のにまり顔とライナス様のソワァ……とした態度。

 クラス中がお喋りを潜めて、レオを見る。

 一応婚約は内定済み。

 婚約者が、婚約者をデートに誘う。

 それだけの事なのだが……背を向けあったまま動かないレオとうちのお嬢様。

 顔は赤い。

 耳まで赤い。

 早く歓談室に行かねばならないのだが、この成り行きは見届けねばなるまい?


「う……うん……」


 消え入りそうな声でレオが答えた!

 お嬢様の肩が分かりやすく跳ねる。

 そしてスティーブン様の表情も分かりやすくワクワクしてらっしゃる……。

 カタン、と立ち上がるレオの気配に、お嬢様の肩がプルプル震え出した。

 その様子にこっちはなんだからハラハラしてくる。

 だ、大丈夫かお嬢様……た、倒れたりしないだろうか?

 微妙に涙目なんだけど、へ、平気?


「…………、……エ、エディン……」

「ん?」

「〜〜」

「…………、……」


 一度立ち上がった割にエディンにヒソヒソ話しかけるレオ。

 こちらからだと顔が赤いまま焦っている感じ。

 最初は面白がっていたエディンが、レオになにやら相談されて、次第に半笑いになり、最終的に頭を抱えて可哀想なものを見る目でお嬢様を眺めた。

 スティーブン様も同じような感じだ。

 こちらはなんの話がよく聞こえないけど、話の流れ的に「どこへ行くか」かな?

 ライナス様の表情も無表情になって、なにやら頷いてるし。

 デ、デートってこんなに闇深いイベントだったっけ?


「そ、そういえば、貴方これから資料を集めに行くと言っていなかった?」

「え? あ、はい。そうです」

「休み時間がなくなってしまうわよ、もうお行きなさい。そ、その、料理研修の時はわたくしも参加します。ス、スティーブン様も参加、という形でよろしいのですか?」

「え、ええ、そうですね。…………はい」


 じとり。

 スティーブン様が睨むように見たのはレオだ。

 その視線にギクリとした顔をするが色々もう遅い。

 お嬢様も咳払いでごまかすが、ひとまずこの場でのお誘いは『なし』となった。

 ま、まあ、そうだな、色々……行く場所とか日取りとか、スケジュールの調整とか、あるもんな、王子は。

 エディンのようにデートに関してフットワーク軽いのもいかがなものかと思うし、きょ、今日のところは?


「で、では俺は資料を集めに行ってまいります……。料理研修の日取りなど決まりましたらお知らせ致します、ね?」

「ええ、よろしくね」

「はい、楽しみにしております」


 ……若干、お嬢様とスティーブン様の料理レベルであのポンコツ娘たちと同じ土俵に立たせるのは……大丈夫かなー……と、思ってしまうんだが……。

 ルークもそれなりに料理は上手いし、難易度を初心者用と純粋なレシピ紹介と実践の二つに分けた方がいいかな。

 いや、それならそこそこ上級者なお嬢様たちとマーシャたち……使用人組と分けて行った方が良いよな?

 要検討だなこりゃ。

 あ、これマジで資料作りが必要なやつじゃん。

 く、くそう、やってやるぜ!





 *********




「遅い!」

「すまん」


 歓談室に入るなり、ケリーに怒られたー。

 部屋の中にはヘンリエッタ様とケリー、アンジュ。

 ヘンリエッタ様はクッキーを口に入れ、ティータイム中。

 お怒りのケリーに、素直に謝る。

 遅刻したのは事実だ。

 しかし、これには事情がある。


「実は教室を出る前に、エディンが余計な事を言ってくれてな……」

「あのクズ野郎また何かしたのか!」

「レオにお嬢様をデートに誘ってはどうか、と……」

「……なん、だと……!?」


 一気に場の空気が変わる。

 お嬢様とレオのデートは我々の作戦プランの中で最も重要なものだ。

 ケリーが驚いて、組んでいた腕を外す。


「そ、それで! 義姉様はなんて答えたんだ!?」

「……残念ながらレオのスケジュール調整が分からないから、誘うには至らなかった」

「くっ! あのヘタレ王子!」


 うん、そこは否定出来ない!


「でも、なかなか良い仕事ではありますね、エディン様。レオハール様とローナ様のデートに関してはエディン様にもご協力頂いた方がいいかもしれませんね」

「ああ、それは良いと思う。あとスティーブン様だな。レオも幼馴染二人に背中を叩かれれば、踏ん切りも付けやすいだろう」

「じゃあ、その辺りの事はお前に任せるヴィニー。俺、学年違うし」

「分かった、それとなく頼んでおくよ」


 それにケリーとヘンリエッタ様は婚約内定後、薔薇園でみんなと一緒に食事、という機会は減っている。

 ルークに聞いたところ、日替わりで弁当を作り合っているらしい。

 話だけ聞くととんでもないバカップルぶりだ。

 ……話だけ聞くとな……。


「で、肝心の……」

「ああ」


 俺もケリーの前のソファーへ座る。

 ヘンリエッタ様がクッキーを食べる手を止め、アンジュが俺の分のお茶も出してくれた。

 一人掛けのソファーに座り直すケリー。

 巫女殿の歓迎パーティーまで、一週間。


「まず、この間のダンスレッスンの時に巫女殿はお前の正体を知ったよな?」

「ああ、黙っていてくれると約束してくれたよ」

「ええ! これでオ、ッんん! ……あの方のルートは消えたと思っていいわね!」

「!」


 ホッ……。

 そ、そうだよな。

 巫女殿が歓迎パーティーの時にエメリエラの『この人、王家の血筋だわ』というセリフをそのまま口に出してしまう。

 それが『オズワルドルート』の入り口。

 それがなくなった、となれば……『オズワルドルート』は消えたも同然だよな!

 ああ、良かった……。

 お嬢様だけでなく、『みんな不幸せになる』らしい『オズワルドルートのトゥルーエンド』……これで回避成功!


「で、残りの不安要素……亜人の長、クレイのルートだが……アンジュ」

「はい、メグに『長様にお伝えするように』と色々仕込みました。この国の結婚観や、人間がどのように結婚して、横恋慕などは許されない事、もしその婚約を裏切ればどうなるか……などです。まあ、若干マーシャを引き合いにして説明したので、勘違いはしていそうですが……」

「え?」

「え? ちょっとアンジュ!?」


 ここに来て微妙な不安要素ブッ込んできただと!?

 アンジュ!?

 ヘンリエッタ様に名前を呼ばれてしれっと目を背ける。

 そ、その反応〜!


「ヴィンセントさんはどうですか?」

「あ、ああ、俺も一応、ニコライに頼んで手紙を送ったけど……」


 ニコライには「ラブレターですか?」と冗談かまされたので「じゃあもうそれでいいからちょっぱやで」と頼んだが、もう読んだかな?

 仕事忙しいだろうしな、あいつも。

 一応口頭でニコライに内容は教えておいた。

 亜人と人間って使う文字が違うらしいから。


「やはり一度きちんと会って、きちんとお嬢様に会ってもらって、その上で潰さねば安心出来んよなぁ……」

「ひぇ……(水守くん目がマジだ……)」

「一応前日にうちの別宅で茶会を開く事にした」

「え?」


 ケリーが招待状を差し出してきた。

 前日、というと、金曜日か。

 よ、よくこの短期間に……。


「俺と義姉様とヘンリ、それから何かあった時用にエディン様とスティーブン様にも来てもらえないか?」


 スッ、とケリーの指が招待状を滑らせると、一枚だと思っていた招待状の下に二枚、新たな招待状が現れる。

 ライナス様の名前が出ないところは突っ込むべきか?

 いや、まあ、いいやあの人は。

 確かに、マジでクレイがお嬢様に一目惚れしたりなんかしたら……エディンとスティーブン様がいると何かと助かりそう。

 特にスティーブン様は絶対強い。


「ちなみにこの茶会、名目はどうなっているんだ?」

「ふん、この面子だぞ? 茶会自体は非公式。名目は『魔力適性検査』に関する長殿への依頼と実施に関する詳細。体験者からのアドバイスと、学園内で何かしらの後ろ盾になってくれそうな方々……ってところだな」

「……クレイの魔力適性検査か。後ろ盾でいうなら……」


 ライナス様でもいい気はするんだが……あの人、裏で何かと立ち回るとか無理だろうしなァ。


「魔力適性検査に関してはキャクストン先生に俺から頼んで準備してもらえる事になっている。うちの別宅で茶会に参加してもらって、その近日中に検査を受けてもらう流れだな。魔法に関してはまだ分からない事も多いが、巫女殿の承諾が得られれば、早くて今月か三月頭に魔法の使用実験が行われるそうだ。使用実験に関しては、レオハール様とエディン・ディリエアス、俺とお前に協力要請が来るだろう。適性が高い順番的に」

「ん、うん……」

「ルークも適性は高いんだが、オークランド家が権威復活を目論む恐れがあるって言ってあいつは除外させた」

「……う、うん?」


 え?

 それお前が進言して、そして通っちゃうものなの?

 ひえ……。


「で、その時に長殿もどーかって誘えたら誘おうかと思って」

「…………」

「なんだよ?」

「いや、別に」


 ……改めてうちのケリーがしたたか……。


「まあ、妥当か」

「ああ。茶会の主催は俺だから、義姉様が『同盟者』に挨拶するのは不自然じゃないだろう」

「…………」


 ……うちの子ほんとしたたか怖い……。

 あ、ヘンリエッタ様とアンジュも絶対同じ事思ってる。

 アンジュはともかくヘンリエッタ様、顔が引きつってるぜ!


「なんとしても巫女殿の歓迎パーティー前に、義姉様の『破滅フラグ』とやらを叩き潰す。何か質問は?」

「「あ、ありません……」」

「お茶のお代わりです」


 アンジュがケリーへお茶を差し出す。

 うん、まあ、アンジュが俺やヘンリエッタ様よりケリーに『仕事モード』を崩さず接している理由はとても良く分かるのだが……。

 いや、その通りだけど。

 ケリーの言う通りだけど。

 まずはそこだもんな。


「で、ヘンリ。他に気を付ける事ってあるか?」

「えーと、ローナを破滅させない事に関して、よね? そうねぇ……エディンとは婚約解消してるし、ケリーはルートの事知ってるから自分でなんとかするだろうし……ヴィンセントとあの人のルートも大丈夫そうだし……クレイはこれからだけど……」


 指を一本一本折り畳んでいくヘンリエッタ様。

 俺の認識していたエンディングは、一つ一つ潰えていく。

 お嬢様……。

 あの一本一本、あれだけの可能性が貴女にはあったのか。

 あんなに……。


「…………」


 いや、きっと大丈夫。

 必ず救う。

 貴女は俺を助けてくれた。

 名前も居場所も与えてくれた。

 俺を『俺』にしてくれた。

 その恩に報いる。

 俺を形作る全てを与えてくれた貴女を、破滅させたりなどするものか。


「…………。ひ……」

「ひ?」

「ヒロインたちとの、エンディング……かなぁ? ……あ、あの、ローナのルートも『パーフェクト』で追加されたんだけどね……その〜……顔に怪我をして、令嬢としてやっていけなくなる……的なストーリーなのよ、確か……」

「「……………………」」

「うんまあ、それで……、……それでヒロイン達と共に支え合って生きる……みたいな?…………令嬢としては、その、なんというか……」



 破滅エンドだな。


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